御伽話の王子様   〜ヒノエ君 お誕生日SS〜  6













朝廷に伝わる従五位下・内膳司うちのかしわでのつかさ・高橋奉膳の記した『四条有川流包丁書総覧』に当時の模様が記述されている。

高橋奉膳という人物は、後白河院の命によってこの会の料理人として参加した1人とされている。



それによると、この日は朝から快晴で、遅咲きで有名な御室の八重桜が、数日来の好天による暖かさから咲き始め、

参列者の1人、琵琶の名手の誉れ高い平経正卿が「桜も四季(式)を言祝ことほいで」と詠んだという記載がある。







さて、ヒノエの誕生日当日である。







誕生パーティーの席は仁和寺白書院。非公式の面会などに使用される建物で、

その室内の寺社とは思えぬ装飾は、この日のために望美が指揮を執って源氏の武士達十数名が数日を要した労作である。



席次は、主賓・ヒノエの席以外は望美達の世界では、よくパーティーなどで採用されている(と望美が言い張る)

クジ引きによって決定されることとなった。

これにはヒノエ達八葉が焦ったのだが、望美は「みんな仲良し!」を旗印に、頑として譲らなかった。



  「望美! お前、2日前の打ち合わせ、何も聞いてなかったのかよ!」



  「いいんだもん! パーティーの楽しみの一つは、どの席になるのかなってのがあるでしょ」



  「だからといって、もし、万が一、頼朝殿と清盛公が隣に……なんてことになったら」



  「さ、朔ぅ〜〜〜!! や、やめよ〜〜よ、ね! 望美ちゃん! いくら何でも冒険が過ぎるって。ね、ね〜〜!」



  「無駄ですよ、景時。望美さんの顔を御覧なさい。

   この事は断固として譲れないって、顔に書いてあるじゃ、ありませんか」



  「え、え〜〜!!」



  「うんうん」



  「トホホ〜、オレ知らないよ〜〜。ヒノエ君の誕生会、歴史に残る流血事件になってもさ〜」



  「大丈夫ですよ、景時さん。ほら、譲君がみんなに出した条件ていうのがあったでしょう?

