知盛の何気ない日常いちにち











  2





ひったくり男は懐からやや大きめの無骨なスライド式のピストルを取り出して、こう言った



 「モ、モデルガンじゃ、無ぇからな!!」



 「ほお……」


 「組の兄貴から、どこかに処分してすててこいって渡されてた、本物の中国製のトカレフだぞ!!」



 「ロシア製トカレフの『中国製コピー』だけど実弾は出るぞって意…みぃぃいいい痛ててて!

  !! 痛い痛い痛い! せ、説明してやっただけだろ!! や、止めてぇぇ!!」




ピストルを前にして恐れを知らない態度に見える知盛だが、

残念ながら平安時代人の知盛はピストルというモノを知らないのだから、恐れる必然性がどこにもないだけであった。

従って「モデルガンじゃ、無ぇからな」と言うのも「トカレフだぞ」も、この場合は何の脅しにもならないのだった。



知盛にとってピストルに似た、唯一見覚えのあるモノといえば……。



 「ほお、お前も……陰陽をやるのか?」



 「痛い折れる痛い!!」


 「お、おんみょうだぁ? 何、訳の分かんねぇ事言ってんだ! ピストルこれが恐くないのかよ!!」



 「痛い痛い折れる折れる!!」


 「恐い? 何故? ククク、陰陽まやかしなど……、俺には通じぬ」



 「痛い痛い痛い折れる折れる折れる!!」



 「野郎!!!」



ダァーーーン!!!



耳をつんざく弾丸の発射音

後ろ手にねじり上げている男の、手に持った木刀が半分ほどの所で、砕けた。



 「バ、バババカ野郎! 落ち着けよ!! お、俺に当たったらどうするんだ!!

  い、痛ててててて!!

  二人共どっちも止めろ! 止めてくれぇ!」



仲間に銃口を向けられている恐怖と、利き腕の関節をきめられている激痛に、もはや泣き叫んでいた。



ところが知盛は、初めて聞くその音と破壊力に、何故か



 「クククク、ハハハ! 面白い…。久方ぶりに…楽しめそうだ」




ねじり上げていた男の首筋に軽く手刀を入れると、男はあっけなく気を失って知盛の足下に崩れ落ちた。



 「これで…お前だけ…だ、ククク」



不敵に笑いながら、知盛は銃口の前に両手を大きく拡げ、仁王立った。



 「手前ぇ! 本当にぶっ殺してやる!!」



 「ククク、そう…、そうだ……。本気で来い…

  …俺も、久しぶりに……、本気で……いくと、しよう」



 「手前ぇ!!!」



その時、知盛は相手に背中を向けた。



 「ハハッ、今更、怖じ気づいたのか!」



 「ククク、いいのか? 早く…しないと……、こっちからいくぞ」



 「何だと!!!」



知盛が右手をゆっくりと上げる。

男がピストルのトリガーにかけた人差し指に力を入れる。

知盛の指が鳴る。



パチン!



2発目の実弾を発射することなく、トカレフは男の遙か後方に弾け飛んだ。

男の右手の人差し指と親指が灼けるように熱い。



 「ぐぉぉぉぉ!!!! て、手前ぇ! な、何やった!」



見慣れない方向に曲がった二本の指を押さえて、膝を突き、男は苦痛に耐えながら問い質した。

間違いなく、2本の指は骨が砕けている。



     こちらを向いた男の薄笑いは、失望と狂気の複雑に入り交じった目で自分を見下ろしている。

     間違いだった、この男に喧嘩を売ったのは

     今更だが、分かったのは、こいつには何人でかかっても勝てっこないということだった


 「もう……終わりか?」



 「ば、化け物だ!!!!」



逃げだそうとするが、足がすくんでもつれる。

気絶した(殺されたのかもしれない)仲間の身体につまずく。



 「……逃げても……無駄…だ」



     ゆっくりと男が後ろを向くのが、肩越しに見える。

     間違いない、俺はあいつに殺される!

