帰らないの? 九郎さんルート・9月 14
〜 SASUGA特別編 ・ 14 〜
「さぁさぁさぁ! MC替わってチャラ男こと、藤森敦彦、いっきますYo!
そうこうする間に有川君、サーモンラダーに到着だ♪
ちょっとちょっと速くなぁい!? カコ良くなぁい!?
さぁここで、カコ良い彼のプロフィール、九郎さん、どうぞぉ!」
「ぷ、ぷろひる??」
「あぁ、そっか、経歴、履歴、どこの誰♪」
「ま、将臣は、還内f」
「!! く、九郎! アハハ〜」
「『かえりない』?? ……何? 九郎さん、亜紀、分かんない?」
「アハハ〜、『かえれない』、だよね〜〜」
「いや、俺はかえr」
「(しぃ〜!)ねぇ、九郎、『かえれない』だよね〜、ね〜!」
「え? あ、ああ」
「『かえれない』??」
「ほら、あの、……こ、こんな時間でぇ、終電も無くなったからね〜。
だから〜、将臣君は『帰れない』ってね〜。
鎌倉高校の3年生だからね〜。大学受験にまっしぐらぁ〜」
「ああ、そうだな」
「えぇ、高3なのぉ? わぁ、大人っぽい〜。高校生には見えなぁい。亜紀、ちょっと好みぃ」
「亜紀ちゅわんはぁ、カッコ良ければ誰でもよし♪」
「ひっど〜い、藤森く〜ん」
「え〜っと、そうそう、右利きで、身長183cmのA型・獅子座、8月12日生まれ〜〜」
「そうなのか?」
「え〜? 九郎さん、知らないのぉ?」
「あ、ああ。その『えいがた』とか『ししざ』とかは初耳だ。すまん」
「どんだけぇ〜っすよ、自分の仲間のプロフィ…、ああ、いや、経歴、知らないなんて」
「で、その『えいがた』や『ししざ』とは、何なんだ?」
「え〜!? ホントなの? 九郎さぁ〜ん」
「マジっすか?」
「あ、アハハハ〜、く、九郎も真顔で冗談がきついんだから〜〜、アハハハ〜」
ダブルサーモンラダーの下で、滑り止めの粉とスプレーを付けていた将臣が呆れたように呟く。
「ったく、しょうがねぇな。景時! 人の個人情報、何ペラペラ言ってんだよ!」
『将臣く〜ん、ごめんよ〜』
「その上、フォローになってねぇじゃねぇか!
完璧、空振ってんぞ!」
『アハハハ〜』
「兄さん! 急げって!」
「分かった分かった! ったく、自分は勝手にリタイア宣言しておいて」
「何か言ったか!?」
「いえいえ。さてと、それじゃ」
そう言って、将臣はラダーの1段目にバトンを架けた。
と、見る間に前半の五段を一気に昇ってしまった。
『速!!』
チャラいラップ調のMCをする事すら忘れて藤森が叫んだ。
『ちょっとちょっと、どうなってるの?』
『将臣のことだから、腕に疲労が蓄積する前に昇り切ってしまおうという策だろう』
『疲労が蓄積する前にぃ! 凄っごいっす! そんなことできるんすか!?』
『人間、為せば成る』
「おいおい、何ぃ、分かったようなこと言ってんだ、九郎!
俺はバケモンか! 乳酸くらい蓄積するって!」
「兄さん! いちいちツッコミ返さない!」
「へいへい」
そう言って、大きく息を吸い
「ふん!!」
と、らしくない鼻息で将臣はラダーの後半をスタートさせた。
「速い」
「ええ、三拍子のリズムで昇っちゃいましたね」
「タンタンタン、タンタンタン、ああ、なるほどね」
「『なるほどね』じゃ無ぇよ。ラダー、もう終わっちまったんだぜ!」
「ダブルサーモンラダーをトータル10秒足らず……」
「もう、今日何度目か分かんねぇけど、ホント、九郎の仲間はどいつもこいつも」
「『ただ者じゃ無ぇな』、でしょ」
「そういうこと」
そう言う船長・永野は、満面の笑顔だった。
『カコ良い彼は、アンスドブリッジに到着Yo♪
ちなみに今日の、九郎すわんの記録より、2.7秒速いのSa!』
『第1ステージの赤い髪の彼みたいにぃ、この人も九郎さんの記録を塗り替えたりしてぇ〜
や〜〜ん、亜紀、どっちも好みぃ』
『く、九郎〜〜……』
『き、記録とは塗り替えられるために在るものなのだ』
『って九郎〜、顔が笑ってないよ〜』
将臣はバトンをラダーの最上段のフックにそっと置くと、
アンステーブルブリッジ前半の4点吊りボードに手をかけた。
「あの兄ちゃん、タッパもあるけど、手足も長ぇな、おい」
「ボードを持つの、余裕ですよね」
「羨ましいねぇ」
「てぇ事は、自分の体重が勝るか腕力と脚力の方が上かってところだな」
「それと、サーモンラダーでの疲労がどのくらい残ってるか、でしょうね」
「よっと!」
両手両足でボードに下からしがみつくようにして、あっさりと4点吊りを通過し、2点吊りに手をかける
のだが、
