遙かなる時空の彼方へ 3.5
譲の架け橋 ・ 中編
「さっきから小石を拾って、何かを書いているようだが、いったいそれは何だ」
「ヒ・ミ・ツ…です」
「その、せっかく書いたものを、また、あちこちに埋めたり隠したりしているのはどういう訳だ」
「それもヒ・ミ・ツです」
「なにか、あまり良くないモノのような気がするのですが」
「ま、あえてお伝えできるとすれば、保険、ですね」
「ほけん? ほけんとは何だ?」
「何のための保険なのですか?」
「譲君の策が上手くいかなかった場合の。でも、僕の知っている白龍なら、その可能性は低いですけれど」
「最初に会った時から思っていたのだが、お前は随分、白龍と親しいような口ぶりだが?」
「ええ、親しいですよ。いろいろと」
「………」
「ふう、…こんなものでしょうか、ね。さ、終わりましたから、次の場所に行きましょう」
「どこに行けばいいですか?」
「白龍のいる場所に間違いは無いのですよね?」
「ええ」
「では、あちらの丑寅の方向、ああ、北東に」
「大丈夫、どちらも分かります。俺はあちらの世界では、彼女の高校の教師でしたから」
「あなたが人語を解し、しかも譲君の世界にもいたことがあって助かりました」
「で、どのくらい飛べばいいですか?」
「このまま、真っ直ぐに4Km、ですね。まだ、そこに大地と呼べるものがあれば良いのですが…」
「無かったら、どうする?」
「ま、その時に考えましょう。有るのか無いのか分からないうちから、悩んでいても仕方有りませんからね」
「策士の割に、存外運まかせなやつだな」
「では、急ぎます。弁慶さん、しっかり掴まっていてください。アシュヴィンも」
「ああ、世界中をこの靄が覆いつくさないうちにな。行くぞ! 黒麒麟!」
「ところで、後ろから黒い麒麟に乗って、ついてくる御仁はどなたなのですか?」
「アシュヴィン殿下、常世の皇子です」
「常世……『常世之浪重浪歸國』、そのような世界とこの世が、自由に行き来できるとは知りませんでした」
「黄泉平坂で豊葦原と常世の国には行き来できるのです」
「俺のことなら、俺に聞いて欲しいものだ。お前達が何をやるのか、とくと見せて貰うのだからな」
「監視、だけでなく、お手伝いもお願いしますね」
「できることならば、な。フッ、しかしお前も存外、人遣いが荒いのだな」
「ええ、緊急事態、ですからね」
「緊急事態、ね…。それが小石拾いなのか」
「間もなく世界は崩壊し、混沌の中にすべてが溶解してしまう。そうなる前に……。
この方角に、あなたの小石を埋めるだけの土地が残っていれば良いのですが……。
急ぎます、しっかり掴まってください」
「ええ、急いでください。この世界が消える、と言うことは、
僕の生まれ育ったあの世界や、望美さんの世界が消滅するかもしれないのですからね」
「確立の問題ではあるのでしょうが、否定はできませんね」
「すっごく良い香りがする」
「……………シャニ、邪魔だ」
「え〜〜〜! ぼくにも何か手伝わせてよ〜〜」
「じゃぁ、なにかフルーツがあったら持ってきてもらえますか?」
「ふるぅつぅ???」
「あ、えぇと、果物、果実…、何て言うんだろう、この時代では?」
「シャニ、千尋と遠夜を呼んできてくれ」
「え〜〜〜、お姉ちゃんを?? 分かった」
「その二人を呼んでどうするんだ、那岐? 俺はフルーツが」
「遠夜という水色の髪をしたやつが来たら、何でも良いから文字を教えてやれ」
「はい?? ますます分からなくなってきた」
「いいから。そうすると、何故か、礼にフルーツをくれるんだ」
「で、葦原さんは?」
「遠夜の通訳だ」
「…………??」
「譲〜〜、呼んできたよ〜〜〜!」
「君が、遠夜君?」
「………(神子に似た、優しい光だ…)」
「あなたは、優しい人だって」
「初対面でいきなりは、あからさまな気もするけど、時間がないので」
「………(かまわない)」
「かまわないって」
「これが『LOVE』、〔ラヴ〕と読む。で、こっちは『愛』、〔あい〕と読む」
「………(〔ラヴ〕と〔あい〕…、暖かくて優しい、でも強い光を感じる)」
「どちらも同じ意味だ。他人を慈しみ大切に思い」
「………(分かる…、お前がこれを世界で一番大切だと思っている事も…)」
