『遙かなる時空ときの中で4』 ・ 風早の2度目のEDでのお話です。 ネタバレ、御注意ください。
また、3の設定は当サイト「帰らないの?」シリーズに準じています。















遙かなる時空ときの彼方へ 3.5

     譲の架け橋 ・ 前編















 「もう…、この中つ国は…」



 「中つ国だけじゃない、豊葦原すべてが滅びようとしてるんだろ」



 「那岐…」



 「国とかどうとか、面倒臭くてかなわなかったけど、こうなってみると……、けっこう参るものだね」



 「どうしよう……、もう私達には、何ともできないのかな?」



 「いくら伝承の龍神の神子と云えども、その龍神にヘソを曲げられてしまったんじゃ、ね」



 「天鳥船に皆を避難させて…」



 「無駄じゃない? そんなことやったところで」



 「一つだけ方法が無いこともないのですが…」



 「風早、それはどんな方法なの?」



 「時空を超えて、白龍をなんとかできる人間を見つけ出す…」



 「カッハー! それってどうよ!! 無っ茶苦茶、確立低いんじゃね!?」



 「低いって言うより、無いって言った方がいっそ清々しいんじゃない」



 「けれど、他に何か良い方法が提案できますか?」



 「………」



 「こうして無策を誤魔化していたって、滅びは近づいているんです」



 「そうね、何もやらずに終わりになるのは嫌。足掻こう、出来る限り」



 「では、神子。願いを言の葉に乗せてください」



 「分かった……。お願い! 白龍をなんとかできる人間を見つけて!!」





















 「何だか雨脚が強くなって来ましたね、弁慶さん」



 「雷も鳴り出しそうですね」



 「最近、どうも夢見が悪くて……、嫌な胸騒ぎがするんです」



 「譲君の星の一族の力……ですか。
  さ、正夢にならないうちに帰りましょう。dragon noir景時の店までもう少しですから、急ぎましょう」



 「はい、弁慶さん。…荷物、濡れてませんか?」



 「ええ、おかげさまで、何とか今のところは

  譲君の方こそ、景時と朔殿に頼まれた買い物で大変ではないのですか」



 「かさばるけど、それほど重くはありませんから

  それにしても昔は、梅雨ってこんなに豪雨ってイメージ無かったんだけどな」



 「僕の世界でも、もう少しシトシトと情緒のある降り方だった様な気がしますね」



 「やっぱり温暖化の影響なんで」



ズガン!!!!!



