俺達は ふぁみりー

ヒノエ君 誕生日SS 2011












         話は、九郎が家出する直前、春休み頃のお話です。







   「敦盛、何を読んd」


    ビク!!


まさにそんな擬音が聞こえてきそうな、敦盛の態度だった。


   「へえ、お前がそんな反応をするなんて、一層興味が湧いたね。こっちを向いて、答えておくれ」


   「ヒ、ヒノエ……」


   「え!? お、お前、泣いているのか?」


   「な、泣いてなど…」


   「へぇ。で? どんな泣ける小説はなしを読んでる……え?『アラバスタ編・完結』って……」


   「こ、これは、……、リ、リズ先生の書道教室ところの子供達が読んでいたもので……その…」


   「別に、悪い漫画はなしじゃ無いじゃん、大海原に帆船、美女に宝の地図、冒険、浪漫だねぇ。
    やっと敦盛にも、熊野の浪漫が分かってきたんじゃん」


   「い、いや、べつに航海したいとかでは……。
    どちらかというと、大宋国への密航失敗に懲りたので、ヒノエとはあまり船には乗りたくないのだが……


   「『アラバスタ編』だったら、美女も冒険も友情も盛り沢山で申し分ないね」


   「ヒノエ! ヒノエはこの漫画はなしを知っているのだろうか?」


   「当然じゃん」


   「さすが、ヒノエは船長ルフィーなのだな」


   「ゴムゴムのぉ! って、おいおい、人の話も聞かずにオレに麦藁帽子被せる気かい?
    オレだったら美女ナミに航海士なんて重労働、させるわけないんだけどね」


   「ヒノエは航海士もできるのか?」


   「オレを誰だと思ってるんだい。ちょっと、怒るぜ」


   「す、すまない……」


   「冗談だよ。そうやって、困った顔をするお前もまた可愛いね。それよりも、オレが船長ルフィーなら、お前は配役なんだろうね?」


   「わ、私は……、私とて武門の子、ここはやはり剣士ゾロ役で」


   「ダメダメ」


   「な! 何故だろうか」


   「その配役には九郎の方がぴったりだからね」


   「ああ……た、確かにそうだな……。私には《花断ち》はできそうにない……」


   「射撃手ウソップには景時がいるし」


   「航海士ナミは性格的に…、神子…なのだろうな、やはり」


   「まぁね。ただ、あれほど金には執着がないけれどね」


   「神子はその点、清廉だ」


   「お前、相変わらず望美に夢を見すぎじゃない?
    どちらかって言えば、食欲的には神子姫の船長ルフィーっていうのも捨てがたいけどね?」


   「ちょっと! ヒノエ君、その言い方はひどいんじゃない!」


   「え!? み、神子姫!?」


   「み、神子? いったいいつの間に」


   「さっきから呼んでるのに全然返事が無いから。食事の支度、もうすぐできるって譲君が」


   「やれやれ料理人サンジは決定かな?」


   「何なの? 船長ルフィーとか料理人サンジとかって?」


   「実は……」


そういって敦盛は手にした漫画ほんを望美に渡した。


   「あー、これ知ってる! へぇ、敦盛さんも読んでるんですか」










   「望美、どうしたの? 呼びに行ったあなたまで戻って来ないって譲殿が」


   「あ、ちょうどいい。じゃあ、朔は?」


   「え? 何なの??」


   「そうだね……、『アラバスタ編』から登場する『女暗殺者ロビン』ってところ?」


   「そ、そうなのだろうか? それは」


   「いやいやいやいや敦盛、お前はまだ『アラバスタこれ』の先を知らないからね。だから、違和感を持つのも分かるけど」


   「だめだよ、ヒノエ君。先のストーリーをネタバレしちゃ」


   「望美、何の話なの?」


   「実はね、朔」










   「ダ、ダメだよ〜! 望美ちゃんに朔まで〜! 食事の支度、できたよ〜」


   「あ、射撃手ウソップが来た」


   「ええ、本当に。妙に格好をつけるくせに臆病なところなど、兄上にそっくりだわ」


   「な、何かな〜朔?」


   「鼻はこれほど高くないのではないだろうか?」


   「ま、人種が違う設定なンじゃん」


   「それに珍妙な機械を作るところも。ああ、兄上の場合は『作ろうとする』止まりだわ」


   「朔ぅ〜? お兄ちゃん、何でけなされてるのかな〜?」


   「景時さん。景時さんはこの漫画はなし、読んだことありますか?」


