龍脈  2











  「お〜い! お前ら! ひょっとしてまだ潜るつもりじゃ無ぇンだろうな?」


  「ええ、そのつもりですが」


  「おいおい、もう無理だって。いくらなンでも3人じゃ、この先は辛いって」


  「そうでしょうか? やっと身体も慣れてきたところですし、
   おかげさまで『弁慶の薙刀』という武器や、『魯班尺』という不思議な装備も手に入れましたし。
   何となくここの怨霊と闘うコツのようなものも、解りかけてきたところなんですがね。
   ねぇ、敦盛君」


  「い、いや私は……(確かに弁慶殿の仰る通りで、コツは飲み込めてきたのだが。し、しかし……)」


  「休憩無しでいきなり地下30階まで来たンだぜ、初回の出来としては上々だろう。
   それにオレ様ぁ、明日もライブがあるンだから」


  「では」


  「おっしゃ、戻ろうぜ。やっとその気になt」


  「お一人でお帰りください」


  「え?」


  「僕達は、あと5階下に降りたところで考えますから」


  「え!? お前、まだ降りる気かよ……」


  「え? 僕『達』……! わ、私もなのだろうか、弁慶殿……」


  「ええ、敦盛君。頑張りましょうね」


  「い、いや…、その…」


  「オレ様独りで帰ったら、如月サンに殺されちまうって」


  「ああ、あと5階降りても35ですね。
   僕としたことが……35などと、キリの悪い。
   どうせならキリの良い40で……。ああ、4は縁起が悪いですね。
   では、50の方がキリがいいので、どうでしょう、地下50階ということで」


  「あと15階も潜るのかよ。おいおい、マジ付き合ってらンね。如月サン、こいつら、とンでも無ぇよぉ
   この地下入った時は武器だってオレ様のグングニルだけだったっていうのに。
   拾った武器と装備で強くなったって言ったって、限度ってもンがあるだろう!
   あ! こら、待てよ! オレ様を置いていく気か!
   待てって! 待てよ! お願い、待って!」











  『〜遊びに来ていた甥を含めて、その場にいた4人を突然斬り付けたそうです。
   川崎署では小窪容疑者の薬物検査の結果を待って、取り調べを開始する予定だとのことです。
   それにしてもこの64歳の老人、普段は事故の後遺症で歩くのにも杖が必要だったと聞いております。
   それが何故、突如として家族・親族を全員、鉈で斬りつけたのか今後の捜査が待たれます。


   では次のニュースです。


   一昨日未明、東京都国分寺市の眞菅田の池湧水地で発見された遺体について、
   警視庁国分寺署は死因の特定が難航しており、司法解剖の結果をまって……』


ノックの音が殺風景な部屋に響く。


来栖狩夜はテレビを消してから


  「入れ」


そう低く呟いた。


どこにでも居そうなサラリーマン然とした男が入ってきて、一礼した。


  「失礼します。来栖さん、横浜でロストした例の紫髪むらさきの方が、新宿の観測地点に現れました」


  「フフフ、やっと尻尾を出してくれたか……
   ン? 新宿の?」


  「はい。7年前、M+Mエムツー総本部から特別重点観測地点に指定された都立真神学園高校の」


  「ああ、言われなくても分かっている」


  「失礼しました」


  (忌々しい『真神』の連中……。
   どうして、こうも俺が気になる連中は、示し合わせたように『真神』の関係者とつるむんだ?
   今度の横浜の件でも、M+M日本支部からは、その紫髪むらさき紅髪あかのガキ共に手を出すなと言われたが、
   こうなってみれば、どうせ裏で拳武館みぶ陰陽寮みかどが動いたのだろう。
   M+Mの支部員のくせに、未だ母校の拳武館高校で館長の懐刀のように好き勝手しやがって、壬生の奴。
   『武道の拳武館』などと文武両道の伝統高校気取りだが、
   何のことはない暗殺者養成高校の館長風情が偉そうに人に指図しおって。
   それに、御門も御門だ、何を考えているのか。
   東日本の陰陽師を束ねる『東の頭領』にして、宮内庁陰陽寮の長という地位にありながら、
   何を甘い夢を見ているのだ。異形と付き合うだと!? 正気とは思えん。
   こんな奴らがいるから、いつまで経ってもこの世から異形が根絶やしに出来んのだ……


   こうなったら、壬生や御門が何をどう取り繕おうとも、口出しできないような、
   動かぬ証拠というやつを掴んで、必ずあのガキ共と、真神の犬神、
   そして、王子の如月翡翠、全員まとめて、消去デリートしてやる!
   何を、どう言おうと異形は異形でしかない!)


