母 帰る 16
その日、春日望美は、間近に控えた入試に備えての特別講習に加え、
居残り補習まで(強制的に)受け(させられ)て、何気無しに、駅に入らず海岸通りの歩道をぽくぽくと歩いていた。
「春日君、君の名のとおり、『のぞみ』を捨ててはいけないですよ。
もう少し努力すれば、奇跡は起こることがあるかもしれないのです」
めいっぱい努力してるんだけどな……
先生、思いっきり可能性の無さを匂わせてるよね。
あ〜ぁ、こんなことなら第一志望、ヒノエ君の大学にしなければよかった……
夏から、結構ヒノエ君にも譲君にも家庭教師してもらってるのに。
ヒノエ君にできて私にできないことは……ああ、…いっぱいあったなぁ……
駅の時計は5時10分を指している。
冬の日暮れは早くて、もう辺りは夜だった。
でも、最後の模試の結果は奇跡的に、「志望校 要再検討」のE判定から「30%未満」のD判定に変わったから
とポジティブシンキンしながら、波音を右手に聞き、ぽくぽく歩く。模試の結果、家宝にしてとっとこう。
今日は寒くないな。
風もそれほどじゃないし。
最近家まで歩いて帰ってないし、このところ鍛錬もしてない
朔のお店にちょっと寄り道してもいいかな……
講習中切っていた携帯の電源を入れる。
と途端にEメールとCメールと伝言サービス履歴が、ドッと携帯に流れ込んできた。
え!?
歩道に立ち止まって、望美はまず伝言を一つずつ再生する。
「神子姫、連絡、よろしく」
これはヒノエ君の声。これが2時14分。
「望美さん、この伝言をお聞きになりましたら、僕の携帯に連絡をいただけると嬉しいな」
弁慶さんの声、ちょっといつもの軽さがない。これが3時31分。
「望美! え、伝言さぁび……え、その……、こ、これで本当にいいのか? あt」
?? 九郎さん、何? これが3時53分。
「望美、Tel」
将臣君、慌ててる? 4時16分。
「先輩、すみません。補習が終わったらで結構ですから連絡ください」
補習じゃないから、講習だから! 譲君。4時40分。
「神子、皆と連絡をとりなさい」
珍しいリズ先生の渋い声。4時42分。
『保護』して永久保存しちゃお。
「望美、敦盛殿に何かあっ、いえ、そうじゃないわね、敦盛殿を皆が探しているの。
学校が終わったら連絡をちょうだい」
朔!? 4時45分。
慌てて駅に戻ろうとした望美の左脇を、乗ろうとした江ノ電が走りすぎる。
そして極めつけは、5時03分のこれ。
「……大夫…殿を……知らないか…」
知盛!!
そっちから携帯かけてきたなんて、初めてのことじゃない?
しかも留守電にまで入れるなんて、余程の緊急事態なの?
望美は意を決して、朔のお店に向かって走り始めた。