冬休み 最後の決戦 1











    ピ〜ンポ〜ン


    ………


    ピ〜ンポ〜ン


   「は〜い、どちら様?」


   『あ、あの、朔です。梶原朔。……の、望美、さん、いらっしゃいますか?』


モニター画面のむこうで、姿勢よく立ってまっすぐにドアホンをみつめている御嬢さんが1人。


何時の間にできたのか、去年の暮頃から(といってもほんの1、2週間前からのことだが)
足繁く我が家を訪ねてくれる「梶原朔」というこの娘。
最初は驚いたけど、ガサツな我が家の娘には出来過ぎなくらい良くできた御嬢さん。
うちの娘に、どうか愛想を尽かさないでね。


   「あ、は〜い。いらっしゃい。どうぞ、望美は部屋にいると思うから」






……『部屋にいると思うから』…?
と、いうことは勝手にお邪魔して良い、ということのなのかしら?
望美の世界は気ままで、そう「自由」なのだけれど
こういう取り次ぎとかの習わしが違い過ぎて、面食らうことが多すぎる。
やっと、この「どあほん」というものには慣れたけど……






朔が逡巡しているのを見透かしたかのように、


   『遠慮なんていらないから、どうぞ』


そう目の前の白い「どあほん」から望美のお母様の明るい声が聞こえてくる。


   「それでは、失礼いたします」


玄関の「どあのぶ」を回して、


   「お邪魔します」


と玄関の三和土に立っていると、奥の「りびんぐ」という部屋から


   「望美は、自分の部屋にいるから」


と、明るい笑顔で望美のお母様が顔を出された。


   「いつものことだけど、休みの最後は宿題の追い込みで苦しんでるわ。
    小学校からずっとそうなのよ、もう。朔ちゃんからも言ってやってね」


   「……?? は、はい」


   「なんでもねぇ、家庭科の課題を、追加で出されていてのを忘れてたとかで。
    『今年はバッチリ』なんて、お台場から朝帰りした日に言ってたのに。まったく。
    ま、毎回のことだから慣れたけど。朔ちゃんはそんな事無かったんでしょう。」


   「あ、あの…、お台場に行ったのが原因でしたら、私にも責任があります。
望美を手伝えるなら、なんでも手伝いますから、叱らないであげてはもらえませんか?」


   「朔ちゃん……。ありがとう。でもね、お台場云々じゃなくて、計画性がないだけだから。
    そうね、朔ちゃんは家庭科、得意だったでしょう」


   「かていか……?」


   「裁縫とか、料理とか。見るからにきちんと何でも上手そうだもの」


   「上手だなんて、そんな。一応、一通りは母から習いましたから、着物くらいなら自分で」


   「やっぱり。すごいわね。私なんて浴衣も無理だから、娘がああなっても仕方ないか。
    ああ、ごめんなさいね。
    望美ぃ! 朔ちゃん、いらしたわよ! 望美!」


2階からの返事は無い。


   「ごめんなさい。明日が始業式だから、お尻に火がついてるのよ。」


明日が「しぎょうしき」とやらだと、望美の「お尻に火がつく」?
意味はさっぱり分からないが、望美が大変な事態であることだけは理解できた。


   「お、お邪魔では……?」


   「そんなことないわよ。それどころか朔ちゃんを邪険に扱ったら私が許さないわよ」


そう望美のお母様は笑って


   「望美ぃ! 朔ちゃんよ!
    どうぞ、上がっちゃって。どうせ、聞こえてないんでしょうから。
    ああ、ちょうど知り合いから青山にある洋菓子店のガレットを頂いたの。
    持っていくから食べて頂戴ね」


   「お気遣いなく。では、上がらせていただきます」


そういって、一昨日、望美に藤沢で見立ててもらったブーツを脱いで、二階へと続く階段を上った。






   「望美、入るわよ」


と望美の部屋の扉を開けようとすると、
いつもなら中から明るい望美の返事が聞こえてくるはずなのに、
中からは


カタカタカタカタカタカタカタ


と、今まで聞いたことの無い音がしているだけだった。


   「? 望美?」


相手の応答が無いのに戸を開けて良いのか躊躇っていると
後ろから足音も軽やかにお母様が階段を上がっていらっしゃる。


   「望美! いいかげんになさい! 梶原さん、困ってるでしょう!」


「トレー」と呼ばれる銀盆に何やら美味しそうな菓子の入った器と
「ジュース」と呼ばれる甘酸っぱくシュワシュワした飲み物の入った「コップ」という湯飲みが3つ。
3つ……、お母様も望美の部屋にいらっしゃるつもりなのね。


   「もう。朔ちゃん、かまわないから入りましょう」


と、その時


バン!!


と大きな爆発音が響いた。












12/07/29 UP

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