帰らないの? 敦盛さんルート・4月U
必要最低限のモノが整然と置かれた、綺麗なキッチン。
どこに何があるか分かりやすい。
ケトルに水を入れ、火にかけ……へぇ、IHヒーターなんだ。
湯が湧くまで、所在ない。
「ヒノエは料理するの?」
「というより、ヒノエが食事の支度はしてくれて…」
「そうなんだ」
ヘェ、ヒノエったら……、一途だねぇ。
「ここには2人で暮らしているの?」
「え? ああ、そうだが」
「実家は?」
「実家……とは?」
「え? だから、御両親とかは知ってるの? ヒノエと2人で暮らしているって事」
「……いや」
「何で!?」
ま、まさか2人して駆け落ち……??
「私には………両親は……、……幼い頃に母とは……、…父も……」
「ヘェ、そう…」
って、しまった!! ああ、この子、涙ぐんじゃってるじゃない! 私のバカ!
「あ、あのね」
しどろもどろの私の言葉を遮るように
「し、しかし、それは私だけではないので……。この世界では…、ヒノエも同じようなもので……」
「それ…?? ! え!? えぇ!! ヒノエも……。そ、そう……なんだ…」
そう言えば、以前、生活費は自分で稼いでいるって言ってたけど、
へらへら笑いながら言ってたから、
ネットで儲けてる自慢か、そうでなけりゃ冗談だとばっかり思ってスルーしてたけど……
それじゃぁ……ホントなんだ、
え〜〜!!!
その上、ひょっとしてあいつ、この子の生活費も……!?
「じゃ、じゃぁ、生活費とかってどうしてるの?」
「ヒノエが……『ねっとれぃど』? 『ねっととれど』? と、とにかく、それで。
私には、笛を吹くぐらいしか能が無いので…
私が少しでもヒノエの負担にならぬようにできれば……と
そのくらいしか出来ぬ自分が……情けない……」
ああ、やっぱり。ヒノエったら……。
「私が不甲斐ないばかりに、ヒノエに苦労をかけてばかりで」
あわわ、何? 何で? この重たい空気。
こんな苦労してるなんて、ヒノエ、素振りも見せなかったじゃない。
どっか、いつも余裕くれて、キザで何様目線だから、
てっきり苦労知らずのいいトコのボンボンだと思ってた……。
気まずい沈黙。
「だ、だから食事にパン一枚で?」
「いや、それは…、違う。単に私の食が細いだけで……。
よく、ヒノエや譲に叱られるのだが……」
「そうなんだ、じゃ、まずはしっかり食べて健康で丈夫な身体を作らないと」
ケトルの音。
お湯が沸いた。
救われた気分で、紅茶の用意に席を立つ。
ティーポットとカップにお湯を注いで温めて…
「あ、あの…茶葉をまだ入れていないのでは…」
「分かってるわよ! 失礼ね。こうして、温めてから煎れるものなの」
「そ、そうなのか…、すまない。
で、では、私はクッキーでも用意しよう」
「いいわね」
あれ? この子が出してきたクッキーは明らかに手作り。
これもヒノエが作った? ……ワケ無いか。
あいつはクッキーなんて、焼くような奴じゃ無いもんなぁ。
やっぱりこの子にも、クッキー焼いてくれるような女の子がいるのね。
ま、これだけのルックスに、この性格だもんね。
あ〜あ、これじゃヒノエも大変だ。
「へぇ、美味しそうなクッキーね。何処のお店のかしら?」
「い、いや。これは頂き物の手作りで」
見れば分かるって。
行儀悪いとは思ったけど、一枚つまんで口にする。ヘヘヘ
「!! 美味しい…!」
思わず言っちゃった!
美味しい!
これを作った娘、すっごく料理が上手!
ヒノエ、ピンチ!!
アハハ〜…
「ああ、よかった。やはり譲のクッキーは誰が食べても美味なのだな」
「そうね、上手よ……って?? ゆずる?
え!? ゆずるって、男? さっき出た名前……?」
「ああ、これを作ったのは有川譲。年下の高校生だが、私とヒノエ、共通の友人で」
「高校生の男の子が、このクッキー、作ったの…」
何でか分からないけど、どこかでホッとする自分を感じる。
ヒノエのため?
私のプライドのため?
「高校生の、男の子……」
思わずもう一度口にしてしまった。
何だかこうしてはいられない気分も、首をもたげる。
どうしてだろう……、張り合うつもりはサラサラ無い……と、思うけど……。
そうだ! この子にちゃんとした食事を……
って、私、カレーくらいしかまともに作れないんだった……。
それでも、この際、いいかぁ。
「ね、カレー、食べない?」
「かれー……、ああ、『かれいらいす』と言うものだな。
だが、今『れとると』というものの買い置きは無いので」
「カレーくらい作るのよ」
「え! わ、私に……、作れるだろうか?」
「あのね。別に、君に作ってもらおうとは思ってないから」
「え? では…」
「何? その意外そうな顔は?」
「い、いや……、そうではなくて……」
「『そう』って?」
「きゃ、客人であるあなたに、茶ばかりか料理まで作ってもらったのでは、
申し訳なさ過ぎると思ったので…」
「何、遠慮してるのよ! 子供は遠慮なんてしないの!」
「こ、子供……」
「あれ? 何? 不満そうね。
あ、そういえば、君いくつなの? 学校は?」
「学校と言う所には行っていないので……。
歳は……、ヒノエと同じ『がくねん』と言うのだろうか、私が皐…
いや、ご、5月で、ヒノエが4月で…」
「え! ヒノエと同い年……そうなの…」
み、見えない!! 高校生だと思ってた…、ヘタすりゃ中学生か、と……
「ヒノエは何かと言うと、同じ学年同じ学年と勝ち誇ったように言うのだが、
本来なら私の方が1歳年上のはずなのに……」
「え? だって、あなたが5月であいつが4月って今、言……アハハハ」
「ど、どうかしたのだろうか?」
「アハハ、ご、ごめんごめん」
「何がそのように、可笑しいのだろうか?」
「あいつの誕生日が今月だって言うのは知ってたけど、1日なんだ」
「どうして、ヒノエの誕生日が1日だと分かったのだろうか?」
「だって、早生まれの子が前の学年に入るのは、4月1日までじゃない。
4月2日生まれが、その学年の一番お姉さん、あ、お兄さんか。
で、4月1日生まれが、その学年で一番年下。
意外とそんなところにヒノエのコンプレックスがあったりしてね」
「そうなのか? あなたは聡明なのだな。そのようなことを瞬時に判断なさるとは」
「よしてよ。真顔で『聡明』なんて単語、面と向かって言われたら照れちゃうでしょ」
「そ、そうなのか? すまない」
「謝らなくて良いから! 照れてはいるけど、喜んでるんだから、私は」
「む、難しいものなのだな」
「そう?」
「しかし、それだけでは無いのではないだろうか?」
「何が?」
「あなたが笑った理由……」
「へぇ、なかなか鋭いわね。……エイプリル・フールよ。エイプリル・フール。」
「えぇぷりるふぅる??」
「そうじゃない?」
「い、いや…そうじゃない、と言われても……??」
「あいつらしい誕生日じゃない。そうなんだって思うと、可笑しくて」
「そういうものなのか?」
「だって、そうじゃない? ま、幼なじみじゃ、ピンとこないか」
「え、ああ、そうだな。申し訳ない」
「謝るな! もう。おもしろがってるんだから」
そして、2人して、カレーの材料を買いに出掛けるのだった。
なんでだろう?
どこで、こんな展開になったんだろう??
でも……
ま、いっか♪
09/01/15 UP