御伽話の王子様   〜ヒノエ君 お誕生日SS〜  2













  「へぇ、『あんな子』なんて言ってくれたんだ」



  「いやだな、なるべく言った通りをお伝えしているのですから、

   途中で口を差し挟まないでくださいね、ヒノエ。

   それに、バカにして言ったわけではないのですよ」



  「『あんな子』だから、判らないね。

   それにしてもよく、こんな嘘臭いお涙頂戴話で譲が作るって約束してくれたね」



  「譲君は、お見通しですよ。

   たぶん、僕の後ろにヒノエ、君がいて、

   更にその後ろに院がいるって事も、ね。

   しかも、君が院の命令に、ただ盲従しているのではなく

   この事態そのものを口実にして『ケーキ』にありつこうと、策を弄していることも」



  「だろうね」



  「いけない人ですね、君も。譲君に策が露見する事も、やはり織り込み済みなのですね」



  「当然じゃん」



  「まるでキツネとタヌキの化かし合いのようですね。怖い怖い」



  「あんたに言われたくないね。

   でも譲は『けぃき』を作ってくれる。そういう奴だからね、『結果おぅらい』って奴だ」



  「将臣君の言葉遣いは本当に不思議ですね。……ああ、言い忘れていました」



  「何をだい?」



  「譲君は今回、『ケーキ』は作らないそうですよ」



  「え!? 嘘だろう!!」



  「嫌だな、僕は嘘なんて言いませんよ」



  「じゃあ、譲の奴、何を作るんだ?」



  「さぁ?? それは僕にも分かりかねますが」



  「なんだ……。『けぃき』じゃ無いのか…」



  「ガッカリするのは早いですよ、ヒノエ。

   譲君が今回作るものも『白龍の神子の世界の美味』にして『望美さんの大好物』、

   そして『この世界では絶対に食べることの出来ないもの』だそうですから。

   その上、最近、譲君の夢にも現れていたそうですからね」



  「ヒュ〜、そいつはすごいね。かえって譲がそこまで言うからには、これは期待できるかな」



  「答の手がかりは『氷室』ですかね」



  「氷室? 氷室って、あの氷室?」



  「ええ、その氷室、です」



  「?」











翌日早々に、氷室の使用許可と乳牛の徴収が、院宣によって下命された。



  「衣笠の氷室って、どの辺りなんですかね?」



  「え〜とね〜〜、衣笠山の東麓で、北野天満宮の北ってところかな〜」



  「ああ、そうだな。山の中腹だが、集めた牛をまとめておくにも都合が良さそうだ」



  「京の市中に近い氷室ですしね」



  「私達の世界で言うと、どの辺りなんだろうね?」



  「兄さん、衣笠山の東、北野天満宮の北っていったら…」



  「鹿苑寺、だろうな。譲」



  「鹿苑寺? あの辺りに寺など」



  「九郎、これは望美さん達の世界での話なのですよ」



  「ああ、そうか。済まん」



  「で、その鹿苑寺とは、どういう寺なのですか?」



  「お? 弁慶、どうしたんだ?」



  「いえ、ただ、将臣君や譲君がそれほど神社仏閣に詳しいとは思えないのですが」



  「まあ、な」

  「ええ、そうですね」



  「それでも、スッと出てきた名だったものですから、あなた方の世界で余程有名な寺なのかと思いまして」



  「え〜、あたし、知らない」



  「先輩、金閣寺のことですよ」



  「金閣寺! な〜んだ、だったらそう言ってよ、将臣君」



  「望美、お前、ホント日本史選択するなよ」



  「え〜、何で」











  「こんな山の中なんだ、金閣寺って」



  「だから! まだ出来て無えって」



  「室町時代ですからね」



  「ま、この世界に室町時代が来るのかは判らねぇが」



  「え!? どうしてなの? 将臣君」



  「望美、ホントお前、文系に進む気か?」



  「え〜〜、どうしてどうして??」



  「先輩、歴史で習う俺達の時代とは、微妙に違ってるじゃないですか」



  「そう? 頼朝さんは鎌倉に居るし、平家は福原に退いたでしょ。歴史どおりじゃない?」



  「望美ぃ……お前、分かってんのか?」



  「何を?」



  「俺達の日本史の教科書に、怨霊が載ってたか? 武蔵坊弁慶は金髪だったか?」



  「異世界、なんでしょうね」



