拍手14  みんなで受験! 編  10/03/16 UP





みんなで受験! その1


  「もうすぐ夏休みだね〜〜」

  「海に山に、プールに、スイカ割り!」

  「サーフィンってのにも挑戦してみたいね〜〜」

  「ああ、私、ネィズミーリゾートにもまた行ってみたいわ」

  「スキューバダイビングとかシュノーケリングも、是非やってみたいね、な敦盛」

  「え、い、いや私は……」

  「ゴメン……、私……全部…、パス」

  「えぇ!!! どうしたの? どこか具合でも悪いの? 望美!!」
  「え〜〜〜〜〜!!! こういう時は真っ先に遊びの計画立てるじゃないかぁ〜〜」
  「へえ、びっくりだね。神子姫らしくもない言の葉じゃん」
  「神子……、どうか、したのだろうか??」

  「7月中の平日は補習が午後7時まで。土日には課題とレポート仕上げて…」

  「じゃあ文月は諦めるとして、葉月に…」

  「8月もお盆の1週間以外は夏期講習で横浜まで毎日……、
   20日過ぎからは学校の講習に、補習まで始まるし……、あああああ!」

  「それ程とは…、の、望美……、苛酷なものなのね」

  「受験生だね〜〜」

  「でも、補習ってのは、今までのツケを払ってる感じじゃん」

  「ヒノエ君!! 助けて〜〜!! 慶桜大学生でしょぅ!!」

  「へぇ、いいのかい。ま、神子姫様の御要望とあらば…」



そして、ヒノエの地獄の特訓が始まった。



  「の、望美……、たった3日で随分とやつれたわね…」

  「さ、朔ぅぅ〜〜〜……、ヒノエ君は……悪魔だよ〜〜」

  「悪魔……?」

  「神子姫様! dragon noirこんなところに逃げて来ちゃ、ダメじゃん!
   さ、残り1時間以内に、英単語をあと270覚える約束だったね
   覚えきれなければ、今晩の食事は半分だったね」

  「ダ、ダイエットには、最高ね……」

  「朔も、付き合って〜〜〜」

  「わ、私は遠慮しておくわ……。それにしても、『大学受験』って何て苛酷なものなの…」














みんなで受験! その2


  「リ、リズ先生……、助けてください」

  「神子、どうしたというのだ」

  「わ、訳はともかく、ちょ、ちょっとだけ寝かしてください」

  「問題ない」

  「あ、ありがとうございます」

  「問題は無いのだが」

  「え?」

  「……ただその前に、ライティング問題集の25頁から27頁までを解答してしまいなさい」

  「ク! ここにもヒノエ君の手が回っていたか!」

  「待ちなさい、神子! その頁が終わるまで席を立ってはならない!」

  「そ、そんなぁ……」














みんなで受験! その3


今日も書道教室の隅でコリコリと望美がライティングの課題を解いている。
すると書道教室の子供が

  「望美、お前、何を毎日やってるんだ?」

  「うるさいわね!」

  「べ、勉強か?? 望美、気は確かかよ」

  「神子は頑張っているのだ」

  「リズ先生……」

  「へん! 長続きなんかしないに決まってるじゃん」



翌日も、書道教室の隅で望美がリーディングの課題を解いている。
すると書道教室の子供が

  「望美」

  「何!?」

  「隣で、俺もやっていいか?」

  「何を?」

手提げ袋から出したのは、夏休みのドリルだった。

  「やっとかねぇと母ちゃんに怒られるからな」

リズバーンが頭を撫でながら言う。

  「頑張ることは、良いことだ」

  「リズ先生……。よ、よせやい、ガキじゃねぇんだからよ」

  「そうか、すまぬ」

帰りかけていた書道教室の子供達が、それを見つめていた。



その翌日も、書道教室の隅で望美が英文法の課題を解いている。
その隣には……大勢の子供達、特に用事があって残れない子以外ほぼ全員が
夏休みの課題や、塾のプリントや、夏休みの絵日記や、その他思い思いの勉強をしていた。














みんなで受験! その4



今日も望美は、リズヴァーンの書道教室で古文の問題集を解いていた。
その隣では

  「だからこことここの内角の和は2直角じゃん」

中学1年の図形問題に悪戦苦闘する大学生と
それをからかうように取り囲んではやし立てる子供達で賑わっていた。

  「え? そ、そうだっけ??」

  「だから、こっちとここの角度は同じじゃん」

  「そうなんだ? ……ハハハ」



望美の課題が終わる頃を見計らって、お菓子と冷たい麦茶をだしてくれるリズ先生。
チビ達も、宿題をする事が目的なのか、リズ先生に褒められるのが目的なのか、
それともこのお菓子が目当てなのか分からないが、
もう10日以上居残っての自習が続いていた。

