そして、焼き肉へ
「にくーv」
花見ついでに大道芸を披露し、無事宴会の軍資金を貯めた一行は、その足で焼肉店へと足を伸ばした。
店に入れば、既に中からはじゅうじゅうと肉の焼ける音と、香ばしい匂いがしてくる。
弁慶は慣れた仕草で店員に人数を告げると、そのまま禁煙席へと案内をきたした。
「きん、えん…?」
「煙草といって、一種の麻薬みたいなものです。子供たちも居ますし、身体にいいものではありませんから」
「そのようなものが出回っているのか。この世界も、穏やかだと思っていたがなかなか物騒なのだな」
「はは。ま、そんな堅っ苦しい毒でもないんだけどな。誰でも一度くらいは… って!」
「ひの…」
「ん?」
「あっちから、けむたいにおいがする」
「ほんとだ。おいひのえ、おれたちかばえ」
「お前なあ… 取り合えず、あつは抱っこしてあげるからこっちにおいで」
「うー…」
「胸に顔うずめてな。窓際の席なら煙もそう届かないだろ」
「こらひのえ! おれはどーすんだよ。それと、あつかえせ!」
「子供の前で堂々と喫煙バラすなよ兄さん」
「いってーなー。殴ることないだろうが」
銘々、席に着く前から賑やかなのに、弁慶はただにっこりと微笑むのみだった。
別に此々で見世物になる必要は無いのに、と、ただでさえ目立つ面々に (自分の事は棚に上げて) 心でため息をつく。
「… たばこ というものは怖いものなのだな。口に出しただけでこの騒動とは」
「ほんとですねえ。九郎も、窓際の席にしましょうね」
「? そうか」
又、子供の面倒を見なければ駄目ですかねえ、と、うっすら浮かぶ笑みの意図を、九郎は全く気付かないのであった。
「にく」
「はいはい。ひのは何でも食べれて偉いですね」
「おう」
「野菜と茸も頼みますから、ちゃんと食べるんですよ? ピーマンが出ますからね」
「う…」
「返事は?」
「… たべるっ」
「約束ですよ。あつくんは、何を頼みますか?」
「んーと… あんにんどうふと… ゆずしゃーべっとと…」
「それはデザートですから、一番最後です。最初は、お野菜やお肉を頼みましょうね」
「… あつ、にく、にがて…」
「きちんと栄養を取らないと、大きくなれませんよ?」
「ん〜…」
「ひのみたいに、お腹を壊すまで食べなくてもいいんです。でも、大切なものを、少しずつ摂っていかなければね」
「… あぶらがなくて、においのないおにくがいいです…」
「じゃあ、ソーセージを頼みましょうね。あつくん、お肉を食べればね、その内、おちちも出るかもしれませんよ?」
「ほんと?」
「この間、角と襟巻きは出ましたものね」
「そうそう。このあいだ、あつおこったら、つのとふさふさはえたんだよな」
「うん。あつもおんりょーのかけらだから、つのがでた」
「まだ寒さもありますしね。ふさふさの襟巻きがもっとたくさん生えたら、ひのも嬉しいでしょう?」
「ひのといっしょに、あったかくなるかな?」
「このあいだは、くびわくらいしかはえなかったもんな。でも、ふかふかできもちよかったぞ」
「… べんけいどの。わたしも、がんばっておにくたべます」
「ふふ。二人とも、本当にいい子ですね。御褒美に特上頼んであげますよ」
「とくじょー?」
「とっても美味しいお皿の事ですよ」
なでなで、と向かいから交互に頭を撫でられて、ひのとあつが素直にはにかむ。
が。そんな会話を二人の隣で聞いていた敦盛は、気のせいではなく、顔色が悪くなっていた。
「おや、敦盛君も。そんな顔をしても、好き嫌いなく食べなきゃ駄目ですよ?」
「… はい …」
