帰らないの? リズ先生ルート・6月T
〜松形さんの暗躍(笑)〜
「兄上、間もなく始まります。兄上」
「はいはぁ〜い、これ、二人でどうぞ〜♪」
「うわぁ、美味しそう。新しいメニュー?」
「まだ試作の段階なんだけどね〜。
生シラスとガーリックのカリカリトーストだよ」
「でも、兄上が作るとガーリックが多すぎて、その後、歯を磨かないと他人には会えないわ」
「大丈夫、大丈夫〜♪。今日のはガーリック控えめ、ちょ〜っと、香辛料を変えてみた試作品3号だよ〜」
「あ、美味しい」
「ええ、今までの中では一番だわ」
「そう? そう? 嬉しいね〜、望美ちゃんと朔に褒められると」
「兄上、望美の社交辞令を真に受けないでください」
「え? ううん、ホントに美味しいよ。朔、景時さん」
「甘いわ、望美。
兄上、私は褒めていません。
今までのに比べれば、人間が食べても大丈夫なものになったってくらいのものです。
メニューに加えるには、まだまだ試行錯誤が必要です」
「朔、厳しいよ。
景時さん、泣いてるじゃない…」
「いいえ、望美。私は兄上を信じているのよ」
「さ、朔ぅ、お兄ちゃん、嬉し…」
「ただ、兄上は甘いことを言うと、すぐ慢心して手を抜き始めるの。
だから心を鬼にして、厳しい言葉を選んでいるのよ。
あ、番組が始まったわ」
全然、先生、映ってないじゃない!
あのメバルって魚、先生が釣ったのに!
まるで大嶋さんが釣ったみたいになってる〜!
ゴンズイ、さばいたのスタッフさんじゃないじゃない!
怒り心頭!
怒髪天を衝く!!
ドアのカウベルが鳴る
入ってきたのは
!
キャ〜〜!
朔の悲鳴に景時さんが包丁持ったまま飛び出してきた。
入り口に立っていたのは
松形祐樹さん
「すまないね、お嬢ちゃん。
リズ先生、チビッコ相手に書道教室でさ、
この店にお嬢ちゃんがいるはずだから、そこで待っていてくれって」
「ひどいですよ、松形さん!!
リズ先生、まったく映ってないじゃないですか」
「あ、あの、お水どうぞ」
「こちらのお嬢ちゃんも、べっぴんさんだね」
「さ、朔って言います。梶原朔。
あ、あの……」
「松形さん、『暴れん坊奉行』の大ファンは朔なんです」
「『暴れん坊奉行』も、『新八・十番勝負』も、『岡っ引き走る!』も、みんな観てます!!」
「嬉しいねぇ! おいら、ホントに鎌倉大好きになったよ。
こんな可愛いお嬢ちゃん二人と知り合えるなんて」
と、ふいに握手した手を引き寄せて、抱き寄せた。
な、慣れてる!
忘れてた
このおじ様、プレイボーイでならしてたんだっけ
朔は、と見ると
もう真っ赤だけど、とろけたような顔してる。
「い、妹はまだ、嫁入り前なんだよ〜」
と、包丁握ったままの景時さんは違った意味で真っ赤な顔してる
「お嬢ちゃんのお兄ちゃん? ゴメンゴメン。単なる挨拶だから」
「ああ、望美、どうしよう私」
「朔、譲君に言っちゃうぞ」
「……」
(あ! 本気で困ってる。朔、可愛い)
景時さん入魂の一品、モカコーヒーを美味しそうに一口飲み、松形さんが語り出した。
「お嬢ちゃんが不満に思うのはよく分かるよ。
敬愛してるリズ先生が、画面にほとんど登場しないからね」
「そうですよ!」
「ゴメンよ。でもね、あの時の契約は技術指導だったからさ」
「だからって…」
「でね、お詫びっていうか、リズ先生にお願いがあってさ、で、今日は来たんだ。
直接、先生にお願いはするんだけど、お嬢ちゃんからも協力して欲しいんだ」
「何ですか?」
「おいら、リズ先生を、メジャーデビューさせたいんだよ」
「は、はあ……」
かなり間抜けな返事しか、できなかった。
朔が小声で聞いてきた。
(望美、『めじゃぁ』って何?)
「メジャーって……、たぶん松形さんが言う『メジャー』って、芸能界のこ……え? ええ!」
リズ先生が芸能界デビュー?
「メ、メジャーって、げ、芸能界!?……リズ先生を芸能界デビュー! ですか!?」
「おう、その芸能界さ」
「の、望美、すごいじゃない。
それで、松形さん、リズ先生が出るのは『暴れん坊奉行』ですか?」
「いや」
「それじゃ、『新八・十番勝負』?
それとも『岡っ引き走る!』?
……でも、あれは下町の町人人情話だから、先生に町人役は、ちょっと無理か……」
「え? リズ先生、時代劇に出演するんですか?」
「それとも、噂の年末時代劇特番?」
「朔、ホント詳しいね。でも朔、落ちついてね」
「どうして? 望美は興奮しないの?」
「え? ええ、まあ……」
え〜ん、朔、落ちついてよ。
あなたらしくない興奮の仕方だよ〜。
いくら時代劇ファンとは言え、いや、時代劇ファンならばなおのこと考えてみてよ
リズ先生の容姿を。
意外と芸能人が、そんなに身長の大きい人がいないのは周知の事実
そんな中、190cmを超える偉丈夫の、しかも金髪碧眼の先生に、どんな役があるっていうのよ
時代劇で!!
「まあ、ゆくゆくは、ね」
え?
ゆくゆくは?
って「ゆくゆく」は、リズ先生の時代劇出演、「あり」ですか?
リズ先生のこと、みんなに知って貰いたい
それは嘘じゃない
御近所の先生から
TVを通して、みんなの先生になるのは悪いことじゃない。
でも
朔みたいに単純に喜べない
何だか、今回のロケみたいな、落とし穴があるようで……
「でも、どうかな」
「どうしてだい?」
「リズ先生ってほら、無口っていうか、寡黙っていうか、
15秒以上喋ったことって無いんじゃないかな」
「ははは、おもしろい。
リズ先生、そんなかい?」
「ええ、『問題ない』『分かった』『うむ』が会話の半分くらいかな、
で、何か聞いても『お前の判断は常に正しい』って、
かえってメッチャ不安なこと言われて
最後の最後に『答えられない』だもん。
ホントは私だって、もっとリズ先生と会話をしたいんだから」
「そう言えば、私も今、望美が言った台詞以外を思い出せない……」
「まさか〜、リズ先生って九郎とかとは、よく軍議……、作戦会議……、あ〜、打ち合わせ、
そう打ち合わせで、結構、話してるのを、脇で聞いてたよ〜♪」
「必要事項の伝達なんて、会話じゃないもん!」
「もちっと、ムードのある会話って言うか、
甘い言葉や褒め言葉を、リズ先生の口から聞きたいんだよな、お嬢ちゃんは」
「そ、そこまでは……」
「そんな」
「そ? でもね、芸能界では、あのキャラクターはいい線いくと思うんだ」
「あ! 分かった! ダメです、絶対ダメ!」
「どうしたの? 望美」
「リズ先生の釣りの腕前を利用して、釣り番組で良いように使おうっていうんでしょ」
「あははは、いや〜、お嬢ちゃん、良い勘してる!
そ、当面はおいらの釣り番組にレギュラーで出てもらおうと思ってさ」
と松形さんは、弁慶さんそっくりの笑顔をふりまいてくれた。
08/01/14 UP