時々、望美の様子を確認するためにヒノエがやって来ていたのだった。
そのついでに子供達の質問にも答えてくれていたのだ。

ヒノエが来られない日は、どこをどうしたのかヒノエの悪友達が入れ替わりで訪れた。
そして今日は



  「大輔ぇ。お前、ホントに慶桜大学生なのかよ?」

  「ぶ、文系に数学は関係ないからな」

  「昨日来てくれたヒノエはあっさり解いてたぞ」

  「これだから、内部進学組はダメなんだ。ヒノエを見習えよ」

  「の、望美ちゃ〜〜ん、こいつら、いっつもこんななの?」

  「静かにしててください、松下さん! 分かりかけてたのが分かんなくなっちゃうでしょ!
   え〜〜と、だからここは已然形接続だから……仮定条件節になるんだから……あれ??」

  「俺って役に立ってないんじゃないのかな〜〜??」



もはや書道教室の体ではなくなりつつあるが、
現役の慶桜大学生が勉強の面倒を見てくれる塾という評判が
鎌倉から藤沢にかけてのお母さん連に、口コミで評判となりつつあった。

  「そんな事はどうでもいいから! 誰かこの部分の訳、教えてよ!」














みんなで受験! その5



今日はdragon noir朔のみせで勉強する望美であった。

  「望美、差し入れよ」

  「望美ちゃ〜〜ん、頑張ってるね〜〜」

  「朔ぅ、景時さん、ありがと。うわぁ! これ、朔の店の次の季節限定スイーツじゃない?」

  「ええ、私の自信作よ」

  「ありがとう! いただk」

  「待って!」

  「え?」

朔はおもむろにプリントを1枚取りだして

  「この問題を15分以内に解いて65点以上だったら、召し上がれ」

  「く! 朔までヒノエ君の手に落ちていたか!」

  「用〜意、始め!」

  「え、え、ちょ、ちょっと待って!」



  「はい! 終わり」

朔はヒノエから渡されていた解答を見ながら、採点した。

  「ああ、頑張ったわね、望美」

  「やったぁ! じゃあ、いただk」

  「でも、残念だけど63点。2点足りないわ」

  「いいでしょ。おまけってことで、ね。朔」

  「残念だけれど、これは諦めてね。あなたの為だから」
  「そんなぁぁぁ」

  「では、もう1枚、やってみる?」

  「うん! 是非!」

  「10分以内に70点以上が条件よ」

  「5分短くなってるし、5点上がってる!」

  「用〜意、始め!」

  「問題も違う!」

  「当たり前じゃないの、望美」



  「ああ、残念だわ。69点。本当にもう少しなのに。あなたの代わりに私が食べてあげるわ」

  「え〜〜、俺が食べてあげるよ〜」

  「兄上! 私が望美の為に」

  「いやいやお兄ちゃんが、望美ちゃんの為にね〜〜」



  (絶対に『私の為』じゃないだろう、この兄妹は!)

そう思う望美であった。














みんなで受験! その6



  「どうしよう、兄さん。俺、今度の日曜、先輩の監視当番だったんだけど、
   急に練習試合が組まれて、川崎まで行くことになったんだ」

  「ま、1日くらい望美の好きにやらせりゃぁいいんじゃねぇのか」

  「そうはいかないよ、ヒノエと約束したんだから」

  「やれやれ、望美はガキか? 先に言っとくがな、俺は暇じゃないからな」

  「……分かった」



  「お早うございまs……え? 今日は敦盛さんなんですか?」

  「ああ、神子。私では不安だろうが、精一杯務めるのでよろしくお願いする」

  「こちらこそ、ありがとうございます。敦盛さんも忙しいのに」

そう良いながら早速勉強を始める望美であった

30分もしない内にモゾモゾと飽きてきたのか落ち着かなくなってきた。

  (いいか敦盛、先輩はお前だと甘えて勉強しなくなるからな
   心を鬼に、い、いやこれも先輩の為だと堪えて)

  (堪えて、どうするのだろうか?)

  (何でも良いから、先輩の勉学に関する事を褒めちぎれ)

  (ほ、褒めちぎる…のか?)