「オッサン… アンタ、少しは言葉選べよ」
「何の事です? それよりヒノエ、敦盛君には、君が責任持って食べさせなさいね。敦盛君の体力を一番削ってるのは君なんですから」
「べっ… 弁慶殿…」
「敦盛君も、子供の前なんですから、きちんとしないと。じゃないと、立派な牛さんになれませんよ?」
「… あの …」
「あつもりー。こんど、あつもりのうしもみたいぞー」
「あつ、あつもりみたいにりっぱなつのとえりまきほしい。しっぽもほしい」
「あつ… あれは襟巻きじゃなくて」
「んでもって、ちゃんとおちちのでるうしになりたい」
「… … ヒノエ …」
「… まあ、取り合えず三人とも、ちゃんと食べればいいんじゃないか? チチどうこうは別にして」
その前に、あれは牛ではなくて虎なんだが… と言うのもおいといて。
ネコ科がぞろぞろと揃う中、弁慶の隣で、どう考えてもイヌ科の九郎は 『好き嫌いはよくない』 と、弁慶の手腕に感心していた。
「九郎は何でも食べれますよね? 野菜は足しますけれど… 君も、鍛錬分はきちんと補って下さいね」
「ああ。まあ、過ぎぬ程度に食べるつもりだが」
「たまには過ぎてもいいと思うんですけれどねえ… 君の場合」
「ん?」
「まあ、いいでしょう。すみません、オーダーお願いします」
炭火の上で焼けていく肉に、ひのもあつも興味津々でそれを眺めていた。
火の熱さが顔にかかるが、刻一刻と変化し、美味しそうに肉汁を滴らせていく姿は胸をわくわくさせる。
「そろそろいいかな」
箸で、弁慶が くるん と肉をひっくり返す。案の定ひのが自分もやりたいと言い出したのに、弁慶はやんわりとそれを止めた。
「火傷しちゃいますよ。もう少し、箸と手のひらの大きさが伴ったらね」
「むー… はしのつかいかたはちゃんとできてるぞ」
「腕を伸ばして御覧なさい。火鉢に腕が引っかかるでしょう」
「う」
「まあ… 君の場合は火傷をして成長するタイプですけれどね。隣にいい見本が居ますし」
「… うるせーぞ、オッサン」
「でもね、君のすることは、あつ君が真似をするんです。ひのは、あつくんの腕に一生消えない傷が残ってもいいんですか?」
「やだっ」
「だったら、もう少しだけ、ガマン。誰かを守るってことはね、我慢する、強い心も必要なんですから」
「んー… おっきくなるまでがいっはいすぎだぞ、べんけー」
「それとも、あつ君を置いて、さっさと一人で大人になりますか?」
「… … ひの、いっちゃうの?」
「そんなことしないってば!」
「ほら、もう焼けた。二人とも、美味しい内に食べなさい」
話している内に、網の上で肉がいい色に焼けて。弁慶はそれを器用に摘むと、ひょい と子供たちの受け皿に取り分けてやった。
「あちっ」
「おや」
「あついけど、うまいなー。あつもたべろよ」
「うん…」
「待ってな、今、冷ましてやるから。あつ、少し水を飲んで、口の中を潤しておいで」
「ありがと、ひのえ」
「敦盛もね。食べなかったら口移しで食べさせるよ?」
「… 結構だ」
意味深に微笑むヒノエに、敦盛は ふい とそっぽを向くと、ヒノエに差し出された肉をしぶしぶ小皿で受け取った。
あつの肉嫌いは、そのまま敦盛からの影響である。幼子よりはるかに強情な敦盛に食べさせるのは大変なことだが、それはそれで楽しみなのだと、
ヒノエが表情は如実に物語っていた。
「食べた後でも、いいけどね。すぐに口の中、掃除してやろうか?」
「要らない。茶を飲むから、放っておいてくれ」
「あんましつこいときらわれるぞ、ひのえ」
「いいの。これくらいしないと、敦盛は意地っ張りだからね」
