九郎さんルート・6月T
《 明日の夜、久しぶりに皆さんで集まりませんか? お話したいこともありますので。》
昨日の昼過ぎに、私と譲君の携帯に、弁慶さんからメールがあった。
全員ってことになると、やはり有川家のリビングしかないかなってことになって、
全員に招集をかけた。
そう言えば全員が集まるのって、みんなが有川家からそれぞれ独立してからは一度もないなぁ。
あっちの世界の『熊野』を思い出すと、ちょっと切なくなる。
あの頃は、何があっても、
というより何があるか分からないから、みんなで常に団体行動してて……。
楽しかったな……。
こっちの世界は、怨霊に襲われることも(もう)ない。
誰も傷つかない。
「次の戦で誰かが……」っていう恐怖に苦しむことは無い。
みんなを守りたかったから。
だから、今の生活は……。
だけど、今の生活は……。
ポフ!
クッションが投げつけられた。
?
「何、浮かない顔をしてる?」
「え?」
「お前の頭で、考え事なんて無理無理。
似合わないから、やめとけって」
ポフ!
また、クッションが投げつけられた。
「何ぃ! やったな! 還内府! 覚悟!!」
将臣君めがけてクッションを投げ返そうとしたところに、朔が入ってきた。
「月影氷刃!」
「おいおい! シャレになんねぇだろ!」
将臣君、本気で身構えた。
「今晩は。あいかわらず、賑やかね」
「わぁい、朔、来てくれたんだ」
「ええ、望美、久しぶり。あ、譲殿、これを」
「気を遣わなくていいって、いつも言ってるのに。しょうがないな」
「ほほう、『いつも』、ですか」
「ははは、望美、ナイスつっこみ」
「やめてくれよ、兄さん、先輩も。そんなんじゃ無いんだから」
「とか何とか言って、嬉しいくせに」
「そ、それは先輩の方じゃないんですか? いっつも朔の手土産、綺麗に片付けるの、先輩でしょ」
「ふふ、そう思って、はい、望美の分も買ってきたわ」
「ありがとうっ! 今度のは何処の?」
「六本木の『98』のチーズスフレよ」
「最近、チーズケーキ系なんだね」
「ええ、もうすぐ喫茶店の内装も終わるから、それまでに
チーズケーキをあと一品か二品、メニューに増やしたいの」
「朔、じゃあ、紅茶にしようか。手伝ってくれ。」
「ええ、もちろんよ。譲殿」
二人がリビングから出ていったので、すかさず景時に
「朔、まだ『譲殿』なんだね」
「兄貴の心境としてはどうなんだ? ん、景時? 複雑か?」
「え? 何が?」
「あの二人、ですよ、景時さん」
「え? えええ〜っ!? そ、そうなの? 朔と譲君? し、し、知らないよ、オレ」
景時さんの狼狽ぶりを楽しみながら、将臣君が基本的な疑問を口にした
「それにしても、弁慶が『集まりませんか』?
何かな、同窓会したがるようなタマじゃないだろうし」
「同窓会?」
「敦盛さん♪ あ、リズ先生も」
「すみません、将臣殿。
ドアホンは押したのだが、返事がなかったので勝手に上がってきてしまいました」
「OK、OK、気にするなって」
「先生とはすぐそこの道でお会いして、一緒に」
「うむ」
「『同窓会』ね、なんと説明したものかな」
「えっとね、卒業しちゃった元のクラスメイトが、また集まろうよって集まるコンパのこと」
「? あ、あの……」
「同年に登第した進士達が、旧交を温めようって集う宴、ってとこかな」
「わ〜い、ヒノエ君だ。久しぶり」
「なるほど」
敦盛さんは納得したみたい。
「ヒノエ君、凄〜い。何? 今の漢文?」
「お〜い、望美。お前、本気で大学受験、文系なのか?」
「え?」
将臣君が、凄っごくバカにしてるのだけは分かった。
「弁慶が、旧交を温めようって? ふっ、そんな柄じゃないね。
ま、その点、オレの神子姫様は相変わらず可愛いけど。
嬉しいじゃん、オレの登場を素直に喜んでくれるなんて。
やっとオレの愛が通じたのかな?
