九郎さんルート・7月 2
〜第5話収録スタジオ〜
♪ 苦しい時こそ前を見ろ 歯を食いしばり 大地踏みしめ
そこに友がいる限り 絶対止めない 諦めない
倒れん! 倒れん!! タオレンジャー!
勝機が見えたぞ! タオレンジャー!!
ランドセルの子供達が主題歌を口ずさみながら、脇を走り抜ける。
女子校生の月曜日の挨拶は「観た?」になりつつある。
テレビ旭の「不屈の闘志・超人戦隊タオレンジャー」は、第1回オンエアから驚異の視聴率を叩き出していた。
テレビ旭の総力を結集したかのような「タオレンジャー」を、他局は始めのうち冷ややかに観ていた。
日曜の朝8時に、何故そこまで予算と人材をつぎ込むのか、と……
タオ・レッドこそ新人・源九郎だが
それまでの特撮ヒーロー物とは違い、メジャーなアイドルを起用してのヒーロー戦隊を結成したのだ。
ジャネーズの幾田十真をタオ・グリーンに
人気若手お笑いコンビのエキゾチックラジオの藤森敦彦をタオ・ブルーに
ドイツ・ブンデスリーグで昨シーズンまでプレーしていたサッカー選手・黒崎隼人をタオ・ブラックに
紅一点のタオ・ピンクは、ボケキャラも担当する星野亜紀が
本部の隊長に、元仮面ライダーで若い奥様連から評判だった小田切ジョージを
その小田切隊長を補佐する技術官にはサプライズキャストとして
国民的アイドルフィギュアスケーター深田真央の姉、本人もフィギュアスケーターである
深田真衣が、華麗に芸能界へ転身して登場した。
そして敵対する魔神組織・ガルワインダーの若き地球侵略隊のエースに、
トップアイドル・カッキー&ツバサの柿沢秀彰を抜擢。
その魔神へ変身した柿沢の姿はトップアイドルの枠を遙かに超え、少女ファンの多くを仰天させたが、
後にガルワインダーと人類の抗争の狭間で苦悩し、タオ・レッドとの友情が垣間見えるという
戦隊ヒーロー物とは思えない難しい演技を好演し、逆に多くの女性ファンを獲得していくことになる。
しかも、それまでのヒーロー物は、変身後がフルフェイスのマスクで顔が隠れ、
本当に本人がアクションをしているか不明であったが、
今回のタオレンジャーのコスチュームは、顔の部分をバンダナマスクで隠すだけで
全員が髪をなびかせ、本人がアクションをしている事がはっきりと分かる。
特にタオ・レッド源九郎とタオ・ブラック黒崎隼人は、
スタントマンでも尻込みするようなアクションを常にこなし、
男の子に留まらず、男性ファンを多く開拓していった。
このバンダナマスクには源九郎が異様に執着し、
バンダナマスク以外のコスチュームなら役を降りる、とまで言い出したのだった。
ど新人のわがままなど、一蹴されそうなものだが、
日曜朝8時にもかかわらず、どこで聞きつけたのか、
子供服の大手メーカーがバンダナマスクの販売権を条件にスポンサー参入するということになり、決まった。
スポンサーと言えば、これも日曜朝8時には異例の、スポーツ用品メーカー・NAKEが参加。
これについては元ブンデスリーガー・黒崎隼人をサポートしていたという経緯からだろうと誰もが思っていた。
更には毎回、変身ヒーロー物とは思えない、超が付くほどの大物ゲストが登場し、
テレビ旭の本気さが、尋常でないことを示していた。
裏で単なる源九郎付きのマネージャーが暗躍していることなど、他局にはうかがい知ることはできなかったのだ。
第1回オンエアは、タオ・ブラックの黒崎隼人がサッカー選手からタオレンジャーに加入するまでの話で、
本人も日本プロレスと特撮ヒーロー物が好きだと言って憚らない、
イタリアサッカー界のファンタジスタ、アレック・サンドロ・デ・ピエールがマスクマンの姿で登場し、
サッカーの妙技まで惜しげもなく見せ、たまたま観ていた男の子達を狂喜乱舞させた。
第2回オンエアでは、韓国映画界の若手女優チュエ・ジンヒョンが、
ガルワインダー襲来に恐れ戦きながらも、幼い弟を助けるために一人救出に向かい
藤森敦彦扮するタオ・ブルーと淡い恋を好演し、
韓国でもその様子が紹介され、現在交渉が進む、韓国放映のきっかけとなった。
第3回では時代劇の二大スター、『素浪人・桃太郎』の高橋秀喜と『暴れん坊奉行』の松形祐樹が、
時代劇ではしたことのない初の共演。
第4回では2シーンだけだが、映画の宣伝に来日中だったオーランド・グレームがアクションを披露し、
そして第5回
炎を背景に、景色が霞む
爆発
逃げまどう人々
蹂躙する魔神の部下達と怪物
逃げ遅れ、倒れる少女
怪物達が少女に近づく
恐怖にすくみ、声も出ない少女
変身前のタオ・ピンク・星野亜紀が駆け寄る
怪物はそれを察知して怪光線を発射
少女と星野のいた位置が大爆発
と、その爆風の中、二人を両腕に抱えたタオ・レッド、源九郎が高々とジャンプして
《中止! 中止! 2カメ下がって 消火班、消して!》
