御伽話の王子様   〜ヒノエ君 お誕生日SS〜  8













         席順
                          ヒノエ             

                  20 敦盛        将臣 1         

               19 後白河院             弁慶 2       

            18 経正                    安徳帝 3

          17 先生                    守覚法親王 4

          16 清盛                          九郎 5

         15 朔                            政子 6

           14 白龍                       頼朝 7

             13 知盛               二位の尼 8

                12 望美            惟盛 9

                      11 譲  景時 10 










  「譲君、来ちゃって大丈夫なの?」



  「ええ。俺なんかより、よっぽど料理の修業を積んだ、腕の確かな人達が作ってますから」



  「なら、良いんだけど……」



  「先輩、大丈夫ですよ。では皆さん、お待たせしました。

   早速ですが最初は、本来は『スープ』なんですが、今日は『チャウダー』です」



  「すぅぷ? ちゃうだ? それは如何なるものか?」



  「院、敢えて言えば『汁物』ですね。旬のすごく美味しそうなアサリが手に入ったものですから。

   まあ、俺が口で説明するよりも、まず御自身で味わってみてください」



  「なるほど、論より証拠、というわけじゃな」



運ばれて来たのは、九郎とリズヴァーン手作りの木のスープ皿に盛られたクラムチャウダー



  「これは…!」



  「なぜ…白い?」



  「この木の匙で食すのでしょうか」



  「ええ、そうです」



皆、怖々一口、口に運ぶ。



  「!」



  「♪」



  「まぁ! 美味しいわ、ね、あなた」



  「うむ」



  「この白いのは…」



  「白味噌……では、こうは白くなるまいな…」



  「これは『ミルク』をベースに作ったホワイトソースです」



  「『みるく』? 『べぇす』?? 『ほわいとそぉす』?」



  「ホント、相変わらず面白いじゃん。神子姫様や譲の世界の言葉は、想像しようとしても、まったく想像つかないね」



そうヒノエが言っている間に他の人々は口数も少なく、あっと言う間に食べ尽くした。



  「余はお代わりを欲する!」



  「院、まだこの後が控えていますから、お腹は余裕を持っていてください」



  「左様か、では次じゃ次じゃ」



  「では、次は『大根と海草のサラダ』です」



  「『さらだ』とは、如何様なものなのでしょうね」



期待に満ちて待っていた面々の前に、今度は大根にワカメと壬生菜の盛られた皿が出された。



  「これは……、海の藻を食うのか?」



  「なななんと! 草葉とスズシロの根を、しししかも生で食せと?」



  「鶏にでも……なったようだ……な。ククク」


  「一口食べてから、何かモノはうたほうがよいのぉ」



  「しかし……平家たるもの、このような下賤なモノを」



  「惟盛、お前、好き嫌い多すぎ。この時代に『サラダ』食えるなんてラッキーだと思えよ」



  「そうじゃ、我は還内府に同意する」


  「だから、この者は還内府ちちうえなどではありませぬ!」


  「だから、俺は還内府しげもりなんかじゃ無ぇって!」



  「何を言う! お主は重盛じゃ!」



  「……だ、そうだ…。…兄上。…ククク」



  「チッ、たく」



  「わぁ、この和風ドレッシング、けっこう美味しい」



  「ええ、けっこういいドレッシングに仕上がったと思います」



  「み、神子殿、譲殿、『どれっしんぐ』とは如何なるものでしょうか?」



  「ドレッシングはどんなものか、ですか? う〜ん、ドレッシングはドレッシングで…??」



  「ああ、このサラダにかかっている味付けのためのものです」



  「如何様な?」



  「豆醢と塩に、酢と胡麻油と酒と水を加えて、それに隠し味として大葉と胡椒と大蒜を少々入れました」



