いざ 金魚すくい!
「お祭り、朔も一緒だったらよかったのにね」
「何でも、dragon noirも、この夏祭りに屋台を出しているという話ですよ」
「弁慶さん、そうなんですよ。 で、譲君もお手伝いだって」
「ははは、譲も大変だ」
「でも九郎さん、譲君はそれでけっこう喜んでるんじゃないのかな、
朔と一緒だったら何だって」
「今日も弓、早朝練習があったのでしょう?」
「あいつの弓にはもう、俺は及ぶべくもない……与一も太鼓判を押したのだからな」
「そう言えば将臣君、譲君が出かける時に起きてあげないの?」
「何で俺が起きなけりゃならない?」
「『行ってらっしゃぁ〜い』って」
「新婚さんか!! 気持ち悪いだろう、兄弟で!
そんなことは、それこそ朔に任せておけばいい」
「将臣君が朝起きたら、譲君をお見送りする朔が玄関に立ってたりして」
「おいおい健全で奥手な青少年だぜ、ウチの譲は。
そんなシュチュエーションになったらビックリだな」
「では今は、景時がお邪魔虫ということですね」
「あはは、そうなりますね。
だけど景時さんも、あんなに朔のこと可愛がっているのに…なんだか可哀想…」
「ハァ〜〜〜クッション!!」
「誰かが兄上の噂をしているのです」
「オレ、けっこう人気者だからね〜〜♪」
「どうしたらそこまで、御自分に都合良く物事を解釈できるのかしら?」
「さ、朔ぅ〜〜。お兄ちゃん、泣くよ〜〜」
「朔、景時さんはポジティブなんだよ」
「そうそう、譲君いいこと言ってくれるね〜〜。
そうだよ朔、お兄ちゃんは『ぽじてぶ』なんだよ」
「兄上、意味を分かってお使いn」
その時、このdragon noirの屋台に可愛らしい小学生の客が2人やって来た。
「すみませ〜〜ん、バナナチョコのクレープ2つください」
「はいは〜〜い♪ 少々お待ちくださいね〜〜〜。朔ぅ〜、さ、お客様だよ〜〜♪」
「もう! 兄上ったら、また話をはぐらかして」
「いいじゃないか、朔。
異世界で辛そうに考え事して沈んでた景時さんより
俺は今の方が、ずっと景時さんらしくて好きだな」
「譲殿♪」
「譲く〜〜ん、クレープの生地、ちょっと焼き足しておいてくれないかな〜〜〜」
「あ、はい」
「あ、いらっしゃいませぇ。こちらの和菓子ですか? これは京都で老舗の」
「リズ先生、今日の打ち合わせはお台場ですか?」
「いえ、確かTXの天王洲スタジオのはずですよ」
「先生も御一緒なされれば良かったのだが」
「でも九郎さん、今度はいよいよ海外ロケなんですよね?」
「ああ、大江戸テレビの松形さんの番組で、
何でも『にゅーじゅーらどん』? 『にゅーじゃーらどん』?」
「へぇ、ニュージーランドか」
「そう、その『らどん』だ。将臣、良く分かったな」
「分からねぇ方が不思議だよ、って言うか『言えねぇ方』っていうのか?この場合」
「でも、先生は海外に行った方が、違和感無いよね」
「まあな。しかし望美、リズ先生って英語ネイティブっぽく見えるから、
かえって海外では苦労するんじゃないか?」
「『問題ない』……アハハハ、先生だもん。
でも、ひとつ不思議だなって思うことがあるの」
「何ですか? 望美さん」
「なんだ?」
「何なんだ、それは?」
「リズ先生のパスポート」
「ぱすぽっと?? 何だ、それは」
「九郎、後でゆっくり説明してさしあげますから、今は黙っていてくださいね」
「ああ、頼む」
「すみません、九郎が話の腰を折ってしまって。望美さん、話を続けてください」
「どうやって入手したのかなって、思っただなんですけどね……」
「俺も是非、知りたいな」
「ふ、嫌ですね、望美さん、将臣君…。
僕達はちゃんと戸籍も住民票も、それから今日までのこの世界での経歴も
作ってあるんですよ」
「さすが白龍ってことか?」
「ま、それもありますがね」
「お!? ほほぉ……、それだけじゃ無いって言いたい訳だ」
「弁慶とヒノエで『ぱすこん』で苦労して、『はっくんぐぅ』したのだったな」
「ああ! やっぱり弁慶さんとヒノエ君が一枚噛んでたんだ」
「白龍の仕事の粗を多少修復しただけですから……
それに、パソコンはもっぱらヒノエの仕事でしたけど……
それにしても、九郎! あまりペラペラと話すことではないですよ」
