遙かなる時空の彼方へ 3.5
シャニと足往の大冒険! 12
ブザーが鳴り、ゆっくりとティーカップの回転が停止しはじめる。
『アリスのマッド・ティーパーティー』に乗ろうと周りに並んでいた人垣の内、
恋人たちは互いに「やめてよね」と言いながら、回す事または回してもらう事を期待していた。
幼い子の手を引いた親は小声で、「ああいうことはおおきくなってからね」と、たしなめていた。
若者達のグループは、拍手と歓声で勇者たちの帰還を称えた。
その歓声に応えるように笑顔で手を上げ、
必死に目が回り足元が覚束ない事を隠そうとしているナーサティヤであった。
拍手と歓声が一段と大きくなる。
一瞬足元のふらつきかけたナーサティヤの肩を抱き、満面の笑みでアシュヴィンが言った。
「フ、存外楽しめたな」
「あ、ああ、そうだな」
「困った人達ですね。アシュヴィン殿下、回し過ぎですよ」
と、蒼い顔のリブの肩を抱いて降りてきたのは弁慶であった。
「リブ、だらしないな。サティを見習え」
「や、申し訳ありません。実に興味深い乗り物だったもので、
構造が気になって、あちこち見ていましたら
ま、眼が回ってしまった、という次第でして」
ブザーが鳴り、ゆっくりとティーカップの回転が停止しはじめる。
『アリスのマッド・ティーパーティー』に乗ろうと周りに並んでいた人垣の内、
恋人たちは互いに「やめてよね」と言いながら、明らかにお互いに何かを期待した表情で輝いていた。
幼い子の手を引いた親は小声で、「ああいうことは危ないから、しちゃあダメよ」と、たしなめていた。
若者達のグループは、拍手と歓声で勇者たちの帰還を称えた。
その歓声に笑顔で応えて、
颯爽と、ピンクの長髪をなびかせて降りてきたのは春日望美であった。
その満足そうな彼女の笑顔に、「おお!」と観衆のどよめきと拍手が大きくなる。
その後ろをシャニと風早に両方から支えられて、足往がふらつきながら降りてきた。
「足往、大丈夫?」
「うぅぅ……、シャ、シャニは、大丈夫、なの?」
「うん、僕は大丈夫だよ。お姉ちゃん、面白かったねぇ」
「足往、大丈夫? ちょっと回し過ぎちゃったかな」
「ぅん、大丈夫ぅ〜。面白か……、あぁ、世界がまだ回ってるよぉ〜」
「足往、尻尾は隠しておきなさい。
それにしても春日さん、もう少し加減をしてもよかったのではないですか?」
「そんなこと言って、風早の方がお姉ちゃんより回してたじゃないか。
僕、ちゃんと見てたからね」
「ははは、シャニ、そんなこと、ありませんよ」
ブザーが鳴り、ゆっくりとティーカップの回転が停止しはじめる。
『アリスのマッド・ティーパーティー』に乗ろうと周りに並んでいた人垣の内、
恋人たちは互いに「あそこまで回せる?」と顔を見合わせては、期待に胸を膨らませた。
親に手を引かれた幼い子供たちは、「ママが回すの? パパが回すの?」と、期待に胸を膨らませた。
若者達のグループは、拍手と歓声で勇者たちの帰還を称えた。
その歓声に満面の笑みで応えて、
頬を紅潮させ満面の笑みで降りてきたのは、梶原朔であった。
観衆の歓声と拍手は最高潮となる。
その後ろから降りて……
?
「お客様? 大丈夫ですか?」
「アハハハ〜、大丈夫大丈夫〜ってね〜、譲君〜」
「ええぇ、大丈夫です…。で、でも、景時さん
も、もう少し、ちゃんと回転が止まってから立たないと危ないですからね」
「そ、そうだねぇ〜。でもさ〜、なっかなか、ここだけ止まらないね〜〜」
「景時さん、まだ、立ったら危ないですよ」
「御意〜〜」
「あ、もしもし、景時ですか?
『ポーさんの蜂蜜狩り』は120分待ちです。
ここも諦めるより他にないでしょうね、残念ですが」
『アリスのマッド・ティーパーティー』の後、
目の回っている者達の回復を待つ間、
どこか空いている(つまり待ち時間の少ない)モノを探そうということになって
ネィズミーランドの地理をある程度把握している者たちで手分けをして
近くにある乗り物の待ち時間を調べに出かけたのだった。
「え〜とね、弁慶、悪いけど大至急、譲君と連絡取ってくれないかなぁ〜。
オレも今、別行動中なんだよ〜。
って事で、オレ、ちょ〜っと急いでるからね〜。
じゃ、詳しくは譲君の指示をね〜。よろしく〜」
「あ、景と……。
やれやれ、随分と慌てていましたが。
気分はもう良くなったのでしょうかね」
一方的に切られた携帯を眺めながら、そう独り言ちる弁慶だったが、
妙な胸騒ぎを感じ、有川譲への短縮No.を押した。
「もしもし、譲君? 気分はどう?
