拍手7  春編  08/04/06 UP





1  ひな祭り


   「さすが、リズ先生のお手製だね」

   「ええ、望美。でも驚いたわ、リズ先生は和裁もこれほどとは…」

   「問題ない」

   「でも綺麗」

   「ええ、本当に」

   「神子二人が喜んでくれたのなら、私もうれしい」

   「思った以上です。ありがとうございます、先生」

   「ええ、本当に。私の裳着の時に着た十二単より素敵に見えるわ♪」

   「裳着…? あ、女性の成人式かぁ」

   「え? 成人式?」

   「大人の女性の仲間入りの儀式でしょ」

   「ええ、そうよ。望美の世界では『成人式』と言うのね」

   「そだよ。そっか〜、朔、梶原家のお嬢様だもんね。幾つで裳着したの?」

   「兄上がまだ早いってずっと言い続けたので、私はちょっと遅くて十三の時だったわ」

   「え〜! 十分早いよ。こっちの世界は二十歳だもの」

   「そんなに遅いの…。そ、それよりこの衣冠束帯の男性装束は、望美の体型に合わせてあるのかしら」

   「そだよ。でも朔でも着られるよ」

   「と、いうより細身に作ってあるから、実際の殿方では無理ね」

   「だって、誰に着せても怒り狂う人がいるから」

   「そうね、それぐらいなら私か望美が着た方が、無難だわね」

   「これで生身の雛祭りができるね」

   「あ、あの……」

   「何? 敦盛さん」

   「な、何故、私が十二単なのだろうか……」

   「だって、ね〜朔♪」

   「ええ、敦盛殿、美しいわ♪」











2  エイプリルフール


   「ヒ、ヒノエ…」

   「敦盛、どうしたんだい?」

   「じ、実は話があるのだ」

   「?」

   「わ、私の笛に、こちらの世界で『弟子』と言うものができたのだが……」

   「へぇ、良かったじゃん」

   「そう思ってくれるか?」

   「ああ、当然だろ。そんな改まった顔をしてるから、いったいどんな話かと思ったね」

   「それで、私もリズ先生を見習って、教室を開くことになった」

   「へぇ、……え? 『開くことになった』って、もう決まったことなのかい?」

   「ああ、そうなのだ。さる大企業の御令嬢が資金を提供してくれて…」

   「ちょっと待った! さる大企業の御令嬢? いったいいつそんな」

   「そこで、このマンションを出て、自立しようと思っているのだ」

   「え? え? マジで?」

   「今まで世話になった……」

   「そ、そんなぁ〜〜〜〜!」

と泣きながら部屋を飛び出すヒノエに

   「あ! まだ続きが……困ったな、どうしよう……。
    弁慶殿には、この後『な〜んちゃって』と続けるように言われていたのだが……。
    まあ、帰ってきたら続ければいいか」

しかし、ヒノエはその日、ついに帰ってこなかった。次の日も、その次の日も……。
心配した敦盛が、二晩眠れず憔悴しきった姿で景時の店に現れたのは、四月四日の昼過ぎであった。

   「ヒ、ヒノエ…が…、帰ってこな…い」

そう言うなり倒れ込んだ敦盛の様子に、驚いた譲と景時がヒノエに連絡を取る。
慌ててdragon noirにヒノエがやって来ると、敦盛はすかさず

   「なぁ〜〜んちゃって…」

真実を知ったヒノエは弁慶のことを当然、烈火のごとく怒り、弁慶に電話するが

当の弁慶は、してやったりという声で

   「君もまだまだ青いですね。敦盛君のこと、そんなに信じられないのですか?
    雨降って何とやらという諺もありますからね、この後の君次第ではないのですか?」

と軽く諭されてしまう。携帯を壁に叩き付ける寸前で堪え、フッと溜息をつくとこう言った。

   「やれやれ、オレの誕生日だったって言うのに……、……なぁ〜んちゃって」











3  花見


   「桜の花を愛でる風習は、こちらの世界でもあるのだな」

   「ま、住む世界は違っても同じ日本人ってことなんだろうな」

   「将臣君は花より団子でしょ」

   「一番その言葉に相応しい奴から言われたくねぇよ」

   「そういう点ではこちらの世界の方が、気楽でいいな……」

   「どうしてですか? 九郎さん」

   「あちらの世界の花見は……、特に京の花見は風雅過ぎて、俺の性には合わん」

   「ハハ〜ン、ま、そうだろうな」

   「何? 何? 将臣君、教えて?」

   「あっちの世界の貴族の花見ってのは、歌舞音曲が付きものだからな」

   「あ! そうか〜 九郎さん、和歌も舞も楽器も苦手だものね〜」

   「なんだ、二人とも! そ、そんな哀れむような目で人のことを見るな…

    俺だって和歌の一つくらい詠めるさ」

   「で、詠んだのが『この世をば兄上が世とぞ思はむ 桜花 散りたることもなしと思へば』…、だったか?」

   「ま、将臣! どうしてそれを知って…」

   「伊達に平家の還内府してたワケじゃ無ぇぜ。こういう情報もはいってくるのさ。
    あの後白河院にも同情されて、それ以来歌会には呼ばれなくなったってな。よかったじゃねぇか」

