母 帰る 9
「そうですか…。『潮時』と言ったのですね」
「ああ、すまん。まさか、出て行ったまま、戻って来ないとは思わなかったので」
「そうでしょうね」
「俺のせいだ。すまん、弁慶。探してくる」
「おやめなさい、九郎」
「し、しかし…」
「知盛殿とて、よくよく考えての事でしょうからね。
そう簡単には見つからないでしょう。
ま、見つけたところで彼の性格ですから、戻ってくるとは思えませんね」
「そうなのか?」
「ええ」
「…しかし、どこへ行ったのだろうな……知盛の奴…」
「……さぁ……」
「腹を減らしてなければいいのだが…」
「そうですね」
「この……クロダイは、実に……美味…だな」
「これも」
「これ……は……?」
「頂き物だ。『すぐき』と『千枚漬け』という、京の食べ物だそうだ」
「ほぅ……京の……」
と知盛は、千枚漬けを一口食べ
「何やら……懐かしい味がする……」
「うむ……実に、美味だ」
「ククク、鬼も……京が恋しいと……みえるな……」
「……フ……」
「何……か……?」
「……いや……、ただ」
「『ただ』……?」
「『も』…かと、思ったまでのこと」
「ククク…、……『ほぉむしっく』と……言うのだそうな」