いざ! 潮干狩り!!   後編











「敦盛、お前、アサリも採らないで、何を蟹とお話して戯れてるんだ?」



「ヒ、ヒノエ…、いや、別に戯れているのでは無いのだ。ただ…」



「どう見たって、幼稚園児が蟹と遊んでるって風にしか見えなかったんですけど」



「この蟹が……、親蟹とはぐれて困っていたので、一緒に探して」



「! お、お前、蟹と話ができるのか?」



「い、いや…嘘だ……。

 ただ、どうも、要領が悪いのか、穴を掘ってもリズ先生のようには貝が出てこないので…」



「だからって、オレをあてにしないで欲しいね。

 オレだって、この潮干狩りの競争に参加しているんだ。

 いわば、お前は競争相手、なんだからね」



「そ、そうだったな…、すまない」



「語るに落ちてるぜ、敦盛。

 やっぱり、オレの採ったやつをあてにしてたのか」



「いや…、そんなことは…」



「ほら、これだけだぜ。これ以上は無しだからな」



「ヒ、ヒノエ」















「ほら、このアサリ、あげるよ」



「え? いいの? でも……」



「遠慮、しなくていいわ。坊や」



「譲? どうしたの? どなた?」



「え? 譲?」



「あ、ママ」



「ああ、君も『ゆずる』って言うんだ……」



「え? あら、じゃあ、あなたも?」



「はい。あ、すみません、怪しい者ではありません。有川譲と言います」



「私は、朔と言います。梶原朔です」



「まあ、譲…さん。このお兄ちゃんも譲君ですって。

 譲さんに朔さん……、デートで潮干狩り、ですか?」



「デ、デートだなんて…、譲殿、どうしましょう…」



「ええ、そうです」



「ゆ、譲殿!」



「あらあら、随分と渋いデートね」



「そうですね」



「それで、うちの譲が何か御迷惑を…」



「いえ、そうではありません。貝を採るのを、苦労していたみたいだから……」



「私がお節介にも、声をかけてしまったものですから」



「朔、そこが君のいいところだろう」



「ごちそう様です、クス」



「え?」



「それで譲ってくださろうと……、ありがとうございます」



「はい。じゃ、あとは頑張って採るんだよ」



「うん、ありがと、お兄ちゃん」



「あ、それと……、これも『おまけ』だ」



「何? これ、アサリより大きい貝だね」



「え? 譲……、それは…有川さん、よろしいんですか?」



「ええ、けっこう見つけましたから、お裾分けです」



「あの、波打ち際の辺りにけっこういますよ。行ってみてはいかがですか?」



「そう……。譲、これは『ハマグリ』っていうの。パパ、喜ぶわね」



「じゃ、もっと見つけようよ。あっちだね、ありがとう、お姉ちゃん、お兄ちゃん」



「ご親切に、ありがとうございます」



「いえ」



「いえ」



「フフ、お幸せに」



「え? あ、はい」



「さ、朔……。そ、そうですね」















「どうして直接、計量所に集合せず、こんな所に集まれなんて言ったんだ?」



「兄さん、だから甘いんだよ」



「お、なんでだ?」



「いいかい。潮干狩りは、浜に入るとき渡された、このネットに入る分は無料だけれど、

 それを越えたら重さに応じて追加料金を取られるんだ」



「知ってる」



「それなのに、先輩と九郎さんは競争しちゃうし、どうせ他のみんなも勝負かけてくると思うんだ」



「…だろうな。ああ、そうか。だから、ここで調節しようってことか。

 でも、あいつら、折角採った貝を捨てるなんて、するかな」



「捨てたくない人には、自腹で持ち帰ってもらえばいいんだよ」



「お、……お前、生活スキル高いのは分かるが、そういう所、厳しいな。

 悪い笑顔してるぞ…。いったい誰に似たんだ?」



