帰らないの?  敦盛さんルート・3月U   敦君あっくん紅緋色あかい自転車 2





ワイワイとはやし立てる子供達の真ん中で、よろよろと自転車を漕ぐ敦盛の姿が見える。



  「へぇ、ここのところ足繁くリズ先生のところに通っていると思ったら……。チビ共、やるじゃん」











横浜の自宅マンション。

ドアホンが鳴り、敦盛が応対に出ると



  「帰ってるね」



  「ヒノエ? どうしたというのだろうか?」



  「ちょっと、お前に見せたいモノがあってね。下に降りて来ないかい?」



  「? ……分かった。暫し」



そう言って、敦盛は電気を消し、ドアの鍵を確認して、階下に降りていった。

エレベーターホールで、ヒノエは満面の笑みで待っていた。



  「どうしたというのだ?」



  「いいから。さ、これをお前にプレゼントしたくてね」



ヒノエの後ろには、真っ赤なリボンの掛かった何やら巨大な包みが置かれていた。



  「こ、これは?」



  「包みを解いてみてくれるかい」



  「私が、だろうか?」



  「オレが、お前以外の誰にプレゼントするんだって? いいから、さあ」



  「あ、ああ、分かった」



とリボンを解いて、丁寧に梱包紙を開くと、そこに現れたのは



  「自転車……?」



  「お前が乗れるようになったからね」



  「え? な、何故、その事を?」



  「それは、秘密、だね」



  「そうか……。それにしても、いいのだろうか?」



  「当然じゃん。そのために買ったんだからね」



  「C、E、L、I、N、E……。これは、何と読むのだろうか」



  「セリーヌ……かな。それより、お前がアルファベットを読める事の方が驚きだね」


  「『せりぃぬ』……綺麗な赤緋あかい色だな」



  「気に入ってくれたかい?」



  「ああ、もちろんだ」



  「それなら、贈ったかいがあったというものだね」



  「ヒノエ、……ありがとう」



そう言いながら、敦盛は嬉しそうに赤緋色あかい自転車を優しく触っていた。



  「どういたしまして。お前のそんな嬉しそうな顔が見られるなら、

   後10台くらい買ってもいいかなと思ってしまうね」



  「そ…そんなには」



  「冗談だよ。ま、大事に乗ってくれよ」



  「ああ、約束する。大切に乗らせてもらう」



  「それと、交通事故にも、かな?」



  「ああ、もちろんだ」











  「わお! 敦紀、自転車買ったんだ」



  「ああ」



  「こんにちは!」



  「げ! 望美、また来たのかよ!」



  「&"#$%&!!」



男の子は半べそでつねられた頬を押さえる。



  「痛ぇぇぇぇ!!! リズ先生〜! この怪力女、暴力を振るいま〜す!!」



それを少しも意に介さず、望美は敦盛に話しかける。



  「あ! 敦盛さん、その自転車」



  「神子。実は」



  「分かった! 自転車に乗れるようになったって分かって、ヒノエ君が買ったんでしょ」



  「神子、その通りだ。やはり神子は凄いのだな。何でも分かってしまう」



  「当たり? やったぁ! たんなる勘だったんですどね。

   それにしても……へぇ、CELINEって自転車も作ってるんだ、知らなかった。

   ヒノエ君も奮発したなぁ」



  「そ、そうなのだろうか?」



  「まぁ、それだけヒノエ君も嬉しかったんでしょうね」



  「ヒノエが?」


  「そうですよ。わぁ、それにしても綺麗な赤紅色あかい自転車ですね。敦盛さんらしくて素敵ですよ」


  「そ、そのような……。確かに綺麗な赤紅色あかだと思う」



  「それに籐の前カゴがお洒落ですね」



  「おい!?」



先程、望美に頬をつねられた男の子が、後ろから望美に軽く蹴りを入れながら話しかける。



  「痛っ! まだどこか、つねられるか殴られるかされたいの?」



  「違う違う、質問!」



  「何? 蹴らないで言葉で言いなさいよ」



  「お前…、敦紀は『あつのり』だよな」



  「あ、ああ。そうだ」



  「望美は」



  「望美お姉様とおっしゃい」



  「え〜……、『かすがのぞみ』だよな」



  「そうだよ。だからお姉様って」



  「何で『あつもり』と『みこ』って呼んでんだ?」



  「そ、それは……」

  「あだ名よあだ名、ニックネーム」



  「『あつのり』が『あつもり』は何となく分かるけど、どこをどうすると『のぞみ』が『みこ』なんだ?」



  「それは〜〜……、男の子がいちいち細かいこと、気にするんじゃないの! さぁ、習字してらっしゃい」



  「何だよ! バ〜カ! 頭空っぽの暴力女ぁ!!」



望美に殴られるのを警戒して、教室に駆け込む。

そこへ書道教室に通う女の子達がやって来た。



  「望美さん」



  「はい、こんにちは」



  「この自転車、望美さんのですか?」



  「ううん、これは敦m…紀さんの」



  「わぁ、綺麗な色」



  「でも敦紀さん、横浜ですよね、マンション」



  「そうだ」



  「横浜から自転車に乗って来たんですか?」



  「ああ」



  「すご〜い」



  「しかし、思ったよりも遠くはなかった」



  「よっぽどうれしかったんですね、この自転車」



  「ああ、そうだな。皆のおかげで乗れるようになり、こうして自分の自転車も」



  「でも……」



  「どうしたの?」



  「雨の時、大変ですよね」



  「なんで?」

  「何故だろうか?」



  「だって、籐のカゴって濡れるといけないんでしょ。

   うちのお姉ちゃんも以前、雨の日に濡らして籐のカゴ、ダメにしたから」



  「そ、そうなのか……、知らなかった。教えてくれて感謝する」



  「か、感謝だなんて……」



女の子達は、皆一様に顔を赤くして、教室に入っていった。



  「じゃ、敦m……あぁ」



  「神子、この際無理せず『敦盛』で良いのではないだろうか?」



  「でも……。そうですね。何かあったら、あだ名ってことで押し切ります。

   じゃ敦盛さん、ちょっと待っててください。私も自転車取ってきますから、朔の店に行きませんか?」



  「し、しかし、籐のカゴが濡れると…」



  「大丈夫ですよ。朔の店で使っている大きなビニール袋を貰えば」



  「??」



  「そのビニール袋を小さくたたんで、いつも籐のカゴに入れておくんです」



  「ああ、雨が降り始めたら、その『びにぃる袋』でカゴを包めば良いのだな。

   さすがは神子だ。私には考えもつかなかった」



  「じゃ、自転車、取ってきますね」









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