08/11/16 UP



瑠璃稲妻にあと少し・〜そのとき彼らは…?(仮)〜 1





1はまだ、茶吉尼天を倒した直後、件の迷宮騒動が勃発する前の12月、八葉が有川家に居候していた時の話です。





  「先生!」



息を切らして、リズヴァーンのいるリビングに駆け込む望美だったが、

その瞳は、ある期待にキラキラと輝いていた。



  「神子…?」



  「先生、ヒノエ君から聞いたんですけど、携帯、購入されたって本当ですか?」



  「うむ」



  「見せてもらってもいいですか?」



  「うむ」



  「わぁ、先生らしい渋い梔子色。ちょっと、貸してもらえますか?」



  「かまわぬ」



  「ありがとうございます。で、ここをこうして」



  「神子? それは何を?」



  「え? ああ、先生のプロフィールを赤外線で私の携帯に転送してるんです」



  「ぷろふぃーる?」



  「あ、えっと…、この携帯の番号とかメルアドとかを、私の携帯に書き込んでいるんです」



  「私はこの世界に疎い。この器械も、また然り。神子、使い方を教えてはくれないか?」



  「はい!! 喜んで! ……、あれ? 先生、このメルアド、買った時のままですね」



  「ここを押して、かかってきた通話に応対する事しか知らぬ」



  「じゃあ、このメルアド、変えてしまっていいですか?」



  「変えてもかまわないものなのか?」



  「はい。それにその方が、迷惑メールとかが送られて来ることも少なくなりますから」



  「何とするのだ?」



  「当然、私の名前」



  「ちょっと待った!!」



  「何! びっくりした。九郎さん、突然、何ですか?」



  「望美、先生の『めるどあ』を、何故お前の名にするのだ!」



  「え〜〜、いいじゃないですか。ね、先生。

   それに『めるどあ』じゃなくて『メルアド』ですよ〜だ」



  「そんなのはどっちでもいい!」



  「じゃ、私の名前のメルアドでいいじゃないですか!」



  「そっちのことじゃないだろ! 『めるどあ』か『ねるあど』かはどっちでも良くて、

   それをお前の名前にするのは良くないと言っているのだ!」



  「どっちも間違ってますよ、九郎さん…」



  「先生、こんな奴の名前など使ったら、後々ロクでもないことになります!」



  「え〜〜〜!! ひっど〜〜い!!」



  「ここは是非、私の名前をお使いください。この源九郎、名前だけであっても、

   常に先生のお側に侍り、先生の退魔折伏の露払いをさせていただきたく」



  「え〜〜、いっつも先生の携帯は、私の龍神の神子としての神気でお守りするんだから」



  「2人の名をどちらも使わせてもらえるなら、それは私にとっても幸せだ」



  「せ、先生(感涙)」

  「リズ先生(ジ〜〜〜ン)」



  「では『クロウヨシツネ・ノゾミ』で」



  「なんで九郎さんが先なんです! しかも私の倍以上長いし。

   ここは当然nozomi/kurouかmiko/kurou、ですよね♪」



  「では、『ねるどあ』を賭けて勝負だ!」



  「いいですよ、ただしジャンケンですからね!」



  「う! ジャンケン……」



  「勝負を挑んでおいて、臆したのですか?」



  「な、何! そのようなこと、決してない!」



  「では、ジャンケン…、ポン!」



覚悟を決め、目を固く閉じ、勢いよくグーと突きつける望美であった。



  「! あ、ポン!」



九郎はタイミングが遅れ、完全な後出しとなった。



  「後出しは卑怯ですよ……って、なんでチョキなんです?」



目を開けた望美の一瞬の怒りと、瞬間後の驚き。



  「く、九郎さん……、わざと負けてくれたんですか?」



  「い、いや…そのような事は…(本当にわざとではないのだが…)」



  「わざと負けてもらって、私が喜ぶと思いますか!」



  「な、ならば、もう一度(ああ、『ちゃんす』というものがもう一度…)勝ぶ…」



  「いいえ、ここは素直に喜んじゃいます」



  「何!」



  「と言うことで、先生♪ アドレス、nozomi/kurouとmiko/kurouで、どちらがいいですか?」







こうしてmiko/kurou@edoweb.na.jpは決まったのだった。

さらにその日から、望美のメールが毎日十数通送られてきて、

律儀にそれに返信するリズヴァーンの姿が見られることとなる。







  「な、何故だ!! 何故俺は、あの時『ちょき』を、『ちょき』を出してしまったんだー!!」





























瑠璃稲妻にあと少し 〜そのとき彼らは…?(仮)〜 2 







  《〜ってことだから、そんなに心配するもないと思うよ》



  「そうなのかしら…望美……」



  《ゴメンね〜朔。テスト中でなかったら、朔と一緒に東京、行くんだけど…》



  「仕方ないわ。こちらの世界の『学生』の方々にとっては、一番大切な行事なのでしょう?」



  《ああ! まったく!! いっつも九郎さんったら、もめ事、起こしてくれちゃって!

