龍脈  1











  「おらおらおら! 次ぃ!」


  「ピギョェェェ」


雨紋雷人は槍を一段と大きく振り回して叫んだ。


  「ここはいったいどういう所なのですか? とう!!」


  「ぐぇぇぇ」


  「ふう… きりがありませんね」


後ろから襲い掛かってきた異形を薙刀で払い、辺りを見渡して弁慶は溜息をつくのだった。


  「お、怨霊が次から次へと…… くっ!!」


敦盛は杖で前方の異形を数体薙ぎ払い、前進した。


  「しかし弁慶殿。ここの怨霊は、我々が知っている怨霊とは違うようで ! たぁ!」


後ろから抱きつこうとした異形を、敦盛は片手で投げ飛ばし、杖で突き伏せた。


  「クビかよぉぉぉぉ」


異形は断末魔の恨み言を言って、消えていった。


  「やるねぇ、いいカンジだぜ、あんたら。
   如月さンから聞いてはいたがよ、オレ様についてくることができるなンて、
   あいつら以外にも居たンだな、ハハハ」


  「あいつら……」


  「笑い事ではありませんよ。ここがどういう構造になっているのかは分かりませんが」


前から迫ってくる異形に薙刀を振りかざして、弁慶が言った。


  「弁慶殿、後ろ!」


  「ぐぉぉ」


振り向きもせず薙刀を振り回して異形を切り伏せ、弁慶が言葉を続ける。


  「どうなっているのかは分かりませんが、何処まで行っても異形が尽きないではないですか」


  「階を下る毎に、異形の力が増すような気がするのだが……」


  「意外に分かって ンじゃん。
   こンな戦闘中にもかかわらず、冷静に相手、分析する程の余裕かましてくれちゃってよ!」


  「い、いや。余裕などと……」


  「ハハハ、行くぜ行くぜ! 次の階だぁ!」











初夏のある日、弁慶が王子に尋ねてきた。


  「やあ、いらっしゃい。どうしたんだい、浮かない顔をして」


  「ええ、実は…… !」


言いかけた弁慶は、店の奥に人影があることを認めて、言葉を止めた。


  「ん? ああ、彼なら大丈夫だ」


  「おや? あなたは……」


  「お? オレ様と会ったこと、あるのか?」


  「いえ、お会いするのは初めてだと思いますよ。
   ただ、高名なロックバンド『CROW』のメンバーの方ですからね。
   弱小とはいえ、こう見えても僕も芸能プロダクションのマネージメントを生業としている身ですので」


  「どうだい、如月さン。オレ様も意外とメジャーになっただろう」


  「弁慶、別にこんな奴にまで気を使うことはないから。
   それから雨紋、そんなにメジャーになったのなら、麻雀のツケは綺麗に払えるんだろうね?」


  「え、いや、その、ハハハ」


  「気を使ってなどいませんよ、翡翠」


  「そうかい。で?」


  「実は、実戦の勘をどこかで取り戻せないものかと思いましてね」


  「実戦?」


  「ええ」


  「どうしてまた、実戦などと?」


  「最近、どうも鈍っていましてね。
   先日、ちょっとした出来事ことがありまして、思い知らされました。
   まあ、元の世界に戻るようなことは無いでしょうが、
   それでも、僕の周りは何かと物騒な気がするものですから」


  「トレーニング・ジムとかボクシング・エクササイズとかでは?」


  「できれば、よりリアルなものがあればと」


  「ふむ……」


  「無理な望みですかね」


  「そうだな。1箇所だけ、無いことはないが」


  「あるのですか!?」


  「ああ。ただ、そこを教えるには条件が2つある」


  「条件?」


  「そこは実戦の勘を取り戻す、というような生易しい所ではないんだ。
   言ってみれば『実戦』そのものだから、命の保証はしかねる」


  「僕達では無理だと?」


  「いや。ただ慣れるまでは、僕か僕達の仲間の誰かを同伴してもらいたい」


  「それはかえって、御手を煩わせてしまうことになりますが、よろしいのですか」


  「構わない。道案内だと思ってくれたまえ」


  「で、もう1つの条件は?」


  「それは」











  「グギャァァァア!」


  「こうやってこちらの皆さんは鍛えていたのですね」


  「鍛えて? まあ、結果的にはそうなンのかもな」


  「こういう場所はあちこちにあるのですか?」


  「あちこち? 冗談。新宿ここだけだろうぜ
   まあ、オレ様が高校の頃は、ちょっとした事件があってよ、
   東京のあちこちで、こンな連中とやり合ってた事があったけどな」


