猩々緋












新中納言知盛は気怠かった。



ごろりと横になり、腕枕で外のふくらみ始めた桜の樹を眺めた。







経正は琵琶を、重衡と惟盛は舞、忠度叔父上は謡曲、


風雅に関しては俺などものの数ではないな。


さすがは平家一門、優雅なものだ。





どうせ「蒲柳の質」だ。病弱だと人のことを言うのなら、いっそ、何をしようと放っておいてほしいものだ







頭痛


何をするのも怠い





溜息


そんな時に限って 有川が嬉しそうにやって来ては
あれやこれや、何の意味があるのかさっぱり見当もつかない事柄を質問しては
去っていく


あいつは風雅に関して俺以上に疎い。


惟盛の舞を見て


「のんびりした踊りだな」と言って、惟盛を激怒させた珍しい奴だ。





いい加減、今は来ないで欲しいものだ





が、やはり来た。


今日は俺の「必殺技」を教えろと言い出した


「必殺技」?
ああ、術のことか


有川はそれを「指パッチン」とか言っていたが、失礼な奴だ


適当にあしらっていると
納得できないとみえて(当然だろうが)
やってみせろとうるさい


少々苛ついたので
有川自身に術を二発ほどお見舞いしてやった。
懲りたのか、どこかにいってしまった。


ククク


少しは骨があるかと思ったんだがな





まあ、これでいい加減、引き下がるだろうと思っていたのだが


以前、敦盛の一件でくれてやった大太刀を持ってきて


今度はバッチリ受けるから、もう一度やれと宣うた


「バッチリ」?
何だ? それは


まあいい


やれやれ、まったくもってお勉強家でいらっしゃる


面倒なので、「手加減など出来かねるが」と一言添えると


「ま、何とかなるだろう」とは、いってくれるぜ。


術をぶっ放す。



綺麗に有川が吹っ飛び


一間ほど後ろで土煙を上げた。




戦でもないのに人間に向かって術を打ったなど


父上や今は亡き重盛兄上などに知れたら


どれほどお叱りを受けることになるだろう。


特に、重盛兄上は他人を無意味に傷つけることを嫌っていらっしゃったからな。フッ


しかし
こいつは有川自身が望んだのだ


まあ、骨の2、3本では済まないだろうが、
当たり所だけは急所をはずしてやったのだから
ありがたく思えよ



「ククク、来いよ……有川。……もっと楽しもうぜ」



と、


有川は


むっくり起き上がって


「なるほどな」


とか何とか言った。


「OK、OK。もう一度」


と、バカみたいに繰り返す。





ほお、受けたのか? その糞重い大太刀で?


ククク


本当に飽きない奴だ


では、頭痛も少し治まったようなので


立ち上がって、まともな術を見せてやろうか。





「お前、死ぬぞ」


「死ななかったら、教えてくれるか?」





楽しみなことだ


そして、俺はゆっくりと立ち上がる。