いざ! 羽根突きしょうぶ      後編







  「遠夜殿のバースディケーキでしたら、この梶原朔に是非御下命ください! ね、譲殿」



  「それは……」



  「ダメ……ですか」



  「朔はこのdragon noirのパティシエです。俺も自信を持って推薦します」



  「譲殿」



  「ええ!? 梶原さん、すごぉい!」



  「ほぉ、お前が薦めるとは、黒龍の神子の腕、相当なものなのだな」



  「試しに、残り物だけど食べてみてよ〜〜」



  「兄上! それは昨日作った試作で、まだ皆様にお出しできるような物では……」



  「朔、昨夜、店を閉めてからそんな事をやっていたのか」



  「ええ、4日の開店から新作として1品か2品、増やしたいと思って」



  「朔」



  「はい?」



  「凄いな。頑張ってるんだ」



  「譲殿」



  「ごちそうさまです」



  「葦原さん」



  「や、まだ食べていないのに、その言い方は」



  「リブ、千尋はこの2人を冷やかしているだけだ」



  「や、それは気が付きませんでした」



  「まぁ、食べて食べてぇ〜〜」



  「これは、ほうじ茶と豆乳のプリンです。身体に良い物をと思いまして。

   それからこちらが、季節のフルーツタルト。

   今の季節ですから苺を中心に、蜜柑と柚子を使ってみたのですが……柚子の扱いが難しくて……。

   この半年、暇をみては練習してきたものの中から選びました」



  「知ってる」



  「譲殿!?」



  「時々、景時さんとこっそり試食もしてた。あ、承諾を得てないから『つまみ食い』かな」



  「え! 兄上と!?」



  「アハハハ〜〜〜」



  「もう!」



譲がそれぞれを皆に取り分けて配る。



  「!」



  「美味しい! すごいすごい! 梶原さん!!」



  「や、これは……言葉にならない美味さですな」



  「それじゃぁ……」



  「勿論です!! お願いします!」



  「黒龍の神子」



  「はい?」



  「よろしく頼む」



  「ええ。殿下にそう言われたら、最高傑作を作らないと許してもらえそうにないですね」



  「ああ、そう思ってくれて結構だ」



  「譲殿、お手伝い願えますか?」



  「ああ、勿論だよ」



  「葦原さん、あなたにもお願いできるかしら?」



  「え〜〜! わ、私ですか?」



  「ハイ」



  「………お邪魔にならないように、頑張ります!」



  「では、ちょっと着替えて参りますので」



  「じゃ、それまで珈琲でもいれるね〜〜♪」



  「や、私はお茶がいいのですが」



  「アハハ、じゃ、お正月用に買った、とっておきの極上紅茶葉がね〜」



  「ま、それは楽しみ」



  「望美が」



  「え?」



  「望美が羽根つきに夢中で良かったわ」



  「どうしてです?」



  「どうせなら、もう1人の龍神の神子にも手伝ってもらったらどうだ?」



  「え〜〜〜!? の、望美ちゃん!?」



  「そ、それは……」



  「さ、朔、急ごう。先輩と九郎さんの決着がつかないうちに」



  「ええ、そうね。譲殿」



そう言うと、朔は望美に向かって



  「望美! 頑張って!!」



  「九郎さん! 先輩に負けないでください!!」





  「存外、薄情な仲間だな」



  「殿下は、先輩の本当の恐ろしさを知らないから、そんな事を言えるんですよ」



  「本当の恐ろしさ? やれやれ……、白龍の神子とは秘密の多い女だな」



ギン!!



キン!!



ギン!!



キン!!



ギン!!



  「はあはあはあ…」



  「どうした、はあはあ…望美、息が荒いぞ」



  「そ、そう言う九郎さんだって!」











  「九郎と望美ちゃん、まだ続いてるんだ〜」



  「すご〜〜い!」



  「あの羽根を打ち返し合うことが出来るというのが驚きだな」



  「や、殿下がそう仰るのは珍しいですね」



キン!!



ギン!!



キン!!



  「く、九郎さん、そろそろ降参しませんか?」



  「な、何を言う!! 望美! お前こそ」











  「朔、オーブンの余熱はOKだ」



  「はい譲殿。こちらも間もなく」



  「じゃ、俺は生クリームを作り始めるから」



  「はい、お願いします」



キン!!



ギン!!



キン!!



ギン!!



  「や、このお茶は本当に美味しいですね」



  「ね〜〜、そうでしょそうでしょ」



  「リブの茶好きも相当なものだな」



  「や、殿下の二の姫自慢には負けます」



  「一緒にしないで〜」











キン!!



ギン!!



キン!!



ギン!!



  「く、九郎さん!」



  「な、何だ!!」



  「誰も見てませんよ」



  「え?」



  「隙有り!!!」



ピシン!!



  「しまった!!」



羽根は九郎の羽子板をはじき飛ばし、

さらにその後ろの駐車場のコンクリートにめり込んだ。



  「く! 望美…」



  「か、勝った……」



  「フ、ハハハ、気を散らした俺の負けだ」



  「アハハ……、ハァ〜〜〜、疲れた」



  「望美」



  「はい?」



  「強くなったな」



  「ありがとうございます」







dragon noir入り口のカウ・ベルが軽やかな音を立てる。

望美と九郎が入ってきたのに、店内の人々は注目した。



  「あ、望美さん、ちょうどいいところに」



  「いいところって?」



  「先輩! 九郎さん! 今までやってたんですか?」



  「ヘヘヘ」



  「ヘヘヘじゃないですよ。あぁ! 長襦袢と肌襦袢、汗だくにして!」



  「望美。皆さん、お帰りよ」



  「え!? えぇぇぇ!! 千尋ちゃん、ゆっくりしていくんじゃなかったの?」



  「今日はお買い物だったんです。また来ますね」



  「ああ、春日望美さん」



  「はい」



と呼びかけた風早の方を望美が振り向くと、一瞬ストロボをたかれたように、閃光が視力を奪った。



  「え? な、何を…、あ、あれ? 和服が」



  「す、すごいわ…」



  「あぁぁぁ……(ちょっとがっかり〜)」



  「乾いてる! 汚れや皺も無くなってる!」



  「と、言うより、着始めの状態に戻してありますから」



  「風早さん……」



  「はい」



  「ドラエ○ンみたい」



  「先輩!」



  「そうじゃないでしょ、望美! すみません、風早殿」



  「いえ、いいです。千尋の態度からでしょうか、俺も最近そんな気分ですから」



  「アハハ、自覚はあるんですね」



  「の、望美」



  「せ、先輩!」



  「ゴメンなさい。でも、そんな風早さんが好きですよ。頑張ってください!」



  「フ、ありがとう。白龍の神子からのエールと受け取っておきます」



  「はい」



  「では、千尋、アシュヴィン、還りましょう」



  「じゃ、千尋ちゃん。また」



  「うん、必ずまた、ね」



  「有川、世話になったな」



  「殿下、お気を付けて」



一瞬で3人は消える。







  「あ! リブさんは?」



  「もうとっくに出発しちゃったよ〜」



  「えぇぇぇ!! 黄泉のなんとか坂の通り方、教えてもらう約束だったのにぃ!」









終わり










09/01/06 UP