御伽話の王子様   〜ヒノエ君 お誕生日SS〜  3





            LaLaの漫画では、将臣君が平家にプリンを作ってあげるのは夏辺りでしたが、

            当サイトの将臣君は物覚えが早くてもう作ってあげていた、ということでお願いします。チッ……!










  「さあ、皆の者! 鎌倉殿の御名代として四日後には奥方、政子様が京に御到着なさる。

   失礼の無いよう、見事各自の作業を完成させるぞ!」



  「オォ!!!!」


源氏、京駐留軍の精鋭がときの声を上げ、作業を急ぐ。

かまどを作る班。

薪を切り出す班。

牛が到着次第、乳を搾る班。

そして衣笠に近い、御室・仁和寺にパーティー会場を設営する班。

更にはそのパーティー会場に施す装飾を作成する班。



その作業に参加している者全員が、鎌倉武士の誇りに胸を張った。











  「すみませんね、譲君…」



  「どうしたんですか? 弁慶さん」



  「今回のぱぁてぃなのですが……」



  「?」



  「人数が……若干、増えても、いいでしょうか?」



  「弁慶さんもですか……」



  「も?」



  「いえ、こっちのことです。で、どうしたんです?」



  「僕は何も言ってませんよ。ですが」



  「はいはい……」



  「実は、法住寺殿が直々にヒノエの誕生『ぱぁてぃー』で祝辞を述べたいと……」



  「…やっぱり」



  「『やっぱり』?」



  「仕方ないですね。こうなれば、2人増えるのも3人増えるのも大差ありませんから」



  「はい?」



  「いいですよ。だたし、後白河院1人だけにしてください。

   公卿やら何やらが大挙して押しかけて来ても、準備も材料も間に合いませんから」



  「ええ、お約束いたします。

   それにしても、助かります。これで、心おきなく彼に砂糖の請求書を回せますからね」



  「弁慶さん、また院をパトロンにしたんですか? 仕方のない人だな。

   それと、一つだけ条件があります。その条件を受け入れてもらえるなら、ですよ」



  「条件……」











御室・仁和寺の守覚法親王は突然降って湧いた話に、狼狽えるばかりであった。





  「ち、父上、いえ、院御自ら…、この御室に行幸なさる……」





  「ええ! 鎌倉殿の名代として、北条政子様がいらっしゃる!? この御室に?」





  「ひ! ほ、本当ですか!! 入道相国殿が自ら御室に出向くという話は!?」





  「その『ひのえ』とやらいう御方はどのような……?

   え、白龍の神子様の八葉の一人?? あの伝承の??」





  「この御室は、どうなってしまうのでしょう……」











  「弁慶殿」



  「敦盛君? 何でしょう」



  「ヒノエは、どうしているのでしょうか?」



  「さあ……。でも、あの子の事ですからね、どこかに隠れていて

   こっそりこちらの様子を窺っているのではないでしょうか」



  「大丈夫なのだろうか」



  「ええ、君の言いたいことは十分に分かります。

   なにしろ脚光を浴びて華々しく立ち振る舞うことを好みますからね、あの子は」



  「ああ。この状況はかなり焦れったいのではないのだろうか?」



  「ええ、焦れったいでしょうね。でも」



  「『でも』?」



  「あの子のことですから、ただじっとしているとは思えませんね。

   歴史を転換させる、そんな大それた夢の実現に奔走しているかもしれませんしね」











同時刻。

御室にほど近い山陰道某所。

決して人目に触れることはないのだが、慌ただしく男達が行き交っていた。

「烏」と呼ばれる、熊野別当直属の情報収集担当者だ。



街道端のひときわ大きな木立に身を隠すようにしてたたずむヒノエは、

次々とやって来る鴉達の報告を聞いていた。





  「上出来だね。で、鎌倉からの連絡も届いたんだ?

   へぇ、あの頼朝が早馬で出かけたって?。

   いったい、どこへ行くんだろうね」



  「え? 北条政子だけでなく、頼朝自ら早馬で京に向かってるって。

   ヒュ〜! 来た来た来た!!

   上出来すぎるじゃん!! 本命登場!!

   九郎も驚くわけだね。
   いいかい、引き続き2人の動向はどんなこまかい事も、漏らさず報告を寄こすんだよ」





  「福原の様子がおかしいって? どう、おかしいんだい?」



  「へぇ、平家の首脳陣が揃ってどこかに出掛ける準備をしているっていうんだね。

   それは、戦支度なのかい?」



  「戦支度とは様子が違うんだ?