「あなたが、この世で一番」
「そうだな…。たぶん、そう思う」
「え!? 遠夜の言葉が分かるの?」
「え? ああ、何となくだけど」
「………(待っていてくれ)」
「ありがとう、待ってるよ」
「遠夜からフルーツをもらって、何を作るの? ハチミツプリンにフルーツは必要ないと思うけど」
「小麦粉や生クリームがあったもので、それに彼から貰った卵も随分余ったから
プリンを蒸して、その後、粗熱を取る間、けっこう時間があるからね
もう一品、作ろうと思って…」
「すごい…、ホントに譲君は料理が上手ね」
「そんなことはないよ。たまたま頼まれた買い物の中にケーキの具材が多かったから、助かってるだけで」
「で、もう一品って?」
「彼…遠夜君がどんなフルーツを持ってくるかにもよるけど、フルーツと生クリームのクレープでも」
「クレープ!!」
「あ、葦原さん? どうかしましたか?」
「え、あ、ごめんなさい。しばらく、そういうモノを食べてなかったから…
ちょっと興奮しちゃって…」
「分かります。俺も弁慶さんの世界に行った時、カレーやラーメンが無性に食べたくなったから
(ま、俺以上に食べたいってうるさく言うのが二人いたから余計、かな)」
「ああ、カレー……、ラーメン…塩バターコーンのラーメン……ああ」
「すみません、俺、何か余計なことを言ったみたいで」
「………(持ってきた)」
「あ、ありが…!! すごい! 良くこんなフルーツが手に入ったな
苺にバナナ! それとレモンにリンゴ…。神世の時代にあったんだ…」
「譲君、期待してるね!!」
千尋は瞳を星でいっぱいにして、食べる気満々の笑顔をふりまいて去った。
「やれやれ、困った人だ。龍神の神子って、どの人も先輩みたいな食欲なんだな…」
「………………………竹串を刺したが、何もついてこない」
「あ、じゃあ、蒸し器から取り出して、冷まそう
何か氷みたいなものがあれば、もっといいんだけど」
「!! 分かった! 兄様を呼んでくる!」
「兄様って??」
「………………………ナーサティヤだ」
「何でその人を呼んでくるんだ?」
「………………………炎を凍らせた」
「それは…また……、期待できる、かな? ハハ…」
「これが『ふるぅつくれぃぷ』?」
「ああ、そうだ」
「甘い!!! おいっしい!! 兄様!! 信じられないくらい、甘くて美味しい!!!!!」
「シャニ! おいらにも! おいらにも!!」
「もう! 少しだけだよ! ナーサティヤ兄様とアシュヴィン兄様にも分けて差し上げるんだから!」
「え!? ああ、全部食べちゃったのか! クレープ!!」
「おいしかったよ♪」
「仕方ないなぁ…、また、作るからいいけど」
「………………………味見もまだだった」
「クレープができたんですって!」
「葦原さん、それが…」
「お姉ちゃん、ゴメン…」
「シャニ! あなた、全部食べちゃったの…」
「僕だけじゃないよ、足往だって」
「え〜〜! おいら、この白いくりぃむとかいうのを、ちょびっと嘗めただけだよ〜〜」
「もう! こまった子達ね!」
「まだ小麦粉も卵もあるから、また作れるさ」
「次は、絶対、私にも味見させてね♪」
「………………………私も」
「分かった分かった(いったいこの先、何枚クレープ焼いたらいいんだ?)」
「もう、このぷりんというものも、十分冷たくなった」
「あ、ありがとうございます。ナーサティヤさん」
「まさか、私の技が料理に使われる日が来ようなど、夢にも思わなかった」
「人を傷付けるよりは、よっぽどましですよ」
「まし……か……。フッ、お前は二の姫と似たような物言いをする」
「………………………冷たい」
「さて、こっちの準備はできました。
さあ、後は弁慶さんが帰ってきたら、いよいよ、久しぶりに白龍と御対面、だ」
「お兄ちゃん、白龍に会ったことあるの?」
「え? ああ…。シャニ」
「何?」
「何で俺のこと、急に『お兄ちゃん』って呼ぶようになったんだ?」
「やだなぁ〜、お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃないか♪」
「……(ま、嫌われてないことは確かだから、いいか…)」
08/07/19 UP