知盛……、拾えよ 2
「兄さん! 早く来てくれ! 兄さん!」
洗面所で譲の声がする。
嫌な予感を感じながら、将臣が2階の自分の部屋から降りて行く。
「何なんだよ! 騒がしい」
と言いながら、階段を降りたところで思わず滑って転びそうになる。
「おわ! っとっと! 何だこれは」
それは、譲の叫ぶ脱衣所から点々と続く水たまり
嫌な予感が、嫌な確信に変わり、自分のミスにも気づいてしまった。
「兄さん、これ、見てくれよ」
と脱衣所から顔を出した譲が、案の定、点々と続く水たまりを指さす。
「兄さん、ちゃんと知盛に説明したんじゃ無かったのか!」
「風呂から出たら、身体拭くくらい当たり前だろう」
「その『当たり前』、知盛に言ってくれ」
「やれやれ」
「廊下、兄さんが拭いておいてくれよ」
「な! 何で俺が」
「兄さんの責任だからな!」
そう言って譲は洗面所の扉をピシャリと閉めた。
やれやれ
雑巾で廊下を拭きながら、
俺が異世界の清盛屋敷に行った時、こんなに面倒をかけただろうか
と将臣は、釈然としない思いでいた。
知盛は、と見ると
素っ裸でリビングのカーペットに横たわり、腕枕でテレビを観ていた。
「お前! 風邪引くだろう!」
「浴衣も……夜具も…無かったのでな…」
「パジャマ代わりに、俺のスウェットの上下、出しておいたろう」
「すえっと??」
「ああぁぁ……、そこから教えるのかよ」
現代にはたして知盛が適応出来る日が来るのだろうか。
将臣は軽い目眩を感じるのだった。
「兄上……寒い」
「もう一度、湯船に入り直して温まって来い!」
そう知盛をせき立てた将臣は、何かを忘れている気がした。
その何かを十数秒後に理解する。
風呂場から聞こえる、譲の悲鳴と共に。
10/02/22 UP