   見つかったら『花断ち』、ぶち込んでやるんだから!》



  「ふふっ、危ない兄弟弟子ね」



  《そうそう》



  「え?」



  《朔、そうやって笑って待ってて。大丈夫だよ。

   きっと弁慶さんや景時さんが何とかしてくれるから》



  「ええ、そうね」



  《そうだよ。じゃ、また後で電話するね》



  「ええ、じゃぁ」





携帯の向こうの望美の優しさと

何も出来ない自分へのもどかしさから、思わず唇を噛みしめる。



  (望美はああ言って信頼してくれるけど、兄上、本当に大丈夫なのでしょうね?)



明日は臨時休業って書き置きして出掛けていった景時だったが、東京は広い……

何かのあてがあって出掛けたとはとても思えない兄だけに

あれやこれや不安な事ばかりが、頭をよぎる。



  (兄上は子供では無いのだから……)



そうは思うものの、子供以上に無邪気なだけに

軽はずみな行動が、かえって思わぬ事態を引き起こすかも。





弁慶殿のようなしっかりした方が傍についていてくださらないと……。

! そう言えば弁慶殿は、どうされているのだろう?

望美や譲殿の話を総合すると、たぶん昨夜から一睡もされていらっしゃらないはず。

そんな疲れた身体で、本当に九郎殿が見つけられるのだろうか?





私も行って、兄上なり弁慶殿なりに御助力申し上げた方がいいのかしら………、駄目ね。無理だわ…。

土地勘の全くない私がいったところで、助力どころか足手まといになるだけ。





九郎殿……、見つかるのかしら? 

九郎殿はリズ先生の弟子…、その九郎殿が本気で隠れようと考えたのなら…。







朔は、何度も逡巡していた。

しかし時計を見やって、意を決し、携帯を持ち直す。

呼び出し音。

相手が出た…。



  「もしもし、夜分遅くで申し訳ありません。朔です、梶原朔」



  《うむ》



  「リズ先生…、九郎殿が」



  《承知している》



  「そうですか…、…そうですね。それで、あの…、

   今まで電話などさせていただいたこともない私が、

   突然こんなお願いはどうかと思うのですが………」



  《問題ない。言ってみなさい》



  「は、はい。あ、あの…先生、お忙しいとは思うのですが、

   九郎殿を探してはいただけないでしょうか?」



  《……弁慶が探している。景時も探しに向かったと聞いているが…》



  「はい。……でも」



  《でも?》



  「兄上には土地勘がまるでありません。弁慶殿は、徹夜で歩き通しのはずです。

   とても見つかるとは思えません。私も……役には……。

   それに望美も試験期間とやらで、鎌倉から離れられません。

   ここはやはり、九郎殿の行動の癖を熟知されているリズ先生しか、頼る術がないのです。

   お願いできませんでしょうか?」



  《解った》



  「では!」



  《うむ、安心して待っていなさい》



  「あ…、ありがとうございます」



  《朔》



  「はい」



  《その優しさ、九郎に代わって礼を言わせてもらう》



  「そんな…。お気を付けて」



  《うむ》







  (九郎、得難き仲間に恵まれたな)



黒龍の神子からの電話のほんの少し前まで、

白龍の神子とも、似たようなやりとりをしていた。



  《先生! 九郎さん、見つけてはもらえませんか! お願いします! 〜〜》





武蔵坊弁慶も、ヒノエも、平敦盛も、梶原景時も、この都会の中でたった1人、

他ならぬ九郎を寝ずに探している。

私は、その龍神の神子2人と八葉の絆の、その中の1人でいることを誇りに思う。



だから九郎。この仲間と共に、この神子の世界を、お前の歩幅で歩けばよいのだ。





三四郎池の畔の1本の木に登り、幸せそうに眠る九郎の姿を、月明かりにすかして見ながら

リズヴァーンは、さらに高い木の梢から願うのだった。





























瑠璃稲妻にあと少し 〜そのとき彼らは…?(仮)〜 3 







  (……! ここは…  水  の中??)