   「ま、将臣!」

   「それにしても、すごいね」

   「望美、何がだ?」

   「だってその和歌、私でも聞いたことあるもん。有名でしょ。九郎さんが詠んだんだ」

   「バ〜カ、こいつは藤原道長の和歌をパクッただけだ」

   「わ、和歌には本歌取りという技法があってだな」

   「九郎、無理すんなって」

   「だ、だったら将臣、そこまで言うなら、お前は和歌、詠めるのだろうな!」

   「ああ、良いぜ。そうだな…、
    『さくら花 散りぬる風のなごりには 水なきそらに浪ぞたちける』…、なんてどうだ?」

   「う! ……さ、さすがは、平家…」

   「すっご〜い、将臣君、綺麗な和歌だね、…意味はちょっと分からないけど」

   《 望美…、昨日の授業でやった「古今集」の和歌だ! お前、また寝てたな! 》











4  新入生勧誘


   「どうしたの、譲君?」

   「実は景時さんに折り入ってお願いがあるんです」

   「何? 何? 何〜♪ 譲君のお願い、ク〜ゥ、うれしいね〜。何だって聞いちゃうよ〜」

   「部活動で新入生勧誘の時期なんです」

   「弓道部だったね〜」

   「弓道部っていまひとつ人気が……。そこで景時さんに何か人目を引くものを作ってもらえないかと思って」

   「ああ、それで注目を集めて、新人君を勧誘しようってことだね〜」

   「ええ、そうです。お願いできますか?」

   「任せといてよ〜」

景時はdragon noirお店そっちのけで、譲のお願いのための制作に没頭した。
朔も、それが譲の頼みだと知っていたので、怒るに怒れなかった。
そして一週間

   「譲く〜ん、出来た出来た〜♪」

   「大きい包みですね。いったい何を作ったんですか?」

景時は、包みを紐解きながら

   「じゃ〜〜〜ん♪ 自信作だよ〜。等身大弓道ロボット、名付けて『メカ与一』♪」

   「す、すごい…。そう言われてみると、どことなく師匠に似ているような…」

   「だろ〜。メカ与一は弓を射ることができるんだよ〜。注目されること間違いなし!!」

   「ありがとうございます。早速、勧誘活動に使わせていただきます!」

そして三日後

   「景時さん、申し訳ありませんが、メカ与一をお返しします」

   「え〜〜、何で何で? 評判にならなかったの?」

   「いえ…、おかげさまで連日『メカ与一』見たさに、創部以来最高の見学者数でした」

   「じゃ、じゃぁ〜、やっぱり的に当たらなかったの?」

   「いえ……、すべて四射四中、つまりずっと皆的でした」

   「じゃあ、何で返品なのかな〜?」

   「先輩達がすっかり自信無くしてしまって」

   「な、何で〜?」

   「見学に来た新入生が、みんな科学部に行ってしまうんです!!」

   「そ、そこまでは考えなかったな〜〜……」











5  お駄賃


   「土産だ…。還内府殿」

   「おお、どうしたんだ? こんな大きなハマグリ! 六つも! 譲がよろこぶぜ」

   「ククク…」




翌日

   「土産だ。還内府殿…」

   「おお、生シラス! いったい、どうやって手に入れたんだ?」

   「さあな…」




更に翌日

   「土産だ。還内府殿…」

   「今日は、牛乳二本? しかもビン…。お前、いったい何してるんだ?」

   「ククク」

   「ハマグリと生シラスまでなら、リズ先生にでも貰ってきてるのかと思ったがな。ビン入り牛乳…」




その翌日

気になった将臣は、らしくない早朝に出かける知盛を尾行する
と、近所のおばちゃん達と一緒になって、小学生の通学路で交通安全指導をする知盛の姿があった。

   「平君、もっとはっきり旗は出してね」

   「だるいな…」

   「平君、新1年生のチビちゃん、おしっこだって! 連れて行ってあげて」

   「面倒だな…」

   「平のおじちゃん、おはようございま〜す」

   「お兄様と…、呼べよ…。ククク」

   「平君〜」

   《 春の交通安全週間……か。
     それにしても、おばちゃん連中に人気者だな、あいつ 》