じっとモノ言わず何かを考え込んだままの来栖に、どう言い出していいのか躊躇して男は言葉を続けた。


  「あ、あの……、それから」


  「ん?」


  「紫髪むらさきは、紅髪あかいのとは違う者達と一緒だそうです」


  「者『達』? ほお」


  「これがその者達の画像です」


そう言って来栖狩夜の前に示された通信モバイルの画面には、
十数年前から『取り壊し予定』と言われ続けて未だ『取り壊し計画』は一切無い、
新宿の真神学園敷地内にある、『旧校舎』と呼ばれる建物に入って行こうとする、
雨紋雷人と藤原慶二べんけい、そして平敦紀むらさきの画像が、10秒程の間隔で十数枚、映し出されていた。


  「雨紋雷人……か。また、壬生がらみ、か」


  「御存知なのですか?」


  「ああ、こっちの金色のツンツン頭の方はな」


  「こちらの金髪は?」


  「さあ? 見たことの無い奴だな」


  「どうされます?」


  「どう?」


  「素性を調べますか」


  「当然だろう」


  「分かりました」


  「真神の旧校舎に入って行く輩に、まともな人間がいるとは思えない。
   まして、生きて旧校舎そこから出てくる奴には、な」


その時、再びノックの音がした。
来栖はゆっくりとモバイルを返し、サラリーマンに言った。


  「その画像と、それから今のところまでの調査報告を、俺のモバイルほうに送信しておけ。
   より詳しい報告を期待している。行け」


  「は」


  「次、入れ」


サラリーマンと入れ違いに入ってきた男はまるで、
「表でこれから道路工事が始まるので、うるさくなりますが」と一言謝りに来た現場監督のような姿だった。
しかし現場監督はそうは言わず、辺りを注意深く見渡した。