「いじっぱりだといっぱいかまうの?」
「つんでれか?」
わいわいと会話が進む中、敦盛はうつむきがちに、黙々と肉を噛んでいる。
が、そこから飲み込むまで、一体どれだけかかるのやら。
「九郎。こっちのリブ焼けましたから、どうぞ」
「ああ、すまない」
「手が汚れますから、このまま食べちゃってください。僕が持っていますから」
「ん…」
「… どうしました?」
「さっきから口は動いているが… 敦盛は大丈夫なのか? 弁慶」
「そうですねえ… ああそうだ、敦盛君、ひのとあつも。肉が熱かったらこれで包むといいですよ」
「なんだ?」
「はっぱ?」
「これで、くるんで食べるんですよ。多少はしつこさが減るでしょう」
はいどうぞ、と、弁慶は先に作ってあった葉っぱ巻きをひのに手渡した。首をかしげながらも齧り付いたひのが、悲鳴をあげるのは少し後の事。
「… げ! なかにぴーまんはいってるじゃねーか!」
「口を付けたら最後まで食べなさいね、ひの」
「うぅ〜」
「こんな感じで、肉以外のものも巻けますから。本当にね、少し体力をつけないと」
「はい… 申し訳ありません」
「謝らなくてもいいですから、ちゃんと食べましょうね」
元々、病弱で食が細く、ついでに、公達ということもあって好き嫌いの多かった敦盛である。
根底に 『怨霊であるから必要ない』 と思っているのかもしれないが、体だけではなく心の維持の為にも、食物をとり込んでゆくのは必要なことなのだ。
「弁慶、お前も世話ばかり焼いていないで食べないと」
「ふふ、ちゃんと食べてますから、大丈夫ですよ」
「… … お前の、熊野での生活は、いつもこのようなものだったのだろうか?」
「そうですねえ… まあ、余り大差なかった気がしますね」
「そうか」
「そうですよ」
少ししんみりと尋ねてくる九郎に、弁慶は微笑むと、その口に焼き立ての野菜をひとつ押し入れてやった。
案の定、次の瞬間には物凄い顔になり、真っ赤になって口元を押さえ込む。恨みがましい視線に、弁慶はころころと口元をほころばせるだけだった。
「葫ですよ。滋養強壮にいいんですって」
「べっ… べんけ…」
「悩むより、君は僕の為に精をつけてくれればいいんですよ」
「〜っ」
「まあ、頑張って食べてみて下さい、葫ひとつ、六個くらいかな」
まだ皿に残る欠片を網に乗せて、弁慶は自分用の肉をゆっくり口にして噛み下した。
そろそろ次のオーダーを出してもいいかもしれない。
「だーっ! おっさん、シャーベットとアイス! なんでもいいから、あと氷」
「? 何事です?」
「ひのが間違えてオレのタレ使っちまったんだよ。幾ら何でも子供には無理だ」
「そりゃあ… そうでしょうね」
「わーん、ひのー、ひのー!」
「とにかく氷を舐めるんだ。ひの、ひのっ」
「えーと… バニラアイスと、ゆずシャーベット。あと、サンチェと野菜の盛り合わせを二皿、あと、ウーロン茶と、アイスミルク、下さい」
少しの休憩も僕には無いんでしょうかねえ… と、弁慶は心で、再びため息をついて見るのだった。
「あー、食った食った」
「兄さんは食べすぎですよ。ビールまであんなに飲んで…」
「一応二十は過ぎてるぞ」
来た時と同じ賑やかさで、団体が店を後にする。
既に日もとっぷり暮れて、街灯が目に眩しい。
「あー… しぬかとおもった」
「大丈夫か? ひの。まだ舌が痛むのだろうか?」
「ちがうっ。おっさんがぴーまんよっつもくわすから…」
「余計な騒ぎを起こしたバツですよ。これでもうピーマンも平気でしょう」
「にどとたべねーよっ。おっさんのあほー」
