リターン1  敦盛 包囲さる






    「お、大事だった……」

寄せて は返す波の音。
東京のお台場とは思えない静寂。

そしてお台場とは思えない暗闇。

目の前にレインボーブリッジと
晴海ウォーターフロントの摩天楼群


朔と敦盛が、波打ち際に座り込んでいる。
望美はその脇に立ち、二人を心配そうに覗きこむ。

  「どう? 朔? 気分は落ちついた?」

  「ああ、望美……まだ少し眼がまわるわ」

  「敦盛さん、大丈夫?」

  「神子……、すまない」

  「将臣君! どうしてあんな無茶な運転をするの!」

  「べ、弁慶殿もです!」

  「将臣君の免許は偽造物だから無茶なドライブはできない、なんて自分でいっておいて」

  「悪ぃ、悪ぃ。なんとなく弁慶に抜かれたのが、癪だったのさ、へへへ。」

  「僕としては、いつまでも平家の還内府殿の後塵を拝してはいられませんから、ね」

  「ははは!」

  「ふふふ!!」

  「何となく、すっきりしただろう」


  「楽しかったぞ、『どらいぶ』というものは」
自販機で買ってきた缶ジュースを抱えて、九郎が言う。

  「ど、どらいぶ?」

  「ほら、敦盛、これを」

九郎が投げてよこしたのは、温かいお茶の缶。

  「九郎殿、ありがとうございます」

  「それにしても将臣、面白いなあの道は。
   一周できるようになっていたのだな」

九郎からコーラの缶を将臣は受け取り、

  「お、サンキュー♪ 九郎
   ま、だいぶ遠回りではあるんだけどな。
   首都高環状1号線っていうんだ。」

  「C1という表示を辿ってきたのですよね」

  「さすが源氏の軍師殿だ。あのスピードでも、そういうことを見落としはしないんだな」

  「お褒めいただき、光栄です。ですが、もう二度とできませんね。
   さすがに緊張しました。くたくたです」

  「弁慶さんでも、緊張するんだ」

  「望美さん、本当は繊細なのですよ、僕は」

  「荒法師の鬼若が、よく言うじゃん」

  「ヒノエ」

  「見ているだけだったけど、けっこう楽しめたね、
   ゲーセンの『首都高』ナントカっていうやつの画面にそっくりじゃん」

  「『首都高』ナントカの方が、今の道を再現してるんだけどな。
   ま、正月は交通量……車の走っている数も少ないから、遊びで周回出来るってわけさ」

  「あれで車の数が少ないのか?」

  「ああ、世界に誇る東京の渋滞だ。普段ならあの十倍や二十倍。
   まあ、こんな風には走れないな」

  「元旦の八幡前の段葛みたいなものか?」

  「そうそう、ちょうどあんな感じ」

  「じゃあ、首都高速じゃ、ないじゃん」

  「だよな〜。」

  「それにしても、夜のレインボーブリッジをこんな近くに見るのって初めて」

  「へ〜、神子姫様でもそうなのかい?」

  「お台場自体、3度め、かな?」

  「そんなものなのか?」

  「そんなもんだよ。
   ところで、他のみんなは?」

  「兄上は白龍と、あの丸いもののついた建物を見に行ったわ」

  「フシテレビだ♪」

  「ふじてれび?」



譲が息を切らして戻ってきた

  「兄さん、やっぱり東京デッキもアクアタウンも閉まってるね。
   開いてるのはファミレスかコンビニくらいだ」

  「ああ、朔ぅ、残念だけど、前回のお店はもう閉まってるよ」

  「仕方ないわ、望美。時間が時間だから。
   こうして、車から降りることができて、
   波打ち際に座って、この美しい景色を見られるだけでも幸せよ」

  「朔、よっぽど弁慶さんの運転に懲りたのね」

  「朔、これを」

  「これは何? 譲殿」

  「ホッカイロ」

  「ホッカイロ?」

  「あれ? 朔は使ったことなかった?」

  「望美、これは何なの?」

  「こうして袋を開けて……
   こうしてモミモミして……」

  「先輩、今時のものは、別にもまなくてもいいんじゃないですか?」

  「いいの! この方が、はやく温まるの!」

  「OK、OK、気持ちの問題、な。」

  「ちょっとこうして……
   はい、朔」

  「?? あ、温かい!?」

  「あっちの世界で使ってたところの温石、こっちの世界バージョン」

  「へ〜、神子姫様の世界の温石は軽くていいね」

  「それにね、朔ちょっといい?
   ここをはがして……
   朔、後ろを向いてみて」

  「?」

  「ペタっと服の上から腰やお腹に貼れるのよ」



  「望美、少し歩いてホテル日光かグランパシフィックオーシャンに行ってみないか。
   ホテルなら、この時間でも茶ぁくらい飲めるだろうってことになってな。
   どうだ?」

  「せっかく皆でここまできて、ファミレスやコンビニじゃ、ちょっと寂しいですからね」

  「と言う、せっかくの弁慶のおごりの誘いだ。
   ありがたくゴチになろうぜ」

  「うわ〜い♪」

  「そう言うと思って、ヒノエに先に行って貰った」

  「11人ですからね。
   ちょっとした団体なので、パッと行って席があるとは思えませんので、予約を」

  「ついでにリズ先生には景時と白龍を見つけて、そのまま向こうに行って貰うように頼んどいたぜ」

  「じゃあ、朔、私たちも行こう」



笑いながら将臣達と、歩道橋の方に向かう。
ちょうど歩道橋を渡り終わったあたりで、遠くから嫌な音が響いてくる。
バイクの爆音。
しかも改造マフラーの発するけたたましい音。
お台場に来る途中も聞いた暴走族。

  「東京にも、まだいるんだ、暴走族」

かなりの数だ。

  「!」

爆音が通り過ぎない。

どうやら、近くに停まりアイドリングをしているらしい。
「早くしろ」という怒鳴り声が笑い声の中に聞こえる。

  「そりゃそうよね。暴走族だってトイレくらいするよね」

  「望美、早く行きましょう」

  「そうだね」

譲と将臣の後ろ姿を追いかけるように、望美と朔が小走りに急ぐ。






  「かぁのじょぉ!」

  「!?」

  「1人でどうしたのかなぁ?」

  「? わ、私のことだろうか??」

  「あれれぇ!? 綺麗なお顔に似合わず、ハスキーな声だねぇ」

  「はすきい?」

  「いいねぇ、どう? 俺たちとドライブしない」

  「い、いや、ドライブというものは、もうけっこ……
   あ、あの……、道を開けてはくれないだろうか?」

  「冷たいこと言うなって」

  「いや、だから……連れが向こうで待っているので……」

  「いいじゃん、いいじゃん。お友達もいっしょでよぉ」

  「いや、神子達は……」

  「お友達はミコちゃんっていうんだ。
   で、彼女ぉ、君の名前はなんて言うのかな?」

  「た、たぶん勘違いをしていると思うのだが、どうだろうか」

  「俺たちが、ドライブしようって言ってんだ。言うことを聞きゃあ、いいんだよ!!」

  「北関東暴走連合の言うことが聞けないっていうのかよ」

  「ぼうそうれんごう??」

  「おい、お前ら、カノジョのお友達のミコちゃん達が近くにいるはずだ。
   探して、連れてこいや」

  「神子達はダメだ」

  「俺達がいいって言ってるんだよ!」

何とかしなければ、とは思うもののどうしていいのか
途方に暮れる敦盛であった。







07/05/21 UP


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