帰らないの?  景時さんルート・6月T

〜龍からの伝言〜












景時が自慢の達筆で書いた「cafe‐restaurant du dragon noir」を

焼き上げの木彫り看板にしてもらうため

望美がリズ先生の所に持っていく。



書道教室のガキンチョ達が一斉に



   「あ!、望美ねえちゃんだ」

   「わ〜、望美ちゃ〜ん」

   「お、望美」



と、寄ってくる。

「望美」と呼び捨てにした腕白坊主を、1発拳固をお見舞いして反省させてから、

目指す主に挨拶をした。

リズヴァーンは静かに頷いて、望美を手招きする。



   「お忙しいところを、無理なお願いですみません」



   「かまわない」



   「景時さんと朔から、くれぐれもよろしくお願いしますとのことです」



   「先程、景時から電話があった」



   「そうですか」



   「1週間後に受け取りに来るとのことだ」



   「1週間! 景時さんったら、あれほど無理なお願いを先生にしないでって」



   「神子、そうではない。

    私は3日もあればよいと言ったのだが、景時が恐縮して、こうなったのだ」



   「そうですか……、って3日!? 先生、3日で作っちゃおうとしたんですか?」



   「うむ」



   「だって、この図面だと結構大きなものじゃないですか」



   「問題ない」



   「問題ないって……先生」



   「?」



   「凄すぎます」



   「ところで、神子」



   「はい?」



   「この異国の言葉は」



   「フランスという国の言葉で『カフェレストラン ドラゴン・ノアール』です。発音には自信ないですけど」



   「カフェレストラン ドラゴン・ノアール……」



   「はい、ドラゴン・ノアールです」



   「他国の言葉に私は疎い。

    神子、分かる言葉にするとどういうことを意味するものなのか?」



   「意味ですか、えっとカフェレストランは……『飲み物と軽食のお店』かな」



   「なるほど」



   「ドラゴン・ノアールは、『黒龍』ってことです」



   「黒龍」



   「はい」



   「……」



   「……? 先生?」



それきりリズヴァーンは、何かを考えるように押し黙った。



どことなく、書道教室全体の空気が重くなる。

普段から行儀良く躾られている(この教室のそもそもの評判はそこにあるのだが)ガキンチョ達だが

空気を察して、より居ずまいを正し、楽しく語らっていた言葉も少なくなる。



めったにないリズヴァーンの様子に

最初は珍しさも手伝って、観察していた望美であったが、

徐々に居心地の悪さに堪えられなくなり

どう帰る挨拶をきりだしたものかと考えていた、その時



   「譲はどう思っているのだろう」



と、リズヴァーンにしては珍しく、不安そうな声で尋ねてきた。



   「ゆ、譲君?……ですか?」



   「うむ」



   「何でゆず……」



  その時初めて、八葉のみんなの

  この店の名前を聞いたときの

  あの、一瞬の躊躇いの意味が理解できた。



   『ああ、あたしったら、どうしよう。

    余計なお世話を景時さんにしちゃった』



  景時から相談を受けたからって、珍しくメールではなく、携帯にかけてきたヒノエ君のあの言い淀みよう。

  朔と二人で、景時さんから渡されたっていう店名のメモを見せた時の将臣君の一瞬の表情。

  「黒龍の神子がされる店なのだから」と、自分に言い聞かせるように呟いた敦盛さんの言葉。



   「あ、あの、先生。失礼します!」



  慌てて、教室を飛び出したものの、行くあてがあるワケじゃないんだけど、



  どうしよう、どうしよう



  頭の中で、その言葉だけがぐるぐる廻って、

  海岸通りを小走りに、七里ヶ浜を目指してた。



  どうしよう

  私が、余計なことを景時さんに言ったから……

  このままじゃ、朔と譲君の間にしこりが残っちゃう



  どうしよう

  cafe‐restaurant du dragon noir は、もう店舗登録してしまっている。

  今更変えるのも難しい



  どうしたらいいんだろう

  譲君の朔への気持ち知ってて

  朔の古傷を癒せればって事しか考えてなかった



  どうしたらいいんだろう

  また私は譲君を傷付けちゃったのかな



  京の梶原邸炎上の時のように

    (私が朔を助けようなんて無理言ったから、譲君は無理して援護で付いてきてくれた……)



  屋島で扇を射た時のように

    (その後、当然清盛が逆鱗を使って、こっちを狙ってくるくらいの予測もつかなかった……)



  逆鱗!