   あれって、今日はなにがあっても、たとえ敵と同席することになったとしても、

   絶対ことは構えない…っていう約束だったんです」



  「で、でもさ〜、やっぱり心配だよ〜」











一刻の後



  「望美、譲殿からの連絡が入ったわ」



  「準備、できたって?」



  「ええ」



  「じゃ予定通り、午の刻開始ね」



  「あと少しだわ」



  「朔、緊張してる?」



  「え? ええ…そうね」



  「実は私も」



  「望美……」



  「でも、譲君と、この世界のトップの料理人が作った御料理を食べられるんだもん。頑張らなくちゃ!」



  「やれやれ、主賓の誕生日の祝いだってこと、忘れてもらっちゃ困るね、姫君達」



  「ヒノエ殿」



  「フフ、やっと主賓の登場だね。久しぶり、ヒノエ君」



  「ところで、あの濡れ縁の文机は何なんだい?」



  「あれ、あれは受付」



  「受付?」



  「そ。パーティーは来た人が受付で、座席のクジを引いて、ビンゴカードを貰うの」



  「備後歌戸?」



そこで望美は、ヒノエと朔にビンゴを説明した。



  「それであなた、昨日はずっと何か書いていたのね」



  「うん。これがその、昨日作ったビンゴカード」



  「それで、景品はどうしたの?」



  「実は将臣君と経正さん、敦盛さんと先生、それに景時さんにも協力してもらって集めたの」



  「兄上にも? いつの間に?」



  「へ〜、こいつは楽しみが増えたね」











  「ドウ! ドウ!」



  「九郎さん!」



  「譲、この馬でどうだ!」



  「綺麗な馬ですね」



  「そうか!? 分かるか?」



  「ええ、一目見ただけで分かりますよ。九郎さんの馬ですか?」


  「ああ、『薄雪うすゆき』という」



  「薄雪」



  「良かったな、薄雪。この有川譲も、お前の良さは一目で分かってくれたぞ」



  「ヒヒィィィ〜ン」



  「薄雪が礼を言っている」



  「では、あちらに。順番に呼びますから」



  「順番? 俺だけではないのか?」



  「ええ、さすがに九郎さんだけに何度も往復して貰うわけにはいきませんからね」



  「そんな気遣いは……!」



  「九郎さん? どうしました?」



  「あ、あの馬は……!!」



  「ああ、景時さんの乗ってきた」


  「いや、『麿墨するすみ』なら知っている。その向こうの…」



  「あれは兄さんが乗ってきた馬で」



  「将臣が!」



  「九郎〜」



  「景時!」



  「気付いた〜?」



  「今、来たところだが……、ああ」



  「……だよね?」



  「あの馬がどうかしたんですか? 二人とも」



  「ま、しかたねぇだろうな」



  「将臣!」

  「将臣君〜」


  「曰く因縁ってやつがある馬なんだよ。あの『木下このした』は」



  「やはり!」



  「『木下』なんだ〜〜」



  「どういう事なんだ? 兄さん、説明してくれよ」



  「それは後ほど僕が説明しましょう、譲君」



  「弁慶さん!」

  「弁慶!」



  「おお、弁慶も馬を調達したのか」



  「ええ、君が『薄雪』を、景時が『麿墨』を、連れてくるのは分かりきってましたからね。

   ただ、将臣君がまさか『木下』を用意するとは……。さすがは還内府ですね」



  「弁慶さんの馬は?」


  「佐々木高綱殿の愛馬『池月いけづき』です」



  「これが! さすがに逞しい栗毛だ」



  「高綱がよく貸してくれたね〜〜〜」



  「ええ、彼にはちょっと貸しがありましたので」



  (貸しってなんだろうね〜〜)



  (なんだか聞くのをためらいますね)



  (弁慶のことだからな…)



