リターン6  九郎 転球ボーリング






将臣君達がボーリングから帰ってきた。

大騒ぎだ。

   「信じられねぇよ! 九郎」

   「どうしてだ?
    要はあの妙な形をした『ぴん』とかいうものを、多く倒した者が勝つのだろう」

   「そうだよ、『倒す』んだよ。
    『壊す』んじゃないんだよ。
    ったく、ボーリングのピンが砕け散るとこなんて、初めて見たぜ」

   「え〜!! 凄っご〜い! ちょっと見たかったな。
    本当なの? 敦盛さん?」

   「ああ、凄かった。
    私にはあのような膂力はない」

   「そうだよ、神子。
    他の八葉は、将臣と九郎の気に圧倒されて、
    競う気分も楽しむ気分も喪失していた」

   「アハハ、白龍はなんでもお見通しね
    ま、将臣君のことだから、
    どうせ九郎さんに1ゲーム、負けたか何かして、熱くなったんでしょ」

   「すごいね、神子は。
    その通りだよ。
    八葉のことは、その場にいなくても、何でも分かってしまうんだね」

   「まったくだな。実にその通りだ、望美。
    将臣は、俺に負けたことを潔く認めようとしない。
    それどころか、性懲りもなく、ずるずると何度も挑んできた」

   「困った将臣君」

   「兄さん、まったく、子供なんだから」

   「冗談じゃないぜ、望美、譲。
    お前はその場にいなかったから、そんな悠長な事、言ってられんだぞ」

   「どうして?」

   「望美、……こいつはな、熱くなって力むと、ボールを転がさないんだ」

   「えぇ!? 『転がさないボーリング』って、どうするの?」

   「『投げる』んだよ」

   「ああ、俺もうまくフックがかからないと、投げてしまうな」

   「いいや、譲。
    お前のは『投げる』んじゃなくて、『落とす』ってくらいのもんだ。
    九郎はな、ピンにストライクさせるんだよ」

   「凄〜い、九郎さん、
    ストライクだなんて」

   「そうだよ、それの何処が信じられないんだ 兄さん?」

   「望美、譲、俺の言い方が悪かった。
    九郎はボーリング的に『ストライク』を取るんじゃなくて、
    野球のアンダースローのフォームでボーリングのボールを投げて、
    野球的にピンへ『ストライク』させるんだ」

   「ふ〜ん……
    え?……
    ……え、ええ!!!
    どうやったら、あそこまでボーリングのボールを投げられるんです!
    見たことないですよ!
    ファールラインからピンまでって、60フィートはあるでしょう!」

   「ころがったモノより投げつけたモノの方が、破壊力が大きいのは常識だ」

   「そうだろうよ! それも16ポンドのボールだからな!
    だけどな、ボーリングはボールを『転がす』ゲームなんだ!!」

   「そうだったのか?」

   「レーンに落としたら、『ロフトボール』っていって、怒られますよ」

   「ろふと…? 何だ、それは」

   「ルール違反なんですよ」

   「ルール……! ということは、俺は軍規を破ったのか?」

   「軍規じゃありませんが」

   「譲、大きな声じゃ言えないがな、ロフト連発で、レーンはボコボコ」

   「まずいんじゃないのか? 兄さん……弁償なんてできないだろう!?」

   「だろ。だから早いとこ、逃げ出そうぜ」

譲は辺りを見回して、

   「ということで、先輩、出発します。
    白龍、景時さんと弁慶さんを呼んできてくれ」

   「うん、でも景時と弁慶はこの建物にはいないよ」

   「さすが、白龍のレーダーだな」

   「兄さん、感心してる場合じゃないだろ。
    こんな時に、あの2人はどこに行ったんだ?」

   「確か、兄上は『ちょっ〜と別の飲み物買いに行ってくるね』って言って……」

   「コンビニだな、絶対」

   「じゃあ、帰りがけに寄っていけばいいでしょう。
    行こう」

   「OK! 望美、一声頼む」

   「ハ〜イ、
    鎌倉からお越しの八葉・お台場ツアーの皆様!
    出発のお時間ですので、
    駐車場まで移動いたしま〜す」

ぞろぞろと目立つ風体の集団が、出口に向かって歩いている。

午前0時を過ぎた深夜とはいえ、
正月5日の夜。
それなりの人が繰り出しているお台場の東京レジャーパークビルだ。
この集団は何なのか、と注目を集めている。
そそっかしい者は、アイドルのロケと勘違いして騒いでいる。



