御伽話の王子様 〜ヒノエ君 お誕生日SS〜 4
「譲君〜〜、お待ちどうさまぁ〜〜〜。出来たよ〜〜! 御注文の『ぼうる』と『ばっと』だよ〜〜」
「景時さん! こんなに!!」
「兄上!」
「朔ぅ、お兄ちゃん、ちょ〜〜っと頑張ったよ〜」
「すごい、一晩で1ダースずつ作ってくれたんですね。ありがとうございます」
「『いちだぁす』?」
「12個をひとまとめで『ダース』という単位で呼ぶんです」
「へぇ、そうなんだ〜〜。一だあす、頑張ったでしょ〜〜」
「はい、お疲れ様でした」
「兄上、大丈夫ですか?」
「お兄ちゃん、まだまだ頑張れるって」
「まずは一眠りしてください」
「アハハハ、大丈夫大丈夫ぅ〜〜〜」
「でも、すごいクマが出来てますよ、目の下」
「え〜〜〜、本当かい?」
「はい。ですから、まずはしっかり睡眠をとって、体調を万全にしてください」
「まだまだ、兄上には働いて貰わないと困りますから」
「ぎょ、御意ぃ〜〜」
「ここを留めてっと。これで飾り付けは完成です!!」
「おお!!」
飾り付けに参加した武士達は一様に感動し、拍手をし、歓声をあげた。
ちょうどそこに将臣が数名の男を引き連れて、望美の様子を覗きに来た。
「何だ? この幼稚園のお誕生日会のノリは?」
「えぇ、ダメ??」
「当たり前ぇだろう、だいたい望美は」
「おお! なんと美しい」
「経正さん、ありがとう。ね、どう、将臣君、見る人が見れば分かるんだからね」
「おいおい」
「ええ、このような華麗な飾りつけは見たことがありません。
神子様がこちらにいらっしゃるとお聞きしましたので、御挨拶にと思いまして」
「源氏の田舎娘にしては上出来でしょう」
「惟盛殿、そのような」
「いいんです、経正さん。惟盛さんは『上出来』って言ってくれたんですから、嬉しいです」
「フン! 褒めてなどいませんよ」
「照れるな照れるな」
「だ、誰が照れているというのですか!」
「十分に照れていらっしゃいますよ」
「わぁ〜〜〜い、神子、紙の花、綺麗。紙の輪、綺麗」
「フフ、白龍、ありがとう」
「へえ、ま、意外と好評だから…OK!
じゃ、俺はこいつらを法親王に会わせたら、衣笠に戻るぜ」
「べぇ〜っだ!」
「フッ、ガキ」
「譲!」
「あ、九郎さん」
「待たせたな。『かまど』10基、完成して、今、火をおこして下の地面を乾かしている」
「え! もう出来たんですか」
「ああ、薪も一冬越せそうな程集まった」
「一冬……、すごいですね」
「皆が心を一つにして頑張った結果だ。板東武者の心意気の結晶と言ってもいい」
「さすがですね」
「その言葉、作業をした皆に言ってやってくれ」
「はい、後ほど必ず」
「そうか、ありがたい。それだけで彼らの苦労も報われる。それから、これは」
と、後ろに置いた箱を指し示し
「昨夜の内に先生と俺で作った『匙』と『木の内府』と『法句』……だったか? だ。
とりあえず頼まれた20個ずつと、それから、これが先生からだ」
と、更に小さな木箱を九郎は譲に渡した。
「先生から? …なんです?」
「さあ? 俺も知らん。主賓用だと言っておられたが」
「主賓って、ヒノエ用ですか?」
「開けてみてくれ。俺も見てみたい」
「はい」
と蓋を開けると
「こ、これは!」
「なんだ? 木で俺が作ったものと同じ形だが、綺麗な鉄で出来ている」
「九郎さん、鉄がこんなに綺麗な銀色に輝くことは無いでしょう」
「では、何で出来て……、え!?」
「たぶん、ですが…、これ、色そのものでしょうね。銀だと思います」
「ぎ、銀!」
「そう言えば、形を説明してた時、先輩が
『ナイフとフォークとスプーンまで作るんだ』
『ええ、そうですよ。こういうものは雰囲気も大事ですからね』
『う〜ん、残念だね』
『先輩? 何がです』
『どうせ雰囲気を大事にするなら、銀食器なら、もっとリッチな気分になれるのにね』
『それはそうでしょうけど、無茶言わないでください。平安時代なんですよ』
『アハハ、だよね〜〜』
って会話はした覚えがあるけど…。まさか、それだけで??」
「さすがはリズ先生!!」
「更に驚かされるのは、この手元の部分、龍と朱雀の彫刻が施されてます!」
「先生は彫刻や彫金にも秀でていらっしゃるのだ」
「そういう問題でしょうか? ……それに、この銀、どうしたんだろう?」
「では次に、こう懐紙を三角に折って下さい」
「神子様、飾り付けはもう終わったのではござらぬのか?」
「はい、パーティー会場の装飾用品は作り終わってます。これはテーブルセット用のナプキンです」
「『てえぶるせっとようのなぷきん』?」
「さっぱり意味が分からん??」
「まぁ、神子殿が仰るのだし、儂は紙を折るのが何やら楽しくなってきておる」
「そうか?」
「ああ、綺麗じゃないか」
「角をきちんと合わせて折ると、何やらきちっとした形になるのが嬉しいしのぉ」
「それにじゃ」
「それに?」
「怨霊相手に戦をしてるより、よっぽど幸せじゃ」
「それはそうじゃの」
「儂は武蔵国に帰ったら、あの『神の花』を娘に作ってやるんじゃ」
「そこ! 口を動かすより手を動かす!!」
「は、はい!」
「厳しい神子様じゃ」
「アハハハ」
