母 帰る 6
「弁慶! いい加減良いのではないか?
こうして同じ部屋で飯を食っているのに、
話しどころか『目も合わせるな』では息が詰まる!」
「ダメですよ、九郎。
こうして知盛殿も我慢していらっしゃるのですから」
「別に……我慢は…していない……がな」
「やれやれ、同居人が増えて嬉しいのはわかりますがね。
九郎の方が半日も持たなかったのは、僕の計算違いでした」
「弁慶!」
次の朝、九郎は驚く事になる。
それは、九郎の部屋と、弁慶の部屋の間の廊下に白いテープが貼られていたのだった。
そのテープは、玄関の上がり框から奥のリビングまで真っ直ぐに貼ってあった。
「こ、これは……!」
「何……かな? ククク」
「九郎、知盛殿、いいですか、互いにこの白線を越えてはいけませんよ」
「弁慶! この線は弁慶が貼ったのか?」
「ええ、そうですよ」
「ククク、……御苦労な…ことだ」
「しかし、そちらに風呂も厠もあるのだぞ!」
「それは使用して結構です。
こちらにしても、そちらにキッチンと水道があることになるのですから」
「かえって、面倒なのではないか?」
「こうでもしなければ、君が知盛殿にじゃれついてしまうでしょ」
「じゃれついて……、俺は子犬ではないぞ」
「子犬でないから、かえって面倒なのですよ、まったく。
ここまで九郎がはしゃぐとは、僕の読みも甘かったと言わざるを得ませんね」
「歓待……されている…のだろうな、ククク」