  「そのように手のこんだものが、単なる味付けに…」



  「これは是非、賞味してみねばなりませんわね、ホホホ」



一同、葉っぱと蔑んだモノを口に運ぶ



  「まぁ、シャリッとした歯ごたえですが、この『どれしんぐ』というものが、実に奥深い味にしてくれるのですね」



  「ハハハ、余は気に入った。この『ごれしんぐ』、ぜひとも持って帰りたいものじゃな」



  「レシピは皆さんが派遣された料理人の方々に、しっかりお伝えいたしましたので」



  「おお! その方は料理だけでなく、指導者としても一流よのぉ」



  「院、褒めてもお代わりはありませんから」



  「なんじゃ、褒め損か。ワハハハ」



ヒノエは笑顔のままで、静かに法親王に合図を送る。

法親王は一瞬で緊張した面持ちとなり、それでも大きく息を一つして

隣の源九郎に「庫裡より持ってくるものがございました。暫し失礼を」と言って、立ち上がる。

九郎の隣の北条政子が、何か言いかけたその時、頃合いを見計らったように、また一頭の馬が御室に駆け込んでくる。


  「あの蹄の音は、兄上の磨墨するすみだわ」



  「朔、凄〜い。蹄の音だけで分かるんだ」


  「ええ、あのは兄上が一番大切にしているから」



  「う〜ん」



  「どうしたの、望美?」



  「磨墨と洗濯、景時さんにとってどっちが大事だと思う?」



  「え? さぁ……、考えたこともなかったわ」



  「聞いてみようかな?」



  「そうね。…でも、優柔不断な兄上の事だから、どちらとは選べないのではないかしら」



そこへ景時が入ってきた。



  「お待たせ〜〜」



  「景時」



  「いたしました!! よ、よ、頼朝様!!」



  「お疲れ様でしたね、景時」



  「ま、政子様!! ははぁ〜〜〜!!」



  「で、景時は何を運んでくださったのかしら?」



  「オレは飯のお櫃と焼き魚を」



  「まあ」



そこに、綺麗に盛られた飯の椀と焼き魚の皿が運ばれ、各自の前に置かれた。



  「ほお、この焼き魚はまだ湯気が立ち上っておる」



  「さすがは麿墨。早駆けは無敵だな」



  「九郎〜、そんなことペラペラ言わないでよ〜。あっちからもこっちからも

   『是非、早駆けの競争を』って挑まれて、たまったもんじゃないだからさ〜〜」



  「景時、お前まだ、宇治川での佐々木高綱のことを根に持っているのか?」



  「だってさ〜、何も嘘つかなくてもね〜。

   それに今日はその『池月』に弁慶が乗ってるしね〜。嫌でも思い出しちゃうんだよ〜〜」



  「やれやれ…。さて将臣、そろそろ俺達が衣笠に出向く番のようだな」



  「OK! じゃ、ちょっくら行ってくるか」



  「ああ、そうだな。では兄上、行って参ります」



  「うむ、御苦労」



  「九郎、美味しい料理を運んで下さいね」



  「は、お任せください」


  「還内府しげもり、源氏などに負けるでないぞ!」



  「だからオレは重盛じゃ無ぇ……OK、OK、分かったよ」



  「還内府殿、お気を付けて」



  「尼御前、OK! じゃ! 九郎、負けられなくなっちまったぜ」



  「ああ、正々堂々と受けて立とう。将臣、勝負だ!」



  「じゃ、譲、後よろしく!」



  「兄さん! 品物は丁寧に運んでくれよ! 壊れやすい物なんだからな!」



全員分の配膳が終わったところで、気分も新たに譲が説明する。



  「ご飯は鯛の炊き込み飯です。洋風のリゾットとかパエリヤにしようかとも思ったのですが、

   今日の主賓、ヒノエにちなんで水軍料理風に鯛飯にしてみました。
   もう鯛の骨は内膳司うちのかしわでのつかさの高橋奉膳さんの手で綺麗に取った上で、

   丁寧にご飯にほぐしてあると思いますので、どうぞそのまま召し上がってみてください。」



  「何故、奉膳なのじゃ?」



  「簡単な理由ですよ。俺なんかよりよっぽど素速く丁寧で、上手に鯛をほぐせるからです」



  「ほぉ、余の遣わした奉膳がのう…」



この譲の一言で高橋奉膳は大いに面目を施し、後に後白河院の信任を得て、料理人としては異例の正五位まで出世したという。



  「この魚は、鰆ですね?」



  「そうです、経正さん。今が旬ですから、脂がのっていて美味しいですよ。若狭からの直送品です」



  「まあ、柚子の香りが清々しいこと」



  「うむ」



  「柚庵焼きにしてみました」