まだ目、回ってる? アハハ。
こっちはダメだった。『小さな世界』は90分待ちだって。
うん、残念だけど、『バズ』のファスト・パスの時間って4時45分でしょ。
あと1時間ちょっとじゃね……。
もしも〜し、譲君? 聞いてる」
「……先輩、それどころじゃ無くなりました。」
「え? 『それどころじゃ』って、どういう事?」
「ナーサティヤさんが行方不明です」
「えぇ〜。それって、迷子ってこと?」
「子供ではありませんから、『行方不明』って言ったんですが」
「子供より厄介だよ」
「やっぱり、そう思いますか……。」
「一人で?」
「誰かと一緒なら、ここまで心配しませんよ」
「だよね。で、携帯は?」
「持っていません。当然と言えば当然ですが」
「あちゃぁ! 最悪だね」
「ええ、で、今、みんなで手分けして探してますが……。
まぁ、背丈も見てくれも派手な人ですからね。
こうなると、目立っている事がせめてもの救いです」
「けど、見つかるかなぁ……、こんな人ごみの中で……。
炎を放つ前に見つけないとね。ま、そうしてくれれば目立つけど」
「不安を煽る事、言わないでください、先輩。
で、お願いなんですが、先輩はそのまま『トゥモロー・ゾーン』を探しに行ってもらえませんか?
一番遠くで済みませんが。
ここの地理に詳しい人でないと」
「分かった。急いで行ってみるね」
「弁慶〜、ゴメンよ〜」
景時は慌てて携帯を胸ポケットにしまい、オールを握り直した。
「はい! そこのお兄さ〜ん、カヌーを漕いでいる時の携帯やメールは禁止ですよぉ!」
「御意ぃ〜」
「や、殿下。どちらへ行かれるのです?
ま、早くナーサティヤ様を見つけませんと」
「よせよせ、リブ。やめておけ」
「や? 何故ですか? 時間が無いとかで、こちらの世界の人達はかなり焦っていますが」
「サティだって、一人であれこれしてみたいのだろうさ」
「ま、それはそうでしょうが……」
「だからリブ、お前も好きなところに行っていいぞ」
「や、そう突然仰られても……。
ま、私の好きな処は殿下のお傍、ということで」
「存外、気味の悪い世辞を言う奴だ」
「や、御世辞などではありませんぞ」
「お姉ちゃん、この建物の中から、すっごく甘い良い香りがしてくるよ」
「ああ、二人とも。譲殿から、くれぐれも勝手に行動しないようにと」
「勝手じゃないよ。こうして一緒に行ってみようって提案してるじゃないか。ね、足往」
「ごめんよ、シャニ。おいら、まだちょっと動きたくないよ」
「そっかぁ、じゃここに僕と座ってよう」
「シャニ殿下は優しいのですね」
「そうかなぁ。兄様達には『お前は皇子としての自覚に欠ける』とか、『存外、子供、だな』って」
「シャニ、すっごくその言い方、似てる」
「真似できるようになる位、叱られていらっしゃる……、 ! ああ、あれは!」
「え、お姉ちゃん、どこ行くの」
「ふ、二人は私が戻るまで、ちょっとそこに座っていて。い、いいですね」
と、朔はネィズミニーの着ていたドレスがディスプレーされたショップへと入っていってしまった。
「ここは、最初に乗った『カリブ海〜』の近くですね。
ふむ、こっちの方からナーサティヤの気を感じたんですが……
これだけ人が多いと、さすがのオレにも詳しい居場所の特定までは難しいですね。
もう少しあっち…、入場ゲート近く……ですかね…」
「〜という事ですから、弁慶さんはその奥側にある『カートゥーン・タウン』に向かってくれませんか?
ええ、俺は入口に戻って最初から歩いたコースを……、ええ、そうです。
『ユニバーサル・バザール』にもうす」
「どうしました? 譲君?」
「! 俺、ちょっと」
プツッ……
「? あ、譲くん……。やれやれ、どうしたのでしょうね。
先ずは指示通り『カートゥーン・タウン』に向かった方がいいのでしょうか?
それとも」
見間違いではないだろう、あの後姿は。
しかも、行方不明になる前以上に、見つけやすい姿である事も確かだが……。
しかし、それゆえ信じがたいのもまた確かであった。
有川譲は、ナーサティヤであると確認してなお、声をかけるのを躊躇っていた。
その空間だけが、非日常の祝祭空間・ネィズミー・リゾートの中でもまたひときわ異彩を放っていた。
13/ 2/10 UP
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