確かさっき、明日の期末試験に備えての勉強を止め(終え?)、布団に入ったはずだったが……



今日は、古典は手応えがあった。

何たってあれだけ、実際に古典の世界にいたんだからな。

異世界とは言え、古典ネイティブの国に留学していたようなものだから

実際にはあり得ない、古文作文や和歌創作だって多少なら自信がある。



ただ、2限の日本史が……。よりによって平安から鎌倉にかけてだなんて。

古典ネイティブの国に留学って言っても、異世界だ。

静御前の登場しない

平敦盛が熊谷次郎実直に殺されない

壇ノ浦の合戦前に源氏と平家が和議を締結する

そんな世界にリアルに暮らしていたんだ。

どんなに日本史の教科書で学習しても、この身体に染みこんだ実感はぬぐい去れない。

……苦労した。



で、明日は物理Tと数学B。

いったいどういう理由で、こんな教科日程になったのか、決めた教員を殴りたい気分だが

まずまずの準備は出来たはずだし、

異世界への留学は、プラスにもマイナスにも働かない教科だからから安心だ。



そう思って、寝たはずだから



  (これは夢だな)



そう有川譲は確信した。



泳ぎは苦手ではないが、かといってこんな長い時間、水の中では息が続かない

はずだが、なぜか平気……



夢だから、だけではない理由があるはずだ

まずは窒息しないうちに水面に……



水面の光が揺れる

と、同時になにやら白い物体が水面に投げ込まれる。

何ともいえない美味そうな匂い……匂い? 水に潜っている自分がどうして匂いを感じられる?

何だか不条理は感じるものの、それ以上に、美味そうな匂いに引きつけられるように

水面で口を開ける自分を押さえきれない。



と、その時水面から見えた陸には、今まさに東京で弁慶さんやヒノエ、敦盛に、

景時さんまでがわざわざ出掛けて行って、探し回っている張本人、九郎さんが見えた。



   「……界にしっかりなじんでいるのだな。

    そうしてパクパクと、餌を求めながら」



また美味そうな匂いのする物体が投げ入れられた。

自分がこんなにも腹を空かせ、水面に浮かぶ物体を食べたいと望んでいることに驚く。



   「俺はダメだな……、まだまだだ。

    弁慶やヒノエは、何やら分からない『ねっと』なんとかという難しいことをやって、

    しっかりと生活している。

    景時は喫茶店の店主を立派にこなしていて、忙しそうだ。

    先生や敦盛はこっちの世界でも、一芸に秀でた、その腕が認められ……」



また投げ入れられた物体を欲してなのか、

九郎さんに自分の存在を気づいてもらいたいからなのか、

譲自身もよく分からないが、水面をはねる。

その瞬間、分かる。



  (ああ、俺は今、鯉になっているんだ)



   「俺は……、刀を振るうことしか能がない……。

    人を殺すことしか才が無かったのか……」



  (それは違いますよ、九郎さん!)



叫びたいが声にならず、もどかしい気持ちで九郎の独白を聴く。



   「平和な世を希求しながら、平和な世に一番無用な存在…」



  (そんなこと

   ありませんから!!)



叫んで、布団をはねのけて、ベッドの上に仁王立ちになって拳を握りしめている自分に気づく。



夢……か…

また予知夢?



何処だったんだろう



そう思っているところに、携帯が鳴る。

相手は……敦盛だった。





























瑠璃稲妻にあと少し 〜そのとき彼らは…?(仮)〜 4







  (池ね、池。木立の生い茂った池〜〜)



景時は駅の総合案内所で教えてもらったネットカフェに行くため、

日本橋口を出て、永代通りを渡った。



  「線路沿いに歩いていくと2Fと3Fにネットカフェの目立つ看板がありますから」



そう案内所で教えられたのだが、しかし、歩いても歩いても目当てのビルが見つからない。

間もなく隣の神田駅に着いてしまう。

そう思い始めた時、やっと見つけた。



  「あちゃ〜、だったら神田駅まで電車で来た方が早かったね〜」





辿り着いたネットカフェで受付を済ませ、

横浜と藤沢にもチェーン店舗があったので会員登録までして、個室に入る。

TVにパソコン、ゲーム機まで備え付けられていて、椅子はふかふかで何とも座り心地がいい。

パソコンを起動させ、さて「池」の検索を

とは思うのだが、生まれて初めてのネットカフェの個室に、どうも興味がいってしまう。



  (うちの店ではちょ〜〜っと使えないかな〜?)