「ああ、そうか……」
「望美さんだから良いですが、他の人に聞かれたらどうするんです?」
「すまん……以後、注意すr……! お? たった今まで話していた将臣は?」
「そうやって分が悪くなると話の矛先を変える……
……? …本当ですね、将臣君はどこにいったのでしょう?」
「あ、あそこですよ、弁慶さん、九郎さん」
「あいつ、あんなところにしゃがみこんで、いったい何をしているのだ?」
「あそこは……金魚すくい…ですね」
「きんぎょすくい?」
「金魚を『ポイ』っていう紙を貼ったものですくい上げる遊びなんです」
「詳しいですね、望美さん」
「そうですか? う〜〜ん、小さい頃、よく将臣君といろんなこと競争したんで
たぶん金魚すくいもそれで覚えたんじゃないかな」
「望美、『きんぎょ』とは、あの水の中で動いているモノのことか?」
「魚ですよ、金魚も」
「魚!? あの赤いのがか?
ああ、黒いのもいるのだな……だが、それにしても
何であの黒いのは、あんなに尾びれがひらひらしているのだ?
目? 目なのか!?? あの魚は目が飛び出しているぞ!」
「金魚ってそういうもので……、あれ? 九郎さん、金魚って見たことありません?」
「そう言われると現世界では見たことあるような気もするが……」
「え?? 異世界に金魚って、いませんでしたっけ??」
「宋の国にはそういう魚がいると、比叡の書物で読んだことはありますが
僕達の時代に異世界には、まだ無かったですね」
「じゃ、金魚すくいも?」
「ええ、勿論初めて見ました」
「望美…、金魚は室町の末になってからだろう、日本に入ってきたのは」
「え? え? 教科書に書いてあることなの?」
「んなもの、書いてあるわけないだろう」
「じゃ、どうして将臣君知ってるの??」
「お前、去年、日本史の土屋が自慢そうに話してたの聞いてなかったな」
「え? 土屋先生が……?? まったく覚えてない」
「これだよ……お前、覚えてる授業ってどのくらいあるんだ?」
「授業中の先生の雑談なんて覚えてないよ〜!」
「アホな望美は放っといて。
OK! 九郎、生まれて初めて金魚を見た記念日だ。
ついでに、生まれて初めての金魚すくいも、やってみるか?」
「ま、将臣……そ、それは…」
「いきなりは、ちょっと難しいですね…
先ずは、将臣君が手本を見せてくれませんか?」
「OK!OK!! じゃ、これぞ金魚すくいって手本を見せてやるよ」
「ちょっ〜〜〜と待った〜〜〜!!」
「お! なんだ望美? その悪〜〜い笑顔は?」
「(アホと言われ続けた)積年の恨みぃ! 今こそ晴らしてくれるぅ!!
還内府、いざ勝負よ!!」
「お前、けっこう根に持つタイプだな。フッ、いいのか?
俺に金魚すくいで勝負を挑むなんて、後悔するぞ!
OK、受けて立つぜ! 返り討ちだ!」
「すくった数で勝負だからね!」
「…何かこの2人だけで、盛りあがっていますね」
「丁度いいではないか。
まずは、じっくり『これぞ金魚すくい』という奥義を見せてもらおう」
「OK、ポイは1つだけだ」
「当然。ただし」
「ただし?」
「紙が破れた時点で終了よ」
「何で? ポイの枠だけでも、けっこういけるだろう」
「だから! 際限無くなっちゃうでしょ」
「そうか…OK。その条件、飲んだぜ」
「では」
「ちょっと待て!」
「何よ?」
「(な、何やら、始まるまでが長いような気がするが)」
「し!(九郎…。もう2人の勝負は始まっているのですよ)」
「(何?)」
「(心理的に有利になろうとしているのです)」
「(し、神経戦か……、何て奥が深いモノなんだ『きんぎょすくい』とは……)」
「(ええ、僕としたことが…。『金魚すくい』を、ちょっと甘く見てましたね)」
「勝ったら?」
「勝ったら……って、何か奢れってこと?」
「良く分かってるじゃないか。そういうことだ。
俺が勝ったら、キャラウ○イの帆立カレーな」
「え〜〜! 一番値段が高いカレーじゃない、キャ○ウェイで!」
「そういうこと♪ どうだ、受けて立つ勇気があるか? 龍神の神子?」
「……フッ! じゃぁ、私が勝ったら、ア○フィーのランチでいいよ」
「おいおい! 『でいいよ』って値段じゃ無いだろ!
