母 帰る 11
「ごめんください」
「また今日も……昼間から……『せれぶな有閑まだむ』とやらが……
鬼の……『ろはす』とやらの講釈を……拝聴しにゾロゾロと……群がってくるのか。
……ヤレヤレ、……御苦労なことだ」
『ろはす』という言葉が、正しくは何の事なのか分からないが、
この女達は、鬼の言っている事の何を聞いているのだろう。
鬼の言っていることはたいしたことではない。
「質素」「向上心」「思い遣り」「自制」といった事ばかり。
つまらん……。
まあ、平家で栄耀栄華をしゃぶり尽くした身ゆえ、偉そうに言えた立場ではないが、
鬼の一言一言に「まぁ」だの「そうね」だのと大仰に感動やら賛同やらを示すものの
宝玉をこれでもかと身に付けて
ガキ共が書道教室に来るのを蹴散らすように、お抱え運転手の高級外車で去っていく
この女共の贅沢三昧、傍若無人さは何だ?
その上
夕方からの、ガキ共でいっぱいになる書道教室の部屋は、墨と土埃の匂いで満たされる。
知盛は、その匂いは嫌いではなかった。『ガキ共』の騒ぐ声も含めて。
しかし、昼間のこの部屋は、金と化粧品と香水の匂いで充満する。
知盛は、この匂いがたまらなく嫌いだった。
1人の女からほのかに香る、あの恥じらいに満ちた薫りはこの上もなく好ましいのだが
この羞恥の欠片も無い見栄と虚勢に満ちた生き物の群臭は、
反吐が出るのをこらえるのが精一杯だった。
更に
「あら平君、こちらへおいでなさい」
「まあ、平君」
放っておいてはいただけないものか。
「鬼の……、リズヴァーンの忍耐力には……恐れ入った。
さすがは……我が『りすぺくと』する……リズ先生だな……、うぃっ……しゅ」