リターン7 景時 迷走す1






お台場海浜公園駐車場

ほど近い海浜公園の船乗り場辺りに、大量のパトカーが停まっている。
点滅するパトカーの赤色灯も、これほどの数だと綺麗だ。

「何があったのだろう」と興味津々の一行だったが、
その中にあって3人程、妙におとなしい。

敦盛は駐車場に着くなり、車の一番奥のシートに乗り込み、何も言わずに俯いている。
九郎も無言で乗り込み、敦盛の隣で眼を閉じ腕組みをしている。
弁慶も大きなレジ袋の一つを春日家の車のトランクに積むと、持っていた車のキーを景時に渡し、

   「今日はもうくたくたです。
    帰りの運転は景時ですから、僕は一眠りさせてもらいますよ」

と言ったかと思うと、車の後部座席に乗り込み、フードをすっぽり被ってしまった。
と、見る間に本当に寝息を立て始めた。

そんな弁慶の様子を見るだけでも「何かあったな」と思ったのは、
観察眼の鋭い別当殿だけではなかったが、
何かを聞いたところで、
この3人が口を割るとは到底思えないので、誰もが話しかけずにいた。

だが、その「何か」が、すぐ近くで点滅するパト・ランプに関連するとまで想像を巡らせた者は
別当殿だけだった。

   「ちょっとトイレ」

そう譲に告げて、ヒノエはパトカーの様子を探りに出かけた。



   「はい、こちらは港移動17、現着。マル害の移送を開始します」

   「港6と18、マル害4名、湾岸署に移送」

   「こちら湾岸22、バイクの移動に、大型トラックじゃないと……
    無理です、30台以上ありますよ。     ほとんどが400以上の大型、マル走のもので……
    ハイ、……違法改造、そうです、ハイ…」

   「被疑者、不明。金髪の白人男性らしいです。
    『ばけもの』って口を揃えて言ってますので、大柄で……たぶん……
    ええ、ガタイが良いのだと……ハイ、そうです」

   「木刀を素手で叩き折ったり、70kg以上の体重の者を片手で放り投げたり……
    イヤ、信じられないのは確かですが……ハイ、
    え? ……いや、無理無理、木刀と素手ですよ。
    普通、腕の骨が折れるでしょ……
    ウチの署で出来る奴なんていませんよ」

   「……意識のある者は、全員怯えていて……エエ、マル走です、ハイ、全員です
    『北関東暴走連合』…ハイ、そう書いてあります」

   「目撃者、まったくいません。ええ、そうです、ゼロ、です」

   「有明17、現着…」

   (金髪のばけもの、か…ヘヘヘ、鬼若さん
    こいつはまた、派手にやらかしたじゃん)
そう思うと、何やらワクワクするヒノエだった。



春日車の脇で、将臣と景時、譲の3人が帰りのコースを打ち合わせた。
来たコースの逆…とはいっても環状1号での都内一週は無しだが…で戻ることになった。
分かりやすくて良いだろうということで。
そして、念願だった春日車のナビの操作を景時がした。
譲に教えを受けながらだったが、それなりに景時は満足した。

   「いや〜♪ やっぱり緊張するね〜」

   「俺がいなくても、全然大丈夫だったじゃないですか」

   「じゃぁ、景時、俺の方のナビもやってみるか?
    望美ん家のナビとは、ちょっと操作方法が違うぜ、興味あるんじゃないか?」

   「本当かい? いいの〜 将臣君? うれしいな〜♪」

   「いいか、大黒SAでいったん合流すんだからな」

   「御意ぃ〜♪ ルートに大黒を入力すればいいんだよね〜♪」



有川車の2列目のシートで、望美と朔は弁慶から貰ったお菓子を山分けしていた。

   「兄上ったら、子供みたいにはしゃいで、困ったものだわ」

   「そんなことないよ、朔。凄いと思うよ、景時さん」

   「どうして?」
   「だって、現世界こっちに来て、まだ半月くらいでしょ。
    なのに、しっかりこっちの世界に順応してる。
    免許とって、その上カーナビでしょ。
    私だって、まだよく分からないのに」

   「ダメよ、望美。兄上なんて、オモチャで遊んでる子供と同じ。
    どうせ順応してくれるなら、弁慶殿やヒノエ殿みたいに、
    もっと実生活に役に立つ順応をしてもらいたかったわ」

