かおり様のリクエストSSです。
軽〜く、「アシュ千」・「譲朔」です。
いざ! 羽根突き 前編
穏やかな元日、風は少しあり気温は低いものの波音も長閑な昼下がり。
寒さのためか多少足早に歩道を行き交う人々も、正月らしくその多くは破魔矢や御札を手にした初詣帰り。
dragon noirの駐車場では、これまた正月らしく羽根突きの音が……
コ〜ン
ピシ!
「あ〜〜〜、まただよ〜〜、参ったなぁ〜〜」
「はい、また景時さんの負けですね!」
「兄上、しっかりしてください。もう顔に墨を付ける所がありません」
「そんなこと言ったって朔ぅ〜〜。望美ちゃん、本気なんだよぉ〜〜」
「でも、望美は『振り袖』なんですよ。『はんで』というものではないですか」
「へぇ、朔、よくハンデなんて単語しってるな」
「譲殿」
「さあ、朔。景時さんに思いっきり、墨、塗ってね」
「クスクス、兄上。お覚悟を」
「朔〜」
「さ、もう一勝負しますか? 景時さん」
「ちょ、ちょっと待って、望美ちゃん。アハハ、休憩、休憩ぇ〜〜」
「こういった勝負事で先輩に勝てるって言ったら、九郎さんとリズ先生くらいしか思いつかないですね
でもリズ先生、今日は用事で夕方じゃないと来られないって話でした」
「うん、でもその後に町内会の……御近所のヒーローは忙しいね〜」
「クスクス。ところで譲殿、将臣殿と知盛殿はどうされたのです?」
「え? ああ、兄さんと知盛は昨夜遅くに、初詣から帰ってきて酒盛り始めてしまって」
「え? あの後、酒盛りしてたの? ち、行けばよかった」
「先輩!?」
「望美ったら」
「で、いまだ爆睡中。いつまで飲んでたのか……付き合っていられないよ
ま、起きたら来るんじゃないかな、新年会がdragon noirであるのは知ってるんだし」
「そうですか……。でも、こちらの世界は、皆で集っての行事や催しが多くて楽しいわ」
「そうだね〜 異世界の行事は堅苦しいのばっかだったからね〜〜♪」
「でも、敦盛さんとヒノエ君も、三が日はコンサートで東京だし」
「俺も明日から早朝から寒稽古が始まるし」
「弁慶も3日には来るって言ってたけど、それまでは『年始回り』とかで忙しいってさ〜。
あ〜九郎だけでも、早く来ないかな〜〜」
その時、駐車場の上空から声が降ってきた。
「ほぉ、オレの名は出ないのだな。この者達も存外、薄情だな」
「え!?」
驚いて上空を見上げると、ゆっくりと降下してくる麒麟!
「アシュヴィン殿下!」
「葦原さん!」
「梶原さん、お久しぶりです」
「千尋がどうしても行きたいと言うので来てみれば、何やら面白そうな事をしているな、相変わらず」
「え? 葦原さんが?」
「わぁぁい! 千尋ちゃん、久しぶり!」
「あ、望美さぁん! わぁ、2人とも振り袖なんだ。いいなぁ」
「いいでしょ、振り袖は譲君のお祖母様のなんだけど、着付けは朔がやってくれたの」
「え〜〜! 梶原さん、着付け上手!」
「別に私は……、本を見ながら3度も着付けをやり直して、やっと。
望美と2人で協力して何とか形になっただけだから、褒められるようなものではないわ」
「そんなことないよ、朔はホントに上手。さすがは武家の姫の鑑、梶原朔姫」
「望美……」
「高校一年の時なんて近所の美容室で着付けてもらったけど、もっと帯は苦しいし動きづらかったから」
「いいなぁ、私も振り袖、着てみたいなぁ…」
「分かりました。振り袖でも何でも着せて上げますから、はやく俺の背から降りてはくれませんか」
「あれ? 殿下、今日は黒麒麟じゃなくて白麒麟に?」
「ああ、いかにオレの黒麒麟と言えども、そう何度も時空を越えるのは容易なことではないからな」
「で? 俺なら何度、時空跳躍しても構わないのですか?」
「ああ、ありていに言えばそうだな」
「人使いが荒いですね」
「存外、文句の多い奴だ」
「そりゃそうでしょう。千尋だけならともかく、君まで背に乗ると重くて重くて」
「千尋、お前が太って重くなったと言っているぞ」
「え〜〜、風早、泣いちゃうぞ」
「俺はそんな事は言ってないじゃないですか!」
「千尋ちゃん、早く。こっちこっち」
「え〜? 何ですか?」
「だから、着物。譲君の家の蔵に行って、どれか気に入ったのを探さなくちゃ」
「ああ、それなら大丈夫……ね!? 風早、お願い」
「ここでは…さすがにちょっと……。店の中に入りませんか?」
「うん。梶原さん、いいですか?」
「あ〜〜、ちょうど良いから、オレも顔を洗いに行くので、どうぞ〜」
「え〜、墨、落としちゃうんですか?」
「の、望美ちゃ〜ん、勘弁して〜〜」
「人目に付かないところであれば結構ですから」
そういって風早と千尋は、景時と一緒にdragon noirの中に入っていった。
と思うと、一瞬の後に千尋は見るも鮮やかな振り袖姿で現れた。
「え! 速い……」
「朔、何も落ち込むことはないだろう。あれは着付けとかじゃないんだから」