「少なくとも、兄さんでないことだけは確かだね」



「ああ、まったくだ」



「それに、もう一つ」



「もう一つって?」



「景時さん、景時さんのネット、ちょっと良いですか?」



「あ、御意〜、どうぞどうぞ♪ 結構、採れたでしょ」



譲は景時から渡されたネットの中身を、空になった自分のバケツにあけた。そして



「先輩、バケツ借りますね」



と言って、貝で満たされた自分のバケツから、



「これは良し、これはダメ」



と言いながら、なにやら選別を始め、ダメといった貝は足下の砂の上に置いた。



「な、何かな〜〜?? あ、それなんて、結構大きいでしょ……? え?? ダメ? 何で」



「言ったじゃないですか、アサリを採ってくれって」



「ええ!? これってアサリじゃ無いの?」



「ええ、学術名は知りませんが、シオフキって呼んでますね」



「た、食べられないの?」



「それは」



「食すことは可能だ。ただ、下処理に手間がかかる」



「リズ先生」



「そうなんだ〜〜……」

「へえ、そうなんだ」



「そうなんだって、先輩まで…」



「食べられるのなら、捨てるんじゃなかった」



「先輩、リズ先生の話、聞いてました?

 食べられるようにするのに、けっこう手間がかかるんですよ。

 アサリが目の前に転がってるのに、面倒な別の貝を採ることないでしょう」







譲の選別で、景時の貝の1/3はアサリでは無かった。



「兄上、だから私が、どうも譲殿の持っているアサリと少し違うのではと申したではないですか」



「そうだね…朔〜……、でもさでもさ〜、お兄ちゃん、潮干狩りって初めてだからさ…」







譲とリズ先生が手分けして、みんなの貝を選別することになった。

途中から、要領の分かった朔と、もともと分かっていたらしい弁慶さんとヒノエも手伝い、

選別作業は加速した。



「なんだか、テストの採点を待ってるみたいでドキドキするね」



「望美、お前はアサリとシオフキの違いを知らなかったのか?」



「え〜〜、教えてもらった事あるけど、そんなの、いちいち覚えてないよ」



「お前というやつは……。やれやれ、勝負の結果はまだ分からないということか」







敦盛はドキドキしながら、考えた。



『景時殿の貝でもダメならば、あきらかに色も形も違う、この大きな貝などアサリであろうはずはない……。

 しかし…、あの御老女と御老人、それにあの3人の子供を連れられた御婦人、それからあの坊や、

 それにあの方や、この方や…、

 私に貝をくださった多くの方々が皆、全員間違われていたとも考えづらいのだが……』















「次のは…、誰のだ?」



「それは俺と朔の…」



「お、二人仲良く、って奴か」



「兄さん…」



「仲良いわね、朔」



「何だか、微笑ましいね」



「ヒノエ殿まで…」

「しかたないだろう、二人でやっと一バケツなんだから」



「おお!! でかいアサリ! ま、リズ先生のには、ちょっと負けるがな」



「それに、こいつは!!」



『あ! あの貝は、私のものと同じだ…。

 やはりアサリでは無かったのか。

 し、しかし、ならば譲と朔殿がどうしてバケツに入れたままなのだろうか?』



「凄っげえ…、大ぶりのハマグリじゃん!」



「本当ですね、よくこれだけのハマグリが見つけられましたね」



『え? アサリでなくとも良いのか??

 アサリよりも皆の歓声が大きい。

 ということは…、アサリよりも喜ばれる貝、ということなのか?

 ハマグリというと、私には『貝合わせ』に用いる貝というくらいの認識しかないのだが……食べられたのか…?

 そういえば、『貝合わせ』の貝と似たような形だが……、

 いや、二枚貝はどれも色を塗ってしまえば、同じような……

 しかし、でも、『貝合わせ』の貝にしては小さくはないか?