至近距離に爆撃でも受けたような衝撃が走る。

落雷! 閃光と轟音で本能的に身はすくむものの、それでも2人は、とっさに身を屈めていた。



 「譲君! 大丈夫ですか!」



 「俺は何とも。弁慶さんこそ大丈夫ですか?」



 「ええ、おかげさまで僕も…、! 譲君!!」



目の前の落雷があったと思われる電柱の脇に、倒れている人影が視覚の回復しつつある眼に映った。

慌てて駆け寄る2人に



 「……な身近な世界に……のか…。疲れた……」



聴覚の回復しつつある耳に、倒れていた男が起きあがりながら、そう言ったように聞こえた。



 「大丈夫ですか! どこか怪我をしてますか!?」



弁慶の問いかけに男は、



 「あ、あなたがた…白龍を…。お願い…です。千…を、いや、世界を救ってくれませんか…」



男は譲の手を握る。

弁慶が2人分の荷物を手に、譲に近付いた、その時だった。





辺りが薄暮のような光に包まれて霞み始めた。



 「こ、これは!」



譲には見覚えがあった。

弁慶にも。


 「時空ときを、超えている!?」



 「え? だって先輩も白龍もいないのに!」



 「譲君! 傍を離れないようにしてください!」



 「ええ、兄さんみたいな目には遭いたくないですからね」











 邂逅











 「え……、ええ!!」



 「こ、ここは?」



 「少なくとも、僕達の知っている、どちらの世界でもなさそうですね」



 「ここは豊葦原の中つ国です」



 「これは…麒麟……ですね」



 「麒麟って、人の言葉を喋るんですね…しかも、すっごく聞き覚えのある声で」



 「『これ』という指示語は心外ですね」



 「あ、失礼…。では、何とお呼びしたらいいのでしょうか?」



白い麒麟は瞬きする間に、人の姿へと変わっていた。



 「『風早』と呼んでください」



 「風早…さん?」



 「ええ」



 「豊葦原の中つ国と、仰いましたか?」



 「神話の世界ですね、弁慶さん」


 「ええ…。 ……いったい僕たちはどうして、ここに召喚よばれたんでしょうか?」



 「それは、私から……」


弁慶と譲の後方、四阿あずまやのような所に人垣が出来ていて、

その中央のいた女性が、立ちあがり言い始めた。



 「あなたは?」



 「突然で、とても驚かれたと思いますが」



 「まあ…、そうですね。でも、普通の人よりは慣れてますから」



 「姫! こちらの金の髪の男は何やら、いかがわしい気がします! お気を付けください!」



 「布都彦、言葉を慎みなさい」



 「道臣殿……、申し訳ありません、でした…」



 「大丈夫ですよ。僕はいかがわしくなんてありませんから、気になどなりません」



 「二の姫…、本当にこの者達を信用していいのか? 俺には、どうも信じられない…」



 「忍人様! おいらもです!! こいつら、怪しすぎます!」



 「何だか、俺達、歓迎されてないみたいですね」



 「ええ。かといって、席を蹴って帰るにも、帰り道を知りませんからね」



 「どうします?」



 「譲君が風邪を引いて怒っているような声の、あちらの方に、どうしたら信用していただけるか聞いてみると言うのも一つの手でしょうね」



 「なんか、嫌ですね、偉そうで。俺、元来が軍人、嫌いなんですから」



 「ごめんなさい。私が責任をもって…」



 「冗談ですから、お気になさらないでください」



 「弁慶さん、冗談なんかじゃ」



 「譲君、無事に帰りたければ、状況は正しく把握する必要があるのではないですか?」



 「そりゃぁ、そうですけど…」


 「それに、麗しい女性の甘宝玉かんぎょくの言の葉を遮るのは、どうかと思いますよ。

  失礼しました、どうぞ、お続けください」



 「忍人さん、足往、この人達は私が風早に連れて来てもらった客人なんです。白龍を何とかするために」



 「分かった……。では、手腕を見せてもらおうか」



 「ごめんなさいね。あなた方をお呼びしたのは、この世界を助けていただきたくて」



 「『お呼びした』っていうより『拉致された』って感じがするな」



 「譲君……」



 「ここは豊葦原の中つ国、というか…この世界は崩壊しつつあって、

  今、私達がいるのは、その上空に浮かぶ『天鳥船』という飛行装置の上です」



 「で、あなたのお名前は?可愛いお嬢さん」



 「弁慶さん…、悪い癖、出さないでください」



 「心外な言い方ですね、譲君。これは、麗しい女性に対するエチケットですよ」



 「『エチケット』! あの、あなた方はどういう世界からいらしたのですか?」



 「そうですね、麗しの女性の御名を聞くのでしたら、まず、自己紹介が先ですね

  初めまして、僕の名は本名が『武蔵坊弁慶』、いろいろありまして、現在は『藤原慶二』と名乗っています」



 「武蔵坊弁慶!」

 「武蔵坊弁慶だって!」

 「武蔵坊弁慶! …って、あの『京の五条の橋の上〜♪』の?」



 「その歌は嫌いですから、僕の前では歌わないでください」



 「! ちょっとまってください! どうしてあなたが!

