知盛の初月給 1
「……有川…弟…」
「まったく! いつも言っているだろう! 名前を言えって!」
「では……譲…」
「え? な、なんだよ、気持ち悪いな」
「……これ……を…」
と、知盛は白い封筒を渡した。
「これは?」
「ククク…」
「何か、請求書とか督促状とかが入ってるんじゃないだろうな」
しかし、その封筒を良く見ると、『cafe‐restaurant du dragon noir』という見慣れた活字に
珈琲カップに入ったドラゴンのシルエットのロゴ。
怪訝な気分の拭えないまま封を開けると、中に現金と紙切れが入っていた。
いっそう怪訝な気分が助長された譲だったが、紙切れを一目見てびっくりした。
その紙切れには、見慣れた景時の達筆で
『一ヶ月ご苦労様でした。些少ですが、給料です』
そしてその下に、これまた見慣れた朔の文字で、
勤務時間や時給、交通費、税金、雇用保険などが書き込まれていた。
「え!! 知盛…、これ……。いいのか?」
「…少ないとの……文句は、……景時に言え…ククク」
「お前……」
「〜というワケでさ。意外過ぎてビックリしたけど、ちょっぴり知盛を見直したんだ」
「ええ、譲殿。私もです。なかなかできる事ではありませんわ。
さすがは平家にその人有りと言われた新中納言殿ですね」
「ああ、だから今日の夕食は、知盛の好きなものを作ってやろうと思って」
「だから、このように買い出しをなさっていらっしゃるのですね」
と朔は笑った。
「何か、おかしいか?」
「いえ。ただ…譲殿も、知盛殿も、お優しい方なのに」
「『なのに』、何だ? 途中で言うのをやめないでくれ」
しかし朔は、笑ってばかりでそれ以上何も言わなかった。
「気になるだろう! 朔!」
「……平三」
「な、何かな〜〜。怖い顔して? それにこの突き出した掌は??」
「……口止め料を……頂こうか」
「な、な、何の口止め料??」
「先程……届いた包みは……、『あきはばらのでんきてん』からの……『でんしぶひん』……だったな……」
「や、やだな〜〜、みみみ見てたの〜〜〜」
「その事を……、……妹御に……」
「わ〜〜〜!!! ストォ〜〜ップ!! ダメ〜〜!!」
「ククク……語るに落ちる……な」
「ちちちなみに、いいくら、ほ欲しいのかな〜〜???」
「『でんしぶひん』の……一割……」
「え〜〜〜!!!」
「……嫌なら」
「わ、わか、分かったから〜〜! トホホホ」
と景時は自分の財布から57,000円を取り出して渡した。
(ほお……、…一割で……この金額……ククク……、黒龍の神子殿も苦労する……)
そう思いながらも、新中納言知盛は静かに言った。
「さんきゅ、景時」