いざ 大運動会! in 常世
30 放送係の人は至急、本部テント放送席に来てください
「冗談じゃぁ無ぇって!
たかだか運動会の借り物競争で、黄泉比良坂に行って命を落としかけるなんてなぁ」
「将臣君、本当に行ってきたんだ」
「どういうことだい、兄さん?」
「桃なら黄泉比良坂にあるって言うから、行ってみりゃぁ
訳の分からねぇゾンビみてぇな連中に襲われてよ、危うくコレだ」
そう言って将臣は左手の親指で自分の首を真横に一閃、掻き切られる仕草をした。
「黄泉醜女達に襲われて、よく無事でしたね」
そう風早が言うと
「ああ、そっちの2人に助けられなけりゃぁ、かなりヤバかったんじゃねぇか」
「アシュヴィン、君が助けたのですか? どういう風の吹き回しですかね」
「助けてもらったって言うか、巻き込まれなくて良かったって言うか。
ともかく、サンキューな」
「さんきゅぅ?」
「『ありがとよ』って意味だ」
「礼には及ばん。リブが教えたからな。行きがかり上、少しは責任があるのでな」
「や、私ですか。殿下が教えてやれと」
「フッ、まさか本当に行くとは思わなかったのでな。それも、丸腰でとは恐れ入った。
無知なのか、恐れを知らないのか、それとも、存外ただのバカか」
「将臣君の場合は、最後のだな」
「兄さんの場合は、2番目ではないでしょうね」
「おいおい、お前ら、言いたい放題だな」
「いいじゃない、生きてたんだし。結果オーライでしょ。
さっさと道臣さんのところに行って、判定してもらって来れば」
「随分とザックリな『結果オーライ』だな、おい」
そう言いながらも、道臣に紙を渡し、将臣はゴールラインをまたいだ。
「『桃』ですか。で?」
「ああ、これだ」
「これは! 意富加牟豆美命!」
「へ? これって桃じゃ無ぇの?」
「い、いや。桃といえば桃ですが、この世の桃ではありませんので……、
いや、でも……そうですね、桃であることには間違いありませんので。
では、有川将臣殿のゴールを宣言いたします」
割れんばかりの大歓声
「でも、6位だけどな。兄さん」
「望美じゃ無ぇけどな、生きて帰って来られただけでもラッキーさ。
順位なんてものは、どぉでもいいぜ」
「続きまして『借り物競争』最終レースです! 出場選手はスタートラインに集合してくださぁい!
じゃあ、私も、っと。あ、望美さん、アナウンスお願いできますか?」
「いいけど、私より適任がいるから。将臣君! やりなさいよ」
「おいおい、ほんのちょっと前に命カラガラ帰ってきた奴に仕事振るかぁ?
人使い、荒ぇんじゃねぇか?」
「大の男が『命カラガラ』とかって、何女々しいこと言ってるのよ。
いいから、アナウンス、やってね。MC得意でしょ」
「へいへい」
渋々放送席に着くと将臣は
「あー、あー、テステス。コホン。ちょいボリューム上げて……と。
それと景気の良いBGMは、何かないのかよ……、へぇ、あの風早、こんな趣味してんのか、OK、OK」
それまでの『天国と地獄』『剣の舞』といったのどかな運動会の定番曲から
いきなり大音響のロックがドラムとギターの音も高らかに鳴り響き、観客の度肝を抜いた。
それに負けぬ将臣の、クラブのDJか格闘技のリングアナのような声が、響き渡る。
「じゃぁ野郎ども! 中つ国の姫君のアナウンスから変わって、俺、有川将臣がMCぶちかますぜぃ!
ホットなロックのBGMで、先ずは選手紹介だぁ!」
「くくく、……ノリノリと……いったところだな。……還内府殿」
「そんな事言って無ぇで、この酒持って、早ぉ『ごおる』とやらをした方が良いんじゃねぇか?」
「だぁから、飲んじまっちゃぁダメだってば。もう、しょうがねぇなぁ」
「ああ、この酒も……また甘露……、くくく」
「まずは平成・鎌倉チーム!
大昔はヤンチャな荒法師! ちょっと前まで源氏の天才腹黒軍師ぃ! 武蔵坊弁ンン慶ィィィ!!」
「やれやれ『天才』と『腹黒』を列挙されては、喜んでいいのか怒ればいいのか、困りましたね。フフフ」
「眼が笑っていないぞ。将臣だとて悪気があって言っているのでは無かろう。許してやれ」
「嫌だなぁ、九郎。フフフフフ」
「べ、弁k……」
「続いて、源氏軍の後方担当、兵站の専門家、物資調達と情報工作にはめっぽう強い
「やっだなぁ〜将臣君〜、そんなにおだてないでよ〜。照れるなぁ〜、ははは」
が、女性にまったく弱い!
