4 譲 激怒す



 「いったい誰が言い出したんですか!!」

やっと車を2台調達して、出発しようとしたその時
怒髪天を衝く勢いで、譲が現れた。


 「冗談じゃない! いったい何、考えているんですか!!」
出発に浮かれていた面々は、一斉にたじろぐ。

 「ゆ、譲君、何もそんなに怒らなくても」

 「景時さん! 前にも言いましたよね。
  こっちの世界では、車の運転には免許が必要だって」

 「そ、そうだったね。だ、だから、さ……ハハハ」



 「譲、お前、何を堅いこと」

 「兄さん! 兄さんがそんなこと言って、どうするんだ!」

 「何!」

 「だって、そうじゃないか! 車を貸すの、承知したんだろ!!」

 「いいじゃねぇか! 7人乗りだけだから。 BMWは」

 「『だけだから』良いってものじゃないだろ! 問題は!!」

 「俺が責任もって運転するって」

 「免許も無いのに、責任なんて取れるわけないだろ!
  もし何かあったら、どうするんだ!」

 「免許免許ってっるせぇな! バレなきゃ、OKだって。
  だいたい、お前は心配し過ぎなんだよ!」

 「バレる、バレないの問題じゃない! 兄さんはいつもそうだ!
  『俺にまかせとけ』、『大丈夫だ』って言って。
  でも、大丈夫だったためし、無いじゃないか。
  先輩が骨折した時だって」

 「譲君! あれは」

 「望美、いいから、お前は黙ってろ。」

 「先輩が川に落ちた時だって。
  先輩が調理実習でカルボナーラ作った時だって」

 「譲君、あれ、スープスパゲティ……」

 「と、とにかく、免許もないんだ。
  責任なんて、17の高校生には無理に決まってる!」

 「実際は+3.5歳だけどな」

 「戸籍上の変更はないだろ!!」



 「譲、譲は『お台場』、嫌い?」
泣きそうな顔で白龍が話に割り込んできた。

 「そうじゃないんだ、白龍。違うんだ」

 「だって譲、怒ってる」



 「譲殿は、お台場行きに反対なのですか?」
出かける気満々の朔は、珍しく譲に不満そうだ。

 「朔までそんな事をいうのか。
  俺は、お台場に行くこと自体に反対はしてない。
  ただ行き方として、車の運転は法律に反していると」



 「『免許』というものは、どうしても無くてはならないのか?」
と、九郎が今更のように尋ねた。

 「そうです。『道路交通法』という法律で決まっているのです。」



それまで黙って事の成り行きを見守っていたリズ先生が静かに尋ねた。
 「神子。 神子は、お台場に行く事を決断したのだな?」

 「はい、先生。私はみんなに、もっと
  『私や将臣君や譲君の世界』を知ってもらいたいんです」

 「分かった。 お前の決断は、いつでも正しい。
  そして、いつでも八葉は、神子のためにある」
先生は譲に向かって言った。
 「神子の願いを成就させることが、八葉の務めだ。」



 「先生も、このようにおっしゃっておられるのだ。 譲も一緒に」

要は遊びに行きたいだけなのだが、
絶好の口実を得たという顔で、九郎は先生の言を楯に、譲へ妥協を迫る。


 「それが法を犯すことになっても、ですか?」

 「それは……、だが、お台場のいるみ……、夜景は凄いそうだな」
源氏の総大将として法を犯すわけにはいかないという気持ちと、
お台場を観たい気持ちと、で揺れ動く九郎。

 「どうなんです?」
ここぞとばかりに、詰め寄る譲。

静かにリズバーンが言う。

 「そうだ。 それが神子の望みであるならば。
  我々八葉の規範は、社会に非ず。既存の法に非ず。神子にのみ存する」

 「と、取り返しのつかない事態が起きる可能性だって、否定できないんですよ?」

 「そうだ」

 「ただ単に、遊びたいだけなんですよ!」

 「そうだ」

 「先生、一言前から言おうと思っていたんですが、
  先生は、先輩に甘過ぎるんじゃないですか?」

 「答えられない」



 「ゴメンね、譲くん。
  私、どうしても、みんなにお台場の夜景を見て欲しい」

 「だからって」

 「お願い」

 「まったく、あなたって人は」



 「神子……」

敦盛は、譲に向き直り、
譲の目を見て
 「譲……」

 「敦盛?」

 「すまない……」

 「? 別に君が悪いわけでは」

 「いや……。
  神子を……
  神子達を、どうか非難しないでもらえないだろうか。
  私が……
  私の言葉で、神子達の手を煩わせてしまった……」

 「敦盛さん、それは違います。私が行きたいと」

 「神子……。神子は優しいな。その清らかな魂を、私は……」



 「あ、敦盛。でも、君が車で行こうと言ったわけじゃ、ないだろ。」

 「それは、そう……なのだが……」

 「だったら、君が気に病むことはない。
  要は、運転したい人達に格好の口実を与えただけだ。」

運転したい、と疑わしき人々を譲は一瞥する。



 「オレが連れて行ってやる、って言ったんだけど」

 「ヒノエ、お前」

 「どっちみち、今からじゃ、車しか行く方法、無いじゃん。
  だったらバレないように、腹くくって頑張るしか無いじゃん。」

 「だから、バレる、バレないの問題じゃないってさっきも」

 「どっちの車にもナビとオービスレーダー、付いてるじゃん。
  あとは検問さえなんとかすれば、問題ないんじゃないの?」

 「何とかすればって」



 (ダメだ) と譲は思った。

 (俺、何か間違ったこと、言ってるのか?
  いや、そんなことはない!

  でも、行く気満々の連中10人を相手では、正義と民意は向こうにある。)
譲は次の言葉に詰まった。



その時、弁慶が譲に静かに語りかけた。





 「『免許』というのは、これのことですか?」





まぎれもなく、弁慶のにこやか嘘つきな顔写真のついた運転免許が、譲の前に差し出された。
















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弁慶さんの免許証