ビルの出口で、丁度戻ってきた景時と弁慶に合流できた。
彼らは何故か、大きなコンビニのレジ袋を幾つも抱えていた。

   「おいおい、何だ、その袋の中の箱は?」

   「これ? これはね〜」

   「帰りの車の中で、と思いましてね、
    皆さんの飲み物です。
    望美さんと朔殿には、これも買いましたので、召し上がってください」

と、いくつかのレジ袋が渡された。
さっそく中を望美が覗いて、喜びの歓声をあげる

   「わ〜い、ポテチにポッキー♪ うまい棒にポップコーンもある
    こっちはあんまんに肉まん」

   「先輩、たった今、唐揚げとサンドイッチ、食べたばかりでしょう?
    まだ食べるんですか?」

   「わかってないな〜、譲君」

   「何がです?」

   「お菓子は別腹って言うじゃない」

   「肉まんはお菓子じゃありませんよ! 先輩」

   「まあまあ、いいじゃない。
    さあ、出発〜!」

   「現金だな、先輩は」

   「お菓子もらって喜んでんだ
    現金と言うよりは『お子チャマ』だな」

   「やれやれ」

   「ほら、いくぞ白龍」

   「プリンは無いの?」

   「プリンですか?
    ああ、申し訳ないですが、買ってきませんでしたね」

がっかりうなだれる白龍

   「そうか、プリンは無いのか
    苺プリンがよかったな……」



   「珍しいね、あんたがこんな時間に食い物や飲み物の差し入れなんてさ」

   「? どうしてです、ヒノエ?」

   「深夜の飲食は体調に良くないって、いつもなら言うところじゃん」

   「まあ、正月、ですから。ね」

   「ふ〜ん、……ま、そういうことにしておくよ」





交差点を渡ろうと、信号待ちをしていると
その時、歩道の遙か彼方から

   「うわわわわわわわ!!!!!!」
   「ぎゃあああああああああ!!!」
   「た、た、助けてえええええ!!」
   「お母ちああああああゃん!!!」
   「ゴメンなさああああい!!!!」
   「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

と、必死の形相で走って来る一団が見えた。

キッと見据え、望美と朔を守る様に、素早く周りをガードする八葉達。
油断無く身構え、走って来る男達を見詰める

が、

集団は、八葉達に一瞥もくれず
必死の形相で走り過ぎる。

   「何をそんなに恐れているのだ!」

   「お〜い! どうしたんだ?」

九郎と将臣が呼びかけるが、聞こえないらしい。

   「何だったんだ?」

   「ああ、あれはさっき」

   「さ、さあ〜♪ 何なんだろうね〜」

   「だから」

   「白龍! しぃ〜!! は、白龍が言いたいのは、
    さっき、ほら、俺達、あの丸い建物を見てたじゃない。
    その時にも、俺達の前を走り抜けたな〜、って言いたいんだよ。
    ね、ね、白龍〜」

   「え? あ? ああ」

   「お前達がフシテレビ見てたのって、もうかれこれ1時間半は前だぞ!」

   「その時からあの調子で走っていたんですか?」

   「すっげえじゃん」

   「侮れない者達だな」

   「問題ない」





フシテレビ前の交差点では、横断歩道上に違法駐車が2台あって、
ちょうど今レッカー車が到着して、移動されようとしていた。

   「どんなバカが、こんな所に駐車するんだ?」

   「ヒュ〜♪ 大型RVが2台、気前がいいじゃん」

   「大型あーるぶ…? 何だそれは?」

   「あの車の種類さ。道路でなくても走れる、結構丈夫な車だね」

   「そうなのか、それは凄いな。
    あんな車があれば、鵯越も楽だろうな」

   「いや、いくら何でもそれは……」

   「そうか、残念だ…ん? 景時、どうした?」

   「……」

   「景時!?」

   「あ! 何?何?何? 九郎?」

   「ヨダレを垂らして、いったい何を見ているのだ?」

   「景時はあの、ヒノエが『大型ああるぶい』といった、からくりを
    どちらか1台、持ち帰れないものかと思っているんだ」

   「白龍! あはは、他人の物だからね……、あ〜」

   「兄上? 何が『あ〜』なのです?」

   「べ、別に〜♪♪♪」





   「おい、弁慶、この道を戻るのか?」

   「ああ、そうですね。困りましたね…」

   「あ、あの…神子」

   「はい? 何ですか? 敦盛さん」

   「この建物の中には、何があるのだろうか?」

   「え? デッキ東京?」

   「ここには、香港というよその国の街を模した商店街と、
    今から3、40年前のこの国のありふれた街並みを模した商店街があるんだけど」

   「さすが譲君、
    それとジョイパークっていう遊園地」

   「どっちもこんな深夜だからな、当然やってないだろうな」

   「そうか…」

   「ま、一応廻ってみるか?」

   「そうだね、兄さん。さっきの観覧車の例もあったことだし
    それに、ビルの中を通り抜けられれば、駐車場へも近道になるしな」

   (敦盛君、機転を利かせてくれてありがとう)
   (敦盛、すまない。借りを作ってしまったな)

と思い、胸を撫で下ろす弁慶と九郎であった。







07/11/15 UP


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