  この世界の人が鎌倉時代の武蔵坊弁慶や、昭和になってから作曲された歌を知ってるんですか!」



 「あなたは?」



 「あ、俺は有川譲。神奈川県立鎌倉高校の2年生です」



 「え? 高校2年なの? 私と同い年ね?」



 「はあ? 君はいったい」



 「私は葦原千尋。最近まで、奈良県にある高校に通っていたの」



 「じゃぁ! 君は…、龍神の神子…?」



 「! ど、どうして、それを?」



 「俺もつい最近まで、龍神の神子と一緒に鎌倉時代に召喚されて……」



 「そう…、そうだったの。だから白麒麟は、いえ風早はあなたを連れてきたのね」



 「どういうことなのか、説明してくれないか?」



 「ええ、実は…」



と、千尋は、譲と弁慶にここまでの状況を説明した。



 「あの白龍が…、信じられないな」



 「……神子を贄に……ですか。随分な話もあったものですが、だからといって、

  この世界を守護する龍神が、世界と自らのアイデンティティを否定するのは、どうかと思いますね」



 「あなた方は、龍神が恐ろしくはないのですか」



 「だって……あの白龍だろう…」



 「ええ、素直な良い子のはずですが……」



 「『あの』? 『子』?? お前達、何を言ってるんだ?」



 「怒れる龍神を知らないから、そんな余裕のあること、言えるんだ」



 「いいねぇ、神を神とも思ってないその態度! さっすが、姫さんの麒麟が選んだだけのことはあるっちゅうわけだな!」



 「『怒れる龍神』……ね。信じられないけど、やっぱり白龍の御機嫌をとるなら『ハチミツプリン』だろうな」



 「どうにもならないのでしたら、滅してしまいましょうか」



 「弁慶さん! それは……最終手段」



 「そう…でした。すみません、譲君。僕としたことが……。どうも龍絡みになると、僕は極端に走るようですね。自重します」



 「こいつら、何言ってるんだ?」



 「さ、さあ? はちみつぷるんって何だろう?」



 「そんな、すっごいこと、やれそうな感じには見えないぞ」



 「めっするって、どういうことだ?」



 「消滅させるってことだろう?」



 「怒れる龍神を!? そんなことが、あいつにできるのか?」



 「信じられないね、おいらの忍人様でも難しいのに」



 「内緒話は、もう少し小さい声でしてくださいね。筒抜けで聞こえてくると、怒る気もおきなくなってしまいます」







 「何となく、俺達の世界で言うところの『神世』の時代なんでしょうね」



 「ええ、そう……。でも、ここにはアマテラスもニニギもいない。

  いるのは禍日神となった黒龍と、人間を呪っている白龍だけ」



 「やっかいだな…」



 「何よりも用心しなければならないのは、望美さんがいない、ということですね」



 「え? 先輩が?」



 「忘れてませんか? 僕達、八葉の力は望美さんという僕達の白龍の神子があってこそ発動するのですからね」



 「ああ、そうですね。俺達はこの、葦原さんの八葉ではないんでしたね」



 「そう、ここでは僕達は一介の人間に過ぎないのです」



 「分かりました、心しておきます」



 「ええ、くれぐれも」



 「では、早速プリン、作っちゃいます

  ラッキーなことに、朔に頼まれた買い物、ケーキの材料がほとんどだから」



 「そうですか、では僕は…、先ず現状を把握して廻りましょう」



 「じゃぁ、1時間もあれば出来ると思いますから」



 「では、1時間後にここで」



 「分かりました」















 「こっちの世界の厨房って、どうなっているんですか?」



 「私もこっちの世界では、あまり……。そういう方面に詳しい人を紹介しましょうか」



 「そうしてくれると、助かります。

  どうしても、レンジとコンロと給湯システムに慣れてると、他の時代の厨房には戸惑うことが多くて」



 「フフ…」



 「何か?」



 「ごめんなさい。でも本当に、慣れているのね」



 「料理…ですか?」


 「いえ、時空ときを超えること」



 「2度目、ですからね」



 「前の時に、『武蔵坊弁慶』さんと?」



 「まあ、そうです」



 「武蔵坊弁慶…、イメージが……」



 「俺も最初は面食らいましたから。まあ、異世界ってことで納得するしかありませんね」



 「そうね、この世界も……。あ、ごめんなさい。厨房に詳しい人でしたね。カリガネ!」