  (ああ、頑張ってくれ)

  (わ、分かった)

  「あ、敦盛さん…、今日は天気も良いし、ちょっと休憩して海岸を歩いて」

  「神子は凄いな」

  「え?」

  「このような難解な『えいご』を解読できるとは。
   これも、この夏に一心不乱に勉学に励んだからなのだろうな」

  「あ、当たり前じゃないですか! そうですよ励んで励みまくってるんですから!」

そう言うとリーディングの問題を一心不乱に解き始めた。



  「ああああ……」

  「ど、どうしたのだろうか?」

  「わ、解らない…んです。この問4の2番が……」

  「さすがは神子だな」

  「え?」

  「敢えて難解な問題に立ち向かい、決して逃げることをしないのだからな」

  「あ、当たり前じゃないですか! 私が逃げるわけ無いじゃないですか! 
   難しければ難しいほど遣り甲斐がありますからね!」

と鼻息も荒く、問題にむき直った。




  「敦盛、お疲れ様。どうだった、先輩はちゃんとやってたか?」

譲が書道教室に来ると、疲労困憊で息も絶え絶えの望美の姿があった。
譲は敦盛に尋ねる。

  「まさか1日中、こんな調子じゃあ無かったんだろうな」

  「譲、神子はやはり凄い。この厚い問題集を1日ですべて解き終わったそうだ」

  「それは……本当に凄い。先輩、本当に敦盛の前では恰好つけたがるんですね」














みんなで受験! その7



  「俺は望美の力にはなれないのか!?
   皆がこうして一夏、望美の為に頑張っているというのに!」

受験が何なのかも定かではない九郎にとって
望美の為に何の力にもなれない自分が歯がゆくて仕方なかったのだ。

  「兄弟子として、俺は……!」

そんな九郎がある日偶然に、都内大手の某予備校のキャッチコピーを目にしたのだった。

  「『日々是決戦』か。望美、お前はやはりこちらの世界でも戦っていたのだな」

  「『受験は体力だ』! そうなのか! これならば俺にも」

翌日、望美が補習を終えてリズ先生の書道教室に向かおうと校門を出たところで

  「望美!」

  「え? あ、九郎さん。どうしたんですか? こんなところで」

  「お前を待っていた。さあ、今日は受験とやらの為に鍛錬だ!」

  「え? あ、はい! やった!! じゃあ、ちょっと着換えてきます!」

そう言って夜遅くまで九郎と望美は鍛錬に勤しんだのだった。



  「九郎、困りましたね」

  「え? 鍛錬ではダメなのか?」

  「君が望美さんに勉強をサボる口実を与えてどうするんですか」

  「いや、しかし、Y予備校では『受験は体力だ』と」

  「確かにそういう一面も受験にはあります」

  「だったら」

  「でも九郎、考えてみてください。
   望美さんの体力は今更僕達がどうこうしなくても、恐ろしいほど強靱ではないですか」

  「ああ、そうだな。今日は危うく負け越すところだった」

  「嬉しそうに言わないでくれませんか。
   体力で受験の成否が決するのなら、望美さんに入れない大学など無いでしょうね」

  「そうだろう」

  「『そうだろう』とか満足そうに頷かないでください。
   受験の勝敗を決するのは、1も2も無く『学力』なのですよ」

  「そ、そうだったのか!」



  「素振り千回の方が、英単語50覚えるより、よっぽど楽だよ」














みんなで受験! その8



弁慶が望美に問いかける。

  「そんなに辛いのなら、ヒノエの家庭教師を断ればいいじゃないですか。
   あの子も融通が利かないというか、自分の考えをごり押しするところがありますからね」

  「でも、ここでヒノエ君に家庭教師を断ったら、何か負けたみたいで……」

  「受験勉強は、勝った負けたではないと思いますよ」

  「だけど、このままシッポを巻いて引き下がるなんてできません」

  「では、どうしても辞めないと仰るのですね」

  「はい」

  「絶対、ですか?」

  「はい! 絶〜っ対です!」

  「そうですか、仕方ありませんね。……では」

  「『では』?」

にっこりと微笑んで弁慶は懐から分厚い英語の問題集を取りだした。

  「敦盛君の努力で前の問題集が終わったと聞いたものですから。ちょうど良かったですね」

  「え? え?」

  「今週中に完成させてください」