     ピストル向けたのは確かに俺だけど



パチン!



     消えゆく意識の中で、男の指が鳴った気がした。







材木座の海岸脇の道路で襲って来た7人の、最後の1人を術で吹っ飛ばした後

知盛は、男の持っていた『トカレフ』とか言うものを拾い上げ、

男が持っていたのと同じように握り、



  梶原の陰陽とも、俺の術とも違うのだな



と、しげしげとピストルを見つめた。



遠くから、何やら音を鳴り響かせ、屋根に派手な赤い光をきらめかせた車が何台もやって来た。

その車に乗った人間達が自分を捕まえようとしているなど、夢にも思っていない知盛は
新しく手に入れたオモチャピストルを観察することに没頭していた。



似たような車から降りてきた

似たような服を着た男達、十数人が
自分の持っているオモチャピストルと少し形の違うものをこちらに突きつけた。



 「銃を置いて、両手を頭の後ろに回せ!」



 「無駄な抵抗は止めろ!!」



 「お前は完全に包囲されている!」















平知盛は、もうかれこれ6時間近くは取調室の椅子に座っていた。

『刑事』という種類の男が、入れ替わり立ち替わり、あれこれうるさく、いろいろな事を尋ねるのだが、

そのほとんどは、どう答えていいのか分からない類のものだった。

そこで知盛としては正直に



 「分からないな……」



 「知らない……」



 「さあ…な……」



と、答えるより他になかったのだが、ほとんどの『刑事』は怒って部屋を出て行ってしまうのだった。

取調室で、『調書』というものを書き込んでいた、人の良さそうな初老の警官は

 「あまり刑事さん達をからかうと、後が恐いぞ」

と、警告と言うよりは親切心からの忠告として、そう言った。







また1人別の刑事が、取調室に入ってきた。

刑事は、二言三言、調書係の警官と小声で言葉を交わし、知盛の前の椅子に腰を下ろした。



 「お前がいろいろ正直に言ってくれないものだから、えらい時間、食っちまったよ。

  お前も疲れたろう、こんなトコにずっと座りっぱなしで」



 「……」



 「古風な名前だな」



 「?」



 「平とももり」



 「……」



 「有名人だな。お前」



 「……?」



 「18,735円。由比ヶ浜のファミレスの今日のレシート。四日前の坂ノ下のコンビニのレシート。

  お前の所持品から近くに住んでいる者だろうって読んで、鎌倉署管内に問い合わせた。

  今、やっと回答が来たよ」



 「…かいとう?」



 「ああ、稲村ヶ崎駐在所から、報告があったのさ。
  駐在は、顔の入れ墨それを聞いた途端に、住所と名前が出てきたとさ。平」



 「それはそれは…」



 「それと2万円の一件も」



 「2万?」



 「あのサラリーマンは、あの後すぐに自宅近くの稲村ヶ崎駐在所に電話してるんだよ。

  ひったくりに遭いそうになった事。それを、顔に入れ墨それの男性に助けられた事。

  謝礼に2万払った事。みんなだ」



 「ああ、……あの男…か」



 「お前の持っていた残金とレシートの金額を足すとちょうど2万。

  ホントに、そんな事があったんだな?」



 「そういう……話なのだろう?」



 「その場所はどこだった?」



 「さあ…な」



 「何だと!」



 「この辺りの…地理に、まだ……疎いのでな」



 「ったく! で! そのひったくりが逆恨みして、仲間を集めて襲ってきた。

  これも間違いないんだな?」



 「ああ、…そうだろう…な」



 「トカレフはその中の1人が所持していた」



 「……ああ」



 「これで正当防衛…ってか? 署長も無茶言うぜ! 7人も半殺しにしておいて…」



 「…殺しては…いないだろう?」



 「ああ、そんな事してみろ、そん時こそ遠慮無くしょっ引いてやるよ!