「おや… 減らず口をたたくのは、この口ですかね?」
うにゅっ と両端から頬をつねられて、ひのがじたばたともがく。再び自由になった頃には、その両頬は真っ赤に染まっていた。
「いたいー…」
いつもならすぐになでなでしてくれる小さな手の持ち主は、眠気がたたって今はヒノエの背中である。
まだ寝付いてはいないものの、うとうと うとうと と、その桜色のほっぺをぽわん とさせて、睡魔と格闘中だ。
実際は、ひのも眠くて仕方がなくて。でも意地を張って、敦盛に手を引かれ、ぺたぺたと自分の足で歩き続けていた。
たまに ことん と落ちそうになる頭は、旗からみていて可愛いが、少し心配で。
「ひの、私がおぶるから、ひのも眠った方がよいのではないか?」
「やだ。あつがちゃんとねむるまで、おれはねないっ」
「ひの…」
「いっそ、リズ先生の背中で、二人そろって寝てはどうでしょう」
「私は構わないが… どうする? ひの」
「やだ」
「まったく… 本当に、強情なんだから。昔の誰かさんを思い出しますねえ」
「… 悪かったな」
「敦盛君も、眠いのではないですか? 少し頬が赤いですよ?」
「いえ… その、私は、大丈夫ですから」
「なんだ? 眠いなら、俺がおぶってやろうか? 敦盛」
「は?」
「それは却下。アンタの背で敦盛を眠らせるなんて御免だね」
「兄さん… だんだんオヤジになってきてないか?」
「失礼なヤツだな」
「じゃあ、これかな。ひの、眠気覚ましの飴をあげますよ」
「… またぴーまんじゃないだろうな」
「すーっとする飴です。さっき、焼肉屋さんでもらったんです」
「あまいのか?」
「ちょっと辛めかな。我慢できますか?」
「あつのためならがんばるぞ、おれ」
とにかく家まで寝たくない、と、ひのは素直に弁慶の取り出した飴を口に含んだ。
とたん、ぴりっ と辛い味がして、口の中が息をするたびスースーとしてくる。
「うわっ わっ!」
「薄荷飴です。九郎もどうですか?」
「そうだな… 口の中が、葫臭くてかなわん」
「元々は、そういうものを食べた後の臭い消しなんですけどね。はい」
ぽん と九郎の口にも飴が入った頃、ひのはなんとか落ち着きを取り戻し、口の中の飴と格闘していた。
幸か不幸か、焼肉屋での大量コチジャンタレと比べれば、薄荷の方が幾分マシで。三分もころころと舐めていく内に、自然と口の中も慣れてくる。
「… へいきだ。それに、ちょっとだけめがさめた」
「よかったですね、ひの」
「ありがとな、おっさん」
「はいはい、このまま、歯磨きをするまで頑張ってくださいね」
よいこの教訓に念を押しつつ、またとことこと歩き出す。と、歯磨きの声に、ぴく とあつが反応した。
「ん〜… はみがき…」
「あれ。あつ、歯磨きは、まだもうちょっと先だよ」
「あつ… はみがき、しなきゃ…」
むにゃむにゃと寝ぼけているあつに、ヒノエは二・三度背中を揺らしあつをあやした。
それをじーっと下から見上げるひのに、かちりとあつの視線が止まる。ヒノエの背でまどろみながら、あつはぼんやりと、ひのに手を伸ばそうとした。
「ひの〜…」
「あ、こら」
「ひのは、はみがき、おわったの?」
「まだだけど、かわりにあめなめてるぞ。はみがきまでがんばれるあめ」
「あめ… あつも」
くてん としながらも、あつがひのを捕らえ傍に寄るスピードは速かった。するりとヒノエの背から下りると、かわりにひのの肩にくったりと体重を預ける。
まだ夢現の定まらないあつを何とか全身で受けとめて、ひのはそのまま、自分の口の中の飴を、あつの口の中に直接移した。 のが、間違いだった。