  「ちょっとした?」
  「事件? 東京のあちこちで、ですか?」


  「そ、6、7年も前になるから」


  「い、いや。新聞や雑誌にそのようなことは載っていなかったが」


  「新聞? そんなモンに書いてあるワケ無ぇだろう」


  「すべては闇の中、ということですか」


  「そ。そういうこと。
   ま、詳しいことは帰ってから、如月さンにでも聞いてくれ。
   ただ、その事件のおかげでオレ様も如月さンと知り合えたンだけどな」


  「左! 3体来ます!」


  「ここは私が!」


そう言い終わらない内に、敦盛は杖を払って異形を消滅させた。


  「ピギャァァ!」
  「グブグブグブ」
  「ダメかよぉぉ」


  「やるねぇ。どうしてどうして、結構強いンじゃねぇか」


そう言いながら雨紋は落ちていた物を拾っていた。
異形が消滅すると、何回かに一度、何やら品物が落ちている。
如月言うところの『アイテム』という物らしい。
それを雨紋は1つ1つ拾ってはポケットに入れていく。


  「今日は3人で来てる割には、あんまりいいモンが無ぇなぁ。
   ま、まだ地下8階だから仕方無ぇか」


  「雨紋殿、上!」


  「うぉ! 上からたぁ汚ぇじゃねぇか!」


そう言って雨紋は飛び退きざまに槍を突き立てた。


  「ぎゅぴぃぃぃ!」


また異形が消滅し『アイテム』を拾ったものの、あまり雨紋は嬉しそうではなかった。


  「この『アイテム』という物は、拾ってどうするのですか?」


  「これ? これは如月さンが買い取って、店とかネットとかで売ンのさ」


  「え? と言うことは……」


  「暇になるとな、オレ様や村雨が時々借り出されて、修業も兼ねて仕入れに来ンだ」


  「仕入れ……ですか」
  「修業? 何の修業なのだろうか?」


  「何だ、それも知らないのかよ。如月さんはにn……、おっとっと、そいつぁオレ様の口からは言え無ぇな。
   ま、そいつも帰ってから、如月さンに聞いてくれや。
   そう言ゃぁ、黒崎も高校の頃は、良く一緒に来てたンだぜ」


  「黒崎……、彼がですか?」


  「ああ。ただ、最近はあいつに限らず、みンな忙しくなってきちまったからな。
   なかなか、こうしてはチーム組ンでは来られねぇンだ。
   如月さンは、たまに独りで来てるみてぇだけどな」


  「1人で、ですか」


  「凄ぇよな。さすがのオレ様も1人でってのは、ちょっと二の足踏むぜ」


叫びながら襲い掛かってきた異形を槍で突いて、言った。


  「ち! スカかよ。何か、如月さンの喜ぶようなお宝置いてってくンねぇかな」


  「ところで、この地下は何層まであるのだろうか」


  「へ? さぁな。オレ様ぁ175階までくらいなら下りた事あるけどよ」


  「地下ですよね、175階というのは」


  「当然だろ。
   如月さンの話だと無限ってぇことだぜ」


  「信じられませんね。新宿駅の近くの、それも高等学校の取り壊し間際の校舎の地下が
   異形の巣窟で、しかも何処までも無限に続くとは」


  「バグらなければ、暇ならば、って2つの条件付きなンだがな」


  「異形が外に出てしまうということは無いのでしょうか?」


  「外に? あるわけ無ぇだろうな」


  「どうしてでしょう?
   僕達がこうして簡単に下りられたのですからね。その逆が簡単に行われてもおかしい話ではないでしょう」


  「真神学園ここには結界が張ってあってな」


  「結界? 僕としたことが、気付きませんでした」


  「それに恐っそろしい門番が居ンのさ」


  「門番?」


  「ああ、ここの化けモンが逃げ出さねぇようにって、もうず〜〜〜っとここに住み着いててよ」


もう1階下に下りる階段が見えてきた。


  「ま、頑張ってくれ。5の倍数の階でないと外には戻れねぇからよ」


  「どうして5の倍数なのでしょうね?」


  「さぁ……。そンな事、考えた事無かったな。
   あと2階下ってから、そこで考えりゃいいことだ」


  「あと2層下りる……」


どうやって戻るのかも分からない状況で、残りの体力と、階を下りる毎に増す異形の強さと数に、
多少不安を覚える弁慶であった。











  「さて、望みどおりの勘が取り戻せたかな、弁慶」


生還する弁慶と敦盛が抱えてくるであろう、アイテムを思う如月翡翠であった。











10/06/28 UP

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