  でも現世界こっちで使ったこと無いけど。
  あの雨の七里ヶ浜に時空を跳躍べば……

  でも……



  お願い! 何とかしてよ! 白龍!!





思わず声に出してしまった

その時、望美の胸の逆鱗が輝く





  「言の葉にのせた神子の願い 聞き届けるよ」



今となっては懐かしい白龍の声が虚空からする








午後の授業がちょうど終わった、そのタイミングで朔からメールをもらった私は、

帰りのホームルームの、さして重要でもない生活上の注意事項を長々と話す担任にイライラしながら、

終わると同時にダッシュしてdragon noirに向かった。

あ、掃除当番!……ごめん!! パス!!!





七里ヶ浜、海岸通りの「cafe‐restaurant du dragon noir」



六月の末に開店予定の、朔と景時さんのお店。



そのまだビニールシートに覆われた扉を開けると、

まるで何もなかったかのように、ほぼ内装の終わったカウンターに座り、

これも以前と同様、譲君の作ったプリンと、朔の試作のキャラメルケーキを頬張っている

白龍の姿があった。



   「神子、お帰り」
   「望美」



   「白龍……、白龍、どうして?」



   「神子の言の葉にのせた願いを叶えに来たのだよ」



   「望美? 何?」



   「え!? ええ、まあ…ちょっと、それより白龍」



   「何だい、神子」



   「それなら、どうして真っ先に私のところに来ないのよ」



   「よかったの? 神子のところに行って」



   「何で?」



   「だって、神子は『学校』というところにいるから、

    私が突然現れたら、それこそ」

   「『突然』現れるのは、やめてね」



   「でも以前、突然でなく、歩いて出かけて、

    入り口の……そう、『校門』と言うところに立っていただけで、

    人集りになり、神子にも、譲にも、怒られたから……」



   「そうか……、気を遣ってくれたんだ」



   「うん」



   「ありがと」



朔が、奥の部屋に何かを取りに行ったのをいいことに、

白龍と窓側の、唯一、シートの掛かっていないテーブルに移動した。



ここは、海岸通りを挟んで海の眺めがいい。

朔と景時さんお気に入りのテーブル。

いつも二人は、ここで食事や、試食をしている。



白龍は、どちらも食べかけのプリンの皿とケーキの皿に、飲みかけのティーカップも器用に持って、ついてきた。



白龍が席に着くと同時に



   「で? どうするつもりなの?」



   「何が?」



   「だから、あたしの『願い』」



   「ああ、それは」



   「シ!」



朔がカウンターの向こうに立つ。



   「あら? どうしてそっちに?」



   「え? ええ、こっちの方が眺めがいいねって……」



朔は、何かを察したらしい。

そりゃ、そうだよね。

『私の願い』の為に、わざわざ異世界あっちで応龍やってるはずなのに、
わざわざ片割れになって現世界こっちに来たのだ。

『私の願い』は、余程のものだと思うのは当然。

けれど、気を遣ってくれているのだろう、何も聞かず、キッチンで何やら仕事をし始めた。

だから、私もやたらと声をひそめて



   「で、どうするの? 小さな声で言いなさいよ



   「何d」



慌てて立ち上がり、向かいの席の、プリンとケーキにまみれた白龍の口を右手でふさぐ。
白龍この子ったら、人間風の食生活から離れると、ものの食べ方も忘れちゃうのかな。

右手は後で洗うとして、



   「バカじゃないの! そんな大声出して。

    朔に気づかれたらどうするの?



   「気づk」



また慌てて口を塞ぐ。



   「学習しろ! 馬鹿白龍この!!

    いいからこのくらいの声の大きさで話なさいよね。

    で、どうするつもりなの?



   「朔と譲に、言付けを」



思わず、一発グーで殴ってしまった。



   「神子、痛い…」



   「小さい声で話せってのが分からない!!



   「分かった、分かったから



   「で? どうするの?



   「私の対の黒いのから、言付けを預かってきた



   「黒龍から?