キ○ラウェイの倍以上するぞ!」
「ハハハ」
「何だよ、その変な高笑い」
「還内府、敗れたりぃ!」
「何でだよ!」
「勝つつもりなら、何故、支払いのことを考えるぅ!」
「お前は宮本武蔵か!? 分かった分かった、OK、受けて立つってやるよ」
「やったぁ、負けないからね!」
「じゃ、2人分」
「将臣君、払っておいてね」
「これも俺持ちかよ!!」
「男でしょ! 細かいこと気にしないの!」
「お前が女のくせに、気にしなさ過ぎるんだ! ったく!!」
「いくわよ!」
「OK! ヨォ〜〜イ」
「ドン!!」
数分の後
「おお、ああやってすくうのも有りなのか」
「すげぇぞ、このネェチャンのポイさばき!」
「こっちのアンチャンもいっぺんに3匹すくったぞ」
「何で紙が破れないんだ?」
「凄ぇ凄ぇ」
金魚すくいの屋台、と言うよりも将臣と望美の背後は黒山の人集りとなった。
周り中の観衆が凄いと行っているのだから、
本当にこの2人は凄いのだろうと、弁慶は思った。
九郎は、といえば
「(ああ、こういう要領で手首を返せばいいのだな)」
「(おお、そうやると……なるほど、その方が紙に水の圧力がかからないのだな)」
「(そうか! 金魚とはそういう動き方もするのだな)」
と熱心に2人のすくい方を観察していた。
まるで自分も金魚をすくっているような手の動きをさせながら。
「九郎…」
「(ああやって隅に金魚を追いつめて…)」
「九郎」
「(その方が効率的なのだな…)」
「九郎!」
「(この時の手首が…)! …あ! ああ、すまない弁慶、何だ?」
「ククク、総大将殿も……この戦に参戦なさりたい……と?」
「知盛!!」
「知盛殿!」
「俺が……相手をしても……よろしいが……」
「え? 何で、俺が知盛と『きんぎょすくい』勝負をせねばならんのだ?」
「別に……。ただ」
「ただ?」
「源氏の総大将殿は……」
「九郎、挑発に乗ってはいけませんよ」
「ああ、弁慶。分かっている」
「…挑まれた戦いに……背を向けて、お逃げなさる……のか」
「九郎」
「分かって…いる」
「これは……がっかりだ……な。いやいや……さすがは源氏……。
逃げ足だけは……八艘跳び…………か。ククク」
「知盛! 貴様ぁ!!」
「九郎」
「弁慶、すまぬが、ここまで言われては黙ってはおれん!!
知盛! 受けてたってやる!」
「知盛殿らしくない挑発ですね。何が狙いなのですか?」
「ククク、さすがは……源氏にその人あり……と言われた軍師殿だ」
「で?」
「俺が勝ったら……」
「勝ったら?」
「………………」
「分かりました。何なりと奢って差し上げましょう」
「物わかりの……良さも……さすがだな」
「褒められても嬉しくないですね。それより、九郎が勝ったら、どうなるのしょうね」
「何なりと……ククク」
「自信満々、というところでしょうか?
