8 八葉 感動す






  「あれ〜? ちっともベイブリッジ、見えないね!?」

  「本当ですね。以前はここから綺麗に見えたのに」

  「あんなに大きい建物が視界を遮るなんてね」

大黒サービスエリア3Fのハンバーガーショップ。
夕食を済ませた後だというのに、将臣と望美はハンバーガーを手に、窓の外を眺めて溜息をついた。
コーヒーを手に、いつになく失望のはっきり分かる声で、譲が語りかける。

  「兄さん、どうする? みんなを連れてくるかい?」

  「いや、やめとこうぜ。眺めがこれじゃあ、な。
   それより、さっきのコースでお台場に行くのはOKか?」

  「ああ、下はそれほど混んでなさそうだし。
   俺もその方が綺麗だと思う。
   ナビの変更と、弁慶さんへの説明は俺がやっておくよ」

  「OK
   じゃ、先を急ぐとするか。
   お台場の海浜公園に駐車場があるから、そこで落ち合うことにしようぜ。」

  「分かった」







   ということで、カーナビの変更は今してしまいますので、
   申しわけありませんが、兄の車の後をついていってもらえますか?」

  「ええ、いいですよ、譲君。」

譲がカーナビの操作を始める。
車内の全員が、譲の操作に見入っていた。
景時が、ついに我慢できずに

  「へぇ〜♪ 行き先をそのボタンで指定するだけでいいんだ。
   便利だねぇ」

  「ええ、特に慣れない道路や、初めての目的地に行くときは便利ですね」

  「ふ〜ん、ね、譲君
   ちょっとでいいんだ、その操作、やらせてもらえないかな?」

  「兄上!」

  「いいですけど、運転中では弁慶さんの邪魔になるでしょうから、
   お台場に着いたら、帰りのルート入力をしてみてください。」

  「わ〜お♪ いいのかい!? 譲君
   ありがとう、楽しみだな〜」

  「兄上、子どもみたいですよ! 恥ずかしい
   譲殿も、兄上をこれ以上、甘やかさないでください。
   カーナビどころか、この車まで分解してしまいそうな勢いなんですから」

  「そ、それは勘弁して下さい。先輩の家のですから」

  「やだなぁ、譲君。
   そんなこと、するわけないって。」

  「どうでしょう? 昨日だって譲殿の『あいぽっど』とかいう箱を」

  「しぃ〜! 朔!! しぃ〜〜!!!」

  「あ、あれ。朔、大丈夫だよ。
   あれは兄と先輩が先月、壊してくれたものだから」

  「え〜!!! 壊れてたの???」







将臣の運転する車を先に、2台が首都高・湾岸線を走る。
川崎を過ぎ、多摩川を越えた辺りから、むこうの世界から来た人々は押し黙り、
ゆっくりと時速85kmで近づいてくる
東京の灯りを見つめている。

突然、将臣車でヒノエが

  「空港? 空の港? あの空飛ぶ『飛行機』ってやつが集まってくるのかい?」

  「うん、そうだよ」

  「ヒュー、すごいな。望美の世界は。
   で、神子姫様は乗ったことあるのかい?」







同じ頃、弁慶車で景時が上空を指さしながら

  「で、譲君もあれに乗って、空を飛んだこと、あるの?」

  「ええ、何度か」

  「そうか〜! いいな!! いいな!!!! で、どうなの? どんな感じ?」

  「どんな感じって……。エコノミーばかりだったから……、
   この車よりちょっと狭い椅子に座って」

  「うんうん」

  「飛び立つときにシートベルトをして、機体がちょっと加速するのが分かって」

  「うんうんうんうん」

  「……それだけ、ですね」

  「え〜、もっと具体的に教えてよ」

  「兄上、ほどほどにしてください。譲殿が困っています」

  「あ、ああ、そうだね。ごめんごめん。
   でも、術も使わずに空を飛ぶなんて、凄いよね〜♪」

  「俺からすれば、術で空を飛べる方が凄いと思うんですが。
   ま、ジャンボジェットだったら、2〜300人は乗れるはずです。」

  「300人!!」

譲以外の乗員は一様に驚嘆の声をあげる。

  「私はまだ、神子一人を抱えて飛ぶのがやっとだ」

  「白龍、そんな顔をしないのよ。
   五行の力が満ちればあなたにだって、きっとできるわ」

  「うん、そうだね。ありがとう、朔」

  「間もなく、トンネルですから、飛行機も見納めですよ、景時」

弁慶は歌うようにそういった。







  「さっきからやたらと長い『とんねる』を幾つも、通り抜けたぞ」

  「? 九郎さん、何?」

  「いや、山も無いのに、何故もぐるのかと思ってな……いや、変なことを言ったのなら謝るが」

  「別に謝る必要無えって、九郎。
   ただ、なぜもぐるかといえば、川や海の底をもぐって、船の往来を妨げない為ってところかな」

  「海の底を!?」

  「空飛ぶ港の次は、海の底を走る道、か。
   本当に望美の世界はすごいな」

  「そう言ってるうちに最後のトンネルだ」

  「最後の?」

  「そう、こいつを抜けたところが『お台場』だ」

  「『東京港トンネル』……。将臣、本当に海の底を通ってるんだな」

  「だろう、九郎」







将臣車が先に左折のウインカーを出す。
弁慶車が後に続く。

  「あれ? ここで一般道に降りるんじゃないの?
   将臣君、お台場、通り過ぎちゃうよ?」

  「将臣! どうした? 引き返せ!」

  「高速道路の逆走なんて、できないぜ。九郎」

  「お台場を通り過ぎてしまうと望美が言っている。どうしたというのだ?」

  「九郎殿、将臣殿には考えがあるのだと思う。」

  「そう言えば、大黒サービスエリアとかいうところで、譲と何やら相談してたじゃん。」

  「へへへ、さすがは熊野の頭領、よくご存じで。
   ま、安心しな。
   お台場一の絶景をお目にかけるぜ」

  「あ、分かった!」

  「望美、黙ってろよ」

  「何だ? 何が分かったのだ?」

  「ああ、そういうことか。
   俺も分かったぜ。
   車では通ったことないけど、『かもめ』には乗ったから」

  「ヒノエ君、すっご〜い。
   こっちの世界に、馴染みまくりだね」

  「な、何を言っているのだ?
   鴎に乗った?
   望美の世界では鳥にも乗れるのか?
   それと、道が逸れたことと、どういう関係があるのだ?」

  「九郎」

  「教えてくれ、将臣。
   俺だけが分からないのは、どうも居心地が悪い」

  「何もお前だけが分からない訳じゃねえぜ。
   敦盛も、リズ先生だって」

  「はい」

  「うむ」

  「で、教えて欲しい、と?」

  「将臣ぃ」

  「九郎、どうやら、その答えが近づいたらしい」

  「え?」

  「さすが、リズ先生。
   そう、その答えがこれだ」









車窓の外には
1月の冴え渡る星月夜に負けず光り輝く、一面の光の洪水









2台の車の誰もが、絶句する光景が広がった

  「これが、望美の世界……」

朔の言葉は、八葉全員の思いであった

  「なんて……美しい……の」






新年の比較的交通量の少ないレインボーブリッジを
2台の車は速度を出来る限り落として
都内へと進む




光の渦に飲み込まれるように







07/05/07 UP


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