「(危っぶねぇ……、2点吊り、テレビで見て想像してた以上にバランスが取りにくいぜ…
その上、思いっきりグリップ部分が滑るじゃねぇかよ……。チィ! まずいな……。
……いや、まだだ! まだ他に手はあるはずだ)」
そう心の中で呟くと、
将臣は、2点吊りにかけた手を一旦離し、4点吊りの板の隅に両足だけでぶらさがった。
「器用だな、あいつ……」
「4点吊りと2点吊りの揺れ方が違ったんでしょうね」
「そんなの、いつものことさ。
俺が言いてぇのは、あの体格であんな風にぶら下がって、随分余裕じゃねぇかってことさ」
「慎重なのかもしれませんけどね」
「兄さん! 何してるんだ!」
「譲…、お前、そう怒るなよ! 俺のせいじゃ無ぇだろう
2点吊りと4点吊りが上手くシンクロしないんだから!」
「時間が!」
「OK、OK、分かってるって。そう、急かすな。
あの手がダメなら、この手で……、どうだ!!! 」
そう言うと将臣は、背筋の力で身体を思い切り後方に仰け反らせたかと思うと、
その反動と腹筋の力、それに大きく振った腕の力も利用して、身体を前方へと投げ出した。
「え!?」
『何!』
九郎すら驚きの声をあげた。
一瞬、クルッと半回転の弧を描いて空中に浮いた様に見えた将臣の身体は、
次の瞬間には、ガッチリと両腕で2点吊りボードの終了側の両隅を掴んでいた
かと思うと、その次の瞬間には遠心力と反動を巧みに利用して、もう半回転、更に弧を描いて中を跳ね
両手を高々と挙げて到着地点のステップに、両足を揃えて着地したのだった。
場内は一瞬どよめき、次いで割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。
『10.00! すっごぉ〜い! 亜紀、感動ぉ〜〜』
『体操選手!? それにしても、どんだけ〜! 重力ってどうなってんの〜〜! 重力、今日は定休日〜!?』
「ハハハ! まったく『アンステーブルブリッジ』もへったくれも無ぇなぁ」
「ルール上、許されるんでしょうか」
「ボードの下側は通ったからな。
っていうかTBBも、あんなやり方でアンステーブルブリッジを通過するなんて考えねぇだろう」
「誰も考えませんよ、普通」
「見た目はハデですけど」
「ど? レスキュー的になんか、発見したか?」
「レスキュー的かどうかは分かりませんが、失敗のリスクを考えなければ
ここをあのやり方で通過できれば、足と、何より腕への負担は最小限で済むんじゃないでしょうか」
「4点吊りから跳ぶ時の身体全体を支える内太腿の力とか、
2点吊りの隅をキャッチする時の腕と指にかかる衝撃は?」
「時間による疲労の蓄積とどっちを取るか、だな」
「う〜〜ん、微妙」
「ま、普通はあんなリスキーなやり方を選ぶ度胸は無いですよ」
「計算尽くなのか、派手なパフォーマーなのか」
「ま、どっちにしろ成功させたんだ、この場内の歓声は奴のもんだぜ。
木の上でじゃれる猿くらいにしか出来ねぇ芸当だけどな」
「ラッキー、上手くいったぜ」
「兄さん、なんて無茶な」
「OKOK、結果オーライだろう。ま、どうせミスったって落っこちるのは俺なんだ。
それに、こいつぁ遊びだろ。面白くねぇとな」
そう言うと将臣はバランスタンクに飛び乗った。
コンコン
ノックの音がする。
「あ、あの……、今、着換え中なのだが」
「敦盛」
「ヒノエか。どうしたと言うのだろうか?」
「開けてくれない?」
「分かった。今」
そういうと、敦盛は更衣室の内鍵を外した。
「何をしてるんだい」
「何を…。見て分からないだろうか。着換えだが」
「お前ね、いいから、これと、それからこれを上に羽織っておいで」
「え? いや、将臣殿がこれを羽織っていろと」
「やれやれ、将臣は単にお前に女装させるのが忍びないと思っただけだろうけどね」
「ああ、やはり将臣殿は」
「ストップ」
「え?」
「いいから、早くこっちを着てくれない」
「しかし、神子と朔殿も」
「やれやれ、神子姫と朔ちゃんにも困ったもんだ」
「??」
「2人が何を期待して、お前にこれを着させようとしているか、分かってのかい」
「期待? いや」
「残念だけど、2人の御期待には添えないね。
悪いけど、オレの敦盛を『萌え』の対象にはしたくないんでね」
「も、もえ??」
「いいから、ここの換えの肌着とそのジャケットでも着て、とっとと行くよ」
「行く? どこへ、だろうか?」
「決まってるじゃん。オレの勇姿を、バッチリその目に焼き付けに、さ」
そう言って柔らかくウインクをするヒノエであった。
11/06/05 UP