 いやいや、し、しかし……!!』



「フフ、本当に、君は飽きないですね」



「べ、弁慶殿……?」



「蒼くなったり、赤くなったり。何を考えているのかまで、手に取るように分かってしまいますね」















「今のところ、一番多いのは……、知盛! い、意外だ」



「え〜〜、私じゃないの」



「僕は、けっこうあったと思ったのですが…」



「あんたのは、ほとんどご婦人方からの貢ぎ物じゃん。

 オレみたいに額に汗した訳じゃないんだからさ、

 ショックを受けたようなわざとらしい演技、しないでくれる?」



量だけなら九郎と望美が断然トップだった。

しかし、シオフキや他の貝も選別してしまうと、半分にもならなかったのだ。



「お、俺は…負けたのか……。い、いや、俺はこの際どうでもいい。

 しかし、リズ先生が負けるとは」



「事実だ」



「先生!」



「でもさ、リズ先生のは、見ろよ、もうアサリというには巨大すぎるものばかりじゃん」



「ホント、酒蒸しじゃなくて、このまま焼きハマグリならぬ焼きアサリで十分美味しそうなのばっかり」



「ええ、望美…、私、こんな大きなアサリを見たことがないわ」



「大きくとも、味は大味ではない。滋味に溢れ、非常に美味だ」



「美味…ですか」



「うむ。生き物の命を貰い受けるのだ。その獲物の量で競争など、愚かなことだ」



「せ、先生!! 俺は短慮でした!」

「せ、先生!! そうですね、ごめんなさい!」



「九郎も神子も、分かればよい」



「それにしても」



と、場の空気を気にせず将臣が言いだす。



「知盛、いったいどうやって、この貝、集めたんだ?」



「有川……、さあな……ククク」



「どうせ、これも誰かの貢ぎ物でしょう」



「これ『も』、…ククク、軍師殿、語るに落ちては……いないか? それに……」



「『それに』?」



「俺は軍師殿ほど…、『ストライクゾーン』とやらは……広くないのでな……、ククク」



「な、何のことでしょうね。僕には分かりませんね」



「『入れ食い』状態で……楽しめたのだろう……ククク…。おっと失礼、『お楽しみ』は、これからか……」



「知盛殿に稚児趣味があるとも思えないのですが…」



「どういうことだ、敦盛?」



「ずっと寝ていらっしゃった知盛殿の周りで、楽しそうに小さな男の子達が……」



「知盛! 貴様、子供を脅したのか!?」



「総大将殿……、それは…、言いがかりだな」



「何!」



「大夫殿は…『楽しそうに』と…、言っている…ククク。ま、……鵜匠の気分だったぜ……」



「お前、意外とチビの扱い、慣れてるからな」



「意っ外〜〜」



「さあな…、ククク」



「さ、あとは敦盛のだけだ…え!」



「おお!!」



リズ先生が選別した敦盛のバケツを覗き込み、全員が驚嘆の声を上げた。



そこには、溢れるばかりの大粒のアサリと、さらにもう一つ別のバケツに

その大粒のあさりの三倍以上は少なくともあるだろう大きなハマグリの群れ!



「オレが分けてやったアサリだけじゃなかったんだ…」



ヒノエだけではなかった。



「僕の渡したアサリも大きいと思いましたが、これは…」



「私のあげたハマグリ、この中じゃ小っちゃいのになっちゃうよ…」



九郎も、望美も、将臣も、譲も、弁慶も、景時と朔も、

みんな敦盛に『お裾分け』とか、あれこれ理由を付けては渡していたのだった。



でも、それだけでは、この大量なアサリとハマグリの説明には不十分だった。



「常に、この桶の『ばけつ』を空にして、ここに座っていろ、と知盛殿に言われたので…」



「それで?」



「座っているとアサリの方から入るって話でも無いだろう……あ! ああ、なるほどね…」



「ヒノエ、分かったのだろうか」



「オレ達と同じような気分になった他の一般客が、お前に…」



「皆が皆、大きそうなアサリやハマグリを分けてくださったのだ……、

 私とて武門の子、そのような施しなど不要だと、辞退したのだが…」



「で、その結果がコレ…かよ」



「敦盛、お前……、弁慶さんより才能あるな」



「何の才能なのだろうか?」

「何の才能です? 譲君」

「何の才能って言いたい? 譲」



「そ、そんな…ヒノエまで……、弁慶さんも…。三人、いっぺんに睨むなよ」



「それより譲。どうするんだ?」



「え?」



「このネットに入らないアサリとハマグリさ」



「そうだな…。リズ先生が詰めて、入りきらずに余ったんだ。

 俺達じゃ、これ以上入れようにも、ネットを破いてしまうだろうし」



「捨てるか…」



「そうだね、兄さん……」



「大きいのだけ、一バケツほど見つくろってくれない」



「ヒノエ? どうして? 買うと結構な金額だぜ」



「知盛、買ってくれるよな」



「ほお、俺に……金を出せと……?」


「ああ、貸しは返してもらう性格たちなんでね」



「随分と高い……酒代になったものだ……ククク。
 いいだろう……、俺も借りは……作らない性格たちなので……な」



「意外とあっさり納得したな」



「ああ、もっとゴネるかと思ったんだけど」







会計も終わって、さあ帰ろうという時になって、財布が無いと蒼い顔をしたのは景時さんだった。








終わり








08/05/08 UP