お食事に行こう 4 ( 知盛 狼狽える!?編 )
譲に家を叩き出された知盛は、所在なくリズ先生の書道教室の前に佇んでいる。
書道教室が終わったのか、次々に教室から子供が走り出てくる。
戸口で声をかけながら見送るリズヴァーンと目が合う。
悪い笑顔を浮かべ、リズヴァーンに近づこうとする知盛を
突然
御近所のおばちゃんたちが五、六人、取り囲む。
「な、何か…御用かな?」
「見とれるくらい、いい男なのにね」
「あんた、幾つだい?」
「お名前は? あなた!」
「…た、平のともも」
「そ、平さんね。あなた、いったい何をしてる人なの?」
「……何を…とは?」
「まさかフリーター?」
「え〜、まさか、ね〜」
「いい歳して、有川さん所に居候だなんて」
「将ちゃんも兄貴肌なのは分かるけど、ねぇ」
「何も自分より年上の面倒までみること、無いのに」
「有川さん家、そういえば今、御両親とも海外でしょ」
「そうそう、譲君もヒトが良いわよね。家事、全部やってるんでしょ」
「あんた、お手伝いとかしてあげてるんだろうね?」
「……お手伝い…?」
「ああ、ダメだ、ダメダメ。こりゃ、してないわ、あっははは」
「ちょっと、笑い事じゃないよ。
有川さん家の奥さん、『むさい男の子が二人なんで、留守の間、よろしく頼みます』って、
言って行かれたじゃない」
「そう言えば、今どこなの、有川さん?」
「イタリアとかって聞いたけど」
「地中海にご夫婦で赴任♪ 羨ましいわ〜」
「お正月くらいまで、有川さん家、いっぱいお客様がいたわよね」
「ククク、八葉共か…」
「はちよ? 違うわよ、違う違う、そんな名前じゃなかった」
「一人、金髪の素敵な人がいたわよね」
「リズ先生?」
「リズ先生もいい男だけどぉ、そうじゃなくって、
いつもきちんとボウタイとかしめて、白いフードのコート着てた」
「ああ、春日さん家の奥さんがすっごくお気に入りの」
「あたし、紫の髪の女の子が可愛かったな。ちょっと、いないよ。あんな華奢な子」
「その娘、七里が浜の方で喫茶店、始めたでしょ」
「ええ! ホント!? だったらあたし、絶対通っちゃうな」
「あら、違うわよ、それ梶原さんでしょ。朔ちゃん。いい娘よ、落ちついてて」
「ああ、望美ちゃんのお友達でしょ。
引っ越す時も、喫茶店が開店した時も、挨拶に来たじゃない」
「ああ、あの娘。だったら違うわ。綺麗な娘だけど、あの娘じゃない。
ほら、よく横笛吹いてたじゃない、あの子よ」
「え? それって男の子よ。『あつのり』とか『あつもり』とかって呼ばれてたもの」
「あんた、よく知ってるわね」
「いい男ばっかりだったから、盗聴器でも仕掛けたんじゃないの?」
「え〜、嘘ぉ」
「嫌だな、冗談でしょ。やってないわよ、そんなこと。
あたしン家、有川さん家の隣だから、結構、玄関や庭での話し声、聞こえるのよ」
「あの子、この前コンサートしたのよ。新聞に写真載ってたじゃない」
「そう言えば、もう一人、最近よくテレビに出てない。ほら、あの長髪の」
「あんた、知らないの? 源九郎君」
「あ、タオレンジャー」
「え、あの子がそうなの。うちの孫、カード集めてるよ」
「あなたも、見習いなさいな」
「源氏の総大将殿を…か」
「そうよぉ! あなたも、いい男なんだから、真面目に働きなさいよ」
「そうそう、せっかくの顔に入れ墨なんかして」
「きゃ〜、これ、入れ墨なの?」
「さ、触らな…いで、もらえるか…」
「すっご〜い、あたし、顔に入れ墨してる人、初めて見たわ」
「ダメね〜、堅気の職業、難しいわよ」
「でも、ファンデとかで隠せるんじゃない?」
「そうそう、働き口ならあたし達も探してあげるから」
「そういえば、江ノ島の駐車場でアルバイトの募集してたわね」
「だったら、鎌倉の人力車屋さん、いつでも募集してるじゃない」
「あの人力車って、お給料、どうなってるのかしら」
「小町通りでよく見かけるわよね」
「でも、あたし、声掛けられたこと無いわよ」
「そりゃそうよ、観光客相手の商売なんだから」
「観光客か、そうでないかって、どこで見分けるのかしら」
「何となく、なんじゃない?」
御近所のおばちゃんたちの会話は
知盛への説教から、知盛を輪の中心に置いただけの、単なる世間話になり
いつ果てるともなく続いていた。
そんな知盛の様子を、遠くからリズヴァーンは静かに、そして同情と慈愛に満ちた瞳で眺めていた。
「これを……『あうぇい』…と、言うのだろうな……。
ま、俺に…『ほ−む』など、ありはしない…がな…、ククク」