北条政子に春日望美、そして中でも可愛い妹、梶原朔には歯が立たない!
そんな愛すべき源氏軍の戦奉行、梶原ぁぁ景時ぃぃぃ!!」
「ちょっと! 将臣君! 私、政子さんと同等なの!」
「私など、それ以上なのですか!」
「兄さん! 失礼じゃないか!」
「ああ、やはり譲殿は」
「この世の中に、いま言った3人に勝てる奴なんていると思ってるのか!?」
「譲殿! それ、どういう意味ですか?」
「譲君! それってどういういこと!」
「え? あ! ……いや、その〜アハハハ」
「次! 笛を吹いたら天下一品、平家のアイドル、みんなのアイドル!
はにかんだ笑顔は天下無敵、すべてが許されるぅ、無冠の大夫ぅ、平ぁぁ敦盛ぃぃ!」
「ま、将臣殿……」
「へぇ、将臣にしちゃぁ、神経逆撫でするような言葉がなくて、まぁまぁだね。
オレの敦盛を侮辱したらタダでは済まさないところだったけれど、ね。
『すべてが許される』だけは、ちょっと失礼なんじゃん」
「ヒノエ、……手にしたジャマダハルだけは、しまってはくれないだろうか…」
「そして平成・鎌倉のトリを飾るのはぁ! 奥州藤原氏四代の栄光!
都に次ぐ第2の都会、平泉から遣ってきたぁぁ、藤原ぁぁぁ泰衡ぁぁぁぁ!」
「愛い奴ではないか。銀、あの者に褒美を与えよ」
「恐れながら」
「なんだ、申してみよ」
「還内府殿は、泰衡様をあまり存じ上げておられぬだけかと」
「だから言いたくても、あれ以上は申せぬということか」
「御意」
「続いて神代は中つ国・常世チーム!」
歓声が沸く。
「まずは中つ国の二の姫にして、こっちの世界の龍神の神子ぉ!」
場内の歓声が一層大きくなる。
「譲と仲良し、でもアシュヴィン殿下と結婚した、葦原千尋ぉぉぉぉ!」
「中つ国、万歳!」「姫様、万歳!」「アシュヴィン殿下、万歳!」が嵐のように会場中を埋め尽くした。
「に、兄さん! さ、朔、誤解しないでくれ!」
「え? 違うのか? 弁慶がそう言ってたぜ」
「弁慶さん!」
「弁慶殿!」
「見えているのかその細い目で。しかしその実、アシュヴィン殿下の切れ者副官!
お茶の時間が大好きで、会話の最初に『や』や『ま』が付くのが玉に傷、リィィィィブゥゥゥ!」
「や、そんなにも会話の最初に『や』とか『ま』を付けては喋らないでしょうに。ねぇ、殿下」
「リブ……、存外、気付かぬものだな、己の癖というものは」
「や、そうでしょうか……。ま、そうですね。や、付いてますね」
「平成の世では一介の高校生。こっちの世界では昼寝の兄ちゃん。
その実どっちにあっても凄腕の鬼道使いぃ! きのこ大好き、那ぁぁぁ岐ぃぃぃぃ!」
「あんまり鬼道のこと、おおっぴらに言って欲しくないのにね、
ま、『昼寝の兄ちゃん』は正しいんじゃない。どっちでもいいけど。
それにしても、有川。君の兄さん、プロレス観過ぎじゃない」
「槍を持ったら天下一、と言われる日を夢見て鍛錬の日々。 忍人大好き狗奴族少年!
頑張れ! 足往ぃぃぃぃ!」
「はい! おいら、頑張ります! 忍人様! 見ててください!」
「OK! 全員、スタートラインに着いてくれ。
望美、合図、よろしくぅ」
競技場全体の視線が、スターターの台に立った春日望美に注がれた。
ワイヤレス・ピンマイクを通して、望美の声が聞こえる。
「泰衡さん、最初から線を越えていないでください。
千尋ちゃんは女の子なんだから、一番内側の先頭に。
スタートの瞬間に他の人を押したり絶対しないでください。
準備、いいですか? 那岐君、大丈夫?
では」
観客が静まりかえる。
「位置に着いて」
高く掲げられた、望美の右手、スターターピストルに、会場内全員が注目した。
「用ぉ意」
パァン!!
「OK! 第4レースの開始だ!」
13/01/27 UP
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