いざ! 羽根突きしょうぶ      中編







  「悔しいわ、譲殿…」



  「すまない朔…、俺まで負けてしまって」



仲良く右目の周りを丸く墨で塗られた譲と朔が語り合っている。





  「アシュヴィ〜ン! 強ぉ〜い! 大好きぃ!」



これも右目の周りを丸く墨で塗られた千尋が、声援を送っている。



  「こら! 千尋ちゃんが負けたから2人が代わりに戦ったんでしょ」



軽く千尋の頭をこずく望美。



  「えへへ〜。 でも、アシュヴィンは私の旦那様なんだもん」



  「もう! 朔と譲君の助太刀は何だったの!?」



  「ごめんなさい……ヘヘヘ」



  「じゃ、悪いけど、その旦那様を負かしちゃうからね」



  「先輩!」



  「ほぅ、本命が登場…か?」



  「の、望美、晴れ着のままでやるの?」



  「う〜ん、ま、大丈夫なんじゃないかな」



  「存外、俺も軽く見られたものだな」



  「望美、頑張って!」



  「アシュヴィ〜ン!」



  「3人の仇! ……1人、何かそんな気分じゃないのがいるけど、ま、いいか。覚悟しなさい! アシュヴィン殿下!」


  「お前の本当の戦闘力ちからを見せてみろ! 白龍の神子!」



  「ええ、全力でいくからね!」



  「楽しみだ」



  「いざ!」



カシ!



ピシ!



カッ!



ピシ!



カッ!



ピシ!



  「は、速い!」



  「何か羽根が見えないわ」



  「す、凄い……」



  「や、殿下も真面目にやればこんなもんでしょう」


譲や朔だけでなく、遠巻きにしている通りすがりの人々ギャラリーもどよめいている。



カッ!



ピシ!



カッ!



ピシ!!



  「ど、どうなの? 譲殿?」



  「先輩が、押されてる…」



  「! 望美! 頑張って!!」



カッ!



ピシ!



カッ!



望美がよろける。



  「あ! 望美!」



  「望美ちゃん!」



望美はすかさず草履を脱ぎ捨てた。



  「先輩! 足袋が汚れて」



  「譲殿」



朔は譲を制して首を横に振る。



  「朔?」



  「こうなっては、望美には何も聞こえないわ」



  「あ、ああ…、そうだな」



  「大丈夫大丈夫〜〜♪ 洗濯なら俺が引き受けたから!」



景時さんはああ言ってくれてるけど、もう、あの足袋は諦めよう。

あとは先輩が勝利して、この試合が早く終わることを祈るだけだ、晴れ着と帯がダメにならないうちに。



そう思う、有川譲であった。



カッ!



ピシ!



カッ!



ピシ!!



カッ!!



  「く! こうなったら」



カッ!!



  「『こうなったら』?」



ピシ!!



  「花断ち!!」



キン!!!



  「ハハハ! これが白龍の神子の全力か!!」



ピン!!!



  「か、返したの!!」



  「い、いや」



  「え?」



  「羽根が…!」



焼けこげた臭いが漂い、望美の放った渾身の一打がアシュヴィンの羽子板に突き刺さっていた。



オオォ!!!!



