知盛の初月給 2
エンディング曲が鳴り響く。
今週も虐げられた市井の人の怨嗟を、仕留人達が晴らしたのだった。
最近の朔は、この『必殺! 仕留人 シーズン3』の再放送がお気に入りで
仕事のある日はビデオに撮り貯めて、こうして定休日の昼間、のんびりと見ているのだった。
中でも、飾り職人の譲が大のお気に入りで、
無口で、他のキャラの強い仕留人達から常に一歩引いた位置に身を置こうとする姿勢と、
自ら作った髪飾りで相手を背後から一突きにする時の哀しそうな瞳が好きだった。
そして、「じょう」という名を「譲」という文字で書くと知っては、一層拍車がかかったのだった。
「譲殿に、飾り職人の譲の衣装を着てもらえたら」
そう考えると、朔は独りで顔を赤らめるのだった。
何時だったろう。
こういう「キャー」と独りで盛り上がってしまう感情を『萌える』というのだと、
望美と将臣殿から前に教えられたことがある。
「兄さん! 先輩も。ロクでもないこと、朔に教えないでくれ」
その場にいた譲は、それでも笑いながらではあるが、望美と将臣殿をたしなめていた。
この感情は「ロクでもないこと」なのかしら?
朔は、好奇心と罪悪感に揺れ動き、いつも少しだけ好奇心が勝つのだった。
「譲殿に、この衣装を着てもらえたら」
道は険しかった。
異世界なら、梶原の屋敷に出入りしている者か、下働きの者に頼んで生地でも糸でも届けさせたのだが
こちらの世界では、dragon noir出入りの業者は生地や糸とは縁がない。
毎日買い物に出かける近くの商店街にも、服は売っていても、生地や糸は無い。
時々出かける藤沢や大船、たまに行く横浜、東京でも気にしていなかったから、
どこにあるのか分からない。
兄の付き合いで行くDIYの店にも、金槌や釘、壁紙やカーテン地はあるが、服の生地は見たことがない
「望美に相談しようかしら」
確かに望美なら知っているだろう。そう思うのが、どこか恥ずかしいような気がして、話し出せずにいる。
そんなある日、「KAMAKURA・SOWN 新館オープン 記念セール」という新聞折り込みチラシを見た。
何気無しに手にすると、そこには朔には良く分からないながらも豊富な種類の布や糸、ボタンその他が
それこそ朔が探し求めていた物が、しかも特価セールで載っていたのだった。
気が付くと、セールの『リネン』を抱え、レジに列ぼうとしている自分がいた。
「こ、これだけ買うと、幾らになるのかしら」
冷静さを少しだけ取り戻した朔は、列から外れ、タグの金額を計算してみた。
リネンに、コットンに、キルトに、テープに……ああ、ここは欲しかったものが何でもあるわ
「ここは本当に天国だわ」
しかし、計算が終わると一気に地獄に突き落とされた。
「は、8,868円……!」
呆然としながら朔は考えを新たにした。
「やはり、あの便利な『みしん』を何とかしなければ……」
そう、1月に望美と九郎殿で春日家と有川家にあった2台ものミシンを壊してしまったのだった。
しかもその上に、
「大丈夫、大丈夫〜〜、オレが何とか直してみるからね〜」
と兄上が仰ったのを真に受けた私がバカだったのだわ
「ほら〜〜、朔、見て見て〜」
と兄上が持ってきたのは、『みしん』の原型を、もはやとどめておらず
「兄上? こ、これは??」
「ここのボタンを押すとね〜、ほら〜、こうやってクルクル回って埃を拭いて回るんだよ〜〜」
「兄上!!」
「え、え〜〜、ど、どうしたのかな〜、朔〜?」
「これは『みしん』ではありません!」
「え〜〜〜!! そうなの〜〜!」
「ああ、兄上を信じた私が愚かでした」
ああ、今思い出しても涙が出てくる……
『ミシン』
もはや、それは朔の夢と憧れの象徴と化していたのだった。
10/01/06 UP