  「さあ皆さん、着きましたよ、ここが衣笠の氷室です」



  「ここ?」



  「はい、望美さん。では、さっそく扉を」



  「いえ、弁慶さん、待ってください」



  「譲君?」



  「戸を開けて中の気温を上げる前に、準備が要るんです」



  「ああ、確かにそうですね。

   闇雲に扉を開いて、中の氷を溶かしてしまっては、元も子もありませんね。

   僕としたことが」



  「はやる気持ちは分からないではない」



  「九郎さん」



  「俺も、あの『けいき』の味を思い出すと、気持ちが落ちつかん。

   武士として、あってはならない事だ。戒めてはいるのだが」



  「九郎」



  「先生、申し訳ありません。先生に教えを受けながら、俺はまだまだ修行が足りません!」



  「九郎、自分の気持ちを率直に認めるのは、恥ずかしいことではない」



  「先生!?」



  「鬼や天狗と呼ばれたリズ先生をして、『ケーキ』の味は忘れられない、ということですか?」



  「弁慶、失れ…」



  「うむ」



  「せ、先生!?」



  「リズ先生も、早く食べたい、と?」



  「将おm」



  「実に…、美味、だった」



  「び、美味……ですか」



  「甘味は疲れた身体を回復させ、思考をより聡明なものへと導いてくれる。

   実に理に適った食べ物だ」



  「なるほど」



  「そんなに期待されてるんじゃ、頑張らないわけにはいきませんね」



  「そうですね。僕達もお手伝いをいたしますので」


  「皆さん、いいですか? では、かねてからの手筈通りに行動してください」











  「譲君、譲く〜〜ん。こんな感じで良いのかな〜〜」



  「景時さん、出来ましたか?」



  「いや〜〜、急な事でちょ〜〜っと形がいびつだけどね〜〜」



  「とんでもない、上等ですよ。これ以上のモノを求めたらバチが当たりますよ」



  「そうかい〜〜、うれしいな〜〜」



  「譲君、景時さんに何を……、あ! ボウルとバットだ! すご〜〜い!」



  「そ、そうかい〜〜? ここの打ち出しなんて、ちょ〜〜っと苦労したんだよ〜〜」



  「兄上、すぐにそうやって御自慢なさるのは悪い癖ですわ」



  「朔ぅ〜〜」



  「では、景時さん、申し訳ありませんが、明日までに

   このボウルとバットを最低でも10ずつ作ってきて貰えますか?」



  「御意〜って、え!? じゅ、十、ずつ!! そ、それh」



  「兄上、作っていただけますわよ、ね!」



  「朔…、御意〜〜〜、トホホ」











  「譲、このようなもので良いか?」



  「す、凄い。俺達の世界でも十分通用します」



  「ならば良い。この『泡立て器』とやらは、前回、2つ作っただけだったので」



  「その時の記憶だけでこれほどのモノを? 手に持った時のバランスがすごくいいです」



  「ならば、良かった」

  「では、これをあと10、作ってはいただけませんか?」



  「10でよかったのか? すでに15ほど作ってしまったのだが…」



  「リズ先生!」



  「うむ?」



  「助かります」











二十数頭の牛が、何かに追い立てられ、一心不乱に歩を進めている。

脇に逸れる牛も、その言葉の通り道草を食う牛も、一頭もいないという有り得ない状況だった。

その一番後ろから牧童のように牛の群れに付いて歩くのは



  「ハハハ、思った通りだぜ」



  「は、はあ……(こ、これはやはり私が穢れた存在だからなのでは……)」



  「いや、思った以上に牛がおとなしくてラッキーだぜ」



  「は、はあ……(牛達は私に怯えている、間違いない)」



  「これなら、予想以上に早く乳搾りに取りかかれそうだな」



  「は、はあ……(将臣殿は私の真実を御存知のはず。それが解っていて)」



  「どうした? さっきから『は、はあ』しか言ってねぇぜ」



  「は、はあ……(ああ、それでこの役を、私とやると名乗りをあげられたのだな)」



  「敦盛?」



  「い、いや。私は感謝しているのです、将臣殿に」



  「は、はあ?」



  「このような私に仕事をお与えくださって」



  「お前、何か激しく勘違いしてるんじゃねぇか?