  「『ゆあん焼き』? それはいったいどのような?」



  「はい。醤油と酒と味醂をあわせて、柚子の輪切りを加えた漬けダレに何日か漬けこみ、

   焼く前に汁気を切って焼き上げたのが柚庵焼きです。言ってしまうと、何ということもない簡単な物なのですが」



  「いやいや、そのようなことはないですよ。焼き魚にも、このような手間暇をかける。

   その手間と丁寧な料理に、この経正、感動いたしました。そうだね、敦盛」



  「ええ、その通りです」



  「あれ? 景時さん? 天麩羅は?」



  「え? え? え〜〜!! あれもオレが持ってくるのだったのかい〜?」



  「兄上!」



  「弱ったな…」



  「では……、私が」



  「リズ先生、お願いd」



  「いや〜〜、譲君譲君〜、リズ先生に御足労願っちゃうと、朔が当分、

   口を利いてくれなくなりそうだからね〜。ちょ〜〜っと、行ってきま〜〜す」



  「すみません。どうも、俺の方の説明不足だったみたいで」



  「大丈夫大丈夫〜〜♪」



  「景時」



  「ハッ! よ、頼朝様!?」



  「二度駆け、大儀」



  「ぎょ、御意〜〜!」



そして景時は、人生で最も早く麿墨を走らせ、御室の皆が鰆に箸を付けるか付けないかの時には

早くも蹄の音も高らかに、帰ってきたのだった。



  「早かったですね!」



  「兄上!」



  「ハハハ〜〜、朔ぅ〜〜、お兄ちゃん、ちょ〜〜っと頑張っちゃったからね〜」



  「凄い!」



  「何々〜〜?」



  「これほどの早駆けでも、天麩羅の衣、一つも剥げてませんね。さすがは景時さんですね」



  「譲君譲君〜〜」



  「はい?」



  「もっと言って〜〜♪」



  「……」



  「政子? どうかしたのか?」



  「…え? いえ、さ、それより早くその『てんぷら』とやらを食べてみたいですわ、オホ…」



  「では、この『天麩羅』は抹茶塩を少し付けて、召し上がってみてください」



守覚法親王がやや緊張した面持ちで抹茶塩の壺を持って、部屋に入ってくる。



  「やだな、法親王。そんなに緊張しなくても抹茶も塩を簡単に手に入りますからね。

   どうか御安心ください。では、僕が皆さんにお配りしましょうか」



  「いや、いちいち回るのは面倒でしょうから、壺を回していただいて、

   皆さんお好きな量をお取りいただけば、手間も省けるし一石二鳥でしょう」


  「でかい図体で歩き回るなとさ、弁慶おっさん



  「ヒノエ…。ま、今日のところは主賓に免じて黙っていてあげますね」



  「何d」



  「あ、あの! で、その抹茶塩ですが、どのくらいの量を必要とするのでしょうか?」



  「経正さん、そうですね」



  「好きなだけ。でも、ちょっと付けて食べるのが美味しいんですよ」



  「神子殿、そうですか、『ちょっとだけ』ですね」



  「はい」



  「ま、壺はここに置いておきますから、足りなくなった方は言ってください」



  「譲殿、お気遣い痛みいります」



そして、壺が一回りしたところで、それぞれ天麩羅を口にする。



  「これは菜の花、じゃな」



  「こちらはタラの芽ですね」



  「春の息吹を感じる料理じゃな。おお、まるで口の中が春の野のような」



  「これはエビですね、法親王様」



  「ええ、そうですね。御幼帝」



  「朔、私はエビも好きだよ」



  「そうね白龍。残さず食べなさい」



  「うん」



  「何故、春の野にエビなのです? 春の野が台無しですね。これだから」



何か言いかけた惟盛であったが、リズヴァーンの言葉に遮られた。



  「古来…、鯛と海老は縁起物として祝いの席では欠かせぬのだ」



  「ほお」



  「そう言えば、えびす様は鯛を持ってるもんね」



  「望美、それって洒落じゃん?」



  「先輩、はっきり言って親父ギャグですよ」



  「え〜〜!」



  「う! くぅぅぅ……」



  「政子! どうした」



  「いえ、何でも……、大丈夫よ、あなた」



  「汗をかいているのか」



  「え? まあ、オホホホ…… グゥ! おのれ、こしゃくな!!」



北条政子は、いきなり自らの膳を蹴倒し、立ち上がった。









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