   「ミルでしょ、サイフォンでしょ、洗濯機に掃除機も、
    携帯電話、ビデオにデジカメ、ゲーム機、アイポッド
    その上、電子レンジは将臣君や私以上にしっかり使いこなしてるじゃない」

   「それは私でもできます。アア、兄上、まるで主婦みたいだわ」



どこかで電子音がする…
目を開けると、白龍の背中が見える。

   「白龍?」

   「あ、弁慶、起こしてしまった? ゴメンなさい」

   「いえ。それより、カーナビをむやみに操作しないでくださいね」

   「うん、大丈夫」

   「聞き分けがいいのは良いことですね」

   「この後は、譲と弁慶の間に私が座ることになるね」

   「男3人ですか……、まあ、寝てしまうので気になりませんから」

   「そう……。ねえ、弁慶」

   「はい?」

   「弁慶もやはり、私は小さい私の方が好き?」

   「僕は……、今の白龍が一番好きですよ」

   「そう♪ ありがとう」

   「どういたしまして。早く五行が満ちるといいですね」

   「うん、そうだね」

   「すみませんが、少し、また眠らせてもらいますね」

   「うん、弁慶も五行が満ちると良いね」

   「僕は五行は…… そうですね。お休み、白龍」

また弁慶は目を閉じた。

   「おやすみなさい、弁慶」



エンジンが始動する。

有川車が先行し、駐車場のゲートを通過する。
右折しようとすると、道路が封鎖されている。
その先に、派手なパトランプの一群が見える。

   「あ! やべ」

将臣が呟く。
それが何の事なのかは、助手席に座っていた望美もすぐに分かる。
交通整理の警官が近寄ってくる。
助手席に座っていた望美が窓を下ろし

   「何かあったんですか?」

と、極力無邪気に尋ねる。
若い警官は、少し照れ、それでも車のナンバーと車内を一瞥し

   「ちょっと暴走族がね……、あなた方は?」

   「鎌倉から、お台場観光に来て、帰るところで〜す」

   「後ろの車も?」

   「はい、後ろの車は私の家のです」

   「そうですか。じゃあ、お兄さん、すまないけどUターンしてくれますか?」

   《プププ〜、お兄さんだって》

   《バカ、望美! シ〜》

   「誘導しますからね。こっちの道路は通れないので」

   「は〜い」

望美は、チラッと後ろの車を見る。
同じように別の警官が、やはり同じように助手席の朔と話をしている。

警官の誘導指示も特に必要ないくらい、狭い道路で将臣は器用に車をUターンさせる。

将臣は2度ほどハザードランプを点滅させ、誘導した警官にサンキューサインを送り、
これからUターンする景時の春日車とすれ違い、アクセルをゆっくり加速させる。
ルームミラーに、誘導してくれた警官の姿が小さくなっていく。
青信号のT字路を右に曲がったところで、将臣が小さく息をつく。

   「望美、お前、一言多いんだよ!
    ばれたら、やばいだろ!」

   「でも、びっくりしたよ〜
    お巡りさんに話しかけないと、あのお巡りさん、
    将臣君の方に行こうとしてたんだもの」

   「人のいい警官で助かったぜ」

   「うん、親切なお巡りさんだった」

   「ま、お前の『後ろの車は私の家のです』って、あの一言で
    家族旅行か何かと、思ってくれたみたいだぜ」

   「えへへ、上手? でも、すっごくドキドキして必死だったんだよ」

   「『プププ〜』が無けりゃ、な。ったく!」

2つ目の交差点を右折するために信号待ちをする。
先程までいた、東京レジャーパークビルと大観覧車が目の前に見える。
ミラーで後ろを見た将臣が呟く。

   「景時、遅いな」





景時は、Uターンに苦戦していた。

警官2人がかりで、「ハンドル切って」とか「切り返して」とか、指示は出されるのだが、
景時はその度に「切る〜? 何を?」「切り返すって、何〜? 何? 何?」と、半泣き状態になっていた。

勝手にやれせてくれれば、ここまでアタフタはしなかったのだろうが、そこは小心者の陰陽師。
ドキドキしながら警官の指示に従おうとしたのだが、
彼らの使う運転用の言葉が理解できない。
アタフタして、何とかもう少しでUターンが終わるという、その時
ガードレールに車を擦りそうになった。

