あっくんのお食事・番外編・ヒノエ













  「帰りの飛行機の中で、くしゃみが止まらなかったけど、

   何か、オレのろくでもない噂、してなかったかい?」



  「い、いや、そのようなことは…、昨日は…」



  「その前は、してたんだね…。やれやれ、隠し事のできない体質は、こういう時に便利だね」



  「け、決して『ろくでもない』ようなことでは…」



  「許してやるよ、敦盛。すべてを話してくれれば…、だけどね」



  「い、いや…(許すとか許さないとかの話なのだろうか?)」



  「オレのいない間、綺麗さっぱり忘れられてるよりは、ずっといいさ」





そして、ヒノエのいなかった1週間の、dragon noirあのみせでの出来事が語られた。





  「ふ〜ん、そんなにdragon noirあのみせに通い詰めてたんだ…」



  「い、いや、別に『通い詰めて』という程のことでは……」



  「でも、わざわざ早朝に慣れてない電車を乗り継いでまで、出かけていたんじゃん」



  「それは、そうだが…」


  「そして、このDM、弁慶あいつからの請求書だ」



  「え!?(べ、弁慶殿…!)」



  「お前、いくら何でも1回の朝食にこの値段は凄まじいんじゃない?」



  「高価なものは止めて欲しいと言ったのだが…」



  「みんなに、いいように扱われただけなんじゃん?」



  「そ、そうなのだろうか? ……、い、いや、決してそのようなことは無いと…」



  「分かった。じゃぁオレの作った朝飯も食ってほしいものだね。それでチャラにしてやるよ」



  「ちゃら? ヒ、ヒノエ……??

   『してやるよ』と言われるようなことは……。お、怒っているのだろうか?」



  「当然!(オレの許可もなしに敦盛をかまいまくるなんて赦せないね)」



  「……、す、すまない」



  「だったらオレの作った朝飯も食ってくれ。そして、一番美味しいって言ってくれると……嬉しいんだけどね」



  「ヒ、ヒノエ……」



  「さ、それじゃ、明日の朝食の買い出しに行ってくるよ」



  「え!? 今、アメリカから帰ってきたばかりで、疲れているのではないのだろうか?」



  「冗談、たかだか半日椅子に座っていたくらいで疲れるような、ヤワな体はしてないんでね」



  「そうなら良いのだが……。無理は…」



  「いいから、お前はもうお休み。それから、明日の朝を楽しみしていて欲しいものだね」



  「わ、分かった……。気を付けて…」



  「ああ、良い子で寝ててほしいね。行ってくる」











翌朝、鼻をくすぐるようなダシの利いたみそ汁の香りで敦盛は目が醒めた。

ヒノエのことだから、どこか異国のやたらと豪華な料理が食卓に並ぶと想像していた敦盛は

このみそ汁の香りに、意外な、しかしホッとするような和やかなものを感じた。



  (ああ、そうか……、ヒノエは昨日まで異国にいたのだから

   きっと、和食が自分でも知らないうちに恋しかったのではないだろうか)



そう思うと、なにやら微笑ましかった。



  「お、お早う。ヒノエ…」



  「お、起きてきたね。もうすぐ出来るから、そこに座っていてくれないか」



  「あ、あぁ、分かった」



ヒノエの鼻歌が聞こえる。



  (よかった……、とりあえず機嫌は悪くないようだ)



そう思うと、現金なもので敦盛はヒノエが何を作っているのかに、俄然興味が湧いてきて

そっと立ち上がり、ヒノエの後ろに立ち、覗きこもうとしたのだが



  「ダメだね。足音を忍ばせてきても、お前が何処にいるのかはお見通しさ。

   出来上がるまでは、おとなしく座っていてほしいね」



  「そ、そうなのか……? す、済まない…」



椅子に戻りながら、敦盛は言う。



  「ヒノエ、それは和食なのだろうか?」



  「当然……、さ! できた」



と、敦盛の前に出されたのは



  「まず、米は、新潟県魚沼産のコシヒカリ」



米のたおやかな香気が鼻をくすぐる。



  「次に味噌汁は、赤だし。具は豆腐となめこ」



味噌汁の香りが食欲を増進させるのか、敦盛は自分がお腹の空いていることを感じていた。



  「そして箸休めに、京風だし巻き玉子。……な、美味そうだろう。卵、好きだものな、お前」



  「ヒノエ…。ああ、これは美味しそうだな」



  「だろうだろう、嬉しいことを言ってくれるね。いつもそう素直だとオレもうれしいんだけど」



  「………」



  「嬉しいから、ホイ! 最後はドーンと豪華に、これ!」



と、目の前に置かれたモノを見て、敦盛は目を丸くした。



  「こ、これ……。ヒノエが??」



  「そうだよ、おまえのために包丁をふるったんだぜ」



  「こ、これは……!?」



  「男は黙って舟盛り!!」



最後に食卓に置かれたのは、敦盛の体ほどもあるような、舟形に豪華に、

つまり溢れんばかりに盛り付けられた刺身の数々だった。



  「ホタテ、ほっき貝、ボタンえび、サーモン、活タコ、ヤリイカ、ウニにイクラ、

   シラウオ、アジは叩いて、刺身でイサキ、キスにトビウオ、とどめはカツオ!

   どうだい!?」



自信満々のヒノエを前にして、敦盛は



  「ど、どうだいと言われても……」











08/09/16 UP

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