  「どうしたのだ?」


  「実は」


現場監督は、来栖に近づき耳打ちする。


  「何? 府中の? で? ……そうか、分かった。連絡をとってみる。
   お前は現場に行って、状況を把握しておけ。
   俺も後から行く」


  「分かりました」


  「必要なら、何人か連れていけ」


  「分かりました」


  「くれぐれも用心しろ」


  「は!」


男が一礼して部屋から出て行ったのを確認してから、
来栖はデスクの引き出しを開き、M+M機関専用の連絡モバイルを取りだした。


  「妙だな……。真神がらみの連中が動き出した途端に……。
   まさか、7年前むかしのような悪夢がまた動き出したんじゃないだろうな……」


そう言ってモバイルをONするのだった。











  「喰らえ!」


異形が悲鳴をあげて消滅する。


  「へへへ、痺れたかい?」


雨紋はグングニルを殊更に大きく振り回し、誰にというのでもないのだろうが、得意そうに言った。


  「へえ、こんな階で『恵比寿の神水』がいっぺンに2つも手に入るなンて、結構オレ様もツイてるぜ」


  「それは、そんなにも良いモノなのでしょうか?」


  「ああ、こいつを持って帰ると如月サンもけっこう喜んでくれるンだぜ」


  「翡翠が?」


  「ああ、如月サンではこいつを福袋に入れて売ってンだ」


  「福袋? あの正月とかにデパートとかで売っている?」


  「ああ」


  「骨董品店で?」


  「そうだぜ ! っと右!」


  「人が話をしている時に。ハッ!」


弁慶の振り回した薙刀で異形が2体消滅した。


  「ヒュ〜、あンた、ホントに芸能事務所のマネージャー?
   どう見ても、その薙刀の使いっぷりは素人じゃ無ぇよな」


  「僕としたことが……、そうですね……。では、あなたには本当のことをお教えしましょうか」


  「べ、弁慶殿!?」


  「へぇ、何だ? その本当のことって」


  「実は ! 後ろ!」


  「うおっ! ライトニングストーム!!」


後に如月から『泥田坊』と言うと教えられた異形が3体同時に、雷にでも打たれたように感電し消滅した。


  「お見事です」


  「へへへ。で、その本当のことって?」


  「実は僕はマネージャーではないのです」


  「やっぱりね」


  「僕、実はこういう者でして」


そう言って弁慶はポケットの名刺入れから名刺を1枚取りだした。


  「『プロダクションBEN−K 代表取締役社長 藤原慶二』って、まるっきりの素人のカタギじゃン!」


  「間もなく株式も上場する予定なんですよ」


  「いや、だからオレ様が言ったのは ! 左3体! オレ様は右!」


  「ずるいですね、そっちの方は1体だけではないですか」


  「固ぇ事、言うなよ」


  「『地久滅砕』!」


後に如月から『河童』と教えられた異形が、『土』気に押しつぶされて跡形もなく消滅した。


  「い、今のは? え!? 今のは何なンだよ!?」


  「何のことですか?」


  「今の、術みてぇなの!」


  「『地久滅砕』のことでしょうか?」


  「何でお前、御門サンや如月サンみてぇな術、使えるンだ? お前も『力』、持ってンのかよ!?」


  「おや、知らないのですか? 芸能プロダクションの社長になると、こういう術が使えるようになるんです」



  「嘘だ! 絶対に嘘だぁ!!」











  「如月さん、いますか?」


  「やあ、いらっしゃい」


  「よお、壬生。珍しいな。どうしたんだ?」


  「村雨も来てたんですか?」


  「何だ? 俺が居ちゃぁマズイことでもあるのか?」


  「いえ、そんなことはありませんよ。
   あれ? 雨紋が来てるはずなんですが?」


  「ああ、彼には今、真神しいれに行ってもらっている」


  「仕入れ……フッ」


  「もう半日以上経つから、そろそろ帰ってくると思うが」


  「そうですか。ところで如月さん。黒崎がドイツから戻ったって聞いたのですが」


  「情報の速さはさすがだな。ああ、一昨日」


  「じゃあ、今は練馬の黒崎商店じっかですか?」


  「『今』は確か、横浜、だったかな」


  「え? あいつ、マンションでも買ったんですか?」


  「君も人の話を最後まで聞かないんだな」


  「僕『も』? あ、いや、すみません」


  「黒崎は確かに練馬の実家に戻ったが、今現在は仕事で横浜の方に出かけている、と、そう言おうとしたんだ」


  「仕事?? 横浜に……ですか?」


  「ああ、そうだ。で? 何か黒崎に?」


  「え? ああ、ちょっと聞きたいことがあったんですが、メールも携帯もつながらなかったもので」


  「ああ、奴の携帯ならここにあるぜ」


  「え! 何で村雨が黒崎の携帯を持ってるんだ?」


  「いや、別に俺が持ってるって訳じゃ無ぇ」


  「僕が置いていかせた。
   と言うか、ドイツで使っていた物はここにあるバックの中身だけにさせて、それ以外は全部処分した」


  「何故で……」


  「ま、いろいろあんじゃねぇの」


  「やっぱり、……あいつの怪我、交通事故なんかじゃなかったんですね」


  「いや、僕は事故だと聞いているが」


  「………如月さん…」


  「ま、黒崎かれには新しい携帯を渡してあるから、この番号にかけてみてくれ」


  「あいつの携帯があるのに、どうして別の携帯を渡したんです?」


  「GPSで捕捉されていると困るのでね」


  「GPSって……」











  「こ、これは……!」


  「敦盛君、どうしたのですか?」


  「べ、弁慶殿。これを」


そう言って敦盛が弁慶に示したのは、先程の異形が消滅した際に残したアイテムだった。


  「これは!」


  「お前ら、どうしたンだ」


  「ま、まさかこのようなものが、こんな地下で、しかも異形を倒すことで手に入るとは……」


  「何、何? ああ、なンだ、八尺瓊勾玉やさかにのまがたまか」


  「『なんだ』!?」


  「え? どうしたンだよ?」


  「い、いや……。別に…」


  「これが八尺瓊勾玉であることは、御存知なのですね?」


  「ああ、当然じゃン。時々70階ここら以下の階でゲットするぜ」


  「さ、三種の神器を?」


  「ま、何をもって本物とするかは人によるが、な」


  「え?」


  「へへへ、如月さンの受け売りだ」


  「なるほど……。『何をもって本物とするかは人による』……ですか……」


  「…あ、兄上……」











10/08/04 UP

NEXT→