   「スト〜ォップ!!!」
   「兄上!! ぶつかる!」
   「ブレーキ!!!」

同時に警官2人と朔の叫び声。
景時は、ブレーキをそれこそ全体重をかけて踏み抜いた。
車はガードレール2cm手前で停車した。
慌てて警官が、この下手な運転手のところへ駆け寄る。

   「大丈夫ですか? よかったね、擦らなくて」

   「Uターン苦手? 悪いけど、免許証見せてくれますか?」

   「ぎょ、御意〜」

景時は、ポケットから免許証を取り出し、警官に渡す。
警官2人は、懐中電灯でそれを照らし、景時の顔と何度も見比べた。

   「免許とってまだ1週間も経ってないんだ……」

   「東京の道、初めてですか?」

   「東京どころか、免許とってから運転するのが初めてです〜」

警官2人は、顔を見合わせ、それから景時に対し
不安とも同情ともとれる、なんとも複雑な、
しかし、一種慈愛に満ちた顔を向け

   「気を付けてお帰りください。
    隣の席、妹さん? 恐がらせちゃ、駄目ですよ」

   「さ、朔〜、ごめんよ〜」

   「兄上、しっかり運転してください。この車は望美の家のなんですよ!」

   「望美さんって、前の車の助手席にいた?」

   「ええ」

   「借り物なんだ。じゃあ、余計に安全運転でね。お兄さん」

   「ぎょ、御意〜」

   「慌てなければ、大丈夫ですよ。下手ではないですから」

   「そう言ってもらえると……」

   「兄上、この方々は、兄上を励ましてくださっているだけです」

   「ぎょ、ぎょぃ〜」

景時は、ゆっくりとアクセルに力を込め、車を発進させる。
見送る警官2人は、景時の車が右折して見えなくなると同時に爆笑し

   「しっかし、気の弱そうな兄貴だったな」

   「妹さんは、しっかり者って感じでしたね」

   「あんな兄貴じゃ、心配でそうなっちまうのかもな」

   「先輩、ちょっと好みのタイプだったでしょ」

   「まあな。しっかし、正月に家族旅行、か。もう、何年行ってねえな」

   「俺、明日っから正月休暇っす」

   「俺なんかな〜、この暴走族の件がなかったら、とっくに家に帰ってたんだぞ!」

   「それは御愁傷様です」



フシテレ前交差点。
景時は必要以上の安全運転のため、信号が黄色で停車。
後ろのタクシーが怒って追い抜いて行った。

   「兄上、将臣殿の車を完全に見失ってしまったではないですか」

   「大丈夫、大丈夫〜♪
    ほら、ナビあるしさ。それに、大黒で落ち合うことになってるんだから」

後ろから譲が声を掛ける。

   「すぐ先の『13号地』で高速に入ったら、後はナビに従って行けばいいだけですから」

   「譲殿、お疲れのようですね」

   「毎朝、早くから寒稽古ですからね。明日もあるのでしょう」

と、弁慶が静かに言う。

   「弁慶殿、 起きていらっしゃったのですか?」
   「弁慶さん、起きてたんですか?」

   「フフフ、お二人は息がぴったりですね。ええ、起きていましたよ、最初から」

   「あんな騒ぎの中、よく眠れるなって思ってたんです」

   「嫌だな、僕は九郎や将臣君ではありませんからね、
    そんなに神経は太くないですよ。
    眠ろうにも、色々な意味で、ドキドキしていましたから」

   「そうですよね、あんな下手な運転では、乗っている者の気が休まりません」

   「朔〜」

   「もう大丈夫でしょうから、譲殿も弁慶殿もお休みください。『なび』とやらは、私がしますから」

   「その画面通りに進めばいいだけだから。設定はさっきしてあるし」

   「分かりました。さあ、兄上、信号が変わります」

   「御意ぃ〜♪」

   「兄上、右に曲がるのですよ」

   「おっと、そうだった、はははっ」

   「兄上、右に曲がる合図が出ていません!」

   「御意ぃ〜ってね」

慌ててウインカーを出し、急ハンドルを切る景時。

   「兄上! もっと丁寧に!!」

   「ぎょ、御意〜。朔、頼りにしてるよ〜」

   「もう、兄上、もっと真面目にやってください!」

2人の会話を、譲も弁慶もやれやれといった気持ちで聞いていた。







07/12/31 UP


NEXT→