「ゆ、譲殿……」
「柄モノの半襟なんだ。風早さん、意外とセンス、新しいんですね」
「望美、この帯の結び方! 凄いわ、とても複雑で」
「ああ、それは『花結び』といいましてね。『ふくら雀』に少々アレンジを加えた創作結びの一種です」
「風早さん、さすが神様」
「正月ですしね、皆さんのところに来たがっていたので、
千尋がそんなことも言い出すんじゃないかって思って、前もって用意はしておいたのですよ」
「何をどう用意していたんだろう?? ……想像すると、ちょっと笑える…」
「望美、失礼よ」
「ほぉ、鄙には稀な。可憐な蝶が3羽も舞っているとは。存外、風早の演出も心憎いものがある」
「別に、君を喜ばせようと思ったのではないのだが」
「や、さすがは二の姫、ですね」
「リブ!」
「リブさん!」
「こんにちは、あ! あけましておめでとうございます リブさん!」
「や、白龍の神子様、あけましておめでとうございます」
「また『黄泉の何とか坂』を走っていらっしゃったんですか?」
「先輩、『黄泉比良坂』ですよ」
「ま、それしか方法無いですから」
「いつもながら感心しちゃいます。今度、どう行くのか教えてもらえませんか」
「の、望美?」
「先輩!?」
「だって、そうすれば会いたいときに、千尋ちゃんに会いにいけるじゃない」
「春日さん♪」
「ね〜〜」
「先輩…、それだけの理由で黄泉比良坂を使う気ですか?」
「望美…、それだけの理由で黄泉比良坂を使う気なの?」
「え〜〜? ダメ? 変?」
「い、いや…別に……」
「い、いえ…別に……」
(先輩は龍神の神子だし……)
(そ、そうね譲殿……、望美が行く時は必ず桃をたくさん持って私もついて行くわ)
(先輩だからね、イザナギよりは強いだろう。朔…君の方が心配だよ…)
(譲殿…)
「ところで、今、お前達がやっていたのは何だ?」
「これは『羽根突き』です」
「『はねつき』?」
「この羽子板で、この羽根を打って相手に返し、返し損なったり空振りして落としたりしたら、
バツとして顔に墨を塗るのが決まりなんです」
「やってみると、意外とコツが要るんだよね〜〜」
いつの間にか戻っていた景時が言った。
「じゃ、千尋ちゃん。殿下とやってみる?」
「え? 私?」
「ほぉ、おもしろそうだ。では、千尋」
「う、うん……」
朔が2人に羽子板と羽根を渡す。
「千尋ちゃん、頑張って!」
「は〜い、じゃ、いきます!」
カツン
放物線を画いて上がった羽根が、放物線を画いて落ちてくる。
ピシン!
「きゃ!」
「殿下! 手加減してあげてよ!」
「ほぉ、千尋、手加減されたいか?」
「う〜〜ん……」
少し考えてから、千尋はプルプルと顔を横に振った。
「ち、千尋ちゃん!」
「葦原さん…」
「いい覚悟だ……、では…、いk」
「ストップ! タイム」
「何だ?」
「何、何? 望美さん?」
「晴れ着だからね。ちょっと、こう…」
と、望美は朔に手伝ってもらいながら、千尋の振り袖に襷をかけ、裾もお端折にした。
「これで、少しは動きやすいから」
「あ、ありがとう望美さん」
「どういたしまして」
「ハハハ、本当に白龍の神子と黒龍の神子は、負けることが嫌いと見える」
「当然! ね、朔」
「ええ」
「千尋、お前は面白い友を得たな」
「いきます!」
カツン
ピシ
カツ
ピシ!
「きゃ!」
「どうした千尋?」
「千尋ちゃん、頑張って!」
「葦原さん」
「い、いきます!」
カツン
ピシ
カツ
ピシ!
「く!」
「ああ、惜しい!」
「もう少し!」
カツン
ピシ
カツ
ピシ!
カッ!
「返した!」
ピシ!
「あ〜」
「惜しい!」
「やっぱ、ダメだぁ。アシュヴィンには勝てないよ」
「負けを認めるのか、千尋? では『すみ』というものをつけるのだったな」
「え! そ、それは…」
と、アシュヴィンが傍らに置かれた筆を手に、嬉しそうな顔をして千尋に近付く。
「ね、ねぇアシュ…、ホントにつけるの?」
「覚悟することだな」
「アシュヴィンのバカ!」
「お待ちください!」
「さ、朔!」
「梶原さん?」
「千尋さんの代役、この梶原朔が務めさせていただきます!」
おお! と、大歓声があがった。
「え?」
と驚いて振り向いた望美たちは初めて気付いたのだった。
いつの間にか駐車場は、歩道を行き交っていた人々によって埋め尽くされていたのだ。
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やっぱり長くなってしまったので、前後編に分けます!
後編は追ってUPいたしますので、少々お待ち下さいっ!!
オールキャラ・ギャグ & 正月の小説ということで、「10101キリリク」と「九郎、箱根駅伝を観る」の前日を描いてみました。
この後、あの知盛の事件やら、九郎の騒ぎやらはおこります。(笑)
リンクを張りましたので、未だ読んでいらっしゃらない方は、そちらもどうぞ。
08/12/31 UP