ファイナル2 朔 困惑す






  「ち! 仕方ない。大黒からUターンして、海ほたるまで迎えに行ってやるよ」

   《 兄さん、それもまずい 》

   「どうしてだ!」

譲の言葉に、少々苛つく将臣であった。

   「お前が運転するのもダメって言うからだろう。
    こっちがわざわざ行ってやる、って言ってんだぞ! サンキューのひとつもあって然るべきじゃねえのか!」


声を荒げた将臣の様子に、望美が隣の席にすかさず座り、将臣の持つ携帯に反対側から耳を傾ける

   《 朔も気にしているんだよ 》

   「だから、何を!」

   《 先輩のこと、さ。正月とはいえ、いくらなんでも、これ以上遅くなるのはまずいだろう 》

   「もはや『遅い』という時間じゃ無いな。『早い』って方がいいんじゃねえか? ハハハ」

   《 まったく……暢気だからな、兄さんは。こんな時間、だからだよ! いくら先輩の家でも、心配するだろう 》

   「そりゃあ、まぁ、…な」

   《 だから、兄さん達は、このまま鎌倉に向かってくれ 》

   「でも、な…」

   《 大黒から海ほたるにもどって、それからまた鎌倉じゃあ、どう考えても1時間以上、余計な時間がかかるだろう 》

   「まあ、な」

   《 あと30、40分で帰るのと、これからまた2時間近くかかるのでは随分違うと 》


と、望美がその携帯を将臣から奪い取る。

   「あ、おいおい、人が話てるってのに!」

   「譲君、心配してくれるのはありがたいんだけど、どうせもうとっくに午前様だし、
    お母さんには行き先、言ってあるから大丈夫だもんね」

   《 ダメです、先輩 》

   「譲君……」
   《 龍神の神子せんぱいのお母さんに信用されない八葉であってはまずいと思いませんか?
    これは先輩とお母さんとの問題ではなく、八葉の信用問題なんです。 》

   「大丈夫、大丈夫。そん時ゃ、弁慶を」

   《 兄さん! 『その』弁慶さんが、目の前で酔い潰れているんだ! 》

   「あ…、あはは。そうだった……」

   《 こっちはこっちで何とかするから、そっちは先輩を送り届けてくれ 》

   「おい、譲。少しはこっちの…。チッ、切っちまいやがった」

   「どうしようね。こういう言い方の譲君を説得するのは、ちょっと、ね」

   「神子姫様は、帰った方がいいね」

   「ヒノエ君…。じゃあ、あっちの、朔や譲君はどうするの?」

   「オレに考えが無いと思うかい?」

   「あるの?」

   「ヒノエ、勿体ぶらずに教えろよ」

   「それには条件があってね」

   「何だ? その条件というのは?」

   「ヘヘヘ、これから言うことに、必ずウンと言って貰いたいんだけどね。それでも乗るかい?」







携帯を切った後、譲は大きく息をつき

   「さてと」

と、朔と白龍が5階の展望デッキへと上っていったエスカレーターを見上げた。
そして、ここ4階の無料休憩室で、だらしなく酔っている二人に溜息をつき

   「景時さん、弁慶さん、絶対にここから出ないでくださいよ」

   「大ぁ〜い丈〜ぶぅだよ〜♪ 譲く〜ん」

   「ええ、ボクがきちんと景時を見張っておきますから…ヒック。
    それにしても九郎は何処に行ってるのでしょう、ヒノエも……戻ってくるのが遅いですね」

   「九郎にも困ったもんだね〜〜。どうせまた、近くのスーパーで桃の缶詰眺めてるんじゃないかな〜〜♪」

   「また、ですか…。ま、戻ってきたら、九郎にもボクから注意しておきますので、
    譲君は安心して与一の所に行ってきてくださいね」

   「与一ぃ〜〜? ち、違うよ〜、弁慶。譲君は、これから朔をデートに誘いにいくんだよね〜」

   「か、景時さん!」

   「ね〜、ね〜♪ 譲く〜ん♪ でもね〜、朔にエッチなことしたら、このお兄ちゃんが許さないからね〜」

   「景時!!!」

   「な、何かな〜??」

   「どうして教えてくれなかったのです!」

   「弁け〜??」

   「知らなかった……ボクとしたことが」

   「そ、そんな〜難しい顔して〜、どうしちゃったのかな〜〜〜♪」

   「譲君だけでなく、朔殿も、与一の弓を習っていたのですか? いつからなんです?」

   「え〜〜〜とね、アハ♪ 忘れた〜♪ でもね〜内緒なんだよね〜〜、ね〜、譲君」

   「譲君、杖や薙刀、棒のどれでも、いつでも、お教えしますからね。あ、それに、薬の知識だって。
    漢方から毒薬、媚薬まで、な〜〜〜んでもですよ。い〜〜っつでも、興味あったらどうぞ♪」

