母 帰る 10
「ごめんください」
「……どなた…様……かな?」
「え? あら!?」
「……? ……何か?」
「あぁ、あなたがリズ先生のところの『平君』かしら?」
「……ああ…、そうだ……が……、あなたは?」
「リズ先生から、何か聞いていらっしゃらない?」
「……さあ……」
「もう、リズ先生ったらぁ。で、先生は御在宅でいらっしゃるのかしら?」
「いや……、所用で出掛けているが……」
「そう……」
「ごめんくださ…、あら奥様、お久しぶりでございます」
「まぁ、こちらこそ。先日は失礼致しまして」
「いえいえ、こちらこそお気遣い頂きまして、ありがとうございます。あら、そちらは?」
「ほら、こちらの方が」
「まぁ、『平君』でいらっしゃるのかしら?
先日、本多の奥様から、お噂は、お伺いしてましてよ」
「……お噂……?」
「まあ、奥様ったら」
「本当に整ったお顔立ちでいらっしゃるわね」
「ええ本当に。私、一瞬見とれてしまいましたわ」
「ええ、本当ですわね」
「リズ先生も、とても素敵な方だけれど」
「ええ、ここに通ってくる方々は、皆さん美しい方ばかりですわね」
「ごめんくださ…、あら、岡崎様に大倉様」
「盛田会長の大奥様!」
「リズ先生は御在宅かし…、あら、あなたが」
「そうですわ、大奥様。こちらの方が、噂の『平君』ですわ」
「……噂…??」
「ほほほ、敦紀ちゃんも可愛いけど、あなたも素敵でいらっしゃるわね」
「ごめんください…あらあら」
「まあ、片岡様」
「…玄関先が……かまびすしい……ことだ……」
この時初めて、リズヴァーンの帰宅を待ち遠しく思った知盛であった。
「……鬼の帰宅が……、これほど待ち遠しい…とはな…………」