   「そうだよ



   「朔と譲君に?



思わず、朔を見ちゃう。

朔はと言えば

あれ?

朔、入り口の方を向いて手を振ってる

で、私も入り口を向くと



今ちょうどドアノブに手を掛けて

入ってこようとする、譲君の姿が見える。



あれ? 今日の練習は?



ドアが開き、



   「白龍!」



   「やあ、譲



も一発殴って



   「そこは小声でなくてもいいの!」



   「神子……(泣)」



   「やあって……あれ? 先輩も来てたんですか?」



カウンターの奥で、朔が譲君を手招きする。



   「譲殿、こちらに」



   「あ、ああ」






それから1時間、白龍は

譲君が作ってあった苺プリン(このせいでお正月にはひどいめにあった)と

朔の試食のレアチーズケーキとストロベリーミルフィーユ、フランボワーズのスフレも綺麗にたいらげて

景時さん自慢のアールグレイを飲み干し



   「それでは」



と立ち上がり、帰ろうとする(!)


白龍この! ホントにケーキ食べに来ただけじゃん!

「花断ち」でもお見舞いしてやろうかと、立ち上がった時だった




ゆっくりと白龍の姿が周りに溶け出す


その刹那



何とも言えない、優しい落ちついた白龍の声が心に直接、響いてきた



   《 朔 》



   「え? は、はい」



   《 朔は譲のこと、好き? 》



   「え?」



譲君を真っ赤な顔して覗いた朔は、真面目に白龍を見据えて



   「はい」


   《 朔の望みが、白龍わたしの対の望み。朔の幸せが、白龍わたしの対の幸せ。

    それは未来永劫、変わることはない。いつも、以前から、そして今も
    黒龍私の対は前からそれを、朔に伝えたがっていた

    だから、それを伝える為に、私は来た 》



   《 朔は今、譲といるのが一番の幸せなのだから、譲、朔といつも一緒にいてね。
    これは白龍わたしの対の願いでもあり、私の願いでもある。
    そして、応龍私たちの思いは、常に神子望美と朔と共にあるよ 》



   「白龍……」



私が言いかけた、その声を打ち消すように

譲君が



   「オレは誰にも命令はされません!」



   「譲ど……」
   「譲く……」
   《譲?……》



   「誰か他人に、例え神様にだったとしても、女性を好きになれって命令されるなんて。

    そんなことは言われなくたって……

    だからって、つっぱねて意地を張っても、朔を傷つけるだけですからね、

    それはオレの気持ちに反するし……、……ずるい人達だな、まったく。

    大丈夫ですよ、オレの朔への気持ちは変わりませんから。

    この店名を聞いた最初はびっくりしたけど、

    朔にとっては大事なことだし、朔に大事なことなら、オレにとっても大事なことですからね」



   《 そう 》



にっこりわらって白龍は、虚空に消えた



   《 よかったね、神子。
    譲、朔。応龍私たち言祝ぎ祝福を、二人に 》



一瞬、あたりが何かキラキラしたように感じた。



   「譲殿……譲殿、私は、私は、黒龍の神子だからこそ

    譲殿に巡り逢えたと思うの。

    黒龍のことは今も大事だけれど、今は……」



   「朔…」



   「譲殿…」




と、その時、勢いよくドアのカウベルを鳴らし

ヒノエ君が入ってきた……んだけど、

さすが、熊野出身者、一瞬で状況判断を完了して



   「ひゅー、入ってくるなり、見せつけてくれるじゃん。

    夏にはまだ早いけど、なんか、熱いな。

    それに、場違いなのも一人いるけれどね」



   「ヒノエ君」
   「ヒノエ」
   「ヒノエ殿」



   「神子姫様、オレが来たからには、もう

    この二人に『当てられっぱなし』ってことはなくなった。

    さあ、熱く愛を語り、この二人に見せつけてやろうぜ」



   「一人でやっててね、ヒノエ君」



   「いつもながら、オレの神子姫様はつれないね。

    しかたがない、じゃ、本題だ

    景時、いるかい? いい話を持ってきたぜ」



   「いい話って?」
   「いい話って何だよ?」
   「いい話……ですか?」











07/12/24 UP

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