ギャラリーの歓声と拍手がわき起こる。



  「勝っ……たの? 譲殿!?」



  「返せなければ」



  「望美ちゃんの勝ち、だろうねぇ」



  「アシュヴィーン…」



  「や、で、殿下…」



  「ハハハハ、なるほど。面白い」



千尋とリブの落胆を気にせずに、おとなしく負けを認め、望美に墨と筆を渡すアシュヴィンであった。



  「さっすが常世の殿下、潔い〜。はい、千尋ちゃん」



  「え〜〜! わ、私がやるの?」



  「もちろん。はい、お仕事お仕事」



  「遊びだからな、負けても笑っていられる。さ、千尋」



  「アシュヴィ〜〜ン……じゃあ、いくよぉ」



  「お前も本当に容赦なく塗りたくっているな」



  「えへへ〜」



その時、ギャラリーの人垣をかき分けて、近付く人影があった。

とっさにアシュヴィンは千尋を庇って身構えたのだったが、その人影の正体に気付き、フッと笑いを漏らして、身体を解いた。



  「お前は確か……」



  「? ああ! そういう貴殿は、常世のあしょびん殿下!」



  「アシュヴィンだ」

  「アシュヴィン殿下だよ!」

  「や、アシュヴィン殿下です!」



  「そうか、『あしゅびん殿下』か、すまん。ところで望美、この人集りはいったいどうしたというのだ?」



  「九郎さん」



  「九郎、遅かったねぇ」



  「そうか? すまん」





ギャラリーからも、予期せぬ有名人の登場に歓声が起こる。



  「おお! 源九郎だ!!」



  「タオレンジャー・レッドだ!!」



  「きゃぁ〜! 九郎くぅ〜ん!!」



その歓声にいちいち手を振って答えながら九郎は続ける。



  「で? いったいどうしたというのだ?」



  「『羽根突き』をしてただけですよ」



  「『はねつき』?」



  「この『羽子板』という板で、この羽根のついた玉を打ち合って、

   落としたり、相手に返せなかったら負けになるというゲームです」



  「げぃむ?」



  「『遊び』…ですかね、先輩?」



  「いえ『試合』です。九郎さん」



  「そうか、試合か。本当に望美の世界には、俺の知らない事が山のようにあるな」



  「まったくだな」



  「そして負けると、顔に墨を付けられるのか?」



  「ほぉ、何故そう思う?」



  「望美以外全員、顔に墨を付けているのでな。望美が勝者、なのだろう」



  「当ったり〜〜!」



  「ホオ、源九郎、存外侮れん奴だな」



  「凄い! いつもの九郎さんじゃないみたい」



  「どうしたと言うのですか? 九郎殿!!」



  「や、この方は先程からずっと、あの人垣の向こうで見物して」



  「あ! こら! それは言うな!」



  「アハハハ、な〜んだ」



  「九郎さん、せこい。ハハハ」



  「景時! 望美も! そんなに笑わなくてもいいだろう」



  「どうだ。源九郎、お前も、この白龍の神子と『羽根突き試合』をしてみないか?」



  「ああ、望むところだ」



  「フ」



  「お? 望美、その笑いは何だ?」



  「手加減しませんよ!」



  「それはこっちの言う台詞だ」



  「では!」



  「チョット待て!」



  「何ですか?」


  「この羽子板とやらの穴は? 望美おまえのには無いだろう!」



  「だって、それはさっきアシュヴィン殿下が開けちゃったんですよ」



  「代わりの物は無いのか?」



  「え〜〜、それでいいじゃないですか」



  「やれやれ、俺に貸してください」



と風早が九郎に近付き、羽子板を受け取ったかと思うと、すぐさま九郎に返した。



  「いったい何を? …… ! あ! 穴が無くなっている」



  「これで良いのでしょう。さ、これで思う存分、どうぞ」



  「すまん、恩に着る! しかし、凄いな」



  「いえいえ」



  「では! 九郎さん! いきますよ!!」



  「おう! さあ来い、望美!」



  「てやぁ! 『花断ち』!」



キン!



  「踏み込みが甘い!」



ギン!!



  「先輩の花断ちを返した!」



  「ほぉ、やはり源九郎、侮れん奴だな」



  「『花断ち』返し!!」



キン!!



  「『花断ち』返し返し!!」



ギン!!



  「木の板で石の羽根を打って、どうしてこんな金属質な音がするの?」



  「『花断ち』リターン!」



キン!!



  「り、りたぁん? 望美、りたぁんとは何だ?」



ギン!!



  「スキ有り! 『花断ち』!」



キン!!



  「ひ、卑怯だぞ! こっちの質問に答えろ!」



ギン!!



  「源九郎! 問答無用!」



キン!!



  「く! 『花断ちりたぁん』返し!」



ギン!!



  「『花断ち返しパート2』!!」



キン!!



  「え!? ぱ、ぱぁとつぅ??」



ギン!!





だんだん加速度がつく2人の動きではあったが、徐々にギャラリーの数は減っていった。



  「いつ決着がつくのか……」



  「ま、中に入って暖かいお茶でもいただきたいものですね」



  「ああ、そうだな。千尋、行くぞ」



  「は〜〜い」



  「2人とも、今日こっちに来た本当の用件を忘れてないでしょうね」



  「あ、は〜〜い」



  「え? 本当の用件?」



  「ええ、実は単に遊びに来たんじゃないんです」



  「実は、買い物に来たんです」



  「買い物?」



  「遠夜、覚えてます?」



  「え? ええ。あの『土蜘蛛』という種族の…」



  「そうだ」



  「実は、その遠夜は、明日が誕生日なんです」



  「で、千尋が『ばぁすでぃけーき』とかいうものを、買い求めたいと」



  「そんな、水臭い!」



  「え?」



  「バースディケーキでしたら、この梶原朔に是非御下命ください! ね、譲殿」











09/01/03 UP

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