スタッフとメイク係や衣装係がそれぞれの俳優の元へ駆け寄る。
九郎の所に監督が近づき
「九郎! 飛び上がる間が、若干早いよ。ここはもっと危機感をあおりたいんだから」
「すまん! 思ったより二人とも軽かったものだから」
「あれ〜、うれしいなあ。源君ったら、さり気に喜ばせてぇ」
「え? どうしてだ?」
「だめだめ、亜紀ちゃん。九郎はそんなつもり、まるっきりないから」
そう言って、監督は特殊班の爆薬セット状況の確認に向かう。
その後ろ姿に、笑いながら星野が言い放つ。
「え〜、監督う、そうなの?」
《え〜、爆薬もう一度セットします。特殊効果班お願いします。
それまでキャストは休憩。
メイク・衣装、チェック急いで》
「九郎さん、すごいっすね」
「あれ〜? 藤森君ったらあ、今日は出番予定、無かったんじゃないの?」
「そうなんですけどね」
「どうしたというのだ? 今日は別の仕事のはずだったのだろう?」
「今日、この現場、リキ入ってっるっしょ?」
「そうか? そう言えば、妙に……」
「そうね〜、何だかあ、前回のスタジオセットの時より人数も多いし」
「ずるいっすよ」
「?」
「本当に知らないんすか?」
「何をだ?」
「今日のアクションシーン、あの副調整室に見学者がいるんすよ」
「誰〜? 誰え?」
「え〜! 星野さんもっすかぁ?」
「うん〜、って言うかあ、亜紀、爆発シーン、吹き替え無しなんて初めてだから
そっちの方で緊張してて」
「え! さっき九郎さんが抱えてたの、ホンモノなの?」
「そ〜、ホンモノの〜、わ・た・し」
「人形だと思ってた。あんな軽々抱えてジャンプ……あ、飛び上がるから」
「いや、『ジャンプ』くらいなら分かるようになったから、大丈夫だ。
それより見学者とは誰なのだ?」
「そうそう、それそれ。オレなんか相方まで連れて来ちゃいましたよ」
「も〜、藤森君ったらあ! じらさないの」
「ジャン・ウー監督だろ」
「黒崎君ったら……、! !え〜!? 嘘ぉ!!」
星野亜紀は、ことさら驚いた仕草で、副調整室を見上げた。
「お、さっすが、ファンタジスタは情報が早いっすね。信じます?」
「ファンタジスタって〜、情報通なのお?」
「初耳です」
「って、ファンタジスタ本人が〜、いってるんですけどお、藤森君」
「? 誰だって」
「九郎さん、あの……マジっすか?」
「ああ、その『じゃんんー』とは誰なんだ?」
「ホントォ〜? 源君」
「モノ知らないっていうのも限度ってもんがありますよ。もう、どんだけ〜、っすよ」
「九郎さんならあり得る」
スポーツドリンクを片手に、幾田十真を後ろに従えた柿沢秀彰が笑顔で近寄ってきた。
「うそ〜?? カッキー?」
「はい。お久しぶりです、星野さん」
「すっご〜い! そんな特殊メイクしてるんだあ」
「実際に現場で会うの、初めてでしたね」
「うん。タオレンジャーではね〜」
「凄いでしょ、このメイク。2時間かかるんですよ」
「だよね〜、ちょっと見、誰だか分からないもん。
それにしても、かなりグロ〜い。よくジャネーさんOK出したね〜」
「ですよね。先輩がやるような仕事じゃないですから、俺も不思議だったんですよ。
最初の頃、ファンの苦情も事務所にすごかったって話だし」
「十真、お前がこっちって話もあったんだぞ」
「嫌だって、俺、ちゃんと言いましたよ。
でも、その役、まさか柿沢先輩が受けるなんて思ってなかったし」
「面白そうだったんだから、いいだろう」
「面白いのか? そのメイク?」
「いえ、黒崎さん。この役が、ですよ」
「へぇ」
「ところで、第5話のスペシャルゲストって誰?」
「さあ?」
「私も〜、知らな〜い」
「台本にも書いてない」
「それは前回までもそうだったろ」
「毎回、Xってなってますね」
「スペシャルゲストって、毎回、局が交渉してOK出た人から順次出演っていうらしいよ」
「なんか、行きあたりばったりって感じっすね」
「そろそろスタジオ入りなんじゃ、ない?」
「この爆発シーンの後、5話最初の対決シーンだから」
「おお、今回のすぺしゃるなげすとはガルワインダー側なのか?」
「九郎、頼むから台本はスタジオ入りする前に全部目を通してきてくれ」
「黒崎さん、無理無理。
九郎さんは、その場で初めての一発撮りが、一番カッコいいですから」
「柿沢君、君、九郎の味方かい?」
「そうですよ、あと6話ほどしたら、ストーリー的にも」
「おっと、スペシャルなゲストの登場らしいっすよ」
藤森の見ている方を、その場の全員が向く。
その入り口から、スポンサーのお歴々や局の重役と談笑しながら入って来るのは
ガルワインダーの魔神メイクをしてはいるものの
そのスタイルと容貌、特に特徴的な大きな口から、
一目で『シャーリーズ・エンジェル』シリーズの、キャミロン・ティアスその人であるのが分かる。
「また外人か……」
溜息をつく九郎だった。合掌