  ところで、後学のために一つ教えてくれ」



 「……」



 「実弾の入ったピストル相手に、どうやって戦ったんだ?」



 「さあな」



 「相手の右手親指と人差し指は粉砕骨折だそうだ」



 「ほお」



 「容赦無ぇな」



 「俺は…ピストルで撃たれた方が……、良かったと?」



 「いや、そうは言ってない」



 「どっちでも…、いいがな…」



 「ところでお前、両親が海外出張中の高校生2人の家に居候してるんだって?」



 「…居候…ククク」



 「有川兄弟を脅してるんじゃ、ないだろうな!」



 「脅して?……ククク、さあな……」

















 「鎌倉警察署だからな!

  俺はこれから、また部活で学校なんだから、兄さん行ってくれよ」



 「俺かよ!」



 「当然だろ、兄さんは知盛の保護者なんだから」



 「俺は未成年だ。引き取り手としてはダメだろうぜ」



 「だったら俺だってダメだろう!」



 「どうする…か」



 「リズ先生にでも行ってもらう?」



 「そうだな……。

  あ! いや、もう少し口八丁なのがいた」



 「ヒノエ?」



 「あいつだってまだ誕生日来てないだろう。未成年だ。

  それにあいつは今、敦盛のコンサートだからって、明日までは東京じゃなかったか?」



 「ああ、そうだった…。じゃあ、誰を?」



 「あいつの叔父さん」



 「え? あいつのって…ヒノエの? ああ! なるほど」











 「いったい、どこの世界に、正月2日に警察署に来て、

  平家の将を貰い受ける、源氏の軍師がいるのでしょうね」



 「ククク、さんきゅ」


 「はぁ……、知盛殿。本当につまらないところだけは還り内府殿まさおみくんに似てますね」



 「義理の兄上……だから、な」



 「やれやれ、君を連れ出すために、今日の予定をほとんどキャンセルした上に

  ここに来てからもあちこちに、2時間近く電話のかけ通しです。

  神奈川県警本部長と鎌倉市長あちこちに借りも作ってしまいました…」



 「相変わらず……、交友関係は……、ククク、手広くやっているな。軍師殿…。

  おっと……藤原慶二殿、と…ここでは言った方が……いいのかな?」



 「どっちでもいいですけどね、話は付けましたから。後は」



弁慶の携帯が鳴る。



 「ちょっと失礼」



そう言って、弁慶は部屋を出て、警察署の殺風景な通路で携帯を開く。

送信者は…

 「景時の家電…、珍しいですね。景時がこんな時間に電話をしてくるなんて。   もしもし、景」



 「弁慶さん!」



 「これは、望美さん。明けましておめでとうございます。

  珍しいですね。どうしたのですか?」



 「明けましておめでとうございます…、ってのんびり言ってる場合じゃないんですよ!

  緊急事態なんです! 弁慶さんしか、頼れる人がいなくて」



 「うれしいお言葉ですね。正月早々、いったいどうしたと言うのです、そんなに慌てて?」



 「実は、九郎さんが……」




望美の話を聞いて、みるみる弁慶の顔色が変わる。



 「平家の将こっちが片づいたと思ったら、今度は源氏の将そっちですか…。ハァ…。

  分かりました、こちらで。

  ええ、2時間ほど待っていただけませんか?

  え? ええ、マスコミ関係者の知りあいに。

  ええ、大丈夫です、ハイ。

  2時間以内には、景時の店に電話は掛からなくなると思いますよ。

  ハイ、では早急に手を打ちますので」



と、携帯を切った

 「まったく世話の焼ける」

と独り言ちながら。







そして、弁慶から連絡を受けて、ウンザリしながら将臣が鎌倉警察署にやってきたのは

それから更に1時間ほど経ってのことだった。



 「俺は未成年なのに…」



と、ぼやきながら。















月はみ様へ


こんな感じでいかがでしょう?

変更して欲しい箇所がありましたら、遠慮無く、お申し付けください

御連絡をお待ちしてます!

「運命上書き」待機中です!!












08/06/17 UP

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