と座った椅子を眺めると、何やら車の座席のようなレバーがある。

引いてみると、背もたれの部分が倒れる仕掛けになっている。



  (これは「リクライニング」って奴だね。くつろいじゃうね〜〜)



壁に利用規約が貼ってある。

フリードリンクとあるので、さっそくコーヒーを取りに個室を出る。



ドリンクコーナーの右手には漫画の書庫が並び、反対側にはDVDの棚が続く。



  (へぇ〜、DVDも見放題なんだ〜〜♪)



何気に目をやると、昔懐かしいアメリカTVドラマシリーズが延々続いて置いてあった。



  (えぇ、あの映画って、こんな昔のTVシリーズのリメイクだったんだ……)



つい最近TVの洋画劇場で見たばかりの「スパイ大作戦」を手にする。



  (ちょっとだけなら……)











携帯が振動する。

ハッと我に返る景時。

一瞬にして誰からの電話かは、本能的に察知する。

出るべきか、出ざるべきか、それが問題だ……。



  「お、おはようデイビス君」



  「兄上!!!!!」



鼓膜が破れるかと思うほどの大音量。

しかし、それだけで朔からの電話は切れた。

最初は、朔の大音量に携帯が壊れたのかと思った程だった。

切れたままの携帯を手に、すべての事態が了解できた景時であった。

弁慶が九郎を見つけたことも

それ以外の、ヒノエと敦盛とリズ先生が東京から引き上げたか、引き上げつつあることも、

そして、その事態のどこにも自分(景時)が絡んでいないことも

更には、その報告が朔に伝えられていることも……



朔の怒りが、もはや景時のどんな言い訳も通用しないことも、これは経験則的に理解できた。







  (どうしよう……、こんどはお兄ちゃんが失踪したい気分だよ…)



そう思いながら、次のDVDをスタートさせる景時であった。





























瑠璃稲妻にあと少し 〜そのとき彼らは…?(仮)〜 5







駅前の自販機が缶コーヒーを、ガッコンとけたたましい音を立てて吐き出す。

ほぼ徹夜の、しかも3時間も期末試験に酷使して朦朧となった頭にカフェインを流し込む。

何か朝、譲が言っていた話は何だったっけ?



どうも、試験にばかり気がいっていて、何か大事なことを忘れているような……



海を見ながらベンチに座って缶コーヒーを飲み、伸びを一つする。



  「あ、有川、お前、付き合うか?」



  「ああ? 何処に?」



  「東京。渋谷に出掛けるんだけど」



  「余裕じゃねぇか。明日はグラマーと倫理に日本史だっていうのに」



  「ははは、お前も苦労性だな。で、どうする?」



  「用心深いって言ってくれ。今日は止めておくぜ、悪ぃ。また今度な」



  「そうか」



何かが、記憶の何処かを刺激する。



東京…



くろう性…



くろう



  「思い出した!!! やっべ!!」



  「急にどうしたんだよ? 有川」



  「あ? ああ、ちょっと野暮用を、な」





思い出した。

そうだ、九郎がいなくなったんだ!

弁慶やヒノエが今、都内の心当たりを探していたんだ。

こうしちゃぁいられない。



電車で家に帰るのももどかしいが、まさか制服で出掛けるわけにもいかないだろう。



  (ちっきしょう! 九郎!! 明日の試験、赤点になったらぶっ飛ばしてやる!!)







慌てて着替えて出掛けようとすると、リビングで譲が暢気に勉強していた。



  「兄さん、何処行くんだ?」



  「お前、薄情!」



  「はぁ!? 何、言ってるんだ? 兄さん」



  「当然、九郎を探しに行くんじゃねぇか!」



  「寝惚けてんのかい、兄さん?」



  「お前の所には弁慶から連絡無かったのかよ?」



  「あったよ」



  「だったら、何で?」



  「だから寝惚けてるって」



  「寝惚けてなんか、無ぇよ!」



  「今、寝惚けてるなんて言ってないだろう。

   やっぱり寝惚けてて、覚えて無かったんだ」



  「寝惚けてる寝惚けてるって、何をだよ?」



  「朝、言ったじゃないか。九郎さん、見つかったって」



  「え? そう…だっけ……??」



  「まったく、兄さんは! やっぱり聞いてなかったんだ。ちゃんと言ったのに。

   だから、寝惚けていたのは、朝だって!」