   「え〜〜? この漫画はなし?」










   「お前ら、いい加減にしろよ! 譲が天輪蓮華ぶっ放しそうなくらい怒ってんぞ……
    って? お前ら、何してんだ? ン? 景時、何泣いてんだ?」


   「そうか、将臣君の配役は微妙だ」


   「ああ、望美。それは難しいわ」


   「う〜ん、確かに。将臣の立ち位置にしっくりくるキャラはピンとこないね」


   「立ち位置? キャラ? ってか何、俺ん家の居間で読漫画どくしょ大会になってんだ?」


   「あのね、実は」


   「『船長ヒノエくん』と『航海士』のぞみちゃん『剣士』くろう、それと『狙撃手オレ』はだいたい決まったんだけどね〜」


   「景時……、お前まで馬鹿が染ってどうすんだ? 俺は漫画よりも譲の態度でかたの方が興味津々だぜ」


   「やばいンじゃん」


   「ああ、食卓に行った方が良いのだろうな」










   「で、そんな漫画はなしで盛り上がってたんですか。朔まで」


   「ご、ごめんなさい。譲殿…」


   「ゴメンネ、譲君」


   「まったく……仕方ないな。さ、座ってください、スープが冷めてしまいます」


   「譲君はやっぱり『料理人サンジ』だね」


   「わ、私は反対です! あ、あんな女性と見ると見境無く……。『料理人』そのやくはヒノエ殿の方がぴったりだと思います」


   「やれやれ、とんだところでとばっちりがこっちに来たね。ああ、そういう口説き上手ならひとりいるんじゃない」


   「……」


   「……誰?」


   「『いけない人ですね』とかって言ってるけど」


   「あぁ! でも弁慶さんの料理は……ねぇ」


   「ええ、ちょっと勇気がいります」


   「『料理人サンジ』の食事は、完璧なカロリー計算と極上の味付けで」


   「お、俺の料理だってちゃんと計算してます。特に先輩と朔の食事のカロリーは!
    白龍にだって甘い物を無闇には食べさせてなかったし、
    それに好き嫌いの多い敦盛の食事だって栄養が偏らないようにって気を配って」


   「そ、そうだったのか。……すまない」


   「あ、いや……」


   「譲、今は『料理人サンジ』と弁慶おっさんを比べてるだけじゃん。そこにお前が料理人として対抗意識持ってどうするんだい?」


   「そ、そんな事は……ハハハ、な、何言ってるんだ。別に俺は対抗意識なんて」


   「譲の朔ちゃんや敦盛への愛情は十分分かったけど、やっぱりこの堅さと眉毛の形は『料理人サンジ』キャラじゃないよな」


   「誰が讃辞を受けるのですか?」


   「弁慶おっさん
   「弁慶殿」
   「弁慶さん、あ、九郎さんも。久しぶり」










   「ああ、なるほど。で、この漫画の配役に僕達を当てはめて盛り上がっていた、ということですか。
    困った人達だ、欠席裁判はひどいですね」


   「これはどう読むものなのだ?」


   「九郎さん、漫画、読んだこと無いんですか?」


   「ああ、すまん。まったく無い」


   「別に謝らなくてもいいんですよ、九郎。漫画は毒にも薬にもなります。
    君には両刃もろはの刃だと思って、今まで黙っていたんですけれどね」


   「そうだったのか」


   「でも、この話はヒノエだけでなく君にも得るものが多いでしょう。
    何と言っても【友情・団結・勝利】がテーマですからね」


   「べ、弁慶さん、この漫画はなし、知ってるんですか!?」


   「ええ。特に僕はこの『アラバスタ』の前の『ヒルルク』が好きですね」


   「医者の話ですからね」


   「(ああ、『女医師クレハ』だね)」


   「(あの婆さん、ぼったくるからな)」


   「(いやいやいや、『医師』ヒルルクかも知れないんじゃない)」


   「(それは無ぇな、最後にあんな死に様なんて)」


   「(へぇ、こっちの世界の人間が『武蔵坊弁慶』をそう言っていいのかい?)」


   「(それについちゃぁ、ヒノエおまえの方が解ってるだろう)」


   「(まあね)」


   「そこのヒノエと将臣君ふたり、ヒソヒソ話はもう少し小さな声でお願いしますね」


   「弁慶! 早く教えてくれ。正しい読み方は分からないが、何やらこの絵草紙はワクワクするものがある」


   「こういう話から入門するのは、君の本能なんでしょうね。
    この丸い線がフキダシと言って、この指し示している人物が話しているものです。で、漫画は右上から左下に」










