帰らないの? 敦盛さんルート・6月T
〜ヒノエの画策〜
電話のベルが鳴る。
へえ、珍しいね。
この家の家電が音を立てるなんて。
「はい、もしもし?」
(こんな時間に申しわけありません。
私、少英社出版の清水と申します。)
少英社出版?
(そちらに昨日、文化センターで行われた雅楽コンサートに参加された
ああ、敦盛か
横笛の奏者の方がいらっしゃいますか?)
「いらっしゃったとしたら、用件は?」
(はい、是非とも取材をさせて頂きたいと思いまして)
ふ〜ん、取材、ね
「で、その取材の内容は?」
(はい、先日のコンサートをたまたま、私、拝聴させて頂きまして
その横笛の演奏に、非常に感銘を受けまして)
へえ、敦盛、やるじゃん
(ただ、大変恐縮なのですが、お名前も存じ上げておりません。
当日会場でいただいたパンフレットにも、
別の女性のお名前が載っておりまして。)
そりゃ、そうだろうな。
敦盛の話では、何でも、2日か3日前に急遽決まったって言うからね
(できましたら、お会いしていただければ、と、考えた次第でして)
「本人が居ないので、返事は出来ないね」
(え! ご本人様ではなかったのですか!? これは失礼しました。
あの、申しわけありませんが、あなた様は……?)
「どうしようかな、下手に名前を名乗るってのも、
個人情報保護の観点からいって、あまり賛同できないね。
ところで、一つ、こちらからの質問に答えてくれない?」
(はい、何でしょう?)
「あんたは、この家電の番号、どこで知った?
横笛奏者の名前も知らないのに、
そいつの家電ナンバー知ってますって、あり得ないじゃん。
ニュースソースについての秘匿は無しで頼みたいね」
(ああ、はい。御不審なのは、ごもっともです。
簡単なことです。
あのパンフレットに載っていらっしゃった、
もともと横笛を演奏するはずだった水野冬子さんにお聞きしました。
と言うか、水野さんから本城さんという方を教えていただいて)
本城?
ああ、敦盛と追いかけっこしてスカウトしたとかいう音大生か
(その本城さんから、こちらの電話番号を教えていただいた次第でして)
「分かった。
本人が帰ってきたら聞いてみる」
(あ! ありがとうございます。
連絡先の携帯番…)
「いや、いいよ」
(はい? それでは…)
「ま、こっちの電話がナンバーディスプレーだからってのもあるんだけどさ、
それより、明日、ロイヤルバークホテルのスカイラウンジに
12時に来てくれ」
(みなとみらいの、ですか?)
「ああ、あいつが喜ぶだろうし、ね」
(では、では取材させて頂…)
「12時に行ったら、ね」
(はい?)
「OKなら行く。
行かなかったらダメだと思ってくれ。
あいつがダメと言ったら、何をどう言ったってダメだからね」
(そうですか。分かりました
ぶしつけなお願いかもしれませんが、
あなた様からも薦めていただけませんか?)
「へえ、オレに協力を頼むって?」
(はい、是非)
「オレに頼み事をすると、高くつくけど」
公演の翌日、部屋に帰ってみると珍しくヒノエがいた
「ヒノエ、どうかしたのだろうか?」
「何?」
「いや、お前が3日も続けてこの部屋にいるなど
今まで無かったことだ」
「愛するお前のコンサートデビューじゃん
万難を排して、駆けつけたんだ。
もっと嬉しそうにして欲しいね」
「(本当にそうなのか?)
(何か他に含みは無いのだろうか?)
すまない……感謝する」
「可愛いね、本当にお前は
で、そんなお前に、いい話だ」
「いい話?」
「明日、ロイヤルバークホテル最上階のラウンジに行くからな」
と人の予定も聞かずに、告げた。
え? ロイヤルバークホテル?
最上階の?
ラウンジ?
何で?
07/11/29 UP