「バカ! ひの…」
「え?」
「ん… んーっ! やーっ!」
「あつ?」
「敦盛が舐めらんねえ飴をあつが口に出来る筈ないだろうが! あつ、早く口から飴出せ!」
「わーん! からいーっ! くちがからいーっ!」
「わーっ! あつからつのがはえたーっ!」
「ひのー、くちがからいーっ! やー」
「わわっ、しっぽまででてきた! あつもりー、どうしよー?」
ちなみに、角が生えた時のあつの攻撃力は岩を砕くくらいである。
敦盛には劣るものの、なかなかの攻撃力と、ふさふさ襟巻きの保温性が確認されているのだ。
「… どうもこうも…」
まさか自分まで変化する訳にはいかないし… と、敦盛も途方にくれる。確かに、力で考えれば自分が押さえ込むのが一番なのだが。
「焼肉のおかげですかねえ… 尻尾まで、出ましたね、今回」
「そういう場合じゃないだろう、弁慶」
「あつくん、今日は、飴をぽいしていいですよ。景時、あそこの自販機で、水を買ってきてください」
「はいよっ」
「あめかんじゃったーっ! べんけいどのー!」
「ああもう…」
「弁慶… 水は買ったけど、どうしようか? あつくん、凄いじたばたしてんだけど」
「近寄れませんよねえ… 今のあつ君は、一撃で電信柱を折れますからね」
「わーん!」
「とにかく、あつ君を一度確保しないと…」
「そうだっ。サンショウウオたち」
「え?」
「がんばれみんなっ」
ぽんっ と景時の銃から出てきたのは、式神というには余りにも愛嬌のある、てろりん としたサンショウウオたちであった。
黒くてつるつるした物体が数体、まるで戦隊もののように しぽーん と飛び出しポーズを決め、ちょたちょた と暴れるあつの側に近寄っていく。
頑張れ、サンショウ戦隊ウオレンジャー。
「… 景時殿。あのサンショウウオなのですが… 歩いていませんか?」
「うん。今日の大道芸で身に付けた業なんだけどね」
「すげーな…」
「あつくーん、サンショウウオさんたちが来たよー」
普段からお気に入りの景時のサンショウウオに、あつの視線がぴたりと止まる。
そしてサンショウウオたちは、こんな芸をあつに披露した。
『 いーいーな いーいーな にーんげんっ て いーいーなー 』
「あ…」
『 おいしいおやつに ほかほかごはん 』
『 あったかい ふとんで ねーむるんだーろーなー 』
『 ぼくもかえーろ おうちへ かえろ 』
『 でんでん でんぐりかえって ばい ばい ばい 』
(By にほんむかしばなし http://www.youtube.com/watch?v=sUz8XB-4Qz8)
「… さんしょううおさん …」
ころん、とサンショウウオたちがでんぐり返しをして、芸は終わった。
にっこり笑顔でぱちぱちと拍手をするあつから、先程までの混乱は見られない。
「あつ」
「あ、あつもりー」
「ほら、だっこ」
「んー」
「ちゃんと角をしまわないと」
「うん…」
「舌、出して」
「うん」
「少しだけ、我慢していてくれ」
大人しくなったあつを撫でながら、敦盛が優しく、そのひりひりと痛む口を広げさせる。
そのまま、敦盛はあつの小さな舌を、己の舌で舐めてやった。
「敦盛…」
「うぅ… あいてがあつもりだと、おこれない… ひのえー」
「オレを怒ってもしょうがないだろうが」
「うー」
「全く。自分も舐めれないクセに無茶しちゃって」
「責任を感じているんでしょう」
「あー… お水、二人分の方がよかったかなあ」
銘々好き勝手言っている内に、無事あつの角と襟巻きと尻尾も納まり、敦盛があつを抱きかかえて戻ってくる。