   「じゃあ皿を下げたら、お茶にしましょう」


   「譲殿、私も手伝います」


   「で、弁慶さんは自分はどの登場人物がいいですか」


   「ああ、望美さん。残念ですが僕は架空の人物に自分を投影するという習慣が無いもので、
    とりたてて誰とは考えたことがありませんね……
    ……そうですね、強いて言えば…、この独創性、緻密な物語り構成、
    ああ、やはり『尾田栄一郎』、でしょうか」


   「え? 弁慶さん、それって」


   「(こいつ、作者狙ってンぞ)」


   「(神になりたいんじゃん)」


   「(マジかよ)」


   「(やりかねないね、弁慶おっさんなら)」


   「弁慶さん、登場人物っていう条件から外れます。却下」


   「おやおや、厳しいですね。この漫画の連載されている雑誌の別の話には
    よく毛むくじゃらの作者が登場する漫画はなしもあったはずですがね。残念です」


   「将臣君はどう? さっきみんなで話てて、将臣君ってどの配役もしっくりこないような気がしたんだけど」


   「へへへ、『アラバスタ編』だろ。オレはやっぱり『護衛隊副官ペル』がいいな」


   「ま、将臣殿が!? …ですか?」


   「お? 何だ、朔。何か言いたそうだな」


   「将臣君、カッコ良すぎ! 美味しいトコロ狙ったね」


   「望美おまえ


   「寡黙で誇り高く、自己犠牲に富んで……。ま、還内府の狙う役じゃないね」


   「そうか? だったらちょっと古ぃけど『バラティエ』ん時の『海賊ギン』なんてどうだ」


   「渋!」


   「将臣君って、自分のことをそんな感じで観てるんだ。ふ〜〜ん」


   「な、なんだよ。その眼は」


   「あ、あの……話が分からないのだが」


   「え? 敦盛、お前、この漫画、最初から読んでないのかい?」


   「ああ。『偉大なる航路』グランド・ラインに入って超巨大鯨ラブーンと出会うところの巻から借りただけなので」


   「それでも結構な冊数だけどな」


   「恥ずかしい話だが、こんなにも感動した草紙ものがたりを今まで読んだことがなかった。やはり神子の世界はすごいのだな」


   「だったら敦盛、オレの部屋に行けよ。この漫画なら、1巻からたぶん全巻そろってるはずだからな。
    何だったら貸してやるから持って帰ってもk」


   「ま、将臣d」
   「本当か!! 将臣」


   「九郎、びっくりするだろう」


   「本当に貸してくれるのか!?」


   「あ? ああ、まあ、OK、いいぜ」


   「すまん、恩に着る!」


そういうなり、勝手知ったる他人の家、九郎は将臣の部屋に駆け出していった。
将臣に一礼をして、その九郎の後を追うように、敦盛も将臣の部屋へと向かった。


   「さて、やっとネタバレしても大丈夫な状況になったぜ」


   「え? それじゃぁ」


   「将臣君、狙いましたね」


   「あいつらにはオレの部屋で、2人仲良く物語の始めから堪能していただいて、
    こっちはこっちでネタバレを気にせず話ができる。ナイスだろ、って、あ、景時、お前は?」


