帰っちゃうの? ヒノエくんルート・2月−神無月 五





後半の英語は「なんちゃって英語」です。温かい目でお読み下さい






  「ぐぅっど まうにんぐ ヒノエ、ワハハハ! そろそろ来る頃だと思って、待ってたぜ」


満面の笑顔で出迎える藤原湛快の口からは、たどたどしいながらも、英語が発せられたのだった。


  「おいおい、その言葉はいったい何処で覚えたんだい?」


  「まったく口の利き方ってモンがあるだろう。親に向かって何てぇモノの言い方だ。
   へへへ、知りたかったらだな、それなりのモノの言い方ってものがあるだろう?」


  「へぇ…、例えば」


  「『尊敬するお父上様、どうか教えてくださいませ』とか、よ」


  「嫌だね。お断りするよ」


  「チッ! お前ぇのそういうところは、いったい誰に似たんだ?」


  「誰だろうね。ま、あんたじゃない事だけは確かじゃん」


  「へ、弁慶あいつに、じゃねぇのか?」


  「この場で息の根止められるのと、補陀洛渡海するのと、どっちがお好みだい?」


  「おいおい、嫌だねぇ。冗談、冗談に決まってるだろう。その手にしたジャマダハルをしまえって」


  「フ、ま、冗談って事にしておいてやるよ」


  「けっ、お前ぇも、ついこの間までは、俺の後をチョコチョコ付いて廻って可愛かったのによ」


  「人間は成長するものだからね。
   それに、オレを可愛い子供でいさせたいならね、老けてもいないのに隠居なんかしないでもらえるかい」


  「いやいや、お前は『やればできる子』だからよ。そういう子は大人扱いしてやるに限るって」


  「で、いきなり『オレは隠居する。後はお前ぇが頭領やれ。熊野のことはすべて任せた』。
   すごい大人扱いだね。嬉しくて泣けてくるよ。
   あんたの後を『チョコチョコ付いて廻』る『やればできる』『可愛い』『大人』のオレ?
   いったい、そいつはどんなオレなんだろうね?」


  「わははは、違ぇねぇ。さぁ、ヒノエ! オレを乗り越えて行け!!」


ボグ!


  「痛うぅぅ〜〜ぅ! お、親を足蹴にするか!?」


  「『敬愛するお父上様の仰せのまま』ってね。昼間っから酒飲んで、いい身分だね。ったく!」


グシャ


  「ぐぇ! 本当に踏みつける奴があるかよ!!」


グボ


  「ぐぅぇ」


  「『敬愛するお父上様の仰せのまま』に、もう一歩乗り越えようか?」


  「分かった! 参った参った! ブラットだよ。ブラット・トール」


  「ぶらっと通る? 何処を?」


  「違う違う、人の名前だ」


  「ブラット トール…へぇ、何人なんだい?」


  「さあ? タクラマカンのずっと向こうから来たらしいがな。なんたって、それ以上は言葉が通じねぇんだからよ。
   ブラッドは大陸の宋の言葉も、半島の言葉もほとんど話せねぇんだ」


  「じゃあ、『グットモーニング』とかの言葉はどうして?」


  「それがよ、なんか人なつっこい野郎でよ。
   勝手にやって来て、ワケの分からねぇ言葉を捲し立てて、勝手に笑って去ってくんだ、誰彼かまわず」


  「フ〜ン」


  「お、疑ってるのか?」


  「え? いや、信じてるよ。お父上様」


  「そう言やぁ……あいつ、『ぶりたにゃ』と『じぱんぐ』ってぇ言葉をよく口にしてっけど、お前ぇ、何のことだか分かるか」


  「『ブリタニア』に『ジャパン』…ね」


  「そうそう、そんな言い方する……。
   それから『掘る』『掘る』って言っちゃぁ、洞窟から畑のモグラ穴まで覗きこんでよ、変な野郎だぜ」


  「『ほる』? ああ、『hole』かな。そのまま『穴』って意味だからね」


  「『ほる』が『穴』? 変な言葉だな、って、え? お前ぇ、奴の言葉ぁ、分かるのか?」


  「まぁね。で、何処に行けば会える? そのブラッド・トールに」


  「鴉、使えばいいじゃねぇか」


  「やっぱり、もう一歩乗り越えて欲しいようだね」


  「わ〜! すとっぷぅ!」


  「やれやれ、親父の口から英語が飛び出すと、毒気が抜かれるね。
   個人的な興味に鴉を飛ばすことなんて、できるわけないじゃん」


  「堅いんだよな、お前ぇのそういう所は」


  「親父が節操無さ過ぎるんだよ」


  「三段壁の物見小屋に住み着いてるって話だ。
   ま、名前の通り、あっちこっちぶらぶらしてっから、行って会えるかどうかは保証できねぇがな」


  「なんでまた三段壁なんかに」


  「さぁ。ま、オレの考えじゃ、生まれ故郷の景色に似てんじゃねぇか」


  (ああ、そうか。親父にしてはいい推理だね)
  「フ〜ン」


  「お、明らかに馬鹿にしてるだろ、お前」


  「いえいえ、お父上様」






三段壁……風が今日は穏やかだ。


そう、ちょうどこんな穏やかな日だった。
あの日、敦盛と約束した場所。


そして数年後のあの時、その敦盛との約束を思い出している姿を神子姫に見られた場所。


すべてがつい昨日の出来事のようでもあり、遙か昔のようでもある。





  「ダメ! Do not you commit suicide boy ?」
   (自殺するんじゃないよな、少年?)


