wis様リクエストSSS 09/06/14 UP
1
将臣殿が何やら口ずさんでいらっしゃる。
どうやら、将臣殿の世界の歌舞音曲らしい。
不思議な拍子と音階…。
そして何よりも、その歌の詞!
それが事実だとしたら……いや、まさか……。
し、しかし、歌にまでなっているのですから……ですが……
ああ! 将臣殿の世界では陽の光よりも、望の輝く夜の方が眩しいのでしょうか……
『太陽より〜眩しい〜 満月が〜昇る〜〜〜♪』
では、夜の闇は無いのですか?
昼の陽の下よりも明るい夜!
それでは趣深く契り逢う恋人達の逢瀬は……
「……重衡」
「ああ、これは兄上」
「何を……考えていたのだ?…」
「あの方の口ずさんでいらっしゃる歌についてでございます」
「…有川……か」
「はい」
「お前……有川の歌を聴いて……、夜が明るくては……女が口説けぬとでも……心配したのか……?」
「いえ、兄上。それも一興か、と」
「お前……、ククク……想像以上に『ちゃれんじゃぁ』……だな……」
将臣が唄っているのは、将臣のキャラソン『魂という赤紅き熱風よ』です。
2
「『らっきぃ』と『さんきゅぅ』で…」
「私は『おぉけい』と『だっせぇ』と仰るのも」
「その『だっせぇ』は、私の聞いた『だせぇ』とか『ださっ』、『だりぃ』と同じ意味のものでしょうか」
「似てはいますね」
「思いますに、『さんきゅぅ』は、何か他人が彼にした行為に対する謝辞なのではないかと」
「食事を運んだ女房に『さんきゅぅ』、着替えを渡した下僕に『さんきゅぅ』……
ああ、そうですね。何らかの謝辞という経正殿の推論は正しいでしょうね」
「それにしても、異世界から来たという将臣殿の言の葉は難解で」
「ですからこうして、『有川将臣語録』を作って、意志の疎通を図ろうとしているのではないですか」
「そうですね。では、次に『らっきぃ』ですが…」
「それは以前、私が直接に将臣殿に伺ったのですが」
「さすがは桜梅の少将殿。で、彼は何と?」
「それが……、『[ないす]な事に出会った時に思わず出るんだよな』と…」
「ああ…、今度は『ないす』ですか…」
「ええ」
「では先に、『だっせぇ』とか『だりぃ』は、どうでしょう」
「私には、まったく見当もつきませんが……」
「『が』?」
「知盛殿が最近、使っていらっしゃるのですよ」
「新中納言殿が…」
「ええ、あちこちでゴロゴロしては薄笑いを浮かべて『だりぃな』と」
「では! 新中納言殿は『だりぃ』の意味を承知されておられるのですね」
「あんびりぃばぼぉ……ククク、な、…有川」
3
「ほお、知盛はそのような女の所に通っておったのか」
「ええ、僕も調べるのに苦労しました。誰にも知られないよう、かなり用心なさっていらっしゃいますからね」
「で? 重衡の方はどうなのじゃ?」
「今回のお相手だけは、お知りになられぬ方がよろしいかと…」
「そう言われると返って……、ま、我がそう言うだろう事も、お主は計算の上での物言いじゃな」
「嫌だな、フフフ。では…、相国様、他言無用ですよ。お耳を」
殊更勿体ぶったように辺りを見回してから、金の髪の薬師は、双六の盤を越えて入道相国・平清盛に耳打ちした。
途端に清盛の顔が赤くなる。
「!! そ! そのような!! まさか!! 賀茂齋院である内親王と…」
「僕は嘘は申しませんよ」
素っ気ない顔で双六の賽を振りながら、弁慶は油断無く清盛の様子を観察した。
「フフフ、アハハハハ! 賀茂の神の妻を寝取るとは、いや、さすがは我が息子じゃ」
「え? 相国様!?」
「なんじゃ、その顔は?
…薬師殿もその方面では隅には置けぬともっぱらの評判だが」
「嫌だな、僕は」
「堀川の中納言の二の姫に、大蔵卿の一の姫と二の姫、…それと、三位の中将殿の御正室に……」
「そ、それを、どうして…」
「いやいや、大したものじゃ。
知盛や重衡にも、薬師殿を見習うように申しておかねばな」
4
「兄上! 大変でございます!」
「重衡……どうした……? 騒々しい……」
「将臣殿に夜伽の女官を誰になされるか、お聞きしたのです」
「ほお……」
「しかしあの方は、それだけで耳まで紅くなされて。
その上、不思議な言の葉を仰られて」
「……?」
「『のぉさんきゅぅだ! 一人で寝られる』…、でしたか。
この意味をお分かりになりますか?」
「……さあな」
「『のぉさんきゅぅ』というのが如何なる意味の言の葉なのかは存じませぬが、
『一人で寝られる』との仰りようで、夜伽を拒否なされたのだということは察することはできました」
「……だろうな」
「あの方は少しも女性をお側に近づけようとなさらないのです」
「で、……それが?」
「おかしいではございませんか。
どこかお身体の調子がお悪いのではないかと、私は心配で」
「重衡…」
「冬の夜の独り寝は、心も体も冷えましょうに。ああ、私は本当に心配で」
「お前……、女は…温石代わりか?」
5
「まったく! 本当にあのような下賤な輩と!」
「どうされたのですか、惟盛殿?」
「あ……ああ、これは重衡殿」
「穏やかなあなたにしては、珍しく激昂なされて」
「いや私としたことが。……丁度良い。聞いてくださいますか」
「ええ、是非」
「あの男ですよ。有川将臣」
「彼が、何か?」
「どことなく父上の若い頃に似ていると皆に言われ、私も何となく他人以上に近しい思いでいたのです」
「ええ、何かにつけてお世話なさっていらっしゃたのは存じておりますが」
「今日『有川弟君、未だ見つからず』の連絡が入ったものですから」
「それは。是非ともお慰め致さねば」
「私もそう思って、舞を舞って差し上げたのですが」
「ああ、うららかな午後、桜梅の少将の舞、想像しただけで雅でしょうね」
「そう! それが都人の反応でしょう! さすがは重衡殿」
「恐れ入ります」
「それが、です! あの男…! あ〜、思い出しても腹が立つ」
「有川殿が何と?」
「舞い始めてすぐにウツラウツラと居眠りをされ、舞い終わって言うに
『随分とゆっくりした踊りだな。もっとあっぷてんぽでびぃとのきいたのを今度は頼むぜ』
だそうです!!」
「『あっぷてんぽ』で『びぃとのきいた』? どのような意味でしょうか?」
「知りませんよ! 知りませんが、あれは絶対、私の舞いをバカにしているに決まっています!
……? 何を笑っていらっしゃるのです、重衡殿!?」