   「あはは〜、大丈夫大丈夫〜、駅近くのコンビニで毎週立ち読みしてるからね〜」


   「それだけじゃ、ありません。2月の初旬からほぼ毎日、何かの漫画を買ってきては」


   「ふ、古本屋で買ってるんだよ〜、そんなには無駄遣いしてないからね〜」


   「おかげでアパートの廊下は漫画の単行本だらけで」


   「で、朔も読んでるんだね」


   「え? わ、私は書物を整頓して、そのついでに……」


   「読んでるんだ。朔」


   「……ええ」


   「道理で最初から話が弾むわけだよ」


   「ひょっとして朔ちゃん、『護衛隊副官ペル』が好みなんじゃん」


   「こ、好みなどと、そんな……」


   「『誇り高い』かどうかはともかく、『寡黙で自己犠牲に富む』ってところは」


   「ヒノエ、言わずもがなのことは口に出さないものですよ」


   「はいはい」


   「ヒノエ殿、弁慶殿。どうしましょう、私…」


   「さ、お茶がはいりました」


   「『誇り高い』男がトレーに湯飲みを乗せて登場」


   「ヒ、ヒノエ殿!」


居間から駆け出す朔だった。


   「朔? って、どうせヒノエと先輩がろくでもないことを吹き込んだんだろう」


   「私、とばっちり。無実だよ」










   「『船長』ルフィーはヒノエ君でしょ」


   「『航海士ナミ』は神子姫ってことで」


   「『狙撃手』ウソップの景時は異議ないんじゃない」


   「朔が『女暗殺者』ニコ・ロビンだったね〜」


   「兄上、い、いいのかしら?」


   「後は『船医』チョッパーが弁慶さんかな?」


   「神子姫、リアルな職業が同じだからって決めるのはどうかと思うけどね。
    それに、弁慶おっさんがあんなにフワフワモコモコで愛くるしいのは、ちょっと」


   「おや? ちょっと何でしょう。僕だって愛くるしいと評判で」


   「どこの誰に評判なのか……、いや言わなくていいから。
    ったく! 四捨五入したら30歳のオッサンが、嬉しそうに言わないで欲しいね」


   「『船医』チョッパーは白龍でどうかな」


   「ああ、そうね、望美。丸薬ランブル・ボールで大きくなったり小さくなったりするところもそっくりだわ」


   「残念ですね。愛くるしい配役をとられてしまいました」


「じゃぁオレは『剣士ゾロ』ってことでOK」


   「えぇ、将臣君がぁ!? あんなにストイックに強くなろうって鍛練に励む姿なんて、一度も見たことないけどな」


   「望美おまえはそう言うがな、オレだって異世界むこうでは、こぉんなでっかい大剣ブン回してたんだからな」


   「どんなにでかくても将臣の剣は1本じゃん」


   「当ったり前だろヒノエ! あんな大剣2本も3本も持てるかよ!」


   「はい、失格」


   「望美!」


   「将臣君の大剣と『剣士ゾロ』の3刀流では、流儀が違いすぎますね」


   「3刀流なんて漫画だから出来るんだろう!」


   「6刀流なんていうのもあったんじゃん」


   「そいつはゲームだ!」


その時、九郎が抱えられるだけの単行本を抱えて居間に走り込んで来た。


   「将臣! 教えてくれ!」


   「なんだよ、九郎!? オレの部屋で大人しく敦盛と読んでろよ」


   「読んではいる。ただ」


   「ただ?」


   「やたらとオレには分からん言葉や表現が多すぎるのだ。
    その上、日ノ本このくに漫画ものがたりだというのに、人や土地の名が何故カタカナなのだ!
    ウイ、ウイスクピックだったか、その町にいたイダラッピだかイガラップだか……、ええい! まったく覚えられん!」


   「おいおい」


   「あ、あの…、将臣殿、私からもお願いする」


   「お、敦盛、お前もなのか?」


   「やはり神子の世界の物語なのだろう、分からぬ言葉が多すぎるのです。
    私も九郎殿から尋ねられて、分かる限りはお伝えしたのですが……、
    私からもお願いする、どうか御教授していただきたい」