  「Suicide !?  It is an interesting joke .」
   (自殺!? そいつは面白い冗談だね。)


  「Oh!! It is unbelievable that there is a person speaking English in this country ! 」
   (おお!! この国で英語を話すことができる人間がいるなんて驚きだ!)


  「Excuse me. Are you Brad Thor ?」
   (失礼、あんたがブラッド トールかい?)


  「Who are you、boy ?」
   (少年、君は誰だい?)


  「I'm HINOE. I am glad to see you. And Welcome to KUMANO !
   (オレはヒノエ。会えて嬉しいね。それから、ようこそ熊野へ!)


  「Your English is perfect Kings English .
   (君の英語は完璧なキングスイングリッシュだ。
How did you learn English in this country far from England.?
   (いったいどうやってイギリスから遠く離れたこの国で英語を学んだんだい?)


  「It is a secret . By the way , Why did you come to this country ?
   (そいつは言えないね。ところで、あんたこそどうしてこの国に来たんだい?)


  「大宋国家正謀以世界征服…」
   (大宋国は世界征服をたくらんでいる…)


  「何だって!! あ、什?! それともwhat thing !」


  「After all , you can speak Chinese , too . On earth who are you , boy ?」
   (やっぱり中国語もできるんだ。いったい、きみは何者だい、少年)


  「It is a priority to answer my question . You would not come possibly to convey it .
   (こっちの質問に答える方が先さ。まさか、その事を伝えるために来たわけじゃないだろう)


  「The purpose of the visit to this country is to inform this thing……」
   (この国に来たのは、このことを伝えるため……)


  「Then it is useless even if you insisted here . You must tell the thing to government TYOUTEI .
   (じゃぁ、こんなところで叫んでたって無駄じゃん。朝廷に伝えなきゃ)


  「I told , of course . but……」
   (伝えたさ、勿論。だけど…)


  「They did not handle your report seriously .」
   (奴らはあんたの話をまともには取り扱わなかった)


  「Your imagination is very right .」
   (その通りだよ)


  「It will be so . But why is it related to coming to here ?」
   (だろうね。だけどどうしてそれが、ここに居る事と関係するんだい?)


  「There was a favorite woman in old days.」
   (昔、大好きだった女性がいてね)


  「What story is it ?」
   (何の話だい?)


  「Two people who loved promised the marriage .」
   (愛する2人は将来を誓い合った)


  「What happened to the lovers ?」
   (で、その恋人達はどうなったんだい?)


  「The beloved woman was murdered .
   (愛する女性は殺された。)
   It was suspected that a lover was a criminal of the murder .」
   (その恋人が殺人犯だと疑われた。)


  「Thus did you run away from there ?」
   (それで、そこから逃げ出してきたってわけ?)


  「I am considered to be a criminal of the murder if I do not escape.
   (逃げなければ、僕は人殺しにされてしまうからね)


  「It is a common story .  Did you come to Japan for reasons of it ?
   (よくある話だね。     それで日本に来たのかい?)
   Do not you find out your criminal who murdered your lover ?」
   (あんたはあんたの愛する彼女を殺した奴を見つけ出さないのかい?)


  「She does not revive even if I found the criminal .
   (たとえ僕が犯人を見つけたとしても、彼女は生き返らないさ)
   Than it , I hear that there is'the hole'in this country .
   (それより、この国には穴があるって聞いてね)


  「The Hole ?」
   (穴?)


  「The name is SUSANOU'S HOLE , you know ? 」
   (『すさのうの穴』と言うんだが、君、知ってるかい?)


  「SUSANOU'S HOLE ……」


  「I heard a story , the Hole of this country to be able to meet a dead lover .」
   (死んだ恋人に会えるというこの国の穴の話を聞いたんだ)


  「Ah、It is YOMOTUHIRASAKA、not SUSANOU'S HOLE、The world says so .」
   (ああ、それは素戔男の穴じゃない、黄泉比良坂だね、そう呼ばれてる)


  「Do you know it ?」
   (知っているのか?)


そこでヒノエは、イザナギとイザナミの話をした。
それまで身じろぎもせず聞き入っていたブラッドは、ヒノエの話が終わると、突然立ち上がって言った。


  「It is necessary for me to go to IZUMO.」
   (出雲に行かなくちゃならない)


  「It is not necessary to go IZUMO .
   (出雲に行く必要は無いさ。)
   IZUMO is a subject to lead to KUMANO by YOMOTUHIRASAKA .」
   (出雲は黄泉比良坂で熊野に繋がってるからね)


  「Realy ? Where of KUMANO is it ?」
   (本当かい? 熊野の何処なんだい?)


  「It seems to be waterfall of Nachi by the old tale .」
   (言い伝えでは那智の滝って話だけれどね)


  「waterfall of Nachi! I go ! Thank you , boy. 」
   (那智の滝! 行ってみる! ありがとう、少年)


  「I'm not a boy . I am BETTOU of KUMANO .」
   (オレは少年じゃない。オレは熊野別当)


  「BETTOU ?」
   (別当?)


  「Yes、BETTOU is a director general governing KUMANO.」
   (そうさ、別当は熊野のすべてを統治するのさ)


  「It is a splendid joke .」
   (素晴らしいジョークだ)


そう言って、ブラッドは出かけてしまった。
十日程経って、失意の内に三段壁に帰ってくることになるのだが……。







  「やれやれ、自分に都合の良いところだけ信じるんだ。ま、無事に帰って来て欲しいものだね。」


そういってヒノエは烏を呼ぶ口笛を吹いた。













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