   ヘェ……、譲の御利益はすごいものがあるね。

   ま、本人は自分のこと、どう評価してるか知らないけれどね」



  「清盛に二位の尼、知盛、惟盛に経正も、ね。

   へぇ、薩摩守だけで留守を守るっていうのかい。

   この話が源氏に漏れたら、福原の地は明後日には地図から消えるだろうね」



  「ダメだよ、源氏に漏らしては。

   ま、漏らしたところで、頼朝と政子のいない鎌倉など烏合の衆だろうけどね」





  「法住寺も御室に行幸、ああ、狙い通りだけれどね。

   あの禿頭、本当に煩悩の塊だな。

   今までは、それほどの美食家とも思えなかったじゃん。

   ひょっとすると譲の作る食べ物は、油断ならないのかもね」



  「御室の法親王に一言お願いしておかなければね。

   この文を届けてくれないか。必ず、お前が直接、手渡すんだよ。

   ああ、熊野別当というのは伏せて、『ヒノエ』からだと言えば受け取ってくれるはずさ」











衣笠の麓



ようやく牛も到着し、搾乳が始まった。

譲はと言うと、何やら二十人近い決死の形相の男達と

弁慶、九郎、将臣に囲まれていたのであった。



  「で、こうして十数人も料理人やら記録係の人が集まったって言うのですか?」



  「ええ、そうなりますね」



  「しかも、源氏と平家と朝廷の、腕ききの料理人の皆さんが?」



  「ああ、そうだ。これも鎌倉殿の御命令だ。すまんが譲、教授してやってはくれないか」



  「悪ぃが譲、こっちも頼むぜ」



  「まったく……。、でも、まぁ、こっちも朔と二人では手が足りないと思っていたので、

   『助かります』というのがホンネのところですしね」



  「では」



  「ええ、皆さん、よろしくお願いします」



男達の顔に、一様に安堵の色が浮かぶ。







  「よいか。お前らは件の有川譲の料理を、すべて盗んでくるのだぞ」



  「まぁ、あなた。『盗む』だなんて人聞きの悪い。クスクスクス」



  「政子」



  「皆さん、いいですか、あの坊やの料理をすべて作れるようになって帰ってらっしゃい。

   見た目、薫り、味わい、舌触り、そのすべてをね。

   出来ないならば、死んで己の技量の未熟さを詫びなさいね」







  「我はあの者の料理を食したいのじゃ!」



  「プリン習ってきて、作ってやっただろう」



  「聞けば件の有川譲、お前の弟だと言うではないか!」



  「ま、そうだけどな」



  「ならば平家に連れて来たとしても良いではないか!」



  「なんでだよ!?」


  「重盛おまえは我の息子。その重盛おまえの弟ならば、やはり我の息子ではないか!」



  「どこまで本気なんだ?」







  「料理人を派遣して、作り方を習熟させるということで叔父上にやっと納得して頂きました」


  「フン、源氏にくみする者の作る料理など、この惟盛わたくしの口に合うはずがないでしょう」



  「そう言いながらお前、この前のプリン、3つも食ってたじゃねぇか」



  「あ、あれは、…残しておくのがかえって目障りだったから、

   この身を削る思いで処分してあげたのですよ」



  「物は言いよう、っていうか、なんだ! その屁理屈は!?」


  「ふん! 料理人おまえ達、平家の名に恥じない料理に仕上げて来なかったら、

   その時は覚悟なさい!」



  「おいおい、たかだか譲の料理に、すんげぇプレッシャーかけるんだな」










  「そして、この折ったものの丁度真ん中を紙縒こよりで、こう…縛ります」



  「神子殿、こうでござろうか?」



  「え? ちょっと違うかな…」



  「な、なんと!」



  「だって、ぜんぜん真ん中じゃないじゃないですか

   ちゃんと真ん中で留めて、懐紙を開くと……、ね、お花に見えるでしょう」



  「おお! 大輪の菊のような」



  「いや、大きいが、この季節だ。福寿草やふきのとうといったところか」



  「拙者は牡丹に見えるが」



  「神子様、この花の名は何と申されるのか?」



  「え〜、名前ですか?? う〜ん特に名前って……紙の花としか」



  「『神の花』ですか!」



  「おお、さすがは龍神の神子様だ」



  「『神の花』、そういえば懐紙で作ったにしては、何やら神々しい」



  「家に帰ったら早速、女房や子供に作ってやろう」



  「さ、あと百ほど作りますからね! 頑張りましょう!」



  「オオォ!!!」







  「で、この紙のこっちとこっちを糊で貼り付けます。

   そうすると、こう、輪っかが繋がります」



  「おお!」



  「で、これを別の色で繋げていって長くするんです」



  「板東の田舎者、刀と斧くらいしか持ったことのない拙者にこのような京雅は……」



  「え〜、私だって生まれも育ちも鎌倉ですよ」



  「なんと!」



  「神子様も我々と同郷なのでござるか!」



  「ええ、七里ヶ浜が遊び場でしたから」



  「懐かしいのぉ……」



  「神子様! 色の組み合わせに決まりはないのでしょうか?」



  「別にありません。皆さん、それぞれのお好みでどうぞ」



  「好みで、ですか?」



  「かえって難しい……」



  「そうですか? まあ、皆さんのセンスで組み合わせてみてください」



  「扇子??」



  「扇のように幅広く色を使えということか!?」



  「なるほど。奥が深い…」



  「それで、どのくらいの長さを作ればよいのでしょうか?」



  「ここから八方の隅まで吊しますし、部屋の隅はぐるりと幾重にも垂らしますから」



  「気の遠くなるような作業じゃ」



  「さ、私も作りますから。頑張りましょう!」



  「神子様の御手製……、何と勿体ないことだ」



  「者共! 鎌倉武士の心意気を神子様にお見せするは、今ぞ!!」



  「おおぉぉ!!!!」











  「譲殿? どちらです? 譲殿?」



  「朔、こっちだ」



  「ああ。このような所で何をなさっていらっしゃるのです?」



  「えぇと、見本の料理。どうやら食べる人数が限りなく増えそうだから」



  「作る側の人数も増えましたわ」



  「その料理人の人達に食べてもらう分さ」



  「え?」



  「その人達に明日から作ってもらうのに、

   こういう食べ物なんだって分かってもらってから作ると、想像しやすいかなって思って」



  「そうですわね」



  「それに」



  「それに?」



  「こんなことのために汗水たらして働いている人達に、

   少しでもいいから俺の作ったモノを食べてもらって、労をねぎらってあげたいじゃないか」



  「譲殿……」



  「俺って、変なのかな?」



  「いえ。お優しいのですわ」



  「あともうひとつ」



  「?」



  「最後のサプライズはこっそりと作りたいんだ」



  「『さぷらいず』?」



  「ああ、びっくりさせるもの。だから朔、手伝ってくれるかい?」



  「ええ、もちろん喜んで」


  「先輩が御室あっちに行っているうちに」









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