「では、皆さんには、このコース料理を人数分作ってもらいます」
「おお!」
歓喜にむせぶ料理人達だったが、記録係の文官が疑問を差し挟む
「『こぉす』とは如何なる意味の言葉でありましょうや?」
「ああ、すみません、英語でしたね。えぇと」
「『えいご』?? 高句麗でも宋でも、天竺でもない言葉なのか!」
「ど、どのように表記すればよいのか」
「カタカナで書いておいてください」
「カタカナ! 坊主文字を料理に使うのですか!」
「変ですか?」
「い、いや……」
「じゃ、その料理です。2人分しかありませんので、少しずつしか味見はできませんが」
「え? 味見をさせていただけるのですか!?」
「ええ、味が分かっていないと料理、作るの難しいでしょう」
「ありがたい」
と、譲の合図で朔が持って来たのは
「まずは汁モノです」
「こ、これは!」
「し、白い!!」
「クラムチャウダーです」
「くらむちゃうだ??」
「アサリを中心に魚介をミルクで煮こみます」
「『みるく』?」
リズ先生と九郎の手製の匙を持ち、意を決したように一人が恐る恐るすくい、口に運ぶ。
十数人の男達全員が、その男の次の言葉を、固唾を呑んで待ちかまえていた。
「う!」
「う?」
「美味い!! こんな味わいのモノを今まで食べたことなどない!!」
「おお!」
と4つしか無い匙を奪い合うようにして男達がクラムチャウダーを口にする。
「どのような味なのだ!」
記録係の文官が苛立つように問いかけるが、料理人達は答えようがなかった。
業を煮やした文官の一人が、匙を一つ奪い取り、自ら口にする。
「! だ、醍醐味とは、このようなことか!!」
「え! 先程ここに来た一団は平家の者なのですか!」
「何故、それをお教え下さらなかった、神子様!!」
「なんと!! あの髪に桜の枝を挿した大柄な男が桜梅少将、平惟盛ですと!!!」
「どこに行くんですか!?」
「神子様! わ、我らは源氏の武士なのです!
あの憎っくき惟盛に一太刀浴びせることができたならば、悔いはござらん!!」
「だ、ダメですよ!!」
「あの平惟盛の使役する怨霊に、京に来てから何人の仲間が殺されたことか!」
「お願いです、神子様! お止めくださるな!!」
「ダメーー!!!!」
そこには、決意と覚悟に満ちた白龍の神子・春日望美の仁王立つ姿があった。
「み、神子さ……」
「ここはお寺ですよ!
その上、この飾り付けは、この世に生まれた事をお祝いするためのものなんですよ!
あなた方はその準備のためにここに居るんでしょう!
それを血に染めるつもりですか!」
「しかし!!」
「人を傷付けたり、殺したりして晴れる怨みなんてありません!
怨みは怨みしか生み出しません!
だから…、だから、ここは堪えてください!」
「で、ですが」
「しっ!」
「分からんのか、神子様は泣いていらっしゃる」
「……私も皆さんと一緒に、刀を手に先陣に立ちました。でもそれは、人を殺す為ではありません!
戦を終わらせたい! 誰も傷付いたり死んだりしないで済む世の中にしたい! そう思ったから…」
「……」
「怨霊は、私と朔で必ず浄化します! だから…」
「……分かりました、神子様…」
「儂もじゃ。のぉ、な、な、皆の者?」
「神子様、涙をお拭きくだされ」
「皆さん、約束してください」
「何を、でしょうか?」
「絶対に死なない、絶対生きて帰る、と。
『戦に勝つ』為ではなく、『戦を終わらせる』為に戦うんだって。
誰のためでもない、家族のために!
『紙の花』、娘さんに作ってあげるんでしょ!」
「神子様…」
「聞いたな。九郎」
「……はい、先生」
「神子の選んだ道は常に正しい。私は神子の願いの成就のために存在する」
「先生…、しかし、源氏が勝利すれば戦の無い新しい武士の世となります。
それと、どこが違うのでしょうか?」
「九郎……、違う。………考えるのだ。神子の決意に負けぬ、九郎自身の決意を見つけるのだ」
「やれやれ。ハラハラさせられるね、オレの神子姫様には。
でも、あの怒りにまかせて突っ走りそうになった源氏の武士達をよく止めたじゃん
さすがは神子姫様だね」
「兄さん、ちょっと困った問題に気付いたんだけど」
「お? お前にしちゃあ珍しいな。どうしたんだ?」
「衣笠で料理を作ることになるだろう」
「そりゃあ、九郎がかまどをすぐそこに作ったからな」
「で、パーティー会場は御室の仁和寺だろう」
「ああ、思ったより大人数になっちまったしな」
「最初の予定では、ここに緋毛氈でも敷いて野点気分でいいかって思ってたんだけど」
「後白河に頼朝・政子に清盛一家、この時代の日本史の教科書御一行様だからな。
セキュリティー上の配慮と」
「と?」
「よくは分からないが、望美とリズ先生が何か相談して、『仁和寺にしよう』ってなったんだ」
「先輩と先生が…」
「で、お前にとっちゃラッキーなことに、率先して望美は向こうに出向いて、会場セットしてるしな」
「だから、出来た料理をどう運ぶか、さ」
「ああ、そうか…」
「大雑把に言っても2kmくらいあるんだ」
「だろうな」
「どうしたの〜〜? 兄弟仲良く浮かない顔をしてさ〜〜? 何かあったの?」
「景時」
「景時さん」