敦盛の胸の中でばいばいをして、サンショウウオたちが景時の銃に戻った頃には、またあつはうとうとと夢の中に戻っていった。
「ほら、少しでも水で舌を拭って」
「ん…」
ちゃぷん と波打つペットボトルの水をちょびっとだけ口に含んで、そのままあつが敦盛の胸に突っ伏す。
すー すー と聞こえてきた寝息に、敦盛は苦笑すると、ことを見守っていた者達に深く頭を下げた。
「申し訳ありません。皆に、大変な迷惑を…」
「別にいいですよ。君たちのお守りなんて、今に始まった事じゃないんですから」
「そうそう。おかげで、俺のサンショウウオ達もレベルアップしたし」
「子供が泣くのは当たり前の事だ。気にする必要はない」
「そーそー、かたいこと言うなって」
ばんっ と将臣に背を叩かれて、敦盛はあっけにとられた後、もう一度礼を述べるとしっかりとあつを抱き締めた。
そして、足元にひのと、すぐ横にヒノエが近付いて来る。
「ほら、お前も水飲んで。辛いだろ?」
「いや、私は、その…」
「無理しないの」
ちゅっ と軽く口付けられて、敦盛は眉間にしわを寄せると、大人しくヒノエに示されたペットボトルに口を付けた。
ただでさえ薄荷で辛いのに、ヒノエの口まで唐辛子の味で、正直、今口付けている気にはとてもなれない。
「ふふ。歯磨きしたら、またね」
「… 今日は、嫌だ」
「むー、ひのえもあつもりもずるいー。おれにもちゅー」
「ひのは、おやすみの時にしよう。本当に… 今は、ちょっと」
「だってさ。ひのも、今日はガンガン歯磨きしろよ?」
「ひのえにいわれたくねーよっ」
「全く… いつもながら、人騒がせな子たちですねえ」
「またまた〜。弁慶だって楽しんでるくせに」
何とか事も収まって、今度こそ、本当に帰路である。
空には、くっきりと美しい月が浮かんでいる。
「子供だらけで、少し疲れましたよ」
くき、と首を曲げ、肩を揉む様にして、弁慶は騒動も過ぎ、のんびりと目の前を歩いている子供たちをふと見遣った。
まあ… いいんですけどね、と、思うのは、束の間の平和に、心が和んでいる証拠だろうか。
「疲れたのか?」
「まあ、ね」
「なら、背に乗るか?」
「はあ?」
「別にお前くらいなら、酒が入っていようとおぶるくらい…」
そして、何処までも真面目で出来ている、一応の主、兼親友、兼一番大きな子供に、
笑ってしまうのは、仕方がないのではないか、と思うのだ。
「ふふ… あははっ」
「弁慶?」
「嫌ですねえ。そんなこと言ったら、ほんとに頼んじゃいますよ?」
「だから、いいと言っているのに」
「九郎ってば… ま、弁慶も、この際だから甘えちゃえば?」
「そうですね。ほんと… あははははっ」
「何が可笑しいんだ?」
よく見れて怪我人かな、と思いつつ、遠慮なく、その背に縋って、歩みすら、委ねる。
揺らぐことない足取りと、ぬくもりと、それから、馬の尻尾みたいなくるくるの髪を、指先で、弄んで。
「偉いですね、九郎は」
「お前に葫まで食わせられたからな」
「うん。楽しかったな、今日」
「そうか」
そんな言葉で締めくくって。
賑やかな一日が、やっと、終わっていくのであった。
こちらのサイト様からいただきました→
こちらのサイトさまは閉鎖されました。お疲れ様でした!
花見日和の続きで、雪理さんにキリリクでいただきました!!
キリリク1回しか踏んでないのに2つも書いてもらってしまって申し訳ない…。
送っていただいたときに喜びのあまり夜中に叫びました!!
こんな前代未聞なわがままを聞いてくださってありがとうございました!!