 「…………………呼んだか?」



 「カリガネ、お願い、力を貸して! この、有川譲さんの料理を手伝ってあげてくれない?」



 「料理……!? ハッ! 怒れる龍神を倒すのに、料理ぃ!?!?」



 「いや、別に倒さなくてもいいんだろう? 要は、龍神がおとなしくなれば…」



 「それはそうだろうけど、料理って、どうよ!! そもそも、龍神に食事って」



 「………………………うるさい、黙ってろ。

  …………………料理をするなら作り方を教えろ。………………それが条件だ」



 「その翼は…?」



 「………………翼だが………何か?」



 「いえ……、ただ」



 「………?」



 「人なのに翼があるってどうよ? とか思ってんじゃねぇのかなぁー」



 「いえ、まあ…そうですが。やはり俺達の世界とは違うんですね」



 「そういや、姫さんも最初は驚いていたっけなぁ〜」



 「…………………日向の一族だからだ」



 「そうですか…、あの」



 「………?」



 「料理、手伝ってもらえるんですよね?」



 「…………………………そう言ったはずだ」



 「カリガネの料理は、ピカイチだからな!!」



 「…………………何を、作るのだ?」



 「ま、白龍ですからね。さっきも言いましたが『ハチミツプリン』が一番でしょう」



 「…………………………はちみつぷりん??」



 「ハ、ハチミツプリン? って、あのプリン??」



 「ええ、そうですが。葦原さん、何か? 白龍の好物ですよ」



 「どういう情報なんだ? とてもじゃないけど信じられないね」



 「……、何か会話が噛み合っていない気がするんですけど。

  どうも、白龍のイメージが違いすぎるみたいですね」



 「ええ、とても」



 「ま、とにかく、料理、作っちゃいましょうか」



 「………………こっちだ」





厨房に案内された譲は面食らった。

厨房とはいうものの、ひなびたキャンプ場のかまど程度のものがあるだけで、

水は土器の中にくみ置きがあるだけだった。



 「あ、あの…、この世界に『蒸し器』ってありますか?」



 「………………ある」



 「貸していただけますか」



 「………………ああ」



 「たまたま持ってきたモノに砂糖と牛乳とバニラビーンズがあって助かった。朔、ありがとう」



 「………………」



 「あとは、卵とハチミツか…。この二つは手に入りますか?」



 「………………ああ」



 「卵!! 信じらんねぇ!! 卵ォ!! 俺は絶対ぇ食わねぇぞ!!!」



 「………………うるさい…………ツクシも入れるぞ」



 「いや、プリンにツクシは…」



 「………………卵とハチミツだな。持ってくる」



 「ではその間に、下ごしらえをしておきます。何か大きめの器がありますか?」



 「器、器…、ハッハァー、ダメ、俺、全っ然、わかんねぇ。

  こういうことは、全っ部カリガネに任せちまってるからな!」



 「ボウルの代わり、かい? なら、こいつを使いなよ

  ついでに、こし器は無いからね、この布で」



 「あ、ありがとう? 君は?」



 「僕は那岐。君の世界と似たようなところにいたことがあるから。

  プリン、作るんだろう?」



 「ああ」



 「ホントにプリンなんかでいいのか?」



 「俺の知ってる白龍なら、ですね」



 「『俺の知らない白龍』だったら?」



 「その時は、弁慶さんに滅して貰いましょうか」



 「軽く言ってくれるね。ところであいつ、本当に『武蔵坊弁慶』なの?」



 「ええ、彼のいた世界ではそうでしたね」



 「ふぅ〜ん。金髪で長髪の武蔵坊……ね

  (プリンで白龍を手なずける? とてもじゃないけど正気とは思えないね。

   風早も何、トチ狂ってこんなの連れてきたんだか)」



 「かまどの火、起こしてもらえます?」



 「ああ。でも、君、けっこう人遣い、荒いんじゃない?」



 「そうですか? 立ってる者は親でも使えって言うじゃないですか、緊急事態なんだから」



 「緊急事態…ね(緊急事態にプリン、ね。こんなミスマッチ、ないんじゃない?)」



 「…………………卵とハチミツだ」



 「俺の世界では、天然物のハチミツなんて貴重ですからね。さてと」



そう言って、有川譲はめまぐるしく働きだした。











08/07/17 UP

NEXT→