   「そうか? ま、敦盛と九郎、たっての願いなら、OK」


   「その前に言っておく」


   「ん? どうした、九郎?」


   「悪いが『剣士ゾロ』は譲れん」


   「はぁ? 何だ? 唐突だろ、教えてくれって言った直後に」


   「俺が『剣士ゾロ』で、リズ先生に『剣豪』ミホークになっていただく」


   「ああ、なるほど」


   「すまん。分かってくれるか」


   「分かる」


   「そうか、恩にきる。ならば、そういうk」


   「だが、Noだ」


   「は? その『のお』とは何だ?」


   「『い・や・だ』ということだ」


   「何!」


   「将臣殿!」


   「悪ぃな、敦盛。だが、九郎おまえには九郎おまえの事情があるように、俺には俺の事情がある」


   「どんな事情があるというのだ」


   「俺の立ち位置は曖昧なんだとさ」


   「立ち位置?」


   「良い機会だからな。剣を扱うのは九郎と望美だけじゃないことを、ここはしっかりと皆に意識してもらう」


   「ならば」


   「いいだろう、おもてに出ろ。勝負だ」


   「望むところだ!」


   「の、望美! 止めないの!?」


   「いいんじゃない。このところ2人とも運動不足だったろうから」


   「そんな暢気な。譲殿」


   「兄さん、蔵に竹刀があるから、それ使ってくれ。ま、これで死ぬことはないだろうから。朔、いいだろう」


   「い、いいのかしら??」


   「面倒になったら、あたしが2人まとめて花断ちするぶっとばすから、大丈夫よ」


   「神子、お前の選択はいつも正しい」


   「リ、リズ先生!」


   「いつ、いらっしゃったんです」


   「たった今」


   「で、どうしてこういう状況になったのか御存知なんですか?」


   「無論」


   「え? ということは、リズ先生もこの漫画はなしを御存知なんですか?」


   「問題ない」


   「(リズ先生、意外と『剣豪』ミホーク、気に入ってるんじゃん?)」


   「(ええ、ヒノエ殿。私もそう思います)」


   「ヒノエ君が『船長』ルフィー、景時さんが『狙撃手ウソップ』、これはもう決定だよね」


   「そうね。そして望美が『航海士ナミ』」


   「朔が『女暗殺者』ニコ・ロビンだったよね」


   「そうして譲君が『料理人サンジ』〜」


   「兄上、それは……」


   「『船医』チョッパーは白龍っていう神子姫のアイデアはぴったりじゃん」


   「で、今おもてでは『剣士ゾロ』を賭けて九郎と将臣君が決闘中」


   「はぁ……」


しばし溜息をつく8人であった。


   「そう言えば!」


   「望美、どうしたの?」


   「敦盛さんは?」


   「わ、私…、いや、私は」


   「敦盛さん自身は、どの役がお好みなんですか?」


   「こ、好みなどと…そのような……、あ、敢えて言うと、好みというのとは少し違うかも知れないが……」


全員が敦盛の次の言葉を待った。


   「私は『海兵見習コビー』がいいのではないかと」


一同に明らかな失望感が漂う。


   「え〜!」


   「敦盛、お前はお前で地味すぎるんじゃない」


   「そうなのか?」


   「却下です」


   「え? な、何故だろうか」


   「敦盛さんは『王女ビビ』が」


   「ああ、それはいいね。神子姫、ナイスだね」


   「ええ、私もいいと思うわ」


   「私も神子の言葉に従おう」


   「え? いや、あの…それは女性ではないのだろうか」


   「はい」


   「い、いかに神子の言葉とはいえ、きゃ、却下する」


   「え〜、敦盛さん」


   「私とて武門も子、ならば私も『剣士ゾロ』を賭けて庭のお二人に割って入る!」


   「敦盛」
   「敦盛さん」


その時ちょうど、おもてから将臣が戻ってきた。


   「え!? もう勝負ついたの?」


その後を追うように戻ってきた九郎が叫ぶ。


   「将臣! まだ始めたばかりではないか! 逃げるのか!」


   「そうじゃ無ぇよ。九郎、『剣士ゾロ』はお前に譲ってやる」


   「ほ、本当か!」


   「で、あれほど意気込んでいた将臣君が試合放棄する意図に、僕としては非常に興味がありますね」


   「『剣士ゾロ』以上に、オレに合った配役たちいちを思いついちまったんでな」


   「『剣士ゾロ』以上の配役たちいちだと!」


   「将臣君、教えて」


   「兄さん、それって何だ?」


   「へへへ、オレは『兄貴』エースってことで。オレも兄貴エースも兄貴位置だし」


   「はぁ? 何言ってるんだい、兄さん」


   「オレは将臣おまえを助ける為に、命を賭けるほど酔狂じゃないんだけど」


   「おいおい、これも却下かよ」


   「当然」


   「じゃぁ、『赤髪』シャンクス


   「却下!」


   「まだ言い終わって無ぇだろう、望美!」


   「将臣君の立ち位置は『赤鼻』バギーよ! バラバラ緊急脱出ぅ!」


   「そのうちグレるぞ!」


   「ヒノエ君、ぶっ飛ばしちゃって!」


   「神子姫のお望みとあらば、喜んで」


   「喜んで!?」


   「ぶっ飛ばすんですか、ヒノエ」


   「将臣君、ぶっ飛ばされちゃうんだ〜」


   「ああ、将臣殿!」


そんな喧騒の中で、ヒノエが敦盛にささやく


   「敦盛」


   「何だろうか?」


   「お前が読んでた漫画から、妙な方向で話が盛り上がってしまったものだね」


   「ああ、それだけ皆がこの漫画はなしに思い入れがあるということなのだろう」


   「そうだね。それにこんなに大騒ぎをするのも、
    オレ達も、この漫画はなしの『乗組員クルー』と同じで、『知り合い』でも『友達』でも無いからこそ、なんだろうしね」


   「え? ここの皆が友達では無い、のだろうか?」


   「そ、俺達は『乗組員』ファミリーだろ」









11/04/01 UP