  「ま、まさか……、弁慶さんまで!! 弁慶さんだけは信じてたのにぃ!!!」

と泣きながら逃げだそうと立ち上がりかけた望美の襟首を捕まえて

  「臭い芝居で逃げ出すのですか?」

  「え? い、いやあ……。アハハ」

  「ヒノエに負けたくないのでしょう」

  「え、ええ、まあ。……で、でも負けても、いいかなぁ……なんて…」

  「おやおや、龍神の神子ともあろう方がいけませんね。いったん断言した言の葉を、
   その舌の根が乾かないうちに、こうも簡単に撤回してしまわれるなんて」

  「……分かりました! やれば良いんですよね、やれば!」

  「そう、その意気です」

  「こんな問題集の1冊! 1週間あれば」

  「1冊と言いましたか? ああ、僕としたことが。誤解をされたようですね、すみません」

  「え?」

弁慶はますます慈愛に満ちた微笑みで、懐から古典の分厚い問題集も取りだしたのだった。

  「これも、ヒノエからお預かりして参りました」

  「2冊〜〜!!」

  「いいえ、違いますよ」

更に微笑みと共に懐から分厚い現代文の問題集も取りだした。

  「え!? え〜〜!!」

  「そんなに喜んでもらえると、僕もうれしいな」

と、とどめのように懐からもう1冊、日本史の超分厚い問題集を取り出すのだった。

  「文系科目は、数をこなすことが大切だそうですからね。頑張りましょう」

と天使のような優しい笑顔を望美に降り注ぐ弁慶だった。

  「ああ、言い遅れました。
   間違えたところは、翌日、すべて再確認させていただきますからね」



  「ぐ、軍師の策略に、はめられた〜〜!!」














みんなで受験! その9



   ガランガランガラン

景気よく拝殿の鈴が鳴らされて、柏手を打つ音が響いた。

  「さ〜〜、これでお参りも済んだね〜〜」

  「では、望美さんの合格を祈念して、皆さんで絵馬を奉納しませんか?」

そう言う弁慶に皆、異存のあるわけがない。

  『望美ちゃんが近くの志望校に合格しますように  景時』

  『望美に満足のいく結果がもたらされますように  朔』

  『神子姫に第1志望校合格通知を与えたまえ  ヒノエ』

  『初志貫徹  九郎』

  『本願成就  リズ』

  『望美さんが志望校に合格されますように  慶二』

  『神子を大学生にしたまえ  敦盛』

  『先輩と兄さんが大学生になれますように  有川譲』

  『第1志望校合格  将臣』



皆が互いの書いた絵馬を見せ合っている。
そんな中、誰にも絵馬を見せずに掛けに行こうとする望美。
それを見つけた九郎が声をかける。

  「望美は何と書いたのだ?」

  「え、も、勿論、将臣君と私の大学合格って」

  「見せてくれ」

  「え、いいじゃないですか。それより、早く奉納しましょ」

  「そう言われると、かえって見たくなるのが人情じゃん」

そう言いながらヒノエは素早く望美の絵馬を奪い取る。
皆がその絵馬を覗きこむ。

  「なになに、『マークシートの解答がずれていませんように』……って、これ……」

  「はぁ、やってくれるね、神子姫」

  「先輩、まさかこんなオチになるなんて」

  「ど、どういうことなの? 望美?」

『マークシート』が何なのか分からない異世界の人々が心配そうに尋ねる。



  「だ、だって、最後に1つマーク欄が余っちゃったんだもん!」














みんなで受験! その10



  「センターの自己採点も最悪だった」

  「ま、そうだね。神子姫唯一の得意科目と言って良い国語で『やっちゃった』んだからね」

  「最後に1つ、書く欄が余っていたのでしょう」

  「余っていたっていうより、先輩がどこか解き忘れたか」

  「それが謎なの。問題は全部解いたはずなんだけど」

  「不思議ね」

  「どこかを2つマークしちゃったのかな??」

  「英語は神子姫にしては健闘したっていう感じじゃん」

  「日本史は、やっぱり中古から中世が点が取れませんでしたね」

  「判らないわね」

  「うん。不思議なこともあるものだね」



朔と望美の前には、春日望美様宛の「センター利用入試合格通知書一式」が置かれていた。



  「これが、龍神の神子の底力、なのかしら」

  「朔ちゃんがそれを言う?」



  「何にしろ」

  「合格したね〜〜〜、望美ちゃん」

  「さ、この調子で頑張って!」