   ま、俺、感謝されてるみたいだから、OK。 それより、先を急ぐぞ」



  「はい」











  「譲君のお望み通りの量の砂糖

   明日にはこちらに届く手筈になりましたので、御安心くださいね」



  「弁慶さん、ありがとうございます」



  「八方、手を尽くしました」



  「また、かなりの金額が嵩んでしまうんでしょうね」



  「ええ、とても。でも、譲君が気に病むことではありません。

   この事を言い出したのは僕の方なのですから」



  「ありがとうございます。では、遠慮無く使わせていただきます」



  「ええ、遠慮無くどうぞ」











早馬が一頭、衣笠の麓でかまどの設営をしていた九郎の所に鎌倉からの文を届けた。

その文を見た九郎が、血相を変えて譲のところにやって来たのは、

やはり同じように血相を変えて現れた将臣とほぼ同時であった。



  「す、すまんが、譲…」



  「どうしたんですか? 九郎さん」



  「今回のぱぁちぃだが……」



  「?」



  「人数が……若干、増えても、いいだろうか?」



  「どうしたんです?」



  「じ、実は…、お、俺は何も言っていないのだ。しかし…」



  「何のことです?」



  「実は、鎌倉殿の名代として、奥方・政子様が直々に、

   ヒノエの誕生日の『ぱぁちぃ』の席で祝辞を述べたいと……」



  「え!! な、何で?? ヒノエの誕生日に北条政子が祝辞を」



  「『政子様』と言え! …あ、済まん」



  「それより、何でヒノエの誕生日にパーティーやるって事が、鎌倉まで伝わってるんです?」



  「だ、だから、俺は言ってなどおらん!」



  「断れないんでしょう……」



  「…済まん」



  「仕方ないな」




  「では!」



  「北条政k、…政子様、1人だけですよ」



  「ああ、助かる。恩に着る! 譲」



  「ただ、俺の言うことを聞いてくれるならって条件で、で良いならばですよ」



  「条件……」











早馬が一頭、衣笠の麓まで牛を引き連れて歩いていた将臣の所に福原からの文を届けた。

その文を見た将臣が、血相を変えて譲のところにやって来たのは、

やはり同じように血相を変えて現れた九郎とほぼ同時であった。



  「悪りぃ、譲!」



  「どうしたんだ? 兄さん」



  「今回のパーティーなんだけど、よ……」



  「?」



  「人数が……若干、増えても、いいよな?」



  「なんで?」



  「じ、実は…、お、俺は何も言ってないぜ。それは信じてくれよ…」



  「だから、何なんだ?」



  「怒るなよ。実は入道相国が直々に、ヒノエの誕生パーティーで祝辞を述べたいと……」



  「入道相国って……、!! 平清盛!!!」



  「ああ……」



  「何で? って言うか、兄さんの所にどうしてそんな連絡が来るんだ?」



  「そ、それは……、まあ、いろいろあってよ」



  「何だよ、それ? 『いろいろ』って何だよ!」



  「だ、だから……いろいろは…、いろいろだ!

   いいだろう、俺はこっちの世界でお前らより3年キャリア積んでるんだ」



  「で?」



  「だから、……その、腐れ縁とか、だな」



  「腐れ縁で、時の権力者と知りあいになれるのか?」



  「いいだろう!! それより、清盛がパーティーに参加してもOKか?」



眼鏡の奥の譲の瞳がキラリと光った事に、今の狼狽えている将臣は気づけなかった。



  「いいよ」



  「ホントか!? ラッキー 助かったぜ。譲、サンキューな」



  「ただ、俺の言うことに従って貰えるならって条件で、で良いならだ」



  「条件……」









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