  「いやだな、僕をどんな風に思ってるんですかね」



  「い、いやぁ〜〜、アハハ」











  「いらっしゃいませ。ヒノエ君の誕生会にようこそ。先ず、こちらの受付へどうぞ」


  「まぁ、白龍の神子あなたが案内してくださるのかしら?」



  「はい、政子様」



  「お前が白龍の神子か?」



  「はい。初めまして、頼朝様」



  「で、どうすればいいのかしら?」



  「こちらで、座る場所のクジを引いてください」



  「まぁ、席はくじ引きなの? オホホ」



  「はい、この箱の中から引いてください」



  「では、あなた」



  「うむ」



と、頼朝は無造作に箱から紙をつまみ出す



  「こ、これは……」



  「どうしたの、あなた? まぁ…」



  「……」


  「『これ』、何と書いてあるのかしら?」



  「え? あ! そうか!! 漢数字じゃないと読めないんだ」



  「望美? これはあなたの世界の文字なの?」



  「うん。でも、朔、失敗失敗。これは『七』です」



  「七…、そうか」



  「では、次は私が」



  「はい、どうぞ」


  「『これ』は?」



  「『六』です」



  「まぁ、あなた、隣の席ですわ」



  「…う、うむ」



  「やっぱりお二人は仲が良いのですね」



  「まぁ、白龍の神子ったら」



  「では、これをどうぞ」



  「これは?」

  「何かしら?」



  「ビンゴカードです」



  「備後」

  「歌阿戸?」



  「使用方法は後で御説明いたしますので、まずはお席の方へどうぞ」



と望美と朔に促されて、中に入った二人が眼にしたものは、極彩色に彩られた紙の輪飾りと紙の花に埋もれた部屋にいる



  「…清盛……!?」


  「ほお、我と同じ屋根の下に頼朝そのほうが」



  「まぁ、二位ノ尼様、二十歳に若返りなさったというお噂でしたのに」



  「そのようなことは…。いったいどのような噂なのでございましょう」



  「そうですわねぇ。噂とは根も葉もないものですしねぇ。オホホホ」


  「若返ったのは清盛おまえの方か」



  「それにしても、若返り過ぎですわ。ねぇ、あなた。オホホホ」





  「誰だ……あの女……は?」


  「わたくしが知るはずもないではありませんか」



  「あの方は、北条政子…殿で…」



  「本当ですか、敦盛」



  「はい、兄上」



  「ほぉ、あれが……。ククク」



  「知盛殿。くれぐれも失礼の無いように、お願いします」



  「ななななんと、平家の公達ともあろう者が、源氏の年増女にまで色目を使うのですか」



  「俺の……ストライクゾーンでは……ないな。ククク」



  「すとらいくぞぉん?」


  「有川あにうえの……言い方…だ」



  「源氏以上に不愉快な名前が! 兄上などと、私の前で言わないでください!」



  「ククク」



  「こ、惟盛殿。知盛殿も惟盛殿にそのようなおからかいなど」



  「経正……」



  「はい?」



  「フッ……苦労性…だな」



  「こんにちは」



望美の声が聞こえる。



  「お祖父様!」



二位ノ尼の傍にいた子供が、入り口に走って行く。



  「後白河法皇と守覚法親王様が参られます」



朔が皆に告げる。



誰もが一様に入り口に視線を向ける。

法衣に袈裟をまとった小太りの老人が、走り寄った子供の頭を撫でながら、嬉しそうに望美と何やら言葉を交わしている。


  「許嫁いいなずけ殿、今日は九郎は何処いずこに」



  「その『許嫁』って言うの、勘弁してください」


  「ハハハ、いや、そうじゃったのぉ。で、『19これ』は何と読むのか?」



  「『十九』です」



  「龍神の世界の文字なのか? 妙に神々しい様でもあり、妖艶なようでもあり」



  「そうですか?」



  「守覚、その方は?」


  「わ、私のものは『これ』です」


  「いいな…、いやすまんすまん。ワハハ、神子、これは何と読む?」



  「これは『四』です」



  「『四』か。随分と離れてしまったものだな。お前とは積もる話もあったものを、のう」



  「父う……お上」


  「言仁ときひと、そなたの席はどこかな?」


  「お祖父様、『さん』だそうです」



  「『三』……、余も二か五であったならばな…。そう思うても詮無きことか……。

   さて、余の席の両隣は誰か…」



  「法皇様の隣は……右側は平経正さんですね」



  「おお、琵琶の名手と評判の」



  「はい。左側は……あれ? まだ決まってませんね」



  「そうか、『待つ程に増す楽しみか』とも云うからの」



  「あ、あの……」



  「敦盛さん、何ですか?」


  「神子、『20これ』は?」



  「『二十』です。あ!」



  「ほぉ、そなたが余の左か。そなた、名は?」



  「は、平敦盛と申します」



  「おお、経正の弟であったな。兄弟の間に余が分け入ったのだな。

   どうか、冷たくしないで欲しいものじゃ」



  「院、そのような……」



  「ワハハ、冗談じゃ冗談じゃ」



何やらご満悦な後白河院であった。











あとがきという名の裏ネタ(この下から反転です)

今回みんなが引いた席順のクジ、あれはマジでくじ引きました。
カイロが作ったくじ引きを私ともののけで引きました!!
頼朝の両隣が決まった時には笑いました。ちなみに、頼朝と政子さんを引いたのはもののけで二位の尼引いたのが私です。
でも、1番声をBIGにしてSAYしたいのは、ヒノエくんの隣にあっくんを引っ張り出したことです!!
ちょっ…これはヒノエくんに感謝してもらってもいいと思うよ!!私すごい!!!!




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