分かりました。武士に二言は禁物ですからね」
「ククク、無論…」
「そうであれば結構です…。
あの、すみませんね。こちらも2人分。はい。あ、ありがとうございます
条件はあちらと同じ。このポイの紙が破れた時点でその者は終わり、ということで。
では、はじめてください」
「知盛、ひとつだけ聞いていいか?」
「総大将殿……、何か……?」
「お前、この『きんぎょすくい』とやらを、やったことはあるのか?」
「……無い…が、…何か?」
「初めて同士、条件は五分ということか」
「……ああ」
「分かった、手加減はせんぞ!」
「どうぞ……」
「では! いざ勝負だ!」
「凄いねぇ…、九郎さんも知盛も、金魚すくい、初めてだなんて思えないよ」
「ええ。大漁、ですね」
「そうだな。金魚すくいの親父の顔、唖然としていた」
「それに比べると将臣君、腕が鈍ったんじゃない」
「ああ、まったくだ。自信をなくすぜ。この4人の中で最下位だなんて、な」
「ま、1匹差でも勝ちは勝ちね。やったぁ、ア○フィー♪ ア○フィー♪」
「の、望美…、今月はキツイから来月ってことに」
「え〜〜〜…。ま、将臣君が約束を忘れなければ、いつだっていいよ」
「忘れる!? 忘れるわけ、ないだろう!
その前に、お前が忘れさせてはくれないだろう!
お前、食い物に関してだけはしつこいからな!!」
「しかし、驚きました。九郎と知盛殿が引き分けとは」
「大きさなら俺の方が!」
「数で……勝負…だったはずだが…」
「確かに、そうですね。
それ以外の条件を、終わってから言いだすのは、どうかと思いますよ。九郎」
「ま、引き分けなんだしな。俺みたいに負けたわけじゃ無ぇんだからさ」
「それにしても、この『きんぎょ』とやらは、捕まえた後どうするのだ?」
「どうするって……」
「食べられるのか?」
「食べる? 金魚を?? 九郎、そりゃぁ無理だ!」
「鑑賞用ですよ、九郎さん」
「鑑賞……み、見るだけなのか?」
「はい」
「食べられないのですか? 魚なのに、ですか? それを150匹近く!?
これは……、僕としたことが……」
「ククク、この魚は……謹んで将臣に……進呈しよう……」
「お前、こういう時だけ兄上扱いか?」
「ククク」
「そっか〜。冷静になって考えると、この数、普通の水槽じゃ入らないよね
どうしよう……」
4人は夏祭りそっちのけで、金魚の飼い主を捜し回ることとなった。
「どうするつもりです、九郎? ダメですよ、僕の所も。
それに、僕の所も君の所も留守がちではないですか。
居ない間の世話は、誰がするんでしょうね?
ま、すくったのは君ですからね。きちんと君が解決してくださいね」
「望美! こんなに大量の金魚! ウチでは飼えませんよ!!」
「え〜〜〜! 無理無理無理! 2、3匹なら可愛いから貰ってもいいけどね〜♪
全部〜〜? 絶ぇ〜〜っ対無理だよ〜〜〜!!」
「またこんな馬鹿なことして! どうするんだ、兄さん!
こんなに大量の金魚! ウチでは飼えないに決まってるだろう!!
と、知盛、お前まで! 二人とも、いい加減にしてくれ!!」
《悪いね。神子姫の頼みでも、それだけは出来ないね。
なにぶん、留守にすることが多いからね、オレも敦盛も。だから、ゴメン。
それに……生き物を飼うほど、オレは偉くないしね》
翌日、
リズ先生の書道教室の庭に、昨日まではなかった大きな池と大量の金魚が、突然現れた。
いくら夜店の小さな金魚とはいえ、150匹近い数が群れて泳ぐ様は壮観で、
教室に来た子供達は歓声をあげた。
後日、金魚の餌をやりに、時々、望美と将臣と九郎がやって来る。稀に弁慶も……。
「知盛は来ないのかな?」
「薄情な奴だ」
「ま、あいつが金魚に餌をやってる図っていうのも、考えづらいけど、な」
教室の子供が、それを聞いて
「入れ墨兄ちゃんなら、毎日来てるぜ」
「顔のここに入れ墨のある兄ちゃんだろ」
「金魚見ながら、『ククク』とか笑うんだぜ」
「この間は金魚に名前付けて呼んでたよ。『しげひら』とか『つねまさ』とか」
「イッちゃってる危ない人かと思ったら、すっごく優しい人なの。ビックリ」
「俺なんか、この前、ジュース奢ってもらったぜ」
「ま、あいつはあいつなりに」
「優しいところがあるんですよね」
「ツンデレの典型だね」
「『ククク……、兄上と同様に、と……いったところか』」
「望美、その似てない物真似、やめろな」
完
08/08/12 UP