その華の笑顔にこれを」
「え? 何? またプレゼント?」
「ああ、開けてみな」
「あ♪ ゴディバのトリュフチョコだ。みんなで食べていい?」
「野郎に喰わせるために買ってきたんじゃないんだけど。
ま、麗しの神子姫様が、そうお望みとあらば」
「悪ぶるな、ヒノエ。
皆で食すために購入したのだろう。
昨夜、嬉しそうに冷蔵庫にしまっていたではないか」
「ヤだなぁ、敦盛。いつもながら、冷静な物言いじゃん」
「アハハ、やっぱり、みんなが集まるの、嬉しいな」
「神子……」
「『徳、孤ならず、必ず鄰あり』。神子が寂しがる必要は無い」
「? 何? どういう意味ですか」
「お前は美しい花だから、必ず蝶が群がるって考えればいいんだよ、神子姫様。
ま、つまらない蝶なら、オレが蹴散らしてやるけどね」
「ヒノエ君の説明、本当なの? 敦盛さん?」
敦盛さんは、紅い顔をして、それでも頷いてくれた。
「望美に『徳』だの『花』だのと、良く言うぜ。悪りいけど、つきあってらんねえ。
時間だから、TVつけさせてもらうぜ、観たい番組があるんだ。
TV観てるから、好きにやっててくれ」
「兄さん、みんなが集まってるのに、格闘番組か?」
譲君がトレーにティーカップを載せて、部屋に入ってきた。
「ブブ〜! 残念だったな、譲。今日はワンシーズンに1回だけの」
「あ、分かった! 今日は、TBBの『SASUGA』でしょ。
将臣君、昔っから『SASUGA』、好きだったもんね」
「おう、小学校の頃から欠かさず、観てるからな」
「次の日に必ず公園に付き合わされる、こっちはたまったもんじゃなかった」
「アハハ、そういえばいっつもそうだったね」
続いて入ってきた朔が、ショックを引きずってる景時さんを見咎めて、
「兄上? どうしてそんな部屋の隅でいじけてるんですか?」
「アハハ、朔ちゃん、原因が、結果に理由を聞いちゃ、酷じゃん。」
「??」
「ところで譲殿、ケーキの取り皿は幾つ出せば……」
「おいおい、オレはスルーかよ」
朔の一言で、思い出した。そうだ……、「皆さん」は、集まれないんだっけ。
《こっちの世界を広く見聞してみようと思い立って、旅に出る。心配するな。》
って置き手紙をして、GWの終わりに九郎さんはどこかに行ってしまった。
先月、九郎さんの携帯にバッテリーがチャージされたらしく、
居場所は弁慶さんがGPSで補足してるって話だけど。
『神子、私はいつでも、どこにあっても、あなたの幸せを望んでいるよ。
神子の願いを言の葉に載せてくれれば、私はいつでもあなたの願いをかなえるよ。』
そう言って白龍は異世界に、また帰ってしまった。
そんな私の思いを察したらしく、景時さんが
「ホントにもう、九郎にも困ったもんだよ〜。
こんなに望美ちゃんが心配してるんだからさ、連絡の一つもすればいいのに。
リズ先生もそう思うでしょ」
「九郎なら、問題ない」
《 こちらTBB緑丘スタジオ・屋外特設ステージです。
第26回『SASUGA』、間もなく一人目のスタートです。》
将臣君がTVをつけた。
『SASUGA』は、TBBテレビの人気特番で、
屋外セットに組まれた障害物を、体力自慢の人達が突破するという単純なものだ。
さっきの譲君の言葉じゃないけど、将臣君は『SASUGA』を観終わった翌日には毎回必ず、
私と譲君を公園に連れ出して、鉄棒や雲梯やジャングルジムや、滑り台の逆登りでしごいた。
まさか、そんな経験が異世界で役に立つとは思ってなかったけど。
障害物は4つのステージに分かれていて、徐々に難易度が上がるらしい。
障害物の難易度は、第1ステージですらかなり厳しくて、
誰も第4ステージに辿り着かずに番組が終わってしまう時もあるくらいなんだって。
《 26回めを迎えた『SASUGA』は、第1、第3ステージをリニューアル、出場者の行く手を阻みます。
まず、第1ステージのコースを紹介します。「3段飛び石」は、前回より飛び石の間隔を75cm広げ 》
アナウンサーのコース紹介の合間に、出場者がチラッと映る。
え!
画面を観ていた全員が声を上げる。
たぶん同じ事を思ったんだと思う。
「あの長髪は」
「ああ」
「まさかぁ〜」
「でもあんな髪してるの」
その後は、みんな言葉も無く、TVの画面を食い入るように観詰めた。
《 さて、続いてナンバー9は初参加、源九郎22歳。無職。神奈川県藤沢市からの参加!
07/08/30 UP