   「あ〜〜〜、弁慶ずっるい〜。だったら譲君、オレだってね、オレだってね。
    幻術、呪術、陰陽、な〜〜〜んでも好きなの教えてあげるからね〜〜〜♪」

   「幻術なんて子供だまし、つまらないですよ」

   「酷〜〜〜っどぉ〜〜〜〜〜〜い!」

   「それに比べると、毒薬は実に大人です。面白いですよ。調合の妙と言いますか、薬品の量のちょっとの違いで、
    あっさり殺すものから、何日も苦しみもがかせたあげくに死に至らしめるものまで、いろいろになるんですよ。
    そこのところが何度、調合しても面白いというか、難しいというか」

   「恐いこというね〜〜、ね〜〜、譲君♪ そんな物騒なの、嫌いだよね〜〜。
    譲君は、可愛ゆ〜〜い式を呼び出す方が〜、お似合いさ〜♪」

   「サンショウウオやキンギョの、どこが可愛ゆいというのでしょうかね? ね、譲君」

   「毒薬よりはぁ、ず〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っとましさ〜」

   「だったら、だったら、媚薬はどうです? これなら、意中の女性とす〜〜ぐ仲良しになれますよ」

   「弁慶がもてるのは、その薬のせいだったんだ〜〜♪」

   「失礼な!!! ボクが女性から好意を寄せられるのは、ボクの個人的資質によるもので、
    薬の効能などでは断じてありませんよ」

   「ハイハイ、景時さん、弁慶さん、絶対にここから出ないでくださいよ」

ま、酔っぱらいとは言え、この二人に嫌われてはいないんだろうな…。
そう思いながらも、特に弁慶の酔った姿に頭痛を感じながら、朔とは反対の、下へと向かった。



川崎駅行きバス時刻

それを確認しに向かったのだった。
ここ『海ほたる』には、実は高速バスが通っていて、木更津・川崎間を往復している。
が、譲の期待は時刻表に目をやった瞬間に、萎んでしまった。


   「一番早くても9:07か……、正月だから臨時ダイヤがあるかと思ったけど、甘かったな。
    あと7時間以上あるのか、弱ったな……。でも、他に方法があるわけでもないし。仕方ないな。
    それまでどこかで仮眠がとれればいいんだけれども」


そう独り言を呟きながら、またエスカレーターを上り、4階へと向かう。

と、ちょうどそこへ5階から泣きながら下りてくる白龍が見える。


泣きながら…?


譲は溜息を一つして

   「白龍、どうしたんだ? また、朔に怒られるようなことをしたのか?」

   「私とて、いつもいつも怒ってばかりではありません 譲殿!」

いつの間にか後ろに立っている朔に、一瞬譲はギクリとしながら、ゆっくり振り返る。

少し拗ねたような朔の笑顔がそこにある。



   「キャハハ、『ゆずるどの』だって! ね〜ね〜聞いた?」
   「ああ、古風なダッセーのな」

   「時代劇、見過ぎじゃん、変〜んなの キャハハ」

   「シー、聞こえちゃうぜ」


後ろからエスカレーターで上がってきたカップルが、わざと聞こえるように二人をからかいながら通り過ぎる。

   「ゆ、譲ど……、こ、この言い方はどこか変なのでしょうか?」


カップルのからかいを真に受けてしまった朔が、笑顔を凍らせて、真っ赤な顔で言う。


   「わ、私の物言いは、やはりおかしいのでしょうか」

   「そんなこと無いから、気にしないことだ」

   「譲ど……、ああ、ダメだわ。何と呼べばよいのか分からないわ。
    譲く…ん…。
    だめ! 無理!! 望美のようには呼べない」

   「朔、本当に気にすることはない。今まで通りで」

   「でも、『変』なのでしょう」

   「朔、俺は朔から『譲殿』と呼ばれるの、嫌いじゃない。
    それに、そう言うなら俺だって朔のこと『朔』って呼び捨てじゃないか」

   「え? 私は朔だから、譲ど…あなたが『朔』って呼ぶのは当然のことです」
   「年上の女性ひとを呼び捨てにしてる自分も、どうかと思うけどね。『朔さん』」

   「何か、別の人を呼んでいるみたいです」

   「『朔ちゃん』」

   「ヒノエ殿みたい…」

   「『朔殿』」

   「フフフ、九郎殿や弁慶殿のよう」

   「ね、だから、俺にとって朔は『朔』、同じように」

   「ハイ、私にとって譲殿は『譲殿』なのですね」

   「朔」

   「譲殿…」


   「……無い」

   「は、白龍!」
   「は、白龍?」

   「どこにも無い。譲、探して」

   「何を?」

   「苺プリン」

   「苺プリン?」
   「苺プリン?」

   「お台場の少女が、景時に見せた苺プリン」

   「ま、まさか、白龍……あなた」

   「それが欲しくて、カーナビを変えて?」

   「どうして? そうならそうと仰い。そうすれば」

   「ごめんなさい」

   「こんな面倒なことにならずに、済んだだろうに…」

   「譲殿! これのことかしら?」

   「え?」

朔の指し示す壁のポスターを観る譲。
そこには

 【春を先取り  房総の春フェアー in 海ほたる
  苺プリン、苺ムース、苺シェイクに苺ジャム 苺づくしの十日間 1月1日〜10日まで!】


と苺に埋もれて頬張